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2023.02.14(2023.02.17 更新)

農業基本法に環境保全を!「農業基本法改正と多面的機能を考える集い」を開催しました

イベント報告

専門度:専門度4

テーマ:里山の保全

フィールド:農地、里山

農林水産省は、現在“農政の憲法”といわれる「食料・農業・農村基本法」(以下「基本法」)の改正作業を進め、2024年には国会に改正案が提出される予定です。

この基本法のもと、圃場整備や農薬の使用などを進めた結果、食料増産や効率化が進んだものの、環境への負荷が増え、農業の土台となる生物多様性の損失が続くなど、農業の持続可能性が危ぶまれています。さらに、日本の農業人口減少や食料自給率の低迷に加え、近年では世界人口の増加や、ロシアによるウクライナ侵攻によって、海外からの輸入に依存している食料・化学肥料・燃料の不足も危機となっています。国内の食料の安定供給のためにも、まさに今、日本の農業は持続的な方向への見直しを迫られています。

基本法において、生物多様性を含む自然環境保全・国土保全・水源涵養機能など、農地がもつ多面的機能は「適切かつ十分に発揮されなければならない」と定められています。しかし、農地から多くの生き物が姿を消すなど、農業の有する多面的機能は損なわれています。

そこで日本自然保護協会(NACS-J)をはじめとする、環境NGO5団体が中心となる「生物多様性と農業政策研究会」は、2023年1月21日に東京都にてシンポジウムを開催し、基本法改正の動きについて、多面的機能の発揮という側面から、日本の農地における生物多様性保全や農業環境政策のあり方について、全国から集まった参加者・スタッフ約50名の皆さんと共に考えました。

【当日資料】農業基本法改正のつどいと多面的機能を考えるつどい(PDF/5.2MB)

 
今回のシンポジウムへ関心を寄せていただいた参議院議員の方からのメッセージを紹介し、「国会議員として、農業の分野で生物多様性のさらなる推進に向けて取り組んでいくこと」を冒頭に紹介しました。

1.論点整理(特定非営利活動法人 オリザネット 斉藤光明)

(発表資料)多面的機能に関する「基本法」改正の主な論点(PDF/495KB)

斉藤氏から多面的機能に関する「基本法」改正の論点として11の項目を挙げ、課題を確認しました。特に、農業の有する多面的機能は、「基本法」制定によってこれまで以上に発揮されているとは言えないことや、「基本法」の枠組みでは農業を継続すれば、自動的に多面的機能が発揮されると位置づけられるが、実際には多面的機能が壊される事例(マイナスの効果)も多数ある等の問題を指摘し、基本法改正では環境政策を柱の1つに加えることを提案しました。

2.基調講演 多面的機能を考える(法政大学経済学部教授 西澤栄一郎)

(発表資料)多面的機能を考える(PDF/586KB)

西澤教授からは、農業の多面的機能について日本とEUなど諸外国の解釈の違いや、EUの農業政策では環境および気候変動に関する目標達成への貢献のために環境配慮を強化していることが紹介されました。そして西澤教授は、日本の新しい基本法も環境の保全を目的または基本理念に記載することを提案しました。

西澤教授の基本法改正に向けた提言まとめ

3.農業の有する多面的機能の発揮の促進に関する法律の課題(日本自然保護協会 藤田卓)

(発表資料)農業の有する多面的機能の発揮の促進に関する法律の課題、基本法改正に望むこと(PDF/4.5MB)

藤田からは、毎年約1600憶円の税金を使って日本の農地面積50%以上を支援する多面的機能支払交付金は農地生態系に対して影響力の大きい制度ではあるが、生物多様性が損なわれる活動が支援対象になっていること、多面的機能が発揮されたのか評価が十分なされていない課題を指摘しました。EUなど海外では、農家が行政から補助金などのお金を受け取るときの条件として、環境保全する一定の行為が義務付けられていること、生物多様性への評価を政府・NGO・市民が連携して行っていることなどを紹介しました。以上を踏まえて、基本法改正の際に望むこととして、法律の目的に「環境保全」を追加すること、多面法・土地改良法など関連法の点検、見直しを通じて農地の生物多様性の損失を止めることを提案しました。

