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2019.11.12(2019.11.18 更新)

モニタリングサイト1000里地調査2005-2017年度 とりまとめのご報告

素材提供協力:小林健人氏(ヒヨドリ)、野田晃弘氏(ノウサギ)

11月12日(火)に開催の「モニタリングサイト1000第3期とりまとめ報告書概要版の公表」の内容につきまして、日本自然保護協会が事務局を務める里地里山分野の以下詳細をリリースいたします。

20191112_PressRelease_モニタリングサイト1000里地調査2005-2017年度 とりまとめ報告書について(650KB)

 

モニタリングサイト1000里地調査2005-2017年度 とりまとめ報告書

日本の里山のチョウやホタルが急減

世界の傾向と同様に

深まる「普通種」の危機

日本自然保護協会が事務局を務める、全国の里山市民調査「重要生態系監視地域モニタリング推進事業(里地調査)(環境省事業。以下「モニタリングサイト1000里地調査」という。)」で、2005~2017年度の全国の約200か所の調査地から得られたデータを解析した結果、日本の里山において、チョウやホタルなど身近な生物種の多くが減少傾向にあることが示された。

減少傾向が示された種にはチョウ類やホタル類などの昆虫類のほか、ハシブトガラス、ヒヨドリ、ツバメなどの鳥類、ノウサギやテンといった哺乳類など、ごく普通にみられていた身近な生物種の多くが含まれている。

特に、チョウ類では、評価対象種(87種)のうち約4割(34種)が、調査対象とした地域で絶滅危惧種の判定基準のひとつである減少率(10年あたり30%減少)に相当するほど急速に減少している可能性が示唆された。

この中には、オオムラサキ、ミヤマカラスアゲハ(絶滅危惧ⅠA類の減少率基準に相当)、アカタテハ・ゴマダラチョウ(絶滅危惧ⅠB類の減少率基準に相当)、ジャノメチョウ・イチモンジチョウ(絶滅危惧Ⅱ類の減少率基準に相当)などが含まれるが、これらの多くは最新の環境省レッドリストには掲載されていない「普通種」であった。これらの種の多くは里山を主な生息地とするため、このままの減少が続くと将来的に絶滅危惧種と判定される可能性がある。

日本の里地里山は国土の約4割を占める重要な生態系であるが、私有地が多いため、全国規模の調査を実施しその全容を把握することは困難であった(環境省,2009)。本調査では、各地域の市民調査員が主体となって調査を行うことによって、全国約200箇所の里地里山の観測ネットワークを構築し、全国の里山生態系の現状を明らかにすることができた。

これらの結果は、2019年11月12日発行の「2005-2017年度とりまとめ報告書(以下、とりまとめ報告書)」に盛り込まれる。

 

世界の傾向とも一致

2018年10月に発表されたWWFのLiving Planet Report 2018では「過去40年間で野生生物の個体数が60 %減少」と報告され、今年5月には国際機関IPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム)によって「100万種が絶滅の危機」という衝撃的なメッセージが発表された(WWF, 2018; IPBES, 2019)。

さらに今年1月、オーストラリア・シドニー大学などの研究グループは、専門誌「Biological Conservation」にチョウや甲虫など世界の昆虫種の40 %が急減しているとの調査結果を発表している(Sanchez and Wyckhuys, 2019)*。今回の調査によって、これらの世界的な傾向から、日本も例外ではないと言えることが明らかになった。

*ただし、本論文については文献の検索方法等に反証論文なども出ています。

 

里山の環境変化が一因?

