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2022.12.28(2023.01.18 更新)

ラムサール条約湿地「中池見湿地」の北陸新幹線建設で、谷部分の水環境に大きな影響

報告

専門度:専門度3

テーマ:自然資源生息環境保全世界遺産里山の保全

フィールド:北陸新幹線問題

ラムサール条約湿地・中池見湿地(福井県敦賀市)は周辺を山に囲まれた「袋状埋積⾕」という特異な地形をもち、その地形から10万年の歴史を持つ泥炭層が形成されています。また独特の地形と周囲の山々からの安定した水の供給と、田んぼや江など人の働きかけから多様な水環境が生まれ、トンボをはじめとした生物多様性の宝庫になっています。

「袋状埋積⾕」の袋の口の部分にあたる狭い谷部分(後谷)は、広い湿地から流れる小川や周辺の⼭からの豊富な湧水による沢や小湿地などが狭い空間にあり、広い湿地とは違った⽣物多様性を有する場所になっています。

▲中池見湿地本体からの唯一の水の出口になっている後谷と呼ばれる谷。その谷の右側が北陸新幹線のトンネルが貫通した深山(みやま)と呼ばれる山。(2021年12月)

このような特異な自然をもつ中池見湿地ですが、1990年代には湿地のほとんどが埋め立てられるような開発計画があり、地元市民団体による保護活動に日本自然保護協会も協力して開発中止となるという経緯を経て、中池見湿地の価値が認められ2012年にラムサール条約湿地として登録されました。

しかし、登録直後に湿地の水源となる「深山(みやま)」を貫通する北陸新幹線のルートが公表されました。日本自然保護協会と地元市民団体の働きかけの結果、2015年に環境影響の少ないルートへの変更、そして2018年には条約ガイドラインに基づく国内初の「環境管理計画」の策定が実現しました。

その後2019年1月から深山トンネル工事がスタートし、2021年8月末に防水工事も完了しました。ところが、深山から後⾕に流れ込む湧⽔すべてで⽔量の回復は⾒られず、後谷の沢や小湿地の水がなくなり、両生類や水生昆虫などに大きな影響を及ぼしています。また、深山を貫通するトンネル構造物やコンクリ―ト壁面、枯れた沢、⼲上がった湿地が来園者にも⾒える形となり、中池見湿地の玄関口の一つである後谷の景観と観光などの⽣態系サービスに⼤きな影響を及ぼしています。

ひび割れた後谷の休耕田の写真▲湧水減少により地面のひび割れが生じた後谷の小湿地(2020年6月)

モリアオガエル卵塊の写真▲枯れた田んぼの上の木に産卵したモリアオガエルの卵塊(2022年6月)

深山トンネル入り口の写真▲後谷入口から見える深山トンネル施設(2022年12月)

このような状況から、「環境管理計画」に則り2022年11月に日本自然保護協会と地元市民団体は、失われた後⾕の湿地とその機能の回復のための保全策について、モニタリングの専門家委員会で検討するよう事業者に要請しました。合わせて、湿地の機能を回復する保全策の1つとして後谷を分断している埋立地を湿地に再生することを提案しました。

北陸新幹線 深山トンネル掘削工事で影響が出ている後谷への影響と フォローアップ委員会での保全策検討のお願い(1.2MB/PDF)

2022年12月4日に開催された専門家委員会では、午前中現場視察が行われ、日本自然保護協会と地元市民団体で、後谷の工事による影響や、過去埋め立てられた湿地を再生する保全策について委員や行政、事業者の方に説明しました。

午後の本会議で委員からは、現在の深山の水位が回復するには10年程度はかかることや、水みちの変化によって今までと同じ量の湧水量が戻るかどうかは分からない、という指摘がありました。そして後谷の保全策については市民側で提案した湿地の再生について委員からも賛同があり、行政も協力し湿地の再生を図ることは保全策として有効ではないか、全体の損失をカバーするという意味で、保全策は直接影響を受けた場所だけにこだわらなくていいのでは、という意見が出されました。来年6,7月頃を予定している次の委員会でも引き続き検討されることになりました。

今回の北陸新幹線トンネル建設に伴う工事で、中池見湿地を構成する広い湿地部分への大きな影響は回避されました。しかし、そことはまた異なる湿地環境を有する後谷に大きな影響が出ていることは、十分に報道がなされておらずほとんど知られていない状況です。

中池見湿地の生物多様性の基礎となる水環境が回復するまでに10年単位の時間がかかる可能性も指摘されており、多くの生物多様性と生態系サービスが失われることのないよう、湿地とその機能の回復のための有効な保全策を早急に行う必要があります。保全策実現には、事業者だけでなく、市民・行政の力も必要です。まずは国の宝である中池見湿地の危機的状況がまだ去ったわけではないことを多くの方々に知っていただきたいと思います。

雨の中、現地視察する様子の写真▲現地説明会で、新幹線建設での影響と湿地再生案について説明(2022年12月4日)

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