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2021.03.03(2021.03.10 更新)

【東日本大震災から10年】まとめ〜東日本大震災・復興から学ぶべきこと

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専門度:専門度4

▲2020年8月時点の南三陸・八幡川河口域(写真=南三陸町自然環境活用センター)

中静 透
NACS-J理事。
国立研究開発法人森林研究・整備機構理事長
兼 森林総合研究所所長。
編著:『生物多様性は復興にどんな役割を果たしたか』(昭和堂)

見えてきた復興で失われた自然

東日本大震災の復興からの教訓として最も重要な点は、身近な人たちや財産を失うという非常事態で自然環境を第一には考えにくいこと、その一方で、やはり自然環境は地域の持続可能性や災害復興にあたって重要であることが再認識されたということだろう。巨大防潮堤に象徴されるように、震災直後には工学的な防災対策や迅速性が最優先された。復興計画はトップダウンで決定され、地域住民は復興の議論に対応する余裕がなかった。

しかし、時が経ち計画が明確になるにつれ、復興事業で失われる自然環境が問題になってきた。干潟や河口域が水産資源の維持に果たしていた役割、景勝地や海水浴場として地域やその文化を特徴づけてきた自然の価値、自然に関わる固有の伝統的知識と地域社会の持続可能性との関係などが、この10年間でゆっくりと実感されてきた。

 

平時から地域計画の議論を

一方、防災・減災や復興と地域の自然環境保全は対立しやすいと思われてきたが、震災を契機として日本でもグリーンインフラ1やEcoDRR2の考え方が進み、自然環境や自然資本の保全と防災・減災を両立できるオプションの存在が知られるようになった。また、2010年のCOP10以降、生態系や生態系サービスの経済評価が進み、自然が保全の対象だけではないという理解も進みつつある。

今後、日本の人口が減少し都市に集中すること、気候変化で災害が激甚化すること、工学的な防災インフラを建設・更新する予算が期待できないこと、防災インフラで何を誰が守るのか、などを考えると、従来型の災害対応が必ずしも現実的とは言えない。

また、人口減少や地域産業の衰退は、災害がなくても日本各地に共通してゆっくりと起こっていることであり、大震災はそれを数十年分加速したという見方もできる。東北での経験は、被災地だけでなく、地域の持続可能性を考える一般的な議論として大きな示唆をもつだろう。

まず、持続可能性を高める地域計画を平時から議論し、更新しておくことが重要だ。その中には、防災インフラの整備や避難計画、ハザードマップを基礎とした土地利用による被災回避といった防災計画はもちろん、平時での利用を前提とした自律分散型のライフライン確保や、地域文化や生業の核となる自然環境の保全や利用も明確に組み込むべきだ。これらが、地域の社会・経済の持続可能性を高めることにつながる。

この時、グリーンインフラやEcoDRRなどが具体的手法として有効であり、この動きを主流化することが重要だ。現在、自治体には、産業、防災、環境、国土強靭化など多くの地域計画策定が求められているが、それらをこうした観点から総合的に見直しておくことがNbS3やSDGsを実現することにもなる。

また、災害リスクの高い土地の利用方法としての多様なオプション(保護地域や公園、管理コストの低い農地など)、復興におけるアセスメントの在り方なども含め、地理情報を含めた生物多様性地域戦略を考えておくことも有効だろう。

いくつかの自治体では、既に自然資本利用を中心にすえたまちづくりを積極的に進めている。強調したいのは、こうした計画の中にさまざまな立場の住民を巻き込むことが、社会としてのレジリエンスを高めるという点だ。地域社会にとって必要なことや重要なものについて時間をかけて議論しておくことが欠かせない。

1:自然の多機能や仕組みを活用したインフラストラクチャー
2:生態系を活用した防災・減災(Ecosystem-based Disaster Risk Reduction)
3:自然に根差した課題解決(Nature-based Solutions)

 

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