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2018.04.19(2018.04.19 更新)

リニア中央新幹線ここがおかしいシリーズ② 立地編~この場所って安全??

 


リニア中央新幹線の計画路線は、東京都の品川から神奈川県橋本、山梨県甲府、静岡県大井川源流部、長野県大鹿村、飯田市、岐阜県中津川市などを経て愛知県名古屋に至る長大な鉄道路線です。既知の事実ですがこの計画路線はいくつもの活断層を横切ります。

ところで、活断層という言葉は聞いたことがあるでしょうか。日本列島は複数のプレート(地球表面で卵でいうと殻の部分)の境界に位置しています。そして引っ張られたり押されたりという力を常に受けています。このため、列島を形成する岩の層にはたくさんの割れ目が存在しています。この割れ目が動いてずれる現象を断層活動といいます。そしてずれた衝撃が振動として地表に伝わることが地震です。

さて、活断層ですが、この断層のうち、過去数十万年前以降に繰り返し活動して、今後も活動すると考えられている断層のことをいいます。日本には2千以上の活断層があります。不安をあおる意図はありませんが、このことは現実なのです。そして、リニア中央新幹線の計画路線では、藤野木-愛川構造線、曽根丘陵断層帯、木曽山脈西縁断層帯、伊那谷断層帯、阿寺断層帯、屏風山断層帯、糸魚川-静岡構造線や中央構造線、鶴川断層帯、扇山活断層、伊勢原活断層、赤河活断層などが存在しています。

断層が動いたときに、地盤の変位を止めることは現在の土木技術では不可能で、活断層の活動はトンネル構造物に被害をもたらします。東海道線の丹那トンネルでは、1930年の北伊豆地震時に丹那断層が変位し大きくずれ、建設中であったために掘り直しを行いました。2004年の中越地震では、上越新幹線の魚沼トンネルで数センチ程度ではありましたが活断層が動き、トンネル内の壁が崩落しました。丹那トンネルは建設中であり、魚沼トンネルは新幹線の通過後であったため、幸いに、鉄道利用者に影響を与えることはありませんでした。繰り返しますが、断層が動いた時の地盤の変異を止めることは現在の土木技術では不可能です。ですから、原子力発電所の建設では活断層の直上に施設を作ることが禁止されているのです。

この活断層について建設主体であるJR東海は「活断層はできるだけ避けるよう計画しやむを得ない場合はできるだけ短く通過する」としています。できるだけ直線に近づけたいリニア中央新幹線で、活断層をできるだけ避けるように計画はできないわけですから、結果として「できるだけ短く」という意味不明な対応しかできないという事になります。人命をあずかる公共交通機関として、鉄道走行中に断層帯が活動することは想定範囲内として計画をするべきで、数m規模で動く可能性がある活断層は当然ですが、構造的な弱線等も回避することを原則とするべきだと思います。「そういうことをしていては、日本では鉄道を作ることができない」と、国土交通省の担当者が私に言ったことがありますが、これはこれで短絡的です。

丹那断層が建設中に活動するという経験をした当時の国鉄は、のちに、東海道新幹線を建設する際にこの丹那断層を横切っていいのかという議論をしています。そして、当時の最先端の科学的なエビデンスをもとに、少なくと100年は動かないという判断をして、新丹那トンネルを掘りました。

重要なのは、その時の最新の知見を総動員してリスク評価をすることなのです。今回のリニア中央新幹線計画では、既存の文献資料のみで活断層を評価しています。国民の命を預かる鉄道ですから、横断するすべての活断層を最新の科学で評価しなおしてそのリスクと安全性を国民に提示することが不可欠です。その作業を欠いているリニア中央新幹線計画は安全であるとはいえない、むしろ危険なものと言えます。これで何かが起きた場合に、想定外とは言えないと考えます。

(保護室 辻村千尋)

 

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