取材・文 市川ゆかり イラスト・さげさかのりこ
取材協力(敬称略):小泉農園/小泉紀雄・小泉民子、横浜国立大学/橋本みのり、生活クラブ東京/森田美和子、鳥取県立博物館/一澤圭
世田谷区に農地ってどのくらいあると思う?120町歩(ha)。意外に多いでしょ。東京ドーム25個分よ。うちの畑はここが今、約13a。高速道路の真下だけど、ほら、小松菜、白菜、大根、麦にブロッコリー……元気に育ってるでしょう。常時30種類以上の作物を、数畝ずつつくってるの。旬菜旬食っていって、なるべくその季節のものをつくるのね。農薬や化学肥料をあまり使わなくても育てやすいから。減農薬栽培ね。
これは落ち葉プール。落ち葉は庭にあるケヤキのと、区内の公園のと。ぬかやおからを混ぜて置いとくと、いい堆肥になるのよ。家で出た残菜や、畑の野菜くず、剪定枝のチップなんかも入れてる。こっちは牛糞の堆肥。都が推薦してる畜産農家の牛糞に、うちの樹木チップを入れてつくるの。触ってみて、サラサラでしょ?においなんかしないわよ。
自然の森だったらさ、地面に枯れ葉とか枝とか、動物の糞とか虫の死骸なんかが落ちてるじゃない。それが腐って土に戻って、その栄養分で植物が育つわけ。でも農地では、生えてる作物を収穫しちゃうから、土に戻るものがなくて、ほっとくとどんどん土がやせてくの。だから肥料を入れるのね。普通は化学肥料を使うんだけど、うちは自然のものでつくった堆肥。農薬もほとんど使わないし、自然の状態になるべく近づけてやってるわ。
害虫?もちろんいるわよ。除草剤も使わないから、雑草もすごいよ。害虫はフェロモントラップ(メスのにおいでオスをおびきよせる仕掛け)を使ったり、苗に不織布をかけたり、畑のまわりの風通しをよくしたり、いろいろ工夫してるの。毎年生協の人が来て生きもの調査をやってるんだけど、かなりいろんな種類が見つかるんだって。だからかなあ、1種類だけが異常に増えるってことはあんまりないわね。クモも相当多いんで、害虫を食べてくれてるところもあるかも。それから、虫にやられたとしても、野菜が健康だから、自分の力で回復するの。すごいわよ、感動するよ。
ああ、気がついた?土の中にもいろいろいるのよ。ミミズやら、カブトムシみたいな甲虫の幼虫やら、微生物やら。落ち葉や牛糞はこういう土壌生物が食べて分解してくれるから堆肥になるのよ。それと、彼らが土の中を動きまわることで、土がふかふかになるのね。
この土が気持ちいいらしくて、見学に来る人なんか、結構はまっちゃうのよ。今の若い人って、あまり自然体験してないじゃない? 自然とか生物多様性って地方にしかないと思ってる人も多くて、身近にこんなにいろんな生きものがいるってびっくりするみたい。うちは蝶にカマキリにネズミにモグラ……へビだって出てくるからね。
体験学習で来る中学生も、最初はふてくされてたりするけど、だんだん表情が変わってくるよ。都会じゃ土に触らないでも生活できるけど、それって不自然なことなのかもね。人間だって生きものなんだからさ。




