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2023.02.27(2023.03.01 更新)

三重県尾鷲市と目指すネイチャーポジティブなまちづくりと第一次産業の融合

報告

専門度:専門度3

尾鷲市の風景画像

尾鷲湾と市街地。中央左側の更地が火力発電所跡地。(写真:尾鷲市水産農林課提供)

テーマ:生物多様性地域戦略自然資源森林保全伝統文化海の保全里山の保全

フィールド:まちづくり

世界が2030年までに生物多様性を回復の道筋にのせるネイチャーポジティブに向けて舵を切る中、実効性のある取り組みが求められています。その中で地方自治体が果たす役割の重要性は小さくありません。

NACS-Jは尾鷲市と共に、培われてきた人と自然とのつながりに立ち返り、気候変動×生物多様性の同時課題解決を目指す新たな地域づくりをスタートしました。


三重県南部に位置する尾鷲市は、西は紀伊山地大台山系に属し、東は熊野灘に面しています。山から海までの距離が短く、陸上から海中まで複雑で多様な地形が続く沿岸部と小さな島嶼部は、吉野熊野国立公園区域に指定されています。年平均降水量が約4000㎜という多雨(全国平均の約2倍)により、陸域の土壌は薄く、1m以上の岩が急斜面の森林に点在する独特の自然景観となっています。

尾鷲三田火力発電所が、市街地の砂浜海岸の埋め立て地に立地し、操業を開始したのは1964年のことです。以来、半世紀にわたり尾鷲市の産業、まちづくりを牽引し、敷地内にそびえ立つ230mの煙突は地域のランドマーク的な存在でもありました。しかし、2018年に発電所は操業を停止。まちの方向性が議論され、尾鷲ならではの人と自然との共生のあり方に光が当たり、水産業、林業、農業の社会的役割の再評価が進みました。

2022年3月に、市は「尾鷲市ゼロカーボンシティ宣言」を行い、二酸化炭素排出から吸収への転換を目指して、森林や藻場など一次産業の現場を中心とした気候変動緩和策に取り組んでいます。若い世代を中心に、自然資源や伝統の知見を活かした活動も始まりました。

生物多様性資源の発掘開始

NACS-Jでは、今年度から尾鷲市と共に、ネイチャーポジティブなまちづくりの実現を目標に、伝統知、現代科学、両方のアプローチから地域の生物多様性資源を発掘する活動を開始しました。第一弾として、尾鷲市内の生物多様性保全上重要地域の評価をビッグデータ解析で行うと同時に、地域の専門家とともに保全上重要と考えられる場所や活動を示した「尾鷲の生物多様性マップ」の作成を進めています。

今後、伝統知の聞き取り調査やフィールド調査を行いながら、尾鷲ならではのネイチャーポジティブの実現に向け、議論を深めていく予定です。気候変動対策、地域経済、伝統と生物多様性との両立は、時に利益相反も生じる難しさがあります。一次産業、伝統文化の担い手が推進する尾鷲市の新しい挑戦を、私たちも支え、盛り上げます。

琉球大学の久保田教授らの研究チームによって公開された「日本の生物多様性情報システム」を用いて解析します。

尾鷲では、多様で厳しい自然と共存するため、自然利用の技術や知見が蓄積されてきました。尾鷲市は日本の自治体として初めて、単独でFSC認証を取得しました。また、海域では森林からの栄養を活かした養殖と山影を利用した定置網があり、海と山との結び付きを表現する祭りや食文化なども現在まで受け継がれています。

マップづくりをするスタッフの画像尾鷲の生物多様性マップづくり

賀田湾の画像三木里から賀田湾湾口。リアス式海岸で湾口中央部の水深は約70mある。

市有林の画像市有林「みんなの森」。森林内の水脈の再生や生物のモニタリングを通じて、生物多様性の森づくりにチャレンジしている。

(写真:尾鷲市水産農林課提供)

担当者から一言

中野さんの顔写真

リポーター
生物多様性保全部 中野 恵
尾鷲市向井地区に虎の尾という伝説の辛~い唐辛子があります。耕作放棄地の再生や伝統栽培種の保存を盛り上げて、いつか地元の材料だけでペペロンチーノを作りたい!

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