ABS
遺伝資源へのアクセスと利益配分
ABS(Access and Benefit-Sharing)は生物多様性条約の3つの目的のうちのひとつで、遺伝資源の利用から生じる利益を公正かつ衡平に配分するというもの。ABSは遺伝資源の取得の機会を与える手続きと、取得した遺伝資源の利用から生じた利益を利用者と提供国間で公平に分かち合うことを目指している。ABSが議論され始めた背景には、(1)生物資源の海賊行為が行われ、先進国の国々が巨大な利益を得ている状況に歯止めをかけるため、(2)遺伝資源を保全管理する人に対する生物多様性保全へのインセンティブを与えるため、などがある。
COP10では、2002年に交渉を開始したIR-ABS( ABS国際制度)の交渉が大きな課題だ。これまでにIR-ABSは法的拘束力を兼ね備えた議定書にすることが作業部会では合意されているが、先進国に多い再提供国が得る利益も、遺伝資源を持つ原産国へ、どう公平に配分措置を取っていくかがひとつの論点だ。この論点に対し市民団体からは、議定書発効以前に取得した遺伝資源の再提供国と原産国が異なる場合、原産国にも利益配分を推奨することを提案した。ノルウェーからも同様の提案がなされたが、7月のカナダでの事前会合でも合意には至っていない。議定書として採択できるかどうか、引き続き交渉を監視する必要がある。
CEPA
広報・教育・普及啓発
湿地をはじめとする自然の価値について理解を深め、保全と持続可能な利用のための行動を促すための「広報」「教育」「普及啓発」の活動を包括した概念。 ラムサール条約や世界遺産条約など、自然保護に関連する国際条約でその重要性が認められ、共通プログラムとして取り入れられている。生物多様性条約も第13条でCEPAに関連する活動の推進を締約国に求めている。COP10の新戦略計画のあらゆる活動の基礎にもCEPAが位置づけられることとなる。
COP
条約締約国会議
国際条約を批准した国が集まり、条約の実施や見直しについて決議する国際会議(COP:Conference of the Parties)のこと。議決投票権があるのは締約国の政府だが、生物多様性条約のCOPでは、NGO代表も公式に意見を表明できる。決議を行うときには、NGOの意見を聞く機会を設けることが慣習となっている。政府団にNGOメンバーが加わる国もある。
GBO3
地球規模生物多様性概況第3版
GBO(ジービーオー/Global Biodiversity Outlook)は、生物多様性条約の事務局が4年に1度公表する、いわば「生物多様性白書」の地球版。
2010年5月に発表されたGBO3では、2002年のCOP6で設定された、「2010年までに生物多様性の損失速度を著しく減少させる」という2010年目標は、21の個別目標ですべてが達成できなかったと評価した。生物多様性の保全と持続可能な利用のための行動を迅速かつ大胆に取らなければ、生命や経済活動の基盤である生態系が急速に劣化・崩壊する恐れがあると報告している。
また、生物多様性の損失から後戻りできなくなる「転換点=Tipping Point」が近づいており、「次の10年か20年に取る行動が、人類文明が過去1万年にわたってよりどころとしてきた比較的安定した環境条件が、今世紀以降も継続するかどうかを決める。もしも人類が、この機会の利用に失敗したら、地球上の多くの生態系は、現在および将来の世代の需要に備える能力が非常に不確かな予想もできない事態に陥る」と警告した。
GBO3は、2010年9月の国連総会に重要な情報を提供するとともに、COP10で行われる交渉の基礎資料となる。日本では、日本版の生物多様性概況である「生物多様性総合評価」(通称JBO)を5月に発表している。
ICCA
先住民共同体保全地域
ICCA(アイシーシーエー/Indigenous and Communities Conserved Areas)とは「先住民族や地域コミュニティーが生活や文化の中で生物多様性を守ってきた地域」というもの。そのポイントは、(1)その地域とコミュニティーの活動は、農林水産業や、林産物の収穫など、生物多様性保全の目的のための活動でなくともよく、(2)その土地が共有地や入会地、私有地、政府の土地、またはそのモザイクであろうと構わず、地域共同体が利用方法などを決めていて、(3)実際に保全が実現している、という3点。
ICCAの考え方は2010年5月に開催されたCOP10のプレ会議の科学委員会(15ページ参照)で、各国の注目を集めた。国際的にはこれまで、「生物多様性の保全の目的で定められた陸域/海域」が保護地域とされ、議論の多くは政府が設定した自然公園や野生生物の保護地域などが対象だった。政府が地域社会と協議せず一方的に設定(時にはODA目当てで設立)したような地域は、管理の効果への疑問や、Paper Park(保護地域として設立されても、何の手当もされていない地域)として問題視されてきた。ICCAはこのような保護地域制度とは一線を画し、地域社会の営みによって事実上保全されている地域に光を当てようという現場からの発想だ。
