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2018.05.30(2019.07.08 更新)

護岸計画が3分の1になりました!奄美大島・嘉徳海岸

報告

専門度:専門度3

嘉徳の砂浜

テーマ:生息環境保全防潮堤・護岸海の保全

フィールド:海辺

日本の海岸線は、護岸や防潮堤があって当たり前という風景になってしまっていますが、奄美大島にはほぼ手つかずの海岸線がひとまとまりで残されていました。2017年に全面を護岸する計画が発表されましたが、多くの方の働きかけによって計画は3分の1になりました。これまでの経緯をふりかえりながら、今後の課題をご報告したいと思います。


日本の海岸線は約3.5万km。世界で6番目の長さを誇る、日本の貴重な自然資源ですが、多くの海岸は改変され、自然海岸は大きく減少しています。

海が美しい南の島という印象のある奄美大島をはじめとする琉球諸島でも、海岸線の状況は同じです。多くの海岸には護岸や漁港などができ、自然のまま残っている砂浜がとても少なくなっています。観光客が訪れやすいところは人工ビーチということも少なくありません。

そのような中で、奄美大島の嘉徳(かとく)海岸にはほぼ手付かずの自然のままの海辺が、それも川から海までひとまとまりに残されていました。

 

調査比較表

 

嘉徳海岸は、奄美大島の南部にあります。背後には山が迫っており、世界自然遺産の候補地になっている深い常緑照葉樹林の森に囲まれた静かな砂浜です。岬の間にできるこのような砂浜は“ポケットビーチ”と呼ばれます。

 

嘉徳海岸

▲嘉徳海岸(奄美大島)

 

嘉徳海岸の位置

▲嘉徳海岸の位置/奄美大島は九州と沖縄の中間くらいに位置します。行政区分は鹿児島県。https://goo.gl/3C23PC

 

この砂浜が20m侵食されたことから、鹿児島県による「嘉徳海岸侵食対策事業」が始まりました。原因は、2014年の台風18号、19号の来襲によるもので、民地と小屋が侵食で流失、背後の墓地・耕作物等に被害が出たことで、地元集落から侵食対策の要望が出されました。削られた砂浜には応急対策として大型土のうが並び、集落との意見交換会を元に、国と県の協議が行われ、2017年4月に県の侵食対策事業が採択されました。

公表されたのは、長さ530mの護岸計画。侵食部分だけではなく、広い海岸全体に護岸を作る長大なものでした。

 

海岸は、海と陸が出会う場所。海と陸が出会う境界には、浅海から 浜辺、湿地、海岸林、水田、河口部などさまざまな領域があります。海岸のような、海洋生態系と陸上生態系が移り変わる場所をエコトーン(移行帯)と呼びます。エコトーンは、複数の生態系の特徴を持つため、生物多様性が高く、特異な生物相を持つことが多いのです。ただし、日本には浅海から陸までのつながりが残されている海岸エコトーンは数少なくなっています。砂浜があっても、それは、かつての海岸エコトーンのうち、ごく一部分という場合もあります。上下の環境は変わらなくても、間に護岸が作られてしまうと、環境が分断され、生き物や水などの行き来が難しくなるのです。

 嘉徳海岸の特徴的な生き物に、オカヤドカリやウミガメがいます。すでに護岸が作られた他の海岸では、オカヤドカリの移動に影響がでたり、護岸ができて砂浜が狭くなりウミガメの産卵に影響が出た事例が知られています。嘉徳海岸は、2002年に日本で唯一、オサガメの上陸産卵記録がある海岸でもあります。オサガメは、現生するウミガメでは最大の種類です。

 

ムラサキオカヤドカリ

▲嘉徳海岸のアダンの根本でくらすムラサキオカヤドカリ。

 

土地や墓地を守ることは大事です。しかし、強固な防潮堤や護岸を作ることが必ずしも防災にはつながらないと考えています。砂浜や干潟を残し、自然の生態系が持つ防災機能を利用する生態系を活用した防災・減災(Ecosystem-based disaster risk reduction;Eco-DRR)という考え方も世界中で広まっています。日本でも東北の防潮堤問題などを中心に議論されてきました。

(参考)沿岸生態系を活かした防災・減災のための提言」(2016/2/28)

美しく生物多様性豊かな嘉徳の砂浜での護岸計画を知った島内外の人が、働きかけを始めました。

署名を集めて鹿児島県に提出したり(722人分)、検討委員会の設置を要望したり。change.orgというインターネットのオンライン署名サイトでは、いまも署名が集められています。2018年5月14日現在、署名は22,758名を超えました。

(参考)最後の “ジュラシック・ビーチ”奄美大島・嘉徳海岸を 巨大な護岸建設工事から救おう!」(change.org)

 

辺野古の埋立土砂の多くが奄美大島から運び出される計画が縁で地元からの相談を受けた日本自然保護協会も、嘉徳海岸を訪れ、砂浜生物調査を行いました。日本自然保護協会と合同で調査を行った、海の生き物を守る会、自然と文化を守る奄美会議、貝類多様性研究所、リュウキュウアユ研究会は、調査結果をもとに2017年6月に鹿児島県に計画の見直しを求める要望書を提出しました。

(参考)恐竜時代の生き残り・オサガメが産卵する奄美の海岸調査を実施」(2017/7/14)

 

侵食対策の大型土嚢

▲侵食の緊急対策で設置された大型土嚢。かつては、アダンの茂る海岸線が続いていた。

 

