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2020.04.08(2020.04.15 更新)

北陸新幹線が貫通するラムサール条約湿地「中池見湿地」のトンネル工事現場を視察しました!

報告

脇に歩道があるトンネル内部の写真

▲トンネル内部。白いのが防水シート

フィールド:湿地

北陸新幹線の貫通するラムサール条約湿地「中池見湿地(福井県敦賀市)」では、地元の市民団体と共に保護活動に取り組み、2015年に環境影響がより少ない計画ルートへの変更が実現しましたが、湿地の水源となる山をトンネルが貫通する計画となっています。

NACS-Jでは中池見湿地の自然環境を守るためにラムサール条約ガイドラインに基づく「環境管理計画」の策定を求めて要望書を提出し、働きかけてきました。

その結果、事業者である鉄道・運輸機構(JRTT)の多大なる努力のおかげで、専門家だけでなくNGOの意見も反映いただき2018年に国内初の環境管理計画が策定されました。この計画に基づき、2019年1月から工事が開始されています。

そして約1年後となる2020年1月26日に、現場の状況やモニタリング調査の結果について評価を行う専門家委員会が開かれ、地元市民団体の方と共に傍聴することができました。


当日は委員の方とともにヘルメットと長靴をお借りしてトンネルの掘削先端部分(約400m)まで行くことができました。トンネルを掘ってみるとボーリング調査で予想していた地質と違って頁岩(けつがん)など壊れやすい性質の岩盤で、今のところ発破を使うことはなかったということでした。中池見湿地は地形レッドデータブックに載るほど特殊な地形で、途中、ヒ素の濃度の高い岩盤が見つかり工事が中断するなど、やはり掘ってみないとわからないというのが、トンネル工事の怖いところです。

山の頂上付近までトンネル掘削が進んでいる状況ですが、最も懸念していた水環境への影響として、1月には現在毎分約200ℓの出水が生じています(トンネル出口に集められ沈殿、処理して水路へ)。水の浸透を抑える非排水構造(ウォータータイト)を採用するまでの一時的なものと考えられていますが、防水シートをするまでに時間がかかるため、その間の湿地の水環境への影響が懸念されています。特に11-12月には降雨が少なかったこともあり、地下水が大幅に減少しましたが、2月に入り降雨も増え水量は回復しつつあります。

工事前に作成した環境管理計画において、緊急時計画が入念に検討されていたおかげで、過年度最低値を下回った時点で「通常体制」から「注意体制」にすぐに切り替わり、またモニタリング調査を月1回から月2回の頻度に増やし、変化をより詳細に観測する体制がとられました。また、データは水環境の専門家に随時報告・相談され、NGOにも定期的に進捗結果を共有いただいています。

今回の専門家委員会でも、今後の不測の事態に備えた水位回復処置の方法についても話し合われ、湿地への影響が出た場合に備えた具体的な態勢についても準備が進められています。このように適切かつ迅速に対応が行われてきたことは、環境管理計画が作られたことによる大きな成果だと言えます。

2015年にルート変更後に残された課題を話し合うシンポジウムを開催した時には「関係者が同じ目標を見ることが大事」と話していましたが、当時の中池見湿地では、遠い夢のように思っていました。今回環境管理計画を作るまでに何度も話し合ってきたことで、長年非公開だった専門家会議をNGOも傍聴できるようになり、委員会後のNGOとJRTTとの意見交換会も実現するなど、長年の働きかけによって、中池見湿地の保全のために「関係者が同じ目標を見ている」状況が実現できたことは、もうひとつの大きな成果です。

中池見湿地のトンネル工事もまだ半分。隣の新北陸トンネルでは、井戸などで水枯れが生じるなど影響も出ているため、今後も地元団体と協力して工事を監視しモニタリング調査に取り組んでいきます。また、大事な自然を守る工事の際には環境管理計画を策定することをスタンダードにするよう、取り組んでいきます。今春から北陸新幹線(敦賀~大阪間)の環境影響評価の調査も始まり、大型工事は続きます。引き続きご支援いただきますよう、よろしくお願いします。

下記ウェブサイトで、中池見湿地の環境管理計画、水環境の結果およびフォローアップ委員会の資料、敦賀~大阪間の環境影響評価方法書等が公表されています。ぜひご覧ください。

鉄道運輸機構(JRTT)北陸新幹線
https://www.jrtt.go.jp/project/hokuriku.html

市民活動推進部 福田真由子

遠方から深山トンネルを撮影した写真▲敦賀駅側から見た深山トンネル

トンネル入り口の写真▲トンネル入口

第6回水平ボーリングと書かれた札のかかったパイプから水が流れている写真▲先進ボーリングからの湧水

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