





●多様な生物の生息・生育を可能にする基盤としての環境の多様性
希少な地質にしか生育しない植物、多様な地形による日照や気温、湿度・風条件の多様性
●採石・鉱物・石炭
鉱物資源・燃料資源
●土壌pHの安定
アルカリ地質=酸性雨による過度な酸性土壌の中和
●川による岩の浸食
海岸への砂供給
●渓谷美
新緑、藤、紅葉、雪景色
猊鼻渓は、南部北上山地に広く分布する古生代石炭紀~二畳紀の石灰岩からなる。セメントの原料でもある石灰岩は、炭酸カルシウムを主体とする堆積岩の一種で、貝殻や珊瑚の化石などを含むことも多い。二酸化炭素を含んだ雨水や地下水によって溶かされ、鍾乳洞を始めさまざまな侵食地形をつくり、また再び沈殿して石筍や鍾乳石などを形成する。
岩手県下には多くの石灰岩地形が知られ日本列島の地史を知る上で重要な役割を担っている。特に猊鼻渓は、砂鉄川の側方浸食や石灰岩の地層面や割れ目が溶かされてできたさまざまな俗称を与えられた奇岩に富み、景勝地として訪れた人々を楽しませている。
かつて宮沢賢治も訪れ、その時に詩を書き付けた紙の余白に「NS 75」と記してあることが知られている。NSというのは石灰岩の地層の伸びの南北の方向、75は地層の急傾斜の傾きを意味しており、現在の地質図からみても賢治が正しく理解していたことがうかがえる。
(産業技術総合研究所・加藤碵一)
日本は地殻変動が激しく、火山活動が盛んな列島。降水量が多いため河川による浸食も活発である。また南北に長い列島なので、気候の地域差も大きく、氷河時代の痕跡が強く残されている場所もある。さらに四方を海に囲まれ、波などによる浸食も活発で、氷河時代以降の海面上昇の影響も強く受けている。こうした長年の自然の働きによって、日本の地形・地質が大変複雑で多様だという特色がある。
しかし高度成長期に加速した開発や土地の人為的な改変によって、日本の自然の希少な地形は破壊され続けてきた。1994年には、生物のレッドデータブックに続き、地形・地質のレッドデータブックが作成された。「日本の地形レッドデータブック作成委員会」(代表:小泉武栄、事務局長:青木賢人)が、1994年1月に第1集「危機にある地形」、第2集2002年3月「保存すべき地形」として全国700カ所の地形をリストアップしている。今後より詳細な全図のリストが刊行される予定。
猊鼻渓は石灰岩が長い時間かけて侵食されてできた断崖地形。ここの石灰岩は硬い岩のため、こうした壁のような地形になったと考えられる。これが軟らかい岩の場合には、壁のような地形にはならない。石灰岩の壁をよく観察してみると、頂上付近や尾根状の場所には栄養が乏しくても生育できるアカマツが並ぶ。岩の割れ目や岩棚は、水の通り道になりやすいため、割れ目を縫うように根をはったヤマザクラやツル性のフジが生育する。またヤマユリやギボウシ、ダイモンジソウが可憐な花を咲かせている。壁の最下部には、岩の割れたものが堆積しているような場所や、谷地形、段丘化した河岸があり、ケヤキやヤマブキ、カエデの仲間などの落葉広葉樹が樹林をつくる。
秋の紅葉の時期には、石灰岩の白、アカマツなどの針葉樹の緑、壁や谷の落葉樹の紅葉色など、渓谷はカラフルに彩られる。一見すると、岩の壁だが、微妙な地形や地質条件の違いで植物の構成が変わり、さまざまな樹木や草花がすみ分けている。このことが渓谷美を生み出す重要な要素といえるだろう。こうした渓谷や断崖を訪れたら、ぜひ地形や植物の微妙な違いに注目して欲しい。
(NACS-J保護プロジェクト部 辻村千尋)
世界自然遺産の登録の基準には「地形・地質」があり、国内制度の環境影響評価にも「地形・地質」の評価項目がある。しかしどちらも希少性、珍しさに重点がおかれ、生きものたちが暮らす場所を守るという視点が重要視されていない。たとえ貴重な生きものが種として守られても、暮らすことのできる多様な「場」が守られなければ保全策として十分ではない。
写真提供 加藤碵一:3,4
日本自然保護協会の地域の自然の個性を守る活動

●小笠原の島々の成り立ちを調べて守る
なぜその場所の自然が素晴らしいのか。これを読み解くためにはその個性を知ることです。小笠原では地形・地質と地史から環境区分を行い、同じ小笠原でも父島と母島で大きく個性が異なることが分かりました。父島には水の集まりやすい盆地があり、母島には霧がよくかかる場所があります。こうした個性の違いから成り立つ植生などに合わせた保全管理を提案しています。
●保護地域の成り立ちも科学的に守る
今年の秋から冬に、海域公園や重要海域を選定する施策が予定されています。NACS-Jでは、専門家や各現地の研究者、市民グループとともに協力して、海辺を守っていくしくみをどのようにつくっていくべきか、積極的な提言を行うため、検討会、現地視察会を行っています。
NACS-Jでは、JustGiving Japanのしくみを通じて「自然の海辺を守る活動」へのご寄付を受け付けています。