日本自然保護協会は、生物多様性を守る自然保護NGOです。

  • 文字サイズ

IUCN-J

Home 主な活動 IUCN-J 【2017年9月更新】IUCNレッドリスト更新 トネリコやアンテロープが絶滅の危機に直面

IUCN-J 一覧へ戻る

2017.09.14(2017.09.28 更新)

【2017年9月更新】IUCNレッドリスト更新 トネリコやアンテロープが絶滅の危機に直面

解説

▲ジャイアントイランド (Tragelaphus derbianus)/(c)Brent Huffman / UltimateUngulate

テーマ:絶滅危惧種

INTERNATIONAL PRESS RELEASE

■問い合わせ先:
Ewa Magiera, IUCN Media Relations, m +41 76 505 33 78, e-mail ewa.magiera@iucn.org

■統計データの要約ダウンロードはこちら
■写真のダウンロードはこちら

 


かつて広く分布していたトネリコやアンテロープが絶滅の危機に直面

-IUCNレッドリスト-

 

スイス、グラン、2017年9月14日ー北アメリカに広く分布し、脆弱な植物とされていたトネリコが外来甲虫による影響で絶滅の危機に瀕しており、一方、原生的環境の損失や捕獲によってアフリカのアンテロープ5種が絶滅の危機に数を大きく減らしていることがIUCNレッドリストの最新の更新で明らかになった。

今回のIUCNレッドリストの発表で、マダガスカルのバッタやヤスデが劇的に数を減らしたことや、クリスマス諸島に生息するアブラコウモリの仲間(Christmas Island Pipistrelle bat)が絶滅したこともわかった。IUCNレッドリストには現在87,967種の評価結果が掲載され、そのうち25,062種が絶滅の危機にある。

「人間の行動が多くの生き物を危機に追いやっており、あまりのその早さから、自然保護関係者が現実の時間の中で減少の様子を評価することを不可能にしています」とインガーアンダーセンIUCN事務局長は語る。アフリカのアンテロープやアメリカのトネリコなど、広く分布し安全であると思っていた種でさえ切迫した絶滅の危機に直面している。

自然保護活動が機能するとはいえ、私たちが生き延び、発展し依存する森林やサバンナ他のバイオームを保全することに対して十分な資金提供はなされていない。私たちの地球は、レッドリストデータを活用しつつ、種の存続や私たちの持続可能な未来のために、緊急の地球規模の行動を必要としている。

 

崖っぷちに立つ北アメリカのトネリコ

北アメリカで有名なトネリコ属6種のうち5種がIUCNレッドリストに、絶滅危惧IA類(CR)、絶滅に至る一つ手前、として登録され、6番目は絶滅危惧ⅠB類(EN)と分類された。これらの種は外来のタマムシの一種アオナガタマムシ(Agrilus planipennis)によって大量に枯死させられている。トネリコ属3種、ビロードトネリコGreen Ash (Fraxinus pennsylvanica), ホワイトトネリコWhite Ash (Fraxinus americana)、 二グラトネリコBlack Ash (Fraxinus nigra)は、アメリカ大陸の森林に90億本もあるとされていた、アメリカにもっとも分布する樹木であった。豊富にあったホワイトトネリコは価値ある材木の一つとされ、家具、野球のバット、ホッケーのスティック、テニスラケットなどの材料とされていた。


▲ホワイトトネリコ White Ash(Fraxinus americana)/(c)The Morton Arboretum

 

トネリコは、アメリカ北部の森林の重要な構成要素である。トネリコは、鳥やリス、昆虫などの生息地や食べ物を提供し、蝶や蛾などの重要な花粉媒介生物を支えるものだ。

この調査を牽引したIUCN世界植物専門家グループのMurphy Westwood氏は「トネリコはアメリカの植物群落に欠かせない生物で、広く分布し、庭や街路樹として何百万本も植えられています」と語る。「その減少(約80%近くのトネリコが影響を受けるともされている)は、自然や都市近郊の森の構成を劇的に変えようとしています。トネリコは、生態学的かつ経済的に重要であることや、枯死したトネリコを除去するのにかかる高いコストから、急速に進む減少をとめるため多くの研究が多様なセクターによってなされています。これらの研究が種の存続に希望をもたらしています」

アオナガタマムシは、船のパレットに付着する形で、1990年代の後半にアジアからミシガン州に持ち込まれ急速に広がった。すでにアメリカとカナダで何千万ものトネリコを枯死させている。このままのペースで広がった場合には、6年間のうちに8億本ものトネリコと森全体を枯死させる可能性がある。 気候が温暖になることで、タマムシにとって寒すぎた地域が、より快適な環境になりつつあり、将来どれだけ広がるかを把握することができなくなっている。

 

アンテロープ5種が減少

多くのアンテロープの状況に変化はなかったが、アフリカのアンテロープ5種(うち4種はこれまで軽度懸念(LC)とされていた)が、捕獲、生息地の劣化、家畜との競合により劇的に数を減らしている。この減少は、人口増に基づく、生息地や資源の減少ともあわせて、アフリカの大型哺乳類の減少を進める結果を引き起こす。

