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2008.07.01(2018.06.27 更新)

【自然しらべ2008】カマキリの話

調べる対象:カマキリ

カマキリの話

カマキリにまつわる話をいくつかご紹介します。これを読んでから出かければ、カマキリさがしがよりオモシロくなるはず!

 

カマキリってどんな生き物?

カマキリは昆虫界の名ハンターということはよく知られていますが、自然の中でのくらしぶりは不思議に満ちています。
そこで学術的な監修をいただいている岡田正哉さんが書かれた『昆虫ハンターカマキリのすべて』」(1991年、トンボ出版)から、カマキリのくらしぶりをご紹介します。
なお、この本はすでに絶版となっていますが、このたび『フィールド版 昆虫ハンター カマキリのすべて』(トンボ出版、1,050円)が発行されました。
ほかに類のない、オススメの1冊です。

※『昆虫ハンター カマキリのすべて』(岡田正哉著、1991年、トンボ出版)より抜粋・転載

1.カマキリの仲間

するどいトゲの並んだ前脚(前あし)ですばやく獲物をつかまえるカマキリは、捕食性昆虫類の代表としてよく知られています。 頭は、どの方向にも自由に動かすことができます。顔は逆三角形で、1対の大きな複眼と3つの単眼があります。触角は細く、一般にオスの方が長くなります。日本産の大部分の種類には大きな翅がありますが、ヒナカマキリのように翅が小さなうろこ状となり、まったく飛ぶことのできない種類も見られます。

カマキリは「カマキリ目」というグループを構成します。これにもっとも近い仲間は「ゴキブリ目」を構成するゴキブリです。黒っぽい体色でズングリした体つきのゴキブリと、明るい体色で細長い体つきのカマキリとはまったく無関係かのように見えますが、顔や翅などの形から2つのグループは近縁と考えられています。ゴキブリのほか、シロアリ・バッタ・コオロギ・ツユムシ・ナナフシなどもカマキリに近い仲間です。

 

カマキリの誕生


カマキリ類の卵は、普通は厚いスポンジ状のものに包まれて、外からは見えません。この包みは「卵鞘(らんしょう)」または「卵嚢(らんのう)」などと呼ばれています。

卵鞘は暑さ・寒さ・乾燥・湿気を防ぎ、また外からの衝撃も吸収して中の卵をしっかり守っています。卵鞘の大きさ(長さ)は、オキナワオオカマキリで48mmほど、オオカマキリでは38mmほど、チョウセンカマキリでは42mmほどです。小型のヒメカマキリでは13mmほど、一番小さなヒナカマキリではわずか5mm、あるいはそれ以下のことさえあります。同じ種類でも栄養状態や産卵回数などによって、卵鞘の大きさが2倍以上ちがうこともあります。
卵鞘は、植物の茎や幹・枝や葉などのほか、石や倒木の下側などに産みつけられますが、種類によって産卵場所には多少のちがいがみられます。卵鞘の形も種類によってちがいがあり、名前を調べるときのよい手がかりとなります。

カマキリの仲間は肉食性で、他の昆虫類をつかまえて食べています。そのため、カマキリたちは、エサとなる昆虫類が出揃う春遅い時期になってから孵化を始めます。ただし、琉球列島のように冬でも昆虫が活動できるような暖かい地域では、カマキリの種類によっては年中見ることができます。

 

3.カマキリの成長

カマキリ類は、卵→幼虫→成虫と順々に変態していきます。しかし、さなぎにはなりません。このようなさなぎの時期がない変態は「不完全変態」と呼ばれます。

成虫と幼虫は互いによく似ていますが、翅のあるものが成虫、ないものが幼虫です。ただし、中齢~終齢の幼虫には翅芽(成虫の翅のもととなるもの)が目立つので、これを成虫の翅とまちがえないよう注意が必要です。逆に、日本産のヒナカマキリは微翅種のため、成虫になっても翅はきわめて短く、幼虫か成虫か区別しにくいこともあります。

十分に成熟した終齢幼虫は、樹木や草の枝や葉にとまり、体の位置を固定して羽化し、成虫になります。

 

4.日本のカマキリ

カマキリは肉食性で、獲物となる昆虫などがいればどこにでも住めそうです。しかし、日本列島は南北に長く連なっており、その気候や環境条件はさまざまです。そのため、種類によって生息地や分布範囲にちがいが見られます。

カマキリ類は、ずっと以前から人気のある昆虫でした。しかし、オオカマキリやチョウセンカマキリなど、ごく身近な数種類を除くとあまりくわしいことはわかっていません。特に、どの種類が・いつ・どこで見られるのかといった基本的な記録さえ少なく、さらに日本に確実に生息するカマキリの種類数も、まだはっきりとはわかっていないのです。大型で身近な昆虫なのに、カマキリ類についての疑問はいっぱいで、これからも未知の種類が見つかる可能性もあります。

 

