日本自然保護協会は、生物多様性を守る自然保護NGOです。

  • 文字サイズ

日本の絶滅危惧種を守る

Home 主な活動 日本の絶滅危惧種を守る 総説「ニホンイヌワシの保全学:現状と将来展望」の翻訳版が完成しました。

<イヌワシ>絶滅危惧種を守る 一覧へ戻る

2021.04.30(2021.05.11 更新)

総説「ニホンイヌワシの保全学:現状と将来展望」の翻訳版が完成しました。

解説

専門度:専門度5

テーマ:生息環境創出生息環境保全絶滅危惧種

フィールド:森林

日本自然保護協会(以下、NACS-J)は、絶滅の危機にあるイヌワシの保護活動を続けてきました。一方、生態学、遺伝学、獣医学など各分野でもイヌワシの保護を目的とした研究が進められてきました。しかし、個別に研究が進められ、学際的アプローチは十分ではない状況がありました。

そこで、2018年4月、日本と英国の主要なイヌワシ保護研究者を日本に招聘して開催されたイヌワシ保護研究に関するワークショップにおいて、日本のイヌワシ保全科学の統合的な総説がまとめられ、日本野生動物医学会誌2020年25巻 第1号で発表されました。

日本野生動物医学会誌『ニホンイヌワシの保全科学:現状と将来展望について』

NACS-Jは、イヌワシの保護を、市民、研究者、行政等の多様な関係者で協力しながら、科学的に進めていくためには、保全科学の現状を多くの人に理解して頂く必要があると考え、論文の翻訳を進めてきました。
翻訳にあたり、村山美穂さま、佐藤悠さま、内藤アンネグレート素さまに翻訳責任者となって頂き、著者の皆さま、山崎亨さまにご確認を頂きました。ご協力頂いた皆様に厚く御礼を申し上げます。本論文によって、今後のイヌワシ保全がより強く前進することを願っております。

ニホンイヌワシの保全学: 現状と将来展望(和訳全文)(PDF/1.2MB)

 

会報「自然保護」2021年5-6月号では、本論文を著者の方々に内容をご紹介頂くとともに、群馬県みなかみ町赤谷の森で進めてきた、イヌワシの狩場環境創出の6年間の取り組みについてご紹介しています。ぜひ併せてご一読ください。

ニホンイヌワシの保全学: 現状と将来展望

著者名

ニホンイヌワシ保全研究グループ:Rob OGDEN1, 福田智一2, 布野隆之3, 小松 守4, 前田 琢5, Anna MEREDITH1,6, 三浦匡哉4, 夏川遼生7, 大沼 学8, 長船裕紀9, 齊藤慶輔10, 佐藤 悠11, Des THOMPSON12, 村山美穂11*

所属機関名

  1. Royal (Dick) School of Veterinary Studies and the Roslin Institute, Easter Bush Campus, University of Edinburgh, Midlothian EH25 9RG, UK
  2. 岩手大学総合科学研究科, 岩手県盛岡市上田4-3-5 020-8551
  3. 兵庫県立人と自然の博物館, 兵庫県三田市弥生が丘6 669-1546
  4. 秋田市大森山動物園, 秋田県秋田市浜田潟端154 010-1654
  5. 岩手県環境保健研究センター, 岩手県盛岡市北飯岡1-11-16 020-0857
  6. Faculty of Veterinary and Agricultural Sciences, University of Melbourne, Corner Flemington Rd and Park Dr, Parkville, Victoria 3052, Australia
  7. 横浜国立大学大学院環境情報学府, 神奈川県横浜市保土ケ谷区常盤台79-7 240-8501
  8. 国立環境研究所, 茨城県つくば市小野川16-2 305-8506
  9. 環境省猛禽類保護センター, 山形県酒田市草津字湯ノ台71-1 999-8207
  10. 猛禽類医学研究所, 北海道釧路市北斗2-2101 084-0922
  11. 京都大学野生動物研究センター, 京都府京都市左京区田中関田町2-24 606-8203
  12. Scottish Natural Heritage, Silvan House, 231 Corstorphine Road, Edinburgh EH12 7AT, UK

和文要約

イヌワシの一亜種であるニホンイヌワシ(Aquila chrysaetos japonica) は、個体数と繁殖状況の現状調査に基づいて、環境省版レッドリストの絶滅危惧種に指定されている。現在、国による保護(1) 活動が行われているものの、個体数減少の原因とその改善方法に関する知見は十分とはいえない。この数十年の間に日本を含む世界各地において、イヌワシの種の回復に関する多分野にわたる科学的な研究が行われ、本種の保護計画に必要な情報が集められつつある。しかしながら、これらの研究は個別に進められており、学際的なアプローチが充分になされていない。本稿では、生態学、遺伝学、獣医学的健康管理、生息地管理などのニホンイヌワシの保全に関する諸研究を総合して概観した。野生および飼育個体群の現状と傾向を分析し、現在および将来の保護管理の活動を報告し、ニホンイヌワシの生息域内保全および生息域外保全に向けた対策について、統合的な見地から議論した。この総説では、イヌワシの生物学や健康科学に関する国内および海外の専門家グループが、学術的な情報と実用的な解決策の両方を提示した。本稿によって、ニホンイヌワシの数の減少をくいとめるのに必要な情報と技術を提供し、日本における長期的な本種の保護に応用するための枠組みを示すことを目指す。