「人口増や農業のための開墾や非持続可能な野生鳥獣の狩猟、資源の掘削や道路建設などよってアンテロープは減少し続けています」とIUCNアンテロープ専門家グループの共同議長David Mallonは語る。「この危険な傾向を反転させるためには、持続可能な経済発展の一環としての生物多様性保全に高い優先度を与える必要がある。既存の野生鳥獣保護法はもっと効果的に執行されなければならない」

世界で最も大きいアンテロープであるジャイアントイランド (Tragelaphus derbianus) は、これまで軽度懸念(LC)とされていたが、今回絶滅危惧II類(VU)と分類された。個体数は12,000頭、多くとも14,000頭とされ、成熟個体は10,000頭と推計されている。狩猟による捕獲や保護地域への侵入、農地や牧草地の拡大によりこの種は減少している。政治的な不安定さや中央アフリカにおける武力衝突もこの種を守ることの障害となっている。

今まで軽度懸念(LC)と分類されてきたマウンテンリードバック (Redunca fulvorufula)は、過去15年の間に南アフリカの個体数が55%近く減少していることがわかった。この減少は残りの個体群でも同様と見られることから、絶滅危惧IB類(EN)と分類された。狩猟や狩猟犬をつかったスポーツハンティングが人間の定住地域が広がったこともあり拡大したことが、主な減少の理由と考えられている。その他の危機としては、牧畜や気候変動に関連して頻発する傾向にある渇水などがある。この種が減少していることをしっかりと定量化するためには、特に保護地域の外側でのモニタリングのデータが必要とされている。


▲マウンテンリードバック Mountain Reedbuck (Redunca fulvorufula)/(c)David Mallon

 

ヒューグリンガゼル (Eudorcas tilonura) は家畜との競合や生息地の劣化で絶滅危惧IB類(EN)、リーチュエ (Kobus leche)は、狩猟、農地の拡大、家畜による草原の劣化、渇水などで準絶滅危惧(NT)、リーボック(Pelea capreolus) (スポーツブランドのリーボックの起源となった動物)も準絶滅危惧(NT)など、他の種も危機的状況にある。この種の減少理由については十分にわかっていないが、狩猟犬による違法なスポーツハンティングや、狩猟の拡大が原因に含まれるだろう。

 

マダガスカルのバッタやヤスデが絶滅の危機に

無脊椎動物の多くの保全状況はいまだわかっていないが、最近の評価では、マダガスカルの無脊椎動物については森林伐採の影響をうけていることがわかりつつある。マダガスカルに固有のヒシバッタ全71種のうち、40%が絶滅の危機にあることがわかった。ルンペルシュティルツヒェンピグミーグラスポッパー(Agkistropleuron simplex)を含むうち7種は絶滅危惧IA類(CR)である。この飛べない種は、マダガスカル東部のマナカンバヒニ森林で唯一見られる。最新の記録は1995年まで止まっている。森林生息地の損失による減少である。

マダガスカルに固有の145種のヤスデの40%以上が絶滅の危機にあり、うち27種が絶滅危惧IA類(CR)であることがわかった。沿岸熱帯雨林のとても特殊な砂地の土壌が必要なShiny Giant Pill Millipede (Sphaeromimus splendidus)などが含まれる。サンタルースの熱帯雨林にしか見られない生息地は、森林伐採や放牧によって劣化しつつある。残された生息地のほとんどを破壊する土壌を剥ぎ取る鉱山開発計画があり、種の存続に重大な影響を提示している。


▲Shiny Giant Pill-Millipede(Sphaeromimus splendidus)/(c)Wesener & Schütte 2007

 

新たなユキヒョウのデータ

新しいデータのおかげで、ユキヒョウは絶滅危惧IB類(EN)から、絶滅危惧II類(VU)に分類された。しかし、生息地の損失、捕食者の減少、家畜との競合、迫害、違法野生動物取引のための捕獲などを通じて、個体数は依然減少しており、高い絶滅リスクを抱えている。
狩猟禁止活動、家畜との衝突の減少、普及啓発活動含む、この種の保全活動への大きな投資によりユキヒョウの状況は改善した。この活動を継続し、拡大することが、この象徴的なネコの減少を反転させるために欠かせない

 

クリスマス諸島のアブラコウモリの絶滅

今回のアップデートで、オーストラリアのクリスマス諸島のアブラコウモリの仲間 Christmas Island Pipistrelle (Pipistrellus murrayi)の絶滅が宣言された。1980年には広く分布していたが、2009年1月には4頭~9頭の間と急速に減少した。2009年8月には1頭の生存が確認されていたが、以降見つけられなかった。綿密な調査にもかかわらず、それ以降この生物の生息を追跡できるものはない。減少の理由がわかっていないが、外来種による捕食やアシナガキアリの導入などが組み合わさって減少したか、不明な病気の可能性もある。


▲Christmas Island Pipistrelle(Pipistrellus murrayi)/(c)Lindy Lumsden

 

 

この記事のタグ

IUCN-J 一覧へ戻る

あなたの支援が必要です!

×

NACS-J(ナックスジェイ・日本自然保護協会)は、寄付に基づく支援により活動している団体です。

継続寄付

寄付をする
(今回のみ支援)

月々1000円のご支援で、自然保護に関する普及啓発を広げることができます。

寄付する