5.獲物を捕らえる

獲物の捕獲方法は、基本的に「待ち伏せ型」です。花や葉にまぎれて身を隠し、獲物がやってくるのを忍耐強く待ちます。しかし、ヒメカマキリやヒナカマキリなど小型の種類では、獲物を積極的に追いかける「追尾型」も見られます。ただし、大型の待ち伏せ型の種類でも、空腹の程度により獲物を追いかける追尾型に変わることもあります。

捕食するのは主に生きている昆虫類で、自分より体の大きなものを捕食することもあります。昆虫以外では小さなヘビやカエルを食べた記録もあります。

獲物を食べ終わった後の体は汚れがちです。獲物がチョウやガであれば、りん粉がつきますし、バッタなどはその口から出す黒い液体がカマキリの体を汚します。いちばん汚れやすいのは獲物を捕らえる前脚です。つぎに汚れやすい部分は、口のまわりです。カマキリは、こうした部分を中心に自分の体を掃除します。

また、獲物の捕食による汚れとは別に、カマキリはよく脚を掃除しています。特に、フ節(脚の先)下面の肉球状部はよく手入れをしています。ここが汚れると吸着力が弱まり、なめらかな面にとまりにくくなるからです。

 

人の暮らしとのかかわり

カマキリは、実は古くから人々の暮らしとかかわりが深い昆虫です。「生き物のことは詳しくないから」という人や、知る機会がないまま「虫が苦手」になってしまった人も、カマキリにまつわる歴史や文化の話題を交えながらカマキリさがしに誘えば、生き物をみることの面白さや自然を守る大切さに気づいてもらえるかも。
※会報『自然保護』2008年7/8月号より転載

 

1.カマキリの多彩な地方名・方言

カマキリは、胸の前でカマをそろえるポーズが「祈り」を連想させるとして、日本では古くから“オガミムシ”などと呼ばれています。英語でも、「Praying mantis祈り虫」と言います。
また、カマキリにイボを咬み切らせる、あるいはカマキリをすりつぶしてイボに塗るという薬効から、イボムシなどの異名が残っています。 古来から地域ごとに呼び慣わされてきた地方名や方言は、その地域の暮らしに根づいた言葉であり、大切にしていきたい文化です。

都道府県別のおもな地方名・方言

北海道 カマキリ、カミキリ(ムシ)、オガモ、オガマ(ッショ)
青森県 マキリ、カミキリ(ムシ)、イボクイ、イボトリ(ムシ)、ハエトリ、タイコハタキ、タイコンブチ
岩手県 カマキリ、イボクイ、イボトリ(ムシ)、イボムシ、デンガ(イボ)、ハエトリ、タイコハタキ、タイコンブチ、ザトー
宮城県 カマキリ、イボムシ、ハエトリ
秋田県 カマキリ、カミキリ(ムシ)、イボムシ、デンガ(イボ)、ハエトリ
山形県 カマキリ、イボムシ、ハエトリ、タイコハタキ、タイコンブチ
福島県 カマキリ、イボムシ、ハラタチ
茨城県 カマキリ、カマギ ッチョ、オガミ(ムシ)、イボクイ、イボトリ(ムシ)
栃木県 カマキリ、カマギッチョ、オガミ(ムシ)、トーロー(ムシ)、トーロンボー、イボクイ、イボトリ(ムシ)
群馬県 カマキリ、カマギッチョ、カミキリ(ムシ)、トカゲ、トカケ、オガミ(ムシ)、トーロー(ムシ)、トーロンボー、ハエトリ、ハラタチ
埼玉県 カマキリ、カマギッチョ、トカゲ、トカケ、トーロー(ムシ)、トーロンボー、ハエトリ、ハラタチ
千葉県 カマキリ、カマギッチョ、カミキリ(ムシ)、トカゲ、トカケ、イボクイ、イボトリ(ムシ)、ハラタチ、ザトー
東京都 カマキリ、トカゲ、トカケ、トーロー(ムシ)、トーロンボー、ゲンベーメ
神奈川県 カマキリ、カマカケ、トカゲ、トカケ、イボクイ、イボトリ(ムシ)、イボジリ、エンボージ(リ)
新潟県 カマキリ、イボクイ、イボトリ(ムシ)、イボムシ
富山県 カマキリ、オガミ(ムシ)、オ(ン)ガメ、デンガ(イボ)
石川県 カマキリ、カマタテ(ムシ)、カミキリ(ムシ)、オガモ、オガマ(ッショ)、ハエトリ
福井県 カマキリ、カマタテ(ムシ)、カミキリ(ムシ)、オガミ(ムシ)
山梨県 カマキリ、トカゲ、トカケ、トーロー(ムシ)、トーロンボー、イボジリ、エンボージ(リ)
長野県 カマキリ、トーロー(ムシ)、トーロンボー、イボジリ、エンボージ(リ)タイコハタキ、タイコンブチ
岐阜県 カマキリ、オガミ(ムシ)、オ(ン)ガメ、オガモ、オガマ(ッショ)
静岡県 カマキリ、カマカケ、カマギッチョ、オ(ン)ガメ
愛知県 カマキリ、オ(ン)ガメ
三重県 カマキリ、オ(ン)ガメ、オガモ、オガマ(ッショ)
滋賀県 カマキリ、オガミ(ムシ)、オガモ、オガマ(ッショ)
京都府 カマキリ、オガミ(ムシ)、オ(ン)ガメ、モットイムシ
大阪府 カマキリ、カミキリ(ムシ)
兵庫県 カマキリ、カマカ ケ、カミキリ(ムシ)、オガミ(ムシ)、オ(ン)ガメ、オガモ、オガマ(ッショ)、ホトケウマ、ザトー、モットイムシ
奈良県 カマキリ、カ マタテ(ムシ)、オガモ、オガマ(ッショ)、ホトケウマ
和歌山県 カマキリ、オガミ(ムシ)、オガモ、オガマ(ッショ)
鳥取県 カマキリ、 カマカケ、カミキリ(ムシ)、ハエトリ、ザトー
島根県 カマキリ、カマカケ
岡山県 カマキリ、カマカケ、カマタテ(ムシ)、トーロー(ムシ)、トーロンボー、ハエトリ
広島県 カマキリ、カマカケ、カマタテ(ムシ)、カミキリ(ムシ)、トーロー(ムシ)、トーロンボー
山口県 カマキリ、カマカケ、カミキリ(ムシ)
徳島県 カマキリ、ホトケウマ、イボジリ、エンボージ(リ)
香川県 カマキリ
愛媛県 カマキリ、オ(ン)ガメ、オガモ、オガマ(ッショ)、イボジリ、エンボージ(リ)、ヘンボ
高知県 カマキリ、カミキリ(ムシ)、オガミ(ムシ)、オ(ン)ガメ、イボジリ、エンボージ(リ)、ヘンボ
福岡県 カマキリ、カマギッチョ、オ(ン)ガメ、オガモ、オガマ(ッショ)
佐賀県 カマキリ、オガミ(ムシ)、オ(ン)ガメ、チョーランマイ
長崎県 カマキリ、オガミ(ムシ)、オ(ン)ガメ、オガモ、オガマ(ッショ)、チョーランマイ
熊本県 カマキリ、カミキリ(ムシ)、オガミ(ムシ)、オ(ン)ガメ、オガモ、オガマ(ッショ)
大分県 カマキリ、カマギッチョ、オ(ン)ガメ、オガモ、オガマ(ッショ)、トーロー(ムシ)、トーロンボー、チョーランマイ、モットイムシ
宮崎県 カマキリ、カマギッチョ、オガミ(ムシ)、オ(ン)ガメ、オガモ、オガマ(ッショ)、チョーランマイ
鹿児島県 カマキリ、オ(ン)ガメ、オガモ、オガマ(ッショ)、チョーランマイ
沖縄県 イシャトゥー(マイ)、サール(ー)、マーミーシ(ャ)トゥー