キーワード

イヌワシ、生息域外保全、生息域内保全、保護管理

※日本野生動物医学会誌 2020年25巻第1号に英文で掲載された論文を、日本のイヌワシ保全に広く活用することを目的に、公益財団法人日本自然保護協会で翻訳を進めたものです。翻訳にあたり、村山美穂さま、佐藤悠さま、内藤アンネグレート素さまに翻訳責任者となって頂き、著者の皆様、山崎亨さまにご確認を頂きました。ご協力頂いた皆様に厚く御礼を申し上げます。

以下、イヌワシ総説論文の序論より抜粋

序論

イヌワシ(Aquila chrysaetos)は、北半球の温帯に分布する象徴的な鳥類である。ヨーロッパ、北米、日本を含む多くの地域の人々の文化的な歴史と伝統の中で強く特徴づけられている。野生の個体数は比較的多く、本種は全体として国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで「軽度懸念Least Concern)」に分類されているが、過去100年の間に個体数が激減している国もあり、その構成個体群はより大きな脅威にさらされていると考えられている。このことは、以下に述べる理由から保護(1)の観点で重要である。複数の孤立した局所的な個体群における個体数の減少は、地域規模での絶滅のリスクを高め、いずれ急速に種全体の生存を脅かす可能性があるが、広範囲な分布はこれらの影響を把握しづらくする。また、局所的な個体群の喪失は、種内の遺伝的多様性の大幅な消失につながり、継続的な環境変動への耐性を低下させる可能性がある。このように、種内の遺伝的多様性が徐々に失われていくことは、種の総個体数の大きさに比べれば比較的気づかれにくいが、一度失われた遺伝的多様性は、適切な保護期間をかけても回復することはない。

ニホンイヌワシ(A.c.japonica)は、最終氷期の終わり(現在から約2万年前)以降、アジア大陸から事実上隔離されており、世界中の他のイヌワシ亜種の生息地とは全く異なる、密な森林に覆われた急峻な山岳地帯に生息している。日本のイヌワシ亜種と他のイヌワシ亜種との間の生物学的、機能的な違いはまだ解明されていないが、形態学的な差異の逸話的報告や、日本の亜種の隔離的な個体群と生態学的な状況からみて、日本のイヌワシは保護上重要でユニークな個体群を構成している可能性が高いと考えられる。個体数と繁殖成功率の両方が減少していることから、日本政府はこの種を全国的に絶滅の危機に瀕していると認識しており、それゆえに保護増殖事業の対象としている。

現在の保護活動では、科学的な根拠に基づいた野生動物の保護を進めている。科学的データは、個体数の減少を明らかにし、その様々な原因を調査し、より実践的な解決方策の有効性の予測や検証に活用できる。日本や他の生息地におけるイヌワシの保護に関する科学的データが徐々に蓄積され、種の保護計画の下地となる多くの分野からなる科学的根拠が確立されてきている。しかし、これまではそれぞれの研究は独立して行われてきたため、分野複合的なアプローチによって得られる潜在的な効果は限られていた。本論文は、日本と英国の主要なイヌワシ保護研究者を招聘して2018年4月に日本で開催したイヌワシ保護研究に関するワークショップにおいてまとめた、日本のイヌワシ保全科学の統合的な総説である。

本総説は、1)個体数減少の原因の理解、2)個体数の持続のための保護策、3)野生個体群と飼育個体群の一体化(integration)、の3つの章で構成されている。日本におけるイヌワシの保護に関連する、既存の知識、解明すべきこと、将来取りうる選択肢を包括的に把握するため、生態学、獣医学、遺伝学、生息環境保護の研究課題を各パートで考察している。この総説の目的は、環境省を中心としたイヌワシ保護関係者に、今後数十年を見据えて科学的根拠に基づいた保護策を計画・実施するために必要な情報を提供することである。このアプローチは、日本のみならず他の国の他の絶滅危惧の猛禽類の保護にも適用可能と考えられる。


翻訳全文はこちら

ニホンイヌワシの保全学: 現状と将来展望(和訳全文)(PDF/1.2MB)

原文(英語)はこちら

日本野生動物医学会誌『ニホンイヌワシの保全科学:現状と将来展望について』(外部サイトに繋がります)

 

ご寄付のお願い

日本において絶滅の危機にあるイヌワシの保護に、ご支援をお願いいたします。

<イヌワシ>絶滅危惧種を守る 一覧へ戻る