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2017.07.01(2017.08.10 更新)

人間の暮らしがつないできたカヤネズミたちのすみかが消えていく

読み物

専門度:専門度4

写真1 カヤネズミは、世界でも珍しい草の上に巣をつくるネズミ。巣の大きさは8~10cm程度。

テーマ:生息環境保全自然環境調査

フィールド:草原モニタリングサイト1000カヤネズミ

この記事は会報『自然保護』2014年11・12月号 より転載しました。記事中のデータ等はすべて2014年時点のものです。

 

草原に暮らす日本一小さなネズミ

カヤネズミは、草原にすむ日本で一番小さなネズミです。体重は500円玉1枚分(約7~8g)で、体の大きさは大人の親指ほど(写真2)です。夜行性で、主食はエノコログサやイヌビエなどの小さな草のタネや、バッタやイナゴなどの昆虫です。

 

▲写真2,3 大人のカヤネズミ(左)の体長は頭からおしりまでが約6cm、尾は約7cm。生まれたての子は赤裸だが、生後10日で目が開いて毛も生えそろい(右)、生後約3週間で巣立ちする。

 

世界には約1000種のネズミの仲間がいますが、カヤネズミはその中でも珍しい、草の上に巣をつくるネズミです。そのため、体のつくりも草の上での生活に適した形に進化しています。

ネズミの耳というと、ミッキーマウスのような大きな耳を想像しがちですが、カヤネズミの耳は小さく、顔の横に沿うようにつき、鋭い草の葉から保護されています。尾はしなやかで、草の葉や茎に巻きつけて体を支えたり、ぐるんと大きく振って、バランスを取ります。後ろ足の指は、広げてものをつかむことができます。これらの機能を活用して草を登り、前足と歯で葉を裂いて球形の巣を編みます。

カヤネズミが暮らしているのは、草原の中でも、特にオギやススキやヨシなどの「カヤ」と総称される草丈の高いイネ科植物(イネ科高茎草本)がまとまって生えている草原「カヤ原」です。茅葺き屋根の「茅」はこのカヤのことです。カヤ原は河川敷や休耕田に多く、ここがカヤネズミの代表的な生息環境となっています(写真4・5)。

▲写真4 カヤネズミの生息地となるカヤ原の例。左:休耕田(ススキなど)中央:河川敷(オギやヨシなど)
▲写真5 右:収穫後のワラ束を円錐状に積み重ねた「にお」。カヤネズミの格好の越冬場所になっていた。

 

巣材には、主にイネ科やカヤツリグサ科の植物が使われます。オギとススキは代表的な営巣植物です。繁殖期は春から秋(雪の少ない地域では初冬まで)で、ピークは秋です。出産の近づいたメスは複数の巣をつくり、その中のひとつに子どもを産みます。ほかの巣は休息場所として使われます。オスも休息用の巣をつくりますが、子育てにはまったくかかわりません。寿命は半年から1年程度です。天敵は多く、アオダイショウやモズ、カラス、コミミズク、トラフズク、イタチ、ネコなどに捕食されます。

 

人の暮らしが維持したすみか

温暖で湿潤な日本では森林が発達しやすく、自然条件下で草原ができるのは、河川や湿原、高山や風衝地など、樹木が育ちにくい環境に限られます。それ以外の場所では、草刈りや火入れ、放牧など、人間の働きかけで草原が維持されてきました。人々が生活の資源を得るために生み出された草原が、カヤネズミにも良いすみかを提供してきたのです。

残念なことに、今ではカヤネズミを知らない農家の方も珍しくありませんが、かつてはごく普通に全国の田んぼで見られるネズミでした。60代以上の方は、稲刈りのお手伝いの時にカヤネズミや巣を見たという思い出がある方もいらっしゃるでしょう。千葉県の方言ではカヤネズミを「イナ(稲)ッチュネズミ」と呼んだり、新潟県と福井県にはイネにつくられたカヤネズミの巣を「豊作のしるし」と見なしていた地域もあり、カヤネズミと稲作文化との興味深いつながりが垣間見えます。

ただし、田んぼそのものは人の手が頻繁に入るため、カヤネズミにとっては一時的な生息場所です。参考例として、京都の巨椋干拓地での農作業暦をもとに、カヤネズミが確認された時期をみてみましょう(図1)。6月はイネがまだ小さく、田んぼに水が張られているので、カヤネズミは田んぼに入ることができません。7月にイネの草丈が1mを越え、田んぼの水を抜く「中干し」が行われると、周辺の休耕田や茅場、ため池や水路の土手といった草地から田んぼに入り込みやすくなります。そして10月の稲刈りで田んぼを追われると、再び周辺の草地に移動します。

