2024.05.08(2024.05.08 更新)
「自然保護憲章」とは?
解説
専門度:
テーマ:環境教育森林保全海の保全川の保全里山の保全国立公園
フィールド:自然保護運動
自然をとうとび、自然を愛し、自然に親しもう。
自然に学び、自然の調和をそこなわないようにしよう。
美しい自然、大切な自然を永く子孫に伝えよう。
上記は自然保護憲章の3つのスローガンです。
自然保護憲章は、1974(昭和49)年6月5日に制定された、国民の自然保護に関する指針を示したものです。
1960年代、わが国では高度経済成長期において、海岸の埋め立てや国立公園内での林道建設などの開発が進み、貴重な自然が破壊される様相を呈していました。同時に、水俣病やイタイイタイ病などの産業公害も問題化していました。
こうした事態に日本自然保護協会(NACS-J)をはじめとする自然保護団体が各地で自然保護運動を展開してきました。経済成長至上主義の社会風潮の中で自然を守るためには、国民が自然を大切にする機運を高めることが必要な時代でした。
1964年に西ドイツで制定された「マイナウの緑の憲章」は、国や州の自然保護行政の基礎となり、市民の共感を得て各種の教育に取り入れられてきました。これを見本とし、NACS-Jや関係者は、日本の自然を守り、次世代に残すための自然保護運動の指針となる自然保護憲章制定の必要性を訴えてきました。
その動きに当時の厚生省国立公園局長も賛同し、1966年に大山隠岐国立公園で開催された第8回国立公園大会※で自然保護憲章の制定の提案が決議されました。
※自然に親しむ運動の中心行事として、1959~2011年に、国・各自治体・国立公園協会が共催で毎年、国立・国定公園を会場に開催されていた行事
以下は大会の決議文です。
しかるに、現実は経済発展のかげに自然破壊がいたるところで行なわれており、今にして政府の抜本的対策が具体化され、一億国民は自覚しなければ悔を千載に残すことになろう。
よって、第八回国立公園大会参加者一同は、例えば自然保護憲章の如きものの制定を目途に広く国民運動を展開されるよう関係方面に要請する』
その後、憲章制定に向け、NACS-Jが事務局となり、自然保護団体による憲章案が作られます。憲章は国民の総意として制定することに意味があるため、自然保護団体以外にも民間各界を含めた団体が新たに組織され、さらなる草案が作られました。
そして、1974年6月5日、当時の皇太子殿下の御臨席をいただき、各界代表が2,000人集まった自然保護憲章制定国民会議のもとに憲章宣言式が行われ、自然保護憲章が制定されました。
自然保護憲章は、自然保護の理念を高く掲げた前文、誰でも容易に理解できる3つのスローガン、そして9つの具体的な実践目標、で構成されています。
自然保護憲章全文
~ 自然保護憲章 ~
自然は、人間をはじめとして生けとし生けるものの母胎であり、厳粛で微妙な法則を有しつつ調和をたもつものである。
人間は、日光、大気、水、大地、動植物などとともに自然を構成し、自然から恩恵とともに試練をも受け、それらを生かすことによって文明をきずき上げてきた。
しかるに、われわれは、いつの日からか、文明の向上を追うあまり、自然のとうとさを忘れ、自然のしくみの微妙さを軽んじ、自然は無尽蔵であるという錯覚から資源を浪費し、自然の調和をそこなってきた。
この傾向は近年とくに著しく、大気汚染、水の汚濁、みどりの消滅など、自然界における生物生存の諸条件は、いたるところで均衡が破られ、自然環境は急速に悪化するにいたった。
この状態がすみやかに改善されなければ、人間の精神は奥深いところまでむしばまれ、生命の存続さえ危ぶまれるにいたり、われわれの未来は重大な危機に直面するおそれがある。しかも、自然はひとたび破壊されると、復元には長い年月がかかり、あるいは全く復元できない場合さえある。
今こそ、自然の厳粛さに目ざめ、自然を征服するとか、自然は人間に従属するなどという思いあがりを捨て、自然をとうとび、自然の調和をそこなうことなく、節度ある利用につとめ、自然環境の保全に国民の総力を結集すべきである。
よってわれわれは、ここに自然保護憲章を定める。
- 自然をとうとび、自然を愛し、自然に親しもう。
- 自然に学び、自然の調和をそこなわないようにしよう。
- 美しい自然、大切な自然を永く子孫に伝えよう。
- 自然を大切にし、自然環境を保全することは、国、地方公共団体、法人、個人を問わず、最も重要なつとめである。
- すぐれた自然景観や学識的価値の高い自然は、全人類のため、適切な管理のもとに保護されるべきである。
- 開発は総合的な配慮のもとで慎重に進められなければならない。それはいかなる理由による場合でも、自然環境の保全に優先するものではない。
- 自然保護についての教育は、幼いころからはじめ、家庭、学校、社会それぞれにおいて、自然についての認識と愛情の育成につとめ、自然保護の精神が身についた習性となるまで、徹底をはかるべきである。
- 自然を損傷したり、破壊した場合は、すべてすみやかに復元に努めるべきである。
- 身近なところから環境の浄化やみどりの造成につとめ、国土全域にわたって美しく明るい生活環境を創造すべきである。
- 各種の廃棄物の排出や薬物の使用などによって、自然を汚染し、破壊することは許されないことである。
- 野外にごみを捨てたり、自然物を傷つけたり、騒音を出したりすることは、厳に慎むべきである。
- 自然環境の保全にあたっては、地球的視野のもとに、積極的に国際協力を行うべきである。
昭和49年6月5日 自然保護憲章制定国民会議