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2021.08.20(2023.09.22 更新)

「奇跡の海」上関に迫る海上ボーリング調査

イベント報告調査報告

専門度:専門度2

テーマ:ユネスコエコパーク生息環境保全環境アセスメント海の保全

▲6月26日(土)、27日(日)に上関の自然を守る会主催で開かれたイベント

瀬戸内海周防灘の一画に位置する上関の海は、自然のままの複雑な海岸線や白砂の浜が残り、各地で姿がみられなくなった希少種が多く生息することから「奇跡の海」と評されます。

NACS-Jは、地元漁師の方々と協力して、この「奇跡の海」を日本初の海のユネスコエコパークに登録することを目指し、活動を進めています。

現在、この上関の海で、原子力発電所建設のための海上ボーリング調査が計画されています。中国電力は、調査のための占用許可を山口県へと申請し、6月11日、県が許可を出しました。原子力発電所と「奇跡の海」上関をめぐる動きをお伝えします。


エネルギー基本計画と上関原発

2018年に発表された現行の第5次エネルギー基本計画は、福島第一原子力発電所の事故をうけ、原子力発電所の新設は盛り込まれませんでした。先日素案が発表された次期エネルギー基本計画は、「可能な限り原発依存度を低減」と「安全確保を大前提として原子力の安定的な利用の推進」とが記載される曖昧な内容となりましたが、原子力発電所の新設やリプレース(建て替え)については明記されない見込みです。第5次計画当時の政府は「原子力発電所の新規建設はない」と明言しており、新設を前提としたボーリング調査には、国策としての裏付けがありません。

上関原発については、中国電力が2009年に提出した原子炉設置許可申請に対し、原子力保安院は事前の地質調査が不十分として、異例の追加調査を求めました。その後、福島第一原子力発電所の事故を教訓に、原子炉等規制法が改正されたことをうけ、2013年には、新しい原子力発電所の規制基準が策定され、より高い安全性への配慮が求められるようになりました。旧規制基準を満たすことができなかった上関原発が、新基準を満たすためには、更に多額の資金を投入して対策を講じる必要があります。このように上関原発は、国策の後ろ盾もなく、極めて不確実性が高い事業です。

 

海上ボーリング調査と生息環境への影響

海上ボーリング調査は、建設物の着工に必要となる地盤調査です。海上に足場を作り、海底に筒状の穴をあけて土のサンプルを採取します。採取した土の特徴を調べることで、建設物の下にある断層の特徴を把握し、活断層や地層の境界線の位置などを明らかにすることができます。

今回ボーリング調査が予定されている原子力発電所建設予定地、田ノ浦の海底には、周防灘を南限とする海藻スギモクや、砂礫質の海底を好むナメクジウオ(ヒガシナメクジウオ、環境省海洋生物レッドリスト 2017「絶滅危惧Ⅱ類」)など、泥質化していない白砂の海底を好む生物が生息しています。

このような生物群は、取り巻く環境が破壊されることで簡単に消滅する脆弱性の高い生物群集です。ナメクジウオは、かつて、岩国周辺の水深が浅い浜でも普通に見られた生物でしたが、現在では、水深が深い場所か、田ノ浦のような限られた場所でしか見ることができなくなりました。

私たちは、2019年度から、地元の「上関の自然を守る会」とともに、田ノ浦と上関周辺の浅瀬に生息するナメクジウオ類の分布調査を行っています。その結果から、今回中国電力が実施を計画しているボーリング調査地点は、田ノ浦の中でナメクジウオ類など砂礫質の海底を好む生物が最も集まるエリアであることがわかっています。そのため、1地点のみという小規模な調査であっても、海底環境攪乱がこれらの生物群集に与える悪影響が懸念されます。

私たちは、8月にも、ボーリング地点におけるナメクジウオ類の分布と他の底生生物の生息状況調査を実施し、結果を公表する予定です。

 

上関の豊かな自然と多様性について詳しく知りたい方は、こちらの会報特集「奇跡の海、上関」をご覧ください。

『自然保護』2019年11・12月号特集「奇跡の海、上関」(PDF/6.4MB)

  • 上関の海はなぜ奇跡の海なのか
  • 上関の貴重な生きものたち
  • 上関ルポ 奇跡の海たらしめているものとは

 

田ノ浦の魅力を体験するイベントと上関のこれから

6月26日(土)、27日(日)に、ボーリング調査予定地である田ノ浦海岸で、「上関の自然を守る会」主催のイベントが開催されました。

イベント当日は、ボーリング予定地点のナメクジウオを観察したり、生き物の写真を撮ったり、大人も子どもも夢中になって、田ノ浦の海辺の魅力を満喫しました。

▲イベント中に見つかったナメクジウオに、興味津々で見入る子供たち

▲田ノ浦の海中では、海藻も豊富に見られ、素潜り漁などのよい漁場となっている。

2010年の日本生態学会第57回大会総会決議において、上関周辺海域は、瀬戸内海の生物多様性ホットスポットとされ、周防灘の生物多様性の維持や瀬戸内海の自然の再生可能性にも言及しつつ、対策への要望がなされました。その後、日本の海域を取り巻く状況は大きく変化し、砂浜の消滅、藻場の消失、生物多様性の劣化などが、各地で日々当たり前のように起こっています。

わずかに残る貴重な生態系を守り、次世代に「日本の海辺の姿」を継承していくことが強く求められます。上関に残る豊かな海、日本の海辺の姿を伝えていくために、私たちは地域の方々と協力しながら、活動を進めていきます。

引き続き、ご支援をお願いいたします。

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▲記事担当/右:中野恵(生物多様性保全部)、左:金香星(広報会員連携部)

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