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モニタリングサイト1000里地調査

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2018.11.19(2018.11.20 更新)

愛知県名古屋市
2018年11月4日

<後編>モニ1000里地調査 全国交流会2018@愛知を開催しました!

関連イベント

専門度:専門度3

モニ1000里地調査 全国交流会2018 ヘッダー画像

こんにちは、自然保護部の後藤ななです。

引き続き※、2018年11月4日、名古屋大学で開催したモニ1000里地調査全国交流会2018の様子をご報告します。

※長文となったため、いくつかの記事に分割しています。前編インターン生の報告(特に分科会の様子)の様子も併せてご覧ください。

午後の部はじめには、全国各地の調査サイトの方から、日頃の調査の様子や里山保全に向けた想いなどをご発表いただきました。

里地調査では、全国の里山を対象に調査を行っています。「里山」と一言で表しても、全国には、例えば私有地の場所、県や市などの公園に指定された場所、企業が所有する場所など、それぞれに全く状況が異なっています。

今回は、全国のサイトから、多くの私有地が集まったコアサイト「宍塚の里山」、愛知県とともに調査をしているコアサイト「海上の森」、そして企業所有地である一般サイト「トヨタの森」の事例を各調査員の皆さまにご発表いただきました。

 

コアサイト「宍塚の里山」

まずはコアサイト「宍塚の里山」の調査員、認定NPO法人宍塚の自然と歴史の会の及川ひろみさんから「私有地である里山の保全」と題してご発表いただきました。

宍塚は、茨城県土浦市に位置し、100以上もの私有地が集まった場所です。宍塚の自然と歴史の会は、全国でも里山保全運動の先駆けともなった団体で、現在も幅広い活動を展開されています。モニ1000里地調査の礎ともなったNACS-Jの「市民調査」の手法も一緒に作り上げてきた団体でもあります。

及川さんからは、私有地を占める里山で保全を実現するために不可欠となる地元の方々の理解をいかに得るかについて、掘り下げて発表していただきました。及川さんたちは、活動当初から、地域を深く知るために、一軒一軒を訪ねて里山の暮らしを聞く「聞き書き」を行っており、そうして知った地域の暮らしのあり方に学びながら、宍塚での活動を展開してきました。里山の管理でも、例えば、落ち葉掻きの仕方も地域の方に教わり、今もその手法で地域の子供たちと一緒に行っているのだそうです。自ら地元を積極的に知り、知る過程のなかで地元の方々も巻き込んでいくこと、また次世代に里山を守り残していけるように、子供たちの学びの場にするなど、多様な方々とその価値を分かち合っていくことの大切さをお伝えいただきました。

 

認定NPO法人宍塚の自然と歴史の会 及川ひろみさん(写真)▲認定NPO法人宍塚の自然と歴史の会 及川ひろみ氏

 

コアサイト「海上の森」

次に、コアサイト「海上の森」の事例について、海上の森モニタリングサイト1000調査の会の曽我部行子さんと、あいち海上の森センターの酒井雅章さんにご発表いただきました。

海上の森は、1990年代初頭、愛知万博の会場候補地として様々な開発計画が発表された場所でした。しかし、地域の市民の方々の熱心な交渉とともに、海上の森の自然環境の重要性が認知され開発計画は変更されることとなりました。

開発から免れ自然環境が残ることとなったのですが、そこで永久的に自然が保たれていくわけではありません。発表のなかで曽我部さんから「万博終了後、最も大きな成果となったのが『あいち海上の森条例』の存在だった」という言葉がありました。この条例をもとに、県が海上の森のほぼ全域を管理することとなり、県の保護地域の指定がなされました。

2008年からは、里地調査のコアサイトとなって、地域の自然観察指導員が中心となった調査の会と、地元の方々がつくる山口ホタルの会、そして県(あいち海上の森センター)が一緒になり調査を行っています。調査の結果は、他の様々な調査とともに「海上の森保全活用計画」への反映、そして、その計画に従った森林の保育・保全活動につながっています。また行政へのシカ類の分布状況等への情報提供などに活用されているそうです。学校教育や大学での研究のフィールドとしてなど、多様な人が関わって活用が行われています。

 

海上の森モニタリングサイト1000調査の会 曽我部行子さん(写真)▲海上の森モニタリングサイト1000調査の会 曽我部行子氏

 

一般サイト「トヨタの森」

活動発表の最後は、トヨタの森の川田奈穂子さんにご発表いただきました。トヨタの森は、名前のとおり、トヨタ自動車株式会社の社有林であり、環境教育施設として1997年に開設した場所です。

川田さんからは、トヨタの森の活動の3本柱にそって「調査」「整備」、そして「環境教育」について発表いただきました。モニ1000里地調査には、第2期(2008年度~)から参加されており、植物相や鳥類、哺乳類など6項目(現在は5項目)の調査を実施されてきました。調査結果は、例えば環境教育の面で、イベントの企画を立てるときにいつどんな生き物が見られるのかといった情報として活用されています。イベント当日には調査で得られた最新情報をお伝えするという場面もあるそうです。整備の面でも、湿地の草刈りに際して、守りたい植物の花芽が伸び始める前に刈るように時期を調整したり、その草刈りの影響があったかどうかを整備実施後のモニタリングとしても注目されているそうです。

川田さんは、発表の最後に、サイトの周辺が河川と道路によって周辺の緑地と分断されたこと、そして、世界的に進行しているといわれる気候変動や昨今の異常気象が、孤立した環境でトヨタの森に棲む生き物たちに影響がないかについて振れて、周囲も含めて地球規模での環境保全に目を向けることが重要だというメッセージを伝えていただきました。

 

トヨタの森 川田奈穂子さん (写真)▲トヨタの森 川田奈穂子氏

 

事例発表のあと(分科会とまとめ)

交流会では、これらの発表を受けて、その後、「里山調査と地域の人をつなげる」「行政とともに里山保全を実現する」「調査結果を里山保全に活かすには?」という3つのテーマに分かれて分科会を行いました。分科会の詳細な様子は、インターン生・佐藤さんのご報告をご覧ください。

どの分科会も活発な議論がなされ、100分間あった時間もあっという間に過ぎてしまいました。そして、交流会の最後には、再びシンポジウム会場に戻り、各分科会の概要を全体で共有をしました。

 

分科会で議論する参加者(写真)▲分科会で活発な議論をする参加者さん

 

おわりに

交流会一日を通じて、全国各地から集まった参加者の皆さんが、お互いの活動を深く知る時間となりました。そして、それぞれで抱えている活動の課題も、サイトそれぞれに様々な条件も異なるなか、特効薬とはならなくても今後の活動に活かせるかもしれないヒントを共有し、そして全国各地に志を共有できる仲間がいることを確かめ合う場となりました。

準備から様々ご協力をいただきました夏原先生をはじめとした名古屋大学の皆さま、そして、全国からお集まりいただいた調査員・関係者の皆さま、誠にありがとうございました!

これからも、モニタリングサイト1000里地調査とNACS-Jの市民調査活動をよろしくお願いいたします。

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