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2020.03.09(2020.07.22 更新)

【結果レポート】第9回自然観察指導員全国大会・2020大阪「あなたがつくるこれからの“新しい自然観察会”~自然体験活動のトランスフォーマティブ・チェンジ~」

イベント報告

専門度:専門度3

テーマ:人材育成

10年ぶりとなる第9回目の自然観察指導員全国大会を、2020年1月25日~26日にかけて大阪にて開催しました。

今回の全国大会は、指導員活動がこれからの時代にさらに価値を発揮するようにと作成した『自然観察指導員養成計画2030』が目指すものを共有し、共感をもって共に取り組んでいただける仲間を増やすことを目的に開催しました。

大会には、2日間あわせてのべ200名以上の方にご参加いただき、大盛況のうちに幕を閉じました。当日お越しいただけなかった方にも本大会の様子を知っていただけるよう、大会の概要を以下にご紹介します。


プログラム概要

当日のしおり(PDF/2.8MB)

大会1日目:2020年1月25日(会場:大阪市立自然史博物館)

  • 開会挨拶:亀山章(日本自然保護協会理事長)
  • 第1部:シンポジウム
  • 第2部:分科会「多様なアイデアで社会に自然体験をあふれさせよう」
    分科会1:
    無関心だった人もファンになる自然体験のチャンスを世の中にあふれさせよう
    分科会2:
    あつまれ!ユース!若ものがひらく新しい地域活動
    分科会3:
    すべての子どもに自然体験をとどけるには
    分科会4:
    次の時代のパークマネジメントと自然保護
    分科会5:
    「個の多様性」を自然保護教育に活かせるネットワーク組織とは

大会2日目:1月26日(会場:長居ユースホステル)

第一部:シンポジウム

理事長亀山章の挨拶に続くシンポジウムでは、まず日本自然保護協会から今後私たちが直面する社会状況の変化についての共有があり、そのような社会における自然体験活動推進のヒントとなるような事例についての講演が3つ行われました。最後に、日本自然保護協会の自然観察指導員養成計画のビジョン(下記参照)および目標・計画案が共有されました。

自然観察指導員養成事業 2030ビジョン

  1. 過去には自然観察会と結びついてなかったシーンでも自然のしくみや魅力にきづける機会が社会に溢れており、境遇や自然への感心の高さにかかわらず多様な人が参加している。
  2. 自然観察指導員によって豊かな自然がまもられ、自然と関わりの少なかった人でも何度でも行きたくなる、自然の恵みを実感できる魅力的な場所がある。
  3. 自然観察指導員は、自然観察や自然保護活動、日常の仕事や生活を通して社会的に影響力がある存在で本質的にかっこいい、信頼感がある、というイメージが世代をこえて社会に定着している。

シンポジウムの風景

No. 講演タイトル及び演者 資料

2030年の社会変化に自然保護教育はどう向き合うの?

(高川晋一:日本自然保護協会)

発表資料

『だれ一人とりのこさない』を目指した自然観察会

(佐野由輝:自然観察ちば、イクメンクラブ、NACS-J自然観察指導員講習会講師)

発表資料

『カレーライスを本当に手作りするプロジェクト』による自然の恵み実感の場づくり

(水元勇:大阪自然環境保全協会)

発表資料

様々な機会に自然観察を活かすことの大切さとその心得

(一寸木肇:大井町教育委員会おおい自然園、NACS-J自然観察指導員講習会講師)

発表資料

日本自然保護協会の次の10年の自然観察指導員養成について

(高川晋一)
自然観察指導員養成計画2030のビジョンと目標

発表資料

『生きている』実感を与えられる自然観察指導員へ

(秋山幸也:相模原市立博物館、NACS-J自然観察指導員講習会講師)

講演要旨

第二部:分科会 「多様なアイデアで社会に自然体験をあふれさせよう」

分科会では、指導員養成計画2030のビジョンとも関連が深い、5つのテーマに分かれて先進的な事例報告の共有と議論を行いました。

※すべての発表資料が無断転載・引用禁止です。

テーマ1

無関心だった人もファンになる自然体験のチャンスを世の中にあふれさせよう

話題提供者 高橋恵子(自然観察会熊本県連絡会、有限会社せせらぎ)
誰のためのなんのための自然観察?
増田由香子(婚活de八ヶ岳推進委員会)
婚活x自然体験〜新しい価値観や体験の入り口として〜
結果概要 熊本の高橋さんからは、介護福祉施設で実施している自然観察会活動についてご紹介いただき、介護の現場で今、自然観察がもたらす癒しや発見、笑顔が求められているという話題提供をいただきました。「皆さんが自身が将来施設に入った時に幸せに過ごせるかどうかもこれからの指導員活動にかかっていますよ」というメッセージを頂きました。
山梨の増田さんからは、地域の課題解決の鍵ともなっている婚活について、自然体験活動と組み合わせた様々な婚活プログラムを紹介いただきました。トレッキングde婚活や、トレイル修復de婚活といった斬新な活動紹介があり、観察・体験・作業もすべて婚活にできる、「婚活にオフシーズンはない」といったセリフが印象的でした。「自然観察指導員は地域と保全を近づける、橋渡しの意識を」という言葉でまとめられました。
最後は参加者全員で、新たな自然体験・自然観察会のアイデアについて話し合いました。地域清掃×自然観察、落語×自然観察、社員旅行×自然観察など、100以上のアイデアが共有されました。
テーマ2

