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生物多様性地域戦略は、2008年に制定された生物多様性基本法第13条(注1)で定められました。この法律からみた「地域戦略」のポイントは以下の3点です。
(注)生物多様性基本法 第十三条 都道府県及び市町村は、生物多様性国家戦略を基本として、単独で又は共同して、当該都道府県又は市町村の区域内における生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する基本的な計画(以下「生物多様性地域戦略」という。)を定めるよう努めなければならない。
生物多様性からもたらされる生態系サービスは、様々な場面で地域の経済や日常生活を支えているだけでなく、「再生可能な資源」であるということも特徴です。また、生物多様性はその地域の気候や地理・地史によってもたらされた歴史的遺産であり、他の地域にはない固有のものを多く含みます。このような「地域の個性」を生物多様性や生態系サービスから評価し、守り、賢く持続的に利用することが、「地域の財産」として地域を特徴づけ活気づけ、地域を持続させることにつながるのです。
宮崎県綾町では、自然の生態系を生かし育てる町を目指し、町全体で有機農業に取り組んでいる。綾町の有機野菜は観光客にも人気が高く、ブランド化に成功している。(写真は町の有機農産物や工芸品などを販売している「手づくり ほんものセンター」)
林業の町・岡山県西粟倉村の「百年の森林構想」「ニシアワー」パンフレット。
たとえばコウノトリの野生復帰ができる地域づくりを進めてきた兵庫県豊岡市では、農産物の付加価値化や新たな観光客層の取り込みに成功し、地域住民の中に「コウノトリのまち」としての一体感と誇りが生まれています。人口約1,500人の岡山県西粟倉村では、持続可能な林業を目指し、森を大切に育てながらその生産加工品を地域の財産として発信することで、約60名の若者のIターンを実現しました。
一方で、地域固有の生物多様性や生態系サービスを活かさず、一時的な利益だけを優先した利用や開発を進めることは地域の持続性を損なうことになります。1987年に制定された総合保養地域整備法(リゾート法)によって税制措置の優遇や政府系金融機関の融資を受け大規模に開発された地域のほとんどは、1990年代の経済不況(バブル崩壊)によって行き詰まり、再出発を余儀なくされています。
生物多様性地域戦略は、生物多様性の保全についての基本方針や取り組みを示した単なる「自然環境施策の基本構想」と思われがちですが、地域戦略の策定を通して地域の資源を再発見し、それを活かした地域づくりやそれを支える人々のネットワークづくりを実現できる可能性を持っています。
地域戦略の策定過程で保全目標を検討することは、地域で引き継がれてきた生物多様性の価値や個性、地域の経済社会を支えている生態系サービスを改めて考え直すことに他なりません。それは地域の持続可能性の確保と活性化の戦略をつくることにもつながります。また、地域の生物多様性を将来に引き継ぐ上でのたくさんの課題も整理されるでしょう。
多くの場合、その解決には行政担当部局の力だけでなく、市民や企業・教育研究機関・他の部局といった多様な主体の参加が必要となってきます。それらの多様な主体とともに考え、悩み、検討し、地域戦略を策定、実行していくことで、戦略の成果は単に生物多様性を保全するだけにとどまらず、参加したすべての人たちの意識や行動の変化をもたらし、地域の様々な民間活動・他部局の行政計画に広がる大きなうねりを生み出せます。
すなわち、生物多様性地域戦略とは、以下のように表現される内容をもつといえます。
生物多様性地域戦略とは、市民や企業など様々な主体とともに、地域における生物多様性や生態系サービスから生じる価値を「地域の個性・財産」として再発見し、「地域の魅力」をいかに持続的に保全し活用するかという「暮らしと自然の未来像」を描き、新たな「地域づくり」を実現する実行策である。
生物多様性とは、地球上の生命の遺伝子、種、生態系といった要素やその関係性が多様であることを表す言葉です。
この生物多様性は、何十億年もの生命の進化の歴史によって形づくられた、かけがえのないものです。そして、その一部である私たち人類の生活自体も、そこから生み出される自然の恵み(生態系サービス)によって支えられています。それは衣・食・住など物質的な供給サービスだけではなく、気候の緩和や洪水防止などの調整サービス、伝統的文化や芸術などを育む文化サービスなども含まれます。
しかし、この半世紀にみられる急激な産業発展やエネルギー消費により、私たちの暮らしよりどころでもある「生物多様性」が今まさに危機的状況にあります。

生物多様性に支えられる私たちの暮らし

CBD-COP10の様子。
2010年10月愛知県名古屋市で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(CBD-COP10)では、「2020年までに自然の恵みを保ち生物多様性の喪失を止めるための効果的かつ緊急的な行動をとる」ことを掲げた愛知ターゲットが決議されました。この条約では、加盟国に生物多様性の保全と持続可能な利用に関する基本的方針や具体的な行動計画を記した「生物多様性戦略」の策定を義務づけています。日本でも1995年に「生物多様性国家戦略」が策定され、これまで2002年と2007年、2010年に3度改定されています。
一方で、この大きな世界目標が達成されるかは、国レベルだけなく都道府県や市町村といった地方自治体やそれぞれの地域の市民やNGO、NPOなどの市民団体、企業などあらゆるセクターが具体的な行動を起こし、成果を積み上げていけるかにかかっています。CBD-COP10でも「人々が生物多様性の価値を理解すること」や「市民を含むあらゆる人々が目標達成のために行動すること」「地方自治体や都市自治体も生物多様性戦略を策定すること」などが決議されています。
日本自然保護協会
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