日本でも注目されている里やまの保全は、生物多様性の保全にも貢献してきた地域の暮らしや文化の再認識であり、今後地域が主体となることでしか成功しないもので、ICCAと共通する部分が少なくない。ICCAを保護地域として認めていこうという目的で、COP10には多くの研究者や活動家が来日する。COP10は日本の里やま保全をICCAの面から考えたり、保全活動に活かせるICCAの事例などの情報交換をする最大の機会となる。
IPBES
生物多様性と生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム
気候変動枠組み条約では、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が数年おきに評価報告書を提出し、条約交渉や各国の政策に大きな影響力を発揮してきた。一方、生物多様性条約でこのような機能が不十分であることが以前より指摘されていた。IPBESは、生物多様性版IPCCとしてUNEP(国連環境計画)の下で検討が進められ、ついに2010年の国連総会で正式に設立される。2001~05年に期間限定で実施された地球規模の環境アセスメント「ミレニアム生態系評価」などを引き継ぐ形で、今後、地球規模の生物多様性に関する科学的な評価報告書を発表し、条約の推進に寄与することが期待されている。
MOP
議定書締約国会議
議定書は、ある条約と密接な関係を持ち、その条約を補完する役割の国家間の取り決めを指す。条約のある特定部分を強化するため(法的拘束力があることを明確にするため)に、法的拘束力を持たすことを明確にした上で、交渉され、作られ、改めて「採択/署名/批准/発効」のプロセスをとる。MOP(meeting of the Parties)は議定書締約国による会議のこと。
REDD
発展途上国での森林破壊と劣化の防止
REDD(Reducing Emissions from Deforestation and forest Degradation)は、森林破壊を防ぐことがCO2排出の抑制につながることに着目し、「森林を伐採せずに排出しないで済んだ分」についても、国際的な排出量取引市場で売ることを認めようというしくみ。森林が破壊されると、燃やされなくても伐採された樹木の中に含まれたCO2が大気中に放出され、地下に蓄えられていたCO2やメタンガスも放出されてしまう。REDDは、温暖化防止と生物多様性保全の双方で効果を上げることを狙う試みで、世界銀行や国連が中心となって、試験的事業を進めている。
(井田徹治・共同通信社)
SBSTTA
科学技術助言補助機関
SBSTTA(サブスタ:Subsidiary Bodies for Scientific, Technical and Technological Advice)の日本語正式名称は「科学上および技術上の助言に関する補助機関」。生物多様性条約25条に定められた組織で、国際会合を行って条約の締約国会議(COP)に対して科学的な知見から助言・提言を行う機関。COP9後唯一のSBSTTA(第14回SBSTTA)は、5月10日から21日にかけてケニアのナイロビで開催された。この会議の提言をもとにCOPの決議を決めることから、近年はCOPの前哨戦という性格が強く、科学的議論ではなく政治的な交渉の場になりつつある。
WGRI
条約の実施に関する作業部会
WGRI(ウィグリ:Working Group on Review and Implementation)は条約の実施とレビューに関する作業部会のこと。SBSTTAは条約に記載されている正式な下部組織だが、WGRIは常設ではなく、COPの特定の決議を受けて開催される特別会合という違いがある。
SBSTTAが条約で実行すべきことを議論するのに対し、WGRIは実行すべきことや条約全体の効果的な実施に必要な仕事やメカニズムを議論するのが役割。条約の戦略計画のほか、民間参画などの生物多様性条約関連以外の組織やグループとの協働、IPBES、資源動員戦略、条約決議の失効(リタイヤメント)を検討する。第3回WGRIはナイロビでのSBSTTAに連続して開催された。
エコシステムアプローチ
生態系と自然資源(土地・水・生物)を適切に統合管理するための戦略指針で、2000年の第5回条約締約国会議で採択された。生態系の順応的管理や、地域の資源利用計画の意思決定に先住民・地域住民を利害関係者として必ず参加させるなどの内容を含む12の原則から成り、地域・国家・国際それぞれのレベルでの土地・資源利用計画にあたっての導入が求められている。