NACS-J藤田の基本法改正に向けた提言まとめ

4.環境NGOの意見

① 農地での鳥類保全における改正基本法への期待(日本野鳥の会 田尻浩伸)

(発表資料)農地での鳥類保全における改正基本法への期待(PDF/6.4MB)
 
田尻氏からは、日本産鳥類の多くの種が農耕地(水田)を利用しており、特に絶滅危惧種に占める水鳥が多い状況にあることを紹介しました。それらの生息地を守り、広げるためにも、基本法の目的に「食料、農業及び農村」に併記して「農地生態系(の保全)/農地における生物多様性(の向上)」を追記すべきだと訴えました。

日本野鳥の会 田尻氏の基本法改正に向けた提言まとめ

② 農地・農業生産と淡水生態系の保全(世界自然保護基金ジャパン 久保優)

(発表資料)農地・農業生産と湛水生態系の保全(PDF/2.6MB)
 
久保氏からは、日本の生態系の中で最も特に危機的な状態にある淡水生態系、水田・水路に生息する動植物にフォーカスを当て、九州有明海沿岸地域でのプロジェクトを事例に、農業、気候変動、生物多様性保全の両立を目指す取り組みを紹介しました。営農活動や農業基盤整備に伴う生物多様性への負の影響に目を向け、基本法改正の中で生物多様性保全を明確に位置づける必要性を訴えました。

世界自然保護基金ジャパン 久保氏の基本法改正に向けた提言まとめ

③ 田んぼの生きものたちと歩む農業への期待(特定非営利活動法人 ラムサール・ネットワーク日本 金井裕)

(発表資料)田んぼの生きものたちと歩む農業への期待(PDF/3.4MB)
 
金井氏からは、良好な湿地生態系を育んでいる田んぼは持続可能な資源として重要であるが、現在農法や水路などの構造、管理方法によって負の影響を大きく受けていることを紹介しました。生物多様性条約において決議された2030年までに国土の30%を保護地域にする目標を広くとらえ、耕地面積や水路延長の30%で環境配慮を行うなど国家レベルでの生物多様性保全の目標を実現するべきだと訴えました。

ラムサール・ネットワーク日本 金井氏の基本法改正に向けた提言まとめ

5.意見交換(パネルディスカッション)

パネルディスカッションでは、参加者から各地の農地の生物多様性が低下している現状が報告され、「無農薬・有機栽培は本当に大変だ」「農地の環境保全をすべて農家だけに押し付けるのは負担が大きすぎる」といった意見が出されました。それに対してパネラーからは、日本では商品に付加価値をつけて高く買ってもらう等の民間の取り組みに任されてしまっているが、海外では農地の環境保全の取り組みを補助金等の公的支援の仕組みも充実していて、日本も多面法や補助金全体の在り方を見直し、環境保全を含む持続的な農業を支援していく必要性があることが提案されました。

最後に今後の基本法改定のスケジュールとして、2024年の通常国会において基本法の改正案の提出が予定されており、この改正案の骨子は、2023年6月に、農水省の検証部会及び自民党の農林部会において決定される予定であり、今後はこれらの会議の動きに注目していく必要があることを共有しました。

食料・農業・農村基本法 改定のスケジュール

アンケートでは参加者からの満足度も高く「大変勉強になった」「企業や農家などの考えも聞きたい」「より一般を巻き込んだ普及活動を続けてほしい」「個人農家レベル、一般個人レベルで何ができるのかも聞きたかった」などの意見をいただきました。また、参議院議員の方から、事前にいただいたメッセージでは、私たち環境NGOが指摘した農水省の生物多様性戦略の強化や、関係省庁との連携などは、まさに的を射た意見であること、こうした考えや課題に向けた対策は広く共有され、持続可能な社会の実現に向けても積極的に政策に取り入れられるべきとのご意見もいただきました。


2024年基本法改正にむけて今まさに有識者による検証部会が開催され、誰でも傍聴可能となっています。私たちの暮らしに関わる大事な法律ですので、ぜひ多くの方に関心を持っていただければと思います。

日本自然保護協会ではこれからも基本法に環境保全が組み込まれるよう、他のNGOと協力しながら働きかけていきます。

スタッフ・参加者集合写真

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