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奄美大島・嘉徳海岸侵食対策事業の検討委員会に関する意見書を出しました

2018.02.14
要望・声明

奄美大島の嘉徳海岸は、亜熱帯地域で数少ない自然海岸です。

この海岸で2014年に発生した海岸侵食の対策事業が始まり、専門家や地域住民からなる検討委員会が県によって設置されました。

日本自然保護協会は 昨年12月に、海岸工学の専門家・宇多高明氏に調査を依頼。侵食の原因が高波だけではなく川であったということがわかりました。

その調査結果を検討委員会に送りましたが、十分に検討いただけなかったことから、県知事宛に意見書を提出しました。

意見書の参考資料も多数閲覧可能になっています。あわせてご覧ください。

奄美大島・嘉徳海岸侵食対策事業の検討委員会に関する意見(PDF/202KB)
奄美嘉徳の委員の推薦書(PDF/340KB)


2018年2月14日

鹿児島県知事 三反園 訓 殿

奄美大島・嘉徳海岸侵食対策事業の検討委員会に関する意見

公益財団法人 日本自然保護協会
理事長  亀山 章

日本自然保護協会は、日本の自然保護に半世紀以上取り組んできた団体です。海岸の生 物多様性の減少は国際的な課題であり、島国である我が国において海岸は特徴的で貴重な 財産であるにも関わらず多くが改変されています。その中で、鹿児島県瀬戸内町の嘉徳海岸は、人工物が少なく自然度が高い、日本の亜熱帯地域では 数少ない砂浜といえます。

現在、嘉徳海岸で2014年に発生した海岸侵食の対策として、嘉徳海岸侵食対策事業が開始されています。当初は高さ6.5m長さ530mの規模の大きな護岸の建設が予定されていたものの、護岸建設に反対する声があることから、異なる立場の意見を聞くために専門家や地域住民からなる嘉徳海岸侵食対策事業検討委員会(以下、「検討委員会」)が県によって設置されました。昨年8月31日に開催された第1回の検討委員会では、議論の結果、早急な工事に疑問の声があがり、工事を伴わない対策の可能性も示されました。この公平性を重んじる鹿児島県の姿勢および第1回と第2回の検討委員会における真摯な議論は、いずれも高く評価いたしております。

第2回と第3回の間にあたる昨年12月に日本自然保護協会は、一般社団法人土木研究センターなぎさ総合研究所長である宇多高明氏に調査を依頼し、その結果、侵食が高波浪だけにより進んだと考えることが難しいという判断になりました(宇多、2018)。高波浪が侵食の引き金になったのは事実であるものの、高波浪の斜め入射とともに嘉徳川の河口部流路が大きく北向きに蛇行し、これに伴って側方侵食が進んで浜崖が形成されたと推定されています。つまり侵食の原因が高波だけではなく川であったということです。

また同時期に行った生物調査の報告(向井・山下、2018)からもその事実は裏付けられます。同報告では河口の汽水域に生息する甲殻類であるタイワンヒライソモドキが砂浜で確認され、アマオブネ科やトウガタカワニナ科などの河川由来の貝類の打ち上げが砂浜で多く発見されています。これらの結果は嘉徳川が出水時に河口が蛇行し、砂浜海岸の前面を流れ、そのため嘉徳川から流出した貝類・貝殻が、河川の蛇行及び海浜流によって砂浜に広く分散していることを示唆しています。

日本自然保護協会は上記の報告書を第3回検討委員会の前に鹿児島県知事および検討委員会あてに情報提供のために送付いたしました。しかしながら1月27日に開催された第3回の検討委員会の議事概要を見ると冒頭の委員長の発言で「日本自然保護協会の意見書に記されていることはこの委員会で話し合ってきたこととそんなに大きな方向性の違いは無いように思いました」と締めくくられ、以降の議論の記録はありません。科学的な根拠を基にしたこれらの報告書を、検討委員会にて真摯に検討いただけなかったことは残念に思っております。

