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2022.08.17(2023.09.20 更新)

サンゴ礁に降り積もる浮泥と海底地下水湧出の役割 ~奄美大島の海を調べるプロジェクト~

調査報告

専門度:専門度3

テーマ:自然環境調査海の保全

フィールド:砂浜

昨年度(2021年度)から実施している奄美大島の海を調べるプロジェクト。その一環として、今回、奄美大島北部・笠利湾内で、アマモ場の観察を行いました。調査地点は、昨年度、笠利湾周辺の集落のみなさまから聞き取りした結果をもとに、1970年代ごろまで、藻場とサンゴ礁が共存する豊かな生態系が存在していた2地点を選びました。

今回はそのうちの1地点、前肥田集落北側のご報告です。今回の観察から、サンゴ礁の危機と、海底地下水湧出(海底湧水)の重要な働きが見えてきました。

泥に覆われたサンゴ礁

7月28日に撮影した海中の様子です。

水深2~3 mの海中では、泥のようなものが降り積もっており、手で払っても取れません。透明度、透視度ともに低く、海の中は白く濁ったように見えます(写真1~2)。

泥が堆積している海底の画像▲写真1 前肥田集落コミュニティセンター下の浜の海底の様子(水深2-3m)。サンゴと周辺の礫の上に、泥が降り積もっている

泥まみれのサンゴの画像▲写真2 写真1と同地点。裏に泥がこびりついたクサビライシの仲間

しかし、そこから300mほど北側の水深1〜2mの場所で、白くキレイな状態のサンゴ礫の海底を発見しました(写真3)。海面から下を見ると白く濁って見えるのですが、潜ってみると、海面下数10cm〜1mほどのところで、水温が下がり、透明度が高くなります(写真4、5)。

サンゴの遺骸が見られる海底の画像▲写真3 水深0.5mの海岸近くで見られたサンゴ礫。このような海底が近年徐々に失われつつある。

白く濁った海中の画像▲写真4 海面から下を見た様子。白く濁っている

海底のサンゴの画像▲写真5 海底付近の水は澄んでいる。写真1の地点と比べてサンゴの生育状態はよく、種数も多い

そして、その付近では、海底から地下水が面状に湧いていました。上を泳ぐと、身体全体で水が湧き上がる様子を感じることができます。海底には、富士山のような形をした砂の山がいくつも見られました(写真6)

海底の地下水湧出跡の画像▲写真6 海底地下水湧出がある地点で見られる海底の砂山

写真1の周辺で見られたウミヒルモ類(写真7a)と、この地点のもの(写真7b)を比較すると、ウミヒルモ類の生育状態だけでなく、周囲の砂の粒径や濁度なども異なる様子が見られます。

(a) 泥の中の茶色い海草の画像
(b) 砂地の中の緑色の海草の画像

▲写真7 写真1付近で見られたウミヒルモ類(a)と、写真3付近で見られたウミヒルモ類(b)。aの写真が全体にぼけたように見えるのは、泥の堆積で、もやがかかったようになっているため。

海底地下水湧出の働き

近年、海と地下水との関係に注目が集まっています。

砂浜における地下水については、以下の解説記事もぜひご覧ください。

【話題の環境トピックス】浜を読む 〜 砂浜という環境の多様性〜

山や里地で降った雨水が地下に浸透し、地下水が海底から湧出する現象は、これまでほとんど注目されてきませんでした。今回の観察結果から、海底地下水湧出には、周辺の水温の上昇を抑制し、濁度を低下させる効果があることがわかりました。これは、サンゴ礁、藻場、干潟、砂浜などに暮らす生物にとって大敵である、高水温などのストレス要因を減らすことにつながります。

地下水の問題は、森林、河川、里地、海岸線など、雨水を地下に浸透させる機能をもつ、すべての陸上環境に関連します。NACS-Jでは、これまで、森林や里地など、陸上の様々なフィールドで、自然環境の保全に取り組んできました。これらの知見を総合して、海底地下水湧出のメカニズムと生物に与える影響の解明、それを活かした地域における自然環境の保全や再生の取組を進めていきます。

海中を生物が生息しやすい環境にするため、日本の海を泥だらけの死の海にしないために、いっしょに取り組んでみませんか?

(生物多様性保全部 中野 恵)

海底地下水湧出の情報をお寄せください

奄美大島笠利湾で見つかった海底地下水湧出。同じように、海底から地下水が湧出していると思われる身近な海の情報をお寄せください。今後の海底地下水湧出の調査・研究、このメカニズムに着目した地域づくりの活動に役立てていきます。

ご連絡先
日本自然保護協会 生物多様性保全部 中野
nakano★nacsj.or.jp (★を@に変更してお送りください)

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