あつまれ!ユース!若ものがひらく新しい地域活動

話題提供者 矢動丸 琴子(国際自然保護連合日本委員会、Change Our Next Decade)
あつまれ!ユース!若ものがひらく新しい地域活動
内山義政(静岡県自然観察指導員会)
宮坂里穂(川に学ぶ体験活動協議会)
結果概要 自然体験や自然保護の現場で活躍する3名の方から、これまでどのように悩み、実績を積み上げられてきたか、それぞれの特徴的な活動事例を紹介いただきました。
地域に愛着をどう育むか、自然保護を自分ゴト化できるか?といった悩みが参加者間で共有されました。
テーマ3

すべての子どもに自然体験をとどけるには

話題提供者 橋詰純子(カワセミ自然の会、みなくち子どもの森自然館)
藤井徳子(富山森のこども園、富山福祉短期大学)
すべての子どもに自然体験をとどけるには
結果概要 分科会では、未就学児を対象にした自然観察会を長年富山県と滋賀県でそれぞれ実施されている藤井さんと橋詰さんから事例紹介を頂いたのち、すべての子どもに自然体験をとどけるための「仕組み作り」と「プログラム」のチームに分かれて話し合いました。「仕組み作り」では、行政の子ども支援部署や子ども食堂などと共同で実施し情報発信する、助成金を活用し参加費の低減や企画者の資金確保につなげることが重要といったことが話し合われました。また、「プログラム」では、自然体験が未熟な子どもたちのために道具をつかったりゲームをしたりして徐々に近づけるようにする、見せる観察会ではなく発見する喜びを感じる観察会とする、といったことが話し合われました。
テーマ4

次の時代のパークマネジメントと自然保護

話題提供者 小林 健人(フュージョン長池)
地域が主役の公園経営〜持続可能な地域づくりを目指して〜
磯上 慶子(自然観察指導員大阪連絡会)
結果概要 理想の「人と自然との触れ合いの場」としての公園の姿について話し合いました。話題提供者の小林さんからは、地域が主役となって多様な人が関わる公園づくりについて紹介があり、自然に興味がない人が多い現状において公園が興味を持たせる入り口として重要であることを確かめあいました。一方で、行政からの委託管理費も年々減少しており「公園経営」という視点や、公園経営の4資源である「ヒト・モノ・カネ・情報」が多様なものから成り立つことが持続的で豊かな公園づくりにつながるというお話をいただきました。つづいて磯上さんからは、大阪の都市公園の実情について共有いただきました。公園の管理方針に「持続可能な利用」という視点がないと公園の自然は劣化してしまうこと、地域コミュニティにとっても公園のあり方は重要であり、市民と行政が連携した管理が大事であることなどが話されました。最後に参加者で2グループに分かれて話しあいました。その結果、
・経済的価値だけではない生物多様性も含めた公園の様々な価値があることを行政に市民の声として届ける、そのために行政手続きも活用する、公園管理者などと一緒に自然観察をする、市民調査などで自身が根拠をもつ。
・公園の利便性と自然保護どちらかに偏るのではなく、様々な利用者の声を聴いてもらう、自然保護の観点からの園内でのゾーニングをするといった意見がまとまりました。
テーマ5

「個の多様性」を自然保護教育に活かせるネットワーク組織とは

話題提供者 好浦 和弘(NACS-J自然観察指導員兵庫連絡会)
水元 勇(大阪自然環境保全協会)
結果概要 理自然保護・自然観察を長年にわたり地域でけん引してきた歴史ある団体に所属するお二人から話題提供をいただきました。いずれも長年の活動ゆえの停滞期をへて、新しい企画を生み出したり新しい団体の形をつくって再スタートした団体です。組織は一度作ったら終わりではなくその時のメンバーで少しずつ作り変えていく必要がある、事務局がリーダーであることをやめて自発的に楽しくやることを大切にしている、というお話をいただきました。また好浦さんからは三つのC,「Color=個性」を「Connect=つながる」ようにするには「Cast=起用」することが重要というコンセプトが紹介され、水元さんからは、事務局の役割はいろんな個性や得意の役割をみつけたり声かけ役をすることだという紹介もありました。若手参加者からも「初めて参加したとき、フォローがあったから次の回につながった」という声もあがりました。
次に「個性を活かす」ために何が大切かを話し合いました。自然とともに人間の多様性も認め合うことが大切、各自の得意分野を活かして「はみ出よう!」、「アクションはメッセージ」なので言ってみるやってみることが大事、自然観察をもっと広く世の中の人に広げたい、という発言がありました。それに触発され「イノシシでナンパ」「まちガイドでお墓も観察」「落語で観察」「都市の中で観察」「虫博士を集めてマニアック観察会」「茶筅の竹林管理」などなど、個性的な企画案も出されました。
組織の新陳代謝は雑木林の萌芽更新のようなもの、新しい芽が出られる土壌ができていることが大事で、ネットワークとはそんな役割なのではないか。「やってみなはれ!!」と言ってくれる場や人がいることで新しい企画・個性的な企画が育っていくのでは、という言葉でまとまりました。「指導員連絡会って、いまの時代ならいろんな形がありえるから、ゆるやかなネットワークを再スタートさせてみようかと思う。」と、帰り際に声をかけてくださった方がいたこともうれしい出来事でした。