一方、全国の調査地に対して実施したアンケート調査の結果から、「管理放棄された里山」が大半を占めることがわかり、特に二次林(回答のあった調査地のうち9割。以下同じ)、人工林・溜池・水田(7割)での放棄が顕著であった。里地調査の調査地は、里山の管理・利用が停止し植生遷移が進んだり、開発による分断化が進んだりするなど、里山の環境変化が進行していた。こうした里山の環境変化が、上述した「里山の普通種の減少」と関係している可能性がある。

 

外来種・大型哺乳類が分布拡大

加えて、里山生態系に影響を与えるアライグマ・ガビチョウなどの外来種や、近年個体数の増加により生態系への影響が懸念されている大型哺乳類のイノシシ・ニホンジカは記録個体数の増加や分布拡大が確認された。調査地において、アライグマの侵入後に在来種のアカガエル類の産卵数が減少し、捕獲罠設置後に回復した事例もあったことから、今後も在来生態系への影響を把握していく必要がある。

 

進む市民の保全活動

また、全国の調査地では、市民によるデータ活用と里山保全活動が活発に行われ、そうした活動事例数は年々増加していることが明らかとなった。回答のあった調査地の約4割の調査地で、ボランティアによる水田・二次林・草原などの管理が行われていた他、調査活動以外の保全活動や普及教育活動など、モニタリングだけではない多様な活動が実施されていた。実際に、市民による水田や湿地の保全再生活動によって、水田を利用するアカガエル類の個体数の回復が確認できた調査地もあった。このような市民による自主的な保全活動が、それぞれの調査地の生物多様性の保全に貢献することが示唆された。

 

今後の課題と提言

身近な生物多様性の急速な減少傾向を食い止めるためには、その原因を明らかにするとともに、種の地域絶滅のような不可逆性の高い変化を未然に防ぐための取組みがさらに求められる。そのためには、従来のようなボランティアによる里山の保全活動に加えて、里山環境の持続可能な利活用等の新たな取組みも含め、市民や行政、NGOなどのあらゆる関係者が連携し、里山保全の取組みをさらに強化していくことが強く望まれる。

  • 本とりまとめ報告書では、把握が困難とされてきた普通種も含め、里山に生息する様々な生物種の増減傾向等を初めて明らかにした。この調査の意義・可能性は大きく、調査への継続的な投資が今後とも求められる。
  • さらに、地域の市民が主体となることで、市民自らが得た調査データを活用し、調査結果に基づいた里山保全管理活動や地域に根差した普及活動等を展開している。こうした国と地域の市民・NGOが連携した取り組みの重要性が社会的に認知され、継続的なモニタリング体制の構築が求められる。
  • 本調査は長期的なモニタリングを目的とした調査設計のため、今回明らかとなった様々な生物種の増減と、それに影響を及ぼしている要因等の解明は十分とはいえない。効果的な生物多様性の保全のためには、生物種の増減に影響を及ぼす要因や保全対応策の実施状況を把握し、それらの相互的な因果関係を解明していくことが重要である。そのためにも、本調査データをベースとしたさらなる調査研究の拡充が求められる。
  • 本調査の結果は、日本の里山に生息する生物種の状況を知る貴重な知見であり、生物多様性国家戦略2012-2020と日本における愛知目標の達成度評価、気候変動適応計画等の政策評価や、ポスト愛知目標にもとづいて作成される次期生物多様性国家戦略や生物多様性国別報告書において十分に活用されることが重要である。
  • 里地調査の調査地は、保全のための活動が活発に行われている場所であるにも関わらず、様々な生物種の減少がみられるなど、全体として生物多様性の明瞭な改善傾向が見出せていない。また、アンケート調査の結果、管理されていない場所を含む調査地が大半を占めていることや、過去5年間に1/4の調査地で開発行為による生息・生育地の喪失が生じていた。管理放棄等の進行を止め、里山に棲む生物種の生息地を保全していくために、多くの関係者が連携・協力し、現代的な新しい里山環境の持続可能な利活用のあり方を創出することが重要である。
  • 調査地では、モニタリング以外にも、普及教育活動や森林資源の利用など、多様な活動が実施されていたが、それらの活動を支える補助金や助成金を受給している調査地は全体の約1割しか存在しなかった。既存の里地・農地等の環境保全に対する補助金の制度が活用されていない原因を把握し、各地の保全活動を活性化させる社会的仕組みの改善が必要である。
  • 全国の調査地から調査員が集まりポスター発表を行う「全国交流会」を開催します。本件を受けた追加取材等の機会として、ぜひご参加ください。2020年1月12日(日)10:00~16:00 兵庫県立のじぎく会館(兵庫県神戸市)