侵食の原因を見誤ると対策は効果をなさなくなると考えます。第3回の議論の結果では集落前に高さ6.5m、長さ180mの護岸を設置し、景観への配慮から上から砂をかぶせるということになっています。しかしながら侵食の原因である川を放置したままでは、再び川が氾濫した場合に護岸にかぶせた砂が持ち去られコンクリート製の護岸がむき出しになり、更なる侵食が起こる可能性が高く残ります。これは集落への被害は無くならないということを意味するものです。
河川が浸食の原因であるということに向き合って実行できる対策として、宇多氏(2018)は、第一に嘉徳川河口の流路の蛇行を防止するために河川区域を外れた海岸保全区域内に河口導流堤と同じ効果を有する突堤を延ばし、第二に袋詰め玉石工を敷設した後に盛土を行うことを提案しています。これらの案を適用すれば当初計画のように海岸線全体に長大な堤防を作る案と比べて施設の規模を大幅に小さくでき、また養浜も不要となります。これは海岸環境の保全と防災の両立ができる一例です。日本自然保護協会は一例としての宇多氏の案を支持しますが、川が侵食の原因であるということに向き合っていただけるならば、他の方法の導入も可能であると考えています。

嘉徳海岸は生物多様性の高い貴重な海岸生態系です。日本の海岸においてこのような自然環境は極めて貴重であり、かけがえのないものです。鹿児島県知事にはこの侵食が起きた原因が高波ではなく河川であることを真摯に受け止めていただき、自然環境保全と防災が両立する対策をとることを要望いたします。結論を急ぐのではなく、時間をかけて侵食の原因の詳細について空中写真などの素材も含めて調査や解析を行うことが必要です。また、今後の工法や環境保全措置の検討に際し、区民全員と区外からの奄美群島在住の利用者と、外部の専門家の意見も取り入れることを要望します。

  1. 嘉徳川の侵食の原因が川に起因するという科学的事実を受け止め、対策を検討すること
  2. 嘉徳海岸侵食対策事業を停止し、引き続き検討委員会を嘉徳海岸の侵食の原因の追究とその対策について議論を続けること
  3. 2の検討委員会に外部の専門家の意見も取り入れること

添付資料:
宇多高明(2018)奄美大島の嘉徳海岸の侵食とその対策に関する提案(1.63MB)
宇多高明(2018)奄美大島の嘉徳海岸の侵食とその対策に関する提案(写真)(8.36MB)
向井宏、志村智子、安部真理子(2018)嘉徳海岸の生き物調査報告(253KB)
山下博由、向井宏(2018)鹿児島県大島郡瀬戸内町嘉徳海岸の貝類相の特徴と保全の必要性(285KB)
清野聡子(2018)鹿児島県 奄美大島 嘉徳海岸の自然文化的価値と保全の方向性(速報)(190KB)
辻村千尋(2018)嘉徳川基盤環境調査報告(1.58MB)

 


奄美嘉徳の委員の推薦書

2018年2月14日

鹿児島県知事 三反園 訓 殿

公益財団法人 日本自然保護協会
理事長  亀山 章

拝啓
日ごろより鹿児島県の環境保全にご尽力いただき深謝申し上げます。
奄美大島瀬戸内町嘉徳海岸にて計画されている海岸浸食対策事業について、有識者と地元住民からなる委員会の設置を準備されていると伺っています。日本自然保護協会は、日本の自然保護に半世紀以上取り組んできた公益財団法人として、上記に関して以下のことを要望いたします。

1) 専門家の追加

海岸は多様な生物や地形が存在し、事業においては慎重な判断が求められます。計画への意見が分かれる場合には、類似の分野においても複数の専門家が参加し、多様な視点を含めることが必要であると考えます。嘉徳海岸は、全国的にもたいへん重要な価値をもつ海岸であり、その価値を損ねないために全国的な知見をもつ以下の方々の参画が必要と考えます。

(1)宇多高明(なぎさ総合研究所)
海岸工学
(2)清野聡子(九州大学)
海岸工学
(3)向井 宏(海の生き物を守る会)
海洋生態系全般
(4)安部真理子(日本自然保護協会)
ナショナルNGOおよび海洋生態学全般
(5)自然と文化を守る奄美会議
地元のNGO代表
(6)奥田みゆき(鎌倉の海を守る会)
鹿児島県民であり鎌倉市腰越漁港改修事業検討委員会、鎌倉漁港対策協議委員会、神奈川県海面利用協議会の委員の経験を有する

 

2) 住民との合意形成

高潮対策事業においても、説明会の公開での開催、アンケートや聞き取り調査などを通じた住民との合意形成などが重要と思われます。その際に住民の代表として区長のみを選ぶのではなく広く区民全員を対象とすることが大切です。そして将来にわたる管理を考えた場合、嘉徳区のみならず区外から利用者として訪れる奄美群島在住者からも意見を聞くこともが大切であると考えます。本計画についても同様にていねいな合意形成を進めていただけますようお願いいたします。

 

敬具

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