▲図1 稲作スケジュールとカヤネズミの確認期間。7月にイネの草丈が1mを越え、中干しが行われると、周辺の休耕田や茅場、ため池や水路の土手といった草地から田んぼに入り込む。

 

このため、農耕地においてカヤネズミの生息環境を保全するには、田んぼの周辺に休耕田や茅場など、通年の生息場所となり得るイネ科高茎草地が点在し、それらの草地をつなぐ畦や土手には、カヤネズミが安全な通路として利用できるような、チガヤなどの比較的草丈の高いイネ科草地が残されていることが理想です。なお、カヤネズミはイネに営巣する際に少し米を食べますが、イネを食い荒らしたりはしません。イネに混生するヒエや、イネにつくバッタやイナゴも好んで食べます。

 

明らかになってきた減少傾向

このように、人里の環境にうまく適応して暮らしてきたカヤネズミですが、土地開発や農業の近代化によって生息環境が急速に悪化しています。現在、国内で本種の生息が確認されている1都2府38県のうち、1都2府28県のレッドデータブックに掲載されています(図2)。

▲図2 都道府県版レッドデータブックにおけるカヤネズミの掲載状況。

 

かつて人々が暮らしの資源を得る場所だった草原は住宅や工場に変わり、圃場整備やコンクリート水路の普及によって、生息場所となる草地の消失や分断が進んでいます。
筆者が2003~04年に滋賀県内の河川や湖沼、農耕地、造成地など、さまざまな環境のイネ科草地でカヤネズミの分布と生息環境を調べたところ、湖西地方の山間部では26地点中18地点(69.2%)で巣が見つかったのに対し、市街化が進む湖東地方の平野部では、34地点中7地点(20.6%)のみでした。山間部は耕作放棄地が多く、営巣場所となるオギやススキなどのイネ科高茎草地が比較的保たれやすいのに対し、市街化が進む平野部では、頻繁な草刈りや短い耕作サイクルでイネ科高茎草地が成立しにくいことや、道路や人工水路で生息地が分断・孤立しやすいことが、その原因として考えられました。
また、今年7月に環境省が公表したモニタリングサイト1000里地調査の調査結果からは、全国的にもカヤネズミが生息する草地の面積が減少傾向にあることが示唆されました(図3)。

▲図3 モニタリングサイト1000里地調査(第二期)のカヤネズミ調査結果(環境省)。調査を行った23サイト中5サイトで生息面積が大きく減少していた。これらの5サイトは、いずれも調査開始当初から生息地が小規模で、局所的な絶滅の危険性が高まっている可能性がある。

 

草刈り時の工夫など小さな配慮でも守れる生息地

人間活動の影響でその数をずいぶんと減らしてしまったとはいえ、それでもまだ、カヤネズミたちは日本各地の草原で頑張って生きています。皆さんのお住まいの地域にも、ひょっとしたらいるかも知れません。川原や田んぼの周りの草むらを歩く機会があれば、そこに丸い草の巣がないか、ちょっと気を付けて見てください。そしてもし、巣を見つけたり、カヤネズミに出会えたら、ぜひその場所を見守り続けて欲しいと思います。
また、カヤネズミの生息場所で草を刈る際は、幾つかに区画を分けてローテーションで草を刈ることで、刈り残し区画がカヤネズミの避難場所になります(写真6)。田んぼの畦や水路の草を刈る際にも、少し刈り残すことで草地の連続性が保たれて、生息場所の孤立化が防げます。野生動物の生息地を守るというと、難しく考えがちですが、そうしたちょっとした配慮で、彼らの暮らしを守ることが可能です。

▲写真6 カヤネズミに配慮した刈り方の例。まず堤防の下半分を刈り、刈られた部分の草丈がある程度回復してから、上半分を刈る。(京都府八幡市木津川堤防)

 

これからもずっと、カヤネズミたちと暮らし続けるために、一人でも多くの方にカヤネズミについて、関心を持っていただけることを願っています。

 

 

 

あなたの近くにも、まだカヤネズミはいるかもしれません。「全国カヤネズミ・ネットワーク(カヤネット)」では、カヤネズミの巣の発見情報を募っています。見つけた方は、ぜひカヤネットウェブサイト(http://kayanet-japan.com/)の営巣報告フォームからご連絡ください。

 

文・写真 畠 佐代子:全国カヤネズミ・ネットワーク 代表
滋賀県立大学環境科学部 非常勤講師

 

*写真の無断利用・転写は固くお断りします。

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