第三部:ワークショップ「新しい自然観察会活動のアクションプランを作ろう」&指導員パーティー

大会の2日目は、前日に公表した指導員養成計画の2030ビジョンをかなえるためのアクションプランを、参加した自然観察指導員の皆で検討しました。参加いただいた方の中から有志の方に「やってみたいアクションプラン」のテーマを提案いただき、10チームに分かれてプランを練りました。
また、アクションプラン作りを大いに盛り上げるために、「指導員あるある大喜利」の表彰を行うとともに、出来上がったアクションプランの内容を寸劇で表現していただきました。

参加した自然観察指導員の皆様からは、以下のアクションプランが提案されました。

  • プラン1「街なかでまるごといのちのつながり博物館」

    ショッピングモール・スーパーから始まる自然観察会。食材の(生き物としての)由来や生産地のストーリーを伝えられるコンシェルジュを育成し各施設に配置する。施設経営企業とも連携し、商品の由来の解説展示や生産地を訪ねるツアーも実施。

  • プラン2「『変形菌』を切り口にした誰一人とりのこさない自然体験」

    宝探し的な楽しさがある変形菌観察を切り口にし、高齢者・障がい者・LGBT・文化の違いのある人など多様な人と共に「インクルーシブ」な自然観察会を行う。変形菌の役割を伝え、自然の大切さ、生物界のインクルーシブを実感してもらう。

  • プラン3「里山における循環型オープンコミュニティ“心のふるさと”を全国展開」

    京都の指導員さんのご自宅の山が既に自然体験や交流の場になっている。土地を持て余した全国の地権者と、自治体・企業・学校とをマッチングし、このような“心のふるさと”的な団体・拠点をネットワーク化する。その役割を担える指導員養成の研修会を京都で開催。

  • プラン4「公園でガチのひみつきちづくり」

    親子・10代の自然体験の少なさと、利活用がされない公園の双方の課題を解決。自然体験の頼れる師匠たちを指導員が集め、子供たちと共に秘密基地づくりを通じて自然体験を進める。このための場を公園管理者に提供いただけるよう、指導員が公園探しやルール作り・リスクマネジメントを行う。NACS-Jが師匠ネットワークを作る。

  • プラン5「秘密基地作りをつうじた国づくり」

    土地の管理がしきれない地権者に働きかけ、土地の管理もしながら子供が秘密基地を作れる場を全国に広げる。秘密基地作りは子供たちの楽しみであり夢であり、夢が叶う小さな場が全国に広がれば国全体も変わる。

  • プラン6「地域資源を活かして現実世界にふれる」

    それぞれの地域において、地形や生き物、文化、趣味のつながりを実感してもらえるツアーを指導員が実施する。それによってツアー参加者が自分の土地に帰ったときに地域の資源に気付いてもらう。

  • プラン7「全国の連絡会事務局のネットワーク化」

    全国各県の自然観察指導員の事務局担当者が悩みや課題を抱えている中、「事務局こそおいしくて楽しいんだ!」とうらやましがってもらえるような「全国事務局会議」を2020年度から毎年開催する。第1回会議の執行部も決め、NACS-Jも全面協力する。

  • プラン8「自然観察の間口を広げ敷居を低くする「フィールドセラピスト」をめざす」

    家の庭や公園、駅前、食卓など身近なところから「家族みんなで」参加してもらえる自然観察会をつくる。自然観察会の固まったイメージを変えるために「フィールドセラピー」と称して内容も工夫し、間口を広げる。

  • プラン9「福祉の現場が自然の力にめざめる」

    福祉の現場の専門職と利用者が共に自然観察会を行うことを目指す。専門職の方が自然と接し「心が動く」ことが大切であり、指導員とともに自然体験を行う。リスクマネジメントも含めたガイドラインを作る。

  • プラン10「堀の中の講習会」

    今まで行ったことのないようなフィールド、対象者の指導員講習会を実施する。入院患者、高校生、引きこもりの方、受刑者など。

大会のその後

大会後も、参加者同士の交流が続いているほか、各自による地元団体やSNS上での参加報告をいただいています。またいくつかのアクションプランはその実現にむけて参加者同士のやりとりも続いています。NACS-Jも引き続き「指導員養成計画2030」のビジョン及び11年間の計画を全国の皆様と共有すべく発信・全国行脚を続けるとともに、全国大会で発案されたアクションを含め、指導員の皆さまが進める新たな取り組みの支援に力を注いでいきます。

2日目の集合写真

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