モニタリングサイト1000里地調査全国交流会2019@兵庫


参考情報

1.モニタリングサイト1000里地調査

  • モニタリングサイト1000(重要生態系監視地域モニタリング推進事業)はわが国を代表する様々な生態系の変化状況を把握し、生物多様性保全施策への活用に資することを目的とした調査で、全国約1,000箇所のモニタリングサイトにおいて、平成15年度から長期継続的に実施している。
  • 里地調査は、里地里山生態系を対象として平成16年度から18箇所で調査を開始。調査は、地元市民団体等の「市民」が主体となり、植物相、鳥類、哺乳類、チョウ類、水環境等の複数の総合的な項目について実施している。
  • 平成20年度からは、調査サイトを拡大して全国規模の調査を開始しており、平成29年度(2017年度)時点では、全国192箇所で調査を実施した。なお、調査の事務局は(公財)日本自然保護協会がつとめている。

2. とりまとめの方法

  • モニタリングサイト1000は5年に1度を節目として、生態系毎にそれまでの調査成果をとりまとめることとしている。里地調査では、平成29年度(2017年度)に調査開始15年目を迎えたことから、3回目のとりまとめを実施した。とりまとめにあたっては、生物多様性国家戦略・愛知目標の達成度評価、および生物多様性条約国別報告書等や、気候変動の影響への適応計画への貢献を目的に、これまでの調査成果や各調査地へのアンケート結果を整理した。

 

IPBES (2019) Global Assessment Report on Biodiversity and Ecosystem Services.
https://www.ipbes.net/global-assessment-report-biodiversity-ecosystem-services (2019-10-28)

環境省(2009)里地里山保全・活用検討会議 平成20年度第3回検討会議資料.
http://www.env.go.jp/nature/satoyama/conf_pu/03/mat02.pdf (2019-10-28)

Sanchez and Wyckhuys (2019) Worldwide decline of the entomofauna: A review of its drivers. Biological Conservation. 232, 8-27.

WWF (2018) LIVING PLANET REPORT 2018: Aiming higher.
https://wwf.panda.org/knowledge_hub/all_publications/living_planet_report_2018/ (2019-10-29)

 


里山の代表的な猛禽類であるサシバの保全に力をいれています

日本自然保護協会は、アジア猛禽類ネットワークとの連携により、年間3~5千羽の密猟が行われていたフィリピン・ルソン島北部で、地元の大学による渡りのモニタリング調査や、市長を中心とした密猟防止キャンペーン“SAGIP SAWI“への支援を行ってきました。

この活動では、日本を代表するサシバの渡りの中継地である沖縄県宮古島市でのサシバ密猟の根絶の事例や、サシバの繁殖地として有名な栃木県市貝町でのサシバの保全による地域づくりの様子を紹介するなど、日本でサシバ保全に取り組む方々と一緒にフィリピンを訪れることによってサシバ密猟撲滅が進んできました。今後、この活動をさらに発展させ、繁殖地・中継地・越冬地で国際的なサシバの保全活動を進めます。

サシバを守る活動

 

絶滅の危機に瀕している蝶の保全活動を行っています

明治時代に国土の10%以上を占めていた草原は、日本人の暮らしや農業環境が変化したため、国土の中で占める割合が1%まで極端に減ってしまいました。そんな草原環境を主に利用してきたチョウが生息場所を追われ、今、まさに絶滅の危機に瀕しています。

そういった絶滅の危機にある生きものは、採取の危機にさらされているため分布情報などを公表することができず、限られた関係者だけで対策を行うことから、必要な保全活動ができない状況にあります。

そこで、私たち日本自然保護協会では、草原を代表するチョウ、オオルリシジミの保全のための食草の保護・栽培や市民参加型モニタリング、ウスイロヒョウモンモドキの保全のためのツアーを実施して、限られた関係者だけでなく地域の方々や一般市民も含めた多くの方々とともに日本の生物多様性を支える「草原環境」を保全して、絶滅の瀬戸際にある生きものを守ります。

オオルリシジミを守る活動

 

里地里山やそこに住む動植物を守る活動にご支援ください!