これらの働きかけが実り、2017年8月に鹿児島県によって嘉徳海岸侵食対策事業検討委員会が組織されました。市民が要望した顔ぶれとは異なりましたが、さまざまな分野の専門家から成る委員会でした。護岸は環境アセスメントの対象ではないこともあって、事前の環境調査や影響評価もないまま計画が立てられていたのです。専門家からなる検討委員会が設置されたことは、第一段階のひとつの成果でした。

第1回の検討委員会は2017年8月31日に開かれました。奄美大島の沿岸域に構造物を作るにあたり基本的なことや重要なことが議論され、委員からは、多くの課題が鹿児島県に出されました。嘉徳海岸については護岸を作らないというゼロベースの案も含めて検討されることになり、地元の方々も、日本自然保護協会も今後の委員会の議論に期待が高まりました。

(参考)第1回 嘉徳海岸侵食対策事業検討委員会」(鹿児島県)

検討委員会は年度内に3回行うことが予定され、2017年11月に第2回が行われました。第1回で委員から出された課題に対し、工事を計画している鹿児島県はすべてに答えられず不十分な議論のまま終わりました。それでも会議の回数は増やされることはなく第3回で結論が出されることになり、議論の行方に不安が広がってきました。

そこで、結論が出される第3回の前に、委員会に少しでも多くの判断材料を届けようと2017年12月に嘉徳海岸で調査を行いました。

6月の砂浜生物調査は、全容を知るための緊急調査的な色合いが強かったので、今度はある程度時間をかけて調査していただきました。海の専門家・向井宏先生、貝類の専門家・山下博由先生による調査では、6月と12月の2回で合計432種の貝類が確認されました。このなかには、環境省および鹿児島県のレッドリストに掲載された種が31種も含まれていました。また、タイワンヒライソモドキという本来河口域に生息するカニが砂浜で採集されました。これは、この砂浜には川が蛇行して流れてくることが恒常的にあることを示していると考えられました。

また、海岸工学の専門家である宇多高明先生(なぎさ総合研究所)にも現地調査を依頼しました。工学的な視点からの現地調査によって、今回の侵食の原因と環境への影響を低減させる工法について意見をいただくことが目的でした。

現地では、侵食されてできた浜崖の高さが場所によって異なることが指摘されました。これは、嘉徳海岸の侵食は、台風による波ではなく、直接的には川によって引き起こされたことを示しているとのことでした。嘉徳海岸の向きと、台風など湾の外から寄せる波の向きの関係に起因するもので、過去の写真などからも、河口に打ち寄せる波によって砂がたまり、川が砂浜に平行して流れていくようすが見えました。

12月の調査時の砂浜は、設置されていた大きな三段組みの土嚢は、ほぼ二段目まで砂に埋もれつつありました。ポケットビーチは、砂は外洋からはほとんど供給されず、上流の山から運ばれてきた砂が長い年月かけて作られる砂浜なので、砂浜に砂が戻ってきたということは、侵食された砂は波で持ち去られてしまったのではなく、湾の中に留まっていたのだろうということも指摘されました。

原因が異なれば、対策も変わるはずです。そこで、これらの調査レポートをつけて、

  1. 嘉徳川の侵食の原因が川に起因するという科学的事実を受け止め、対策を検討すること
  2. 嘉徳海岸侵食対策事業を停止し、引き続き検討委員会を嘉徳海岸の侵食の原因の追究とその対策について議論を続けること
  3. 2の検討委員会に外部の専門家の意見も取り入れること

という要望を鹿児島県知事に提出しました。

(参考)奄美大島・嘉徳海岸侵食対策事業の検討委員会に関する意見」(2017/2/14)

 

嘉徳川河口

▲嘉徳海岸に流れ込む嘉徳川。海からの波で寄せられた砂によって河口が閉塞し、川が砂浜と平行に流れる傾向が見える。

 

現地視察のようす

▲宇田先生らによる現地視察のようす。

 

第3回の検討委員会では、改めて河川の影響を原因としてその対策を検討してもらうことはできませんでしたが、530メートル全部に護岸を作るのではなく、背後の土地利用が高く侵食が大きかった最低必要な範囲に限定し、できるだけ規模の小さなものをつくること、残る部分は工事はせず植栽をしつつモニタリングをしながら検討していくこと、護岸は現地の砂で被覆してオカヤドカリなどが移動できるようにすること、砂は他所から持ち込まないこと、工事用道路はできるだけ後にものが残らない仮設道路にすること、工事関係者にも周知してウミガメの産卵状況など生き物のモニタリングすることが必要などが話し合われました。

護岸工事自体を止めることはできませんでしたが、規模は縮小されました。護岸に伴い作られる付帯施設や仮設構造物などについては、可能な限り環境への影響を低減するよう働きかけを行う予定です。また鹿児島県としては護岸工事と同時並行で環境調査をする予定はないとのことですが、これでは工事中に環境に異変があった場合に検出することができません。鹿児島県には環境調査の実施を求めていきます。

 

(安部真理子・保護室主任)

 

 

(参考資料)

沿岸生態系を活かした防災・減災のための提言」(2016/2/28)

奄美大島・嘉徳海岸侵食対策事業の検討委員会に関する意見」(2018/2/14)

 

鹿児島県:嘉徳海岸侵食対策事業検討委員会

(第1回)https://www.pref.kagoshima.jp/aq12/kiban/20170831katokukentouiinnkai.html

(第2回)https://www.pref.kagoshima.jp/aq12/kiban/20171005dai2kaikatokuiinnkai.html

(第3回)https://www.pref.kagoshima.jp/aq12/kiban/20170115dai3kaikatokuiinnkai.html

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