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2021.10.29(2023.09.22 更新)

上関・奇跡の海の挑戦 漁業者と模索する海域の自然保護の取り組み

報告

専門度:専門度3

アカモク群落を泳ぐメバルの写真

▲アカモク群落を泳ぐメバル(写真:新井章吾)

テーマ:生息環境保全自然環境調査海の保全

フィールド:

白砂の浜や転石の海岸など自然の海岸線が残り、希少種が多く生息する「奇跡の海」上関。ここは、古くから沿岸漁業の営みが続く地でもあります。

NACS-Jでは、2018年度から、地域の漁業者の方々と共に、海域生態系の回復と持続可能な漁業との両立を目指す取り組みを行っています。まだまだ未知の分野が広がる海の世界。海の自然で地域の明日をひらく、試行錯誤の活動をお伝えします!


魚が集まるアカモク群落

上関の藻場を保全する活動として、最初に着目したのが、一年生海藻のアカモクでした。アカモクは、食品としてスーパーなどでも流通しており、商品化が期待できます。また、アカモクの群落には、メバル類など魚類が多く集まることが経験的に知られています。そこで、アカモクの生育状況を良くすることで藻場の生物多様性の回復を図り、アカモクも商品として利用して、持続可能な漁業を目指す試みを始めました。

まず、メバル類が利用しやすい群落構造を調べるために、成長ステージに合わせたアカモク群落の利用状況を調べました。同時に、群落周辺の多年生海藻を部分的に刈り取ってアカモクの受精卵が着底しやすい環境を作り、発芽や成長を促す実験を行いました。

その結果、メバル類は成長ステージによって海藻群落を使い分けており、異なる海藻群落がパッチ状に広がる環境を好むことが分かりました(図2図3)。一方、周辺の海藻類を刈り取りしてアカモクの発芽や成長を促す実験では、期待していた成果が得られませんでした。

個体数と被度の関係を示したグラフの画像図2:L1におけるメバルの個体数とホンダワラ属の被度
メバル類の個体数と海藻の被度は、海底に設置した80mのライン上をスキューバ潜水で泳ぎながら目視で調査した。アカモク群落とノコギリモク群落が共存するL1では、メバルの幼魚や成魚が多い

個体数と被度の関係を示したグラフの画像図3:L2におけるメバルの個体数とホンダワラ属の被度
ノコギリモクの極相群落が優占するL2では、メバルの稚魚が多い

浮泥の調査開始

私たちは、その要因として、アカモクの受精卵が着底する季節に海底に積もる浮泥に着目しています。今年の梅雨時に行った浮泥トラップの実験では、海底に3時間放置したジョッキやブラシに浮泥が認められ、沈殿するとともに団粒化する様子を観察することができました(写真)。冬の北風が吹き始めると、海藻の季節の到来です。今年の活動では、浮泥トラップによる着底阻害要因の調査と、浮泥が溜まりにくい海域での刈り取り実験を実施する予定です。

2021年~2030年までは「国連生態系回復の10年」です。世界各地で進む生態系の劣化に対して、回復に向けた積極的な関与が推奨されています。人間が海の生態系回復にどのように貢献していけばよいのか、まだ確かな知見はありません。私たちも、上関をはじめとする地域のコミュニティと試行錯誤を繰り返し、海域生態系を回復させる活動を推進していきます。

▲海藻を覆う浮泥

▲トラップ設置地点近くの浮泥採取作業(写真左)、トラップ(ジョッキとブラシ)を海底に設置したときの様子(写真右)

▲海底に設置したブラシで採取した浮泥。計量カップの底に沈殿するとともに団粒化した

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担当者から一言

中野さんの顔写真

リポーター
生物多様性保全部 中野 恵
上関の活動には、地域の海をよく知る漁業者の方々の知見や技術が欠かせません。伝統技術と新たな知見を使って、海の生態系回復に取り組んでいきます!

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