 

2.中国の故事「蟷螂の斧(とうろうのおの)」

中国の春秋時代、斉の荘公が乗る馬車にカマキリがカマを振り上げて立ち向かったという中国の故事から、弱い者が自分の力をわきまえずに手向かいすることをたとえて「蟷螂の斧(とうろうのおの)」といいます。

 

3.祇園祭の山車「蟷螂山(とうろうやま)」

京都の祇園祭で、最大の呼び物といえば山・鉾の巡行。その中に、前述の「「蟷螂の斧(とうろうのおの)」のたとえに由来する、からくり仕掛けのカマキリを 乗せた「蟷螂山(とうろうやま)」、別名「かまきり山」という山車があります。
南北時代に足利義詮と戦って死んだ四条隆資卿の武勇ぶりにちなみ、後に四条家の御所車にカマキリを乗せて巡行したのが始まりと言われています。「蟷螂の斧(とうろうのおの)」は風刺して言うことが多いですが、祇園祭では、カマキリは神、あるいは神の能力をもった使者として崇められています。


▲山車の上のカマキリは、クジラのヒゲをばねに使った木彫りのからくり人形。
車輪と連動して首や手鎌、翅が動く。(写真:幽黙)

 


▲蟷螂山(とうろうやま)のちょうちん。
(写真:幽黙)

 


▲山車の飾りの金具も美しい。
(写真:幽黙)

 


▲蟷螂山(とうろうやま)の縁起物のひとつである日本手ぬぐい。(写真:幽黙)

 

4.カマキリの化石入り琥珀発見

2006年10月に岩手県久慈市で、約8700万年前(中世代白亜紀後期)の地層からカマキリの化石が入った琥珀が日本で初めて発掘されました。 白亜紀のカマキリの琥珀は珍しく、世界でも8例目。前脚に小さなトゲがあり、これまで見つかった原始種のカマキリと現代のカマキリの中間的な特徴を持っていることから、カマキリの進化の研究に役立つことが期待されます。


▲カマキリの化石が入った琥珀(写真:久慈琥珀博物館)

 

参考資料:定本柳田国男集(筑摩書房、1969年)/日本方言大辞典(小学館、1989年)/学研漢和大字典(学研、2005年)/『京都祇園祭手帳』(河原書店、2007年)/久慈琥珀博物館発表資料。