カルタヘナ議定書
遺伝子組み換え生物の生物多様性への悪影響を防止しようと2000年に採択された議定書。遺伝子組み換え作物の輸出入時には輸出国は輸入国に対して通告を行ったり、輸入国はリスク評価を行って輸入の可否を決めるなどのルールは盛り込まれたが、実際に遺伝子組み換え作物によって損害が出た場合、誰がどのように修復・賠償するのかは合意できず、定められていなかった。このルールを定める国際制度が、MOP5で「責任と修復補足議定書」として可決されることが期待されている。
世界では過去10年に200件以上の遺伝子組み換え作物による汚染などが起きており、その損害額は数十億ドルを超える。コメの国内生産量の倍近い遺伝子組み換え作物を輸入している日本は被害を受けやすい国である。
主食などを輸入に頼っている多くの途上国が厳しい制度を熱望しているのに対し、カルタヘナ議定書に非加盟のため発言権のないアメリカ、カナダなど食料輸出国は、日本などに強硬に反対させることで、この制度を骨抜きにしようとしてきた。結果、議定書には行政が取るべき対応策のみが規定され、肝心の民事責任規定は除外されることになってしまった(将来の改正に含み)。
残された争点は、事業者に賠償能力がない場合の財政保障を明記か否か、そしてこの補足議定書の適用範囲に組み換え作物の生成物まで含めるか否かである。どちらも議定書に盛り込むことが日本と途上国の国益に叶う。
(真下俊樹・日本消費者連盟運営委員/CBD市民ネット)
国連生物多様性の10年
「国連生物多様性の10年」は日本の市民たちの集まりであるCBD市民ネットが提案した、国連のキャンペーン。目的は、生物多様性条約から国連総会に向け、2011年から2020年までの10年間を生物多様性の10年と定めることを決議するよう要請し、2011年以降の戦略目標の達成を、条約を超えた国連の枠組みで進めることだ。
COP10の準備会合(WGRI)で、COP10の運営会議(ビューロ)を代表して日本政府が「国際連合生物多様性の10年2011-2020」をCOP10に正式に発議することを提案した。ほかの「10年」モノのように記念行事ばかりに金がかかることを心配する意見もあったが、行事にではなく、戦略計画の実施に焦点があることについて国際間の理解が得られ、承認された。
この提案はCBD市民ネットが、今後2年間議長国となる日本政府に働きかけ、政府がこれを引き受けることを決断したもの。新戦略計画は、各国政府だけでなく、世界の市民・NGOが協力し、それぞれがこれからの10年の見通しと計画のもとに、生物多様性に向けた活動を続けて初めて、達成できる。CBD市民ネットでは、この決議への賛同と、それに向けた活動の約束を「国連生物多様性の10年NGOイニシアティブ」として呼びかけている。多くのNGOの参加を期待している。
(柏木実・ラムサール・ネットワーク日本/CBD市民ネット)
※「国連生物多様性の10年NGOイニシアティブ」についてはCBD市民ネットのウェブサイト参照。
http://www.cbdnet.jp/proposal/
ミレニアム生態系アセスメント(MA)/里山里海SGA(サブグローバル評価)
日本国内の里山里海の生態系の評価を行った報告のこと。国連は2001年から地球規模の生態系を評価する「ミレニアム生態系アセスメント(MA)」を5年間実施し、地域・流域・国レベルの評価をサブグローバル(=準地球規模)評価(SGA)という形で34カ所で行った。このとき日本は参加していなかったが、2006年から国連大学高等研究所が中心となり、日本の里山里海のSGAを実施し、NACS-Jもこの取り組みに参加した。
評価はMAと同様、生態系と人々の暮らしのつながりに焦点をあてている。また、50年前から現在までの変化を追える指標を選び、MAにはない農地を評価単位に追加した。日本を5つの地域グループ:北海道、東北、関東・中部、北信越、西日本に区分し、地域レベルの評価とそれらを統合した国レベルの評価を行った結果、特に日本が海外からの輸入品や化学資源由来のサービスに依存し、日本の生態系への依存度が低下していることが分かってきた。
日本の生物多様性総合評価(JBO)は、生物多様性の損失要因や状態の評価が中心なので、里山里海SGAと組み合わせると、将来に渡って自然からの恵みを享受するためにどのような取り組みを行っていくべきか、合意形成や行動計画の策定の資料として活用できる。
(財)日本自然保護協会
(NACS‐J)
〒104-0033
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ミトヨビル2F
TEL:03-3553-4101(代表)
TEL:03-3553-4104 (担当)
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