
橋本:皆さんがよくご存じのミミズやアリ、ダンゴムシ、モグラのほかに、ダニやトビムシ、線虫といった比較的小さい動物もたくさんいます。菌類、バクテリアなどの微生物はもっとたくさんいます。カブトムシやハエなど、幼虫期を土の中で過ごす生きものも土壌生物の仲間です。

橋本:大きな働きは二つあります。ひとつは地表や土の中にある有機物を食べて粉砕したり、土の中を動き回って土を撹拌(かくはん)するという働き。ミミズやヤスデなどは落ち葉や土を食べて、糞として排出しますが、これによって落ち葉は細かく砕かれますし、土の中に団粒(だんりゅう)というかたまりが増えて、植物の育ちやすい土になります。
もうひとつは有機物を分解する働きで、地表にある落ち葉をそのままにしておくと、カビが生えたりしながら徐々に腐っていきますよね。これは葉に菌類やバクテリアなど、さまざまな微生物がくっついて、分解を進めているということです。
土壌生物のこれらの働きによって、有機物である植物や動物の遺体は分解されて無機物になり、土の中に還元されます。そして、無機物になったものを植物が栄養分として吸収します。つまり、植物の葉や枝が落ちてきて土壌に達し、そこで砕かれ、分解されて、また利用可能な成分になって植物に吸収される、という循環が成り立っているのです。
橋本:そうです。未知の部分も多いのですが、土の中は生きものの種類も個体数も、明らかに地上より多いといえます。ただし、同じ土壌でも農地は森林よりも生きものの多様性は低いと思われます。農地では生えている植物を収穫してしまうため、土壌生物の餌になる有機物が少なくなること、森林に比べて乾湿の差が激しいこと、耕されることでかく乱されることなどの条件がありますから。
橋本:地表に有機物がないので、餌がないわけで、さほどいないと考えられますね。また、地上の多様性が低いのに、土壌だけが豊かに守られるということもあまりないと思います。公園などで土があっても、踏み固められた固い土のところや落ち葉かきをしてしまうところは基本的に土壌生物は豊かではないです。落ち葉を残しておくと豊かになるんですけどね。
でも、豊かでないと言っても、必ず存在しています。歩道橋の階段の隅にたまっているわずかな埃のような土でも、南極の土でも、砂漠の土でも、土壌生物がまったくいない土はないと言っていい。菌類やバクテリアの多くは劣悪な環境でも休眠状態で耐えることができますので、そういう状態でいて、環境がよくなると活性化します。

小泉農園の牛ふん堆肥
橋本:そこは今、研究がようやく進んでいるところです。化学肥料というのは植物が生長する過程で使う養分ですから、すべて使いきれば影響は少ないのですが、必ずしもそうはならないと思います。この使い切れなかった分が土の中に残って、分解されずに蓄積したり、生物の体に入ったりしたときにどのような影響があるかはまだ正確には分かっていません。
農薬は、その植物を餌にしている生物を寄せ付けない、あるいは殺すためのものですから、本来の食物網の流れの一部を取り除くものと言えます。また、その殺虫成分は、ターゲットにしている生物以外にも影響を及ぼす可能性があります。つまり、作物の害になるものを排除するために、本来いなければならないものまで排除してしまう可能性があります。農薬成分も生物濃縮のような形で土壌生物の体の中にたまることがありますし、こう考えてくると、有機農法のほうが自然の循環により近い形で作物を育てられるということが言えると思います。
橋本:彼らにも役割があるということがわからないと、不衛生というだけで皆いやがる。でも、実際には私たちが食べ残した残飯を彼らが処理してくれていたりするわけです。
土の中の分解がきちんと行われないと植物に還元されませんし、それは植物を食べる昆虫、昆虫を食べる鳥……と、食物連鎖にずっと影響していきます。生態系を維持していくには土壌生物の機能がしっかり保たれていることが大切なんです。
橋本:個人的な意見ですが、メディアの影響も大きいと思います。たとえば、スズメバチの巣が増えているというニュースで、刺されると痛いぞということは強調するが、本来どのように生活している生きものなのか、刺されないための予防法は何かなどは報道しない。人間に害がある部分だけを極端に強調するんです。そういうやり方だと、土のことも、菌がいるから汚いとか、野外のものは汚いという感覚になってしまう気がします。
今、子育ての現場などで除菌グッズが流行していますが、私はむしろ、そのへんの空中を飛んでいるような菌に対しては子どものうちに免疫をつけておくべきだと思います。幼いころから土に親しむことで、命を尊ぶ経験ができますし、命に対する心の感覚が養われると思いますよ。
(2009年11月25日 横浜国立大学土壌生態学研究室にて 聞き手:市川ゆかり)

(はしもとみのり)/横浜国立大学環境情報学研究院研究員および白梅学園短期大学・大学、東京動物専門学校非常勤講師。
専門は土壌動物学(とくにヤスデ類)、環境教育。博士(学術)。