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2022.12.14(2022.12.21 更新)

全国の潜在的OECM候補地 アンケート調査結果レポート

調査報告

専門度:専門度3

テーマ:生息環境保全海の保全川の保全里山の保全

生物多様性の新たな保全地域のしくみとして「OECM」が注目されています。国立公園のような従来の保護区とは異なるものの、民間の手により生物多様性が保全されていたり、保全が目的ではないが結果的に自然環境が維持されている場所をOECMと呼び、国際的にも登録していこうという流れがあります。

日本でも制度作りが進んでおり、国内版OECM「自然共生サイト」の認定登録が環境省により来年度から始まる予定です。これにあわせて日本自然保護協会では、全国にどのようなOECMの潜在的な候補地があるか、自然共生サイトへの登録の際の障壁となることは何かを明らかにするため、全国の市民や会員の皆様の協力を得てアンケート調査を行いました。

調査方法と回答数

調査は2022年の6~10月の4か月間をかけてウェブサイトで行い、全国の「既存の保護区ではないが民間により保全活動がなされている場所」や「保全活動は無いが結果的に自然環境が維持されている場所」など潜在的なOECM候補地の情報をお寄せいただきました。またそれぞれの候補地(サイト)について、土地利用や土地所有、自然環境の概況などを質問しました。調査内容の詳細についてはこちらをご覧ください。

調査の結果、全国38都道府県、121市町村(全1,718市町村の7%)から206件の回答を頂きました。

日本地図の画像潜在的OECM候補地の情報提供があった市町村の位置

NACS-J自然観察指導員の連絡会組織が団体を挙げてご協力くださった都道府県からは特に多くの情報をお寄せいただきました。重ねてお礼申し上げます。なお、結果的に自然が維持されている潜在的なOECM候補地はおそらく各市町村で数十カ所以上あることを考えると、今回得られたデータ件数は非常に限られた数だと言えそうです。その中でもデータ集計を通じて明らかとなったことを以下にお伝えします。

結果1:多様な土地利用タイプの「小さな」OECM候補地が存在する

お寄せ頂いたOECM候補地の土地利用タイプを見ると、最も多かったのが「農地・林地」が44%で、次いで都市公園が25%を占めました。しかし、他の土地利用カテゴリーの報告数はいずれも全体の5%以下であり、非常に多様な土地利用タイプのOECM候補地が報告されたことが特徴といえます。例えば社寺林、企業緑地、大学の緑地、河川敷、調整池、墓地、キャンプ場、城跡、遊園地、動植物園、海水浴場、運河、干潟など、実に様々なタイプの候補地をご報告いただけました。

表:土地利用のタイプ「

表:自然環境が残されれている緑地の広さ

もう一つの特徴的な結果は緑地の面積で、最も多かった回答が「10ha未満」で全体の49%を占めました。これは従来の保護区が大面積(例えば国立公園の平均面積は約7万ha)であることを考えると、重要な特徴です。
土地所有(複数回答可能)のタイプについては、最多が「公有地」の117件、次いで「個人の私有地」が87件でした。一方で土地管理者は「土地を所有する個人」が最多でした。これは、「公有地と個人の土地が混在する」との回答が33件(全体の16%)あったことによると思われます。

表:土地所有のタイプ(複数回答可)

表:OECM候補地の管理者

以上のように、報告のあったOECM候補地の多くは面積が10ha以下とたいへん小さく、土地利用のタイプも多様で、土地所有や土地の管理も複雑だということが示唆されました。国内版OECMである自然共生サイトの登録促進のためには、現在のサイト候補地はほとんどが企業緑地となっていますが、より多様な主体への呼びかけを行うことと、農地や森林を所有する個人・自治体・ボランティア団体など様々な主体が登録にメリットを感じてくれる制度を作っていくことが求められます。

また、公有地タイプの候補地の報告が全体の40%を占めた事にも留意が必要です。中でも都市公園の候補地の報告が多く、都市公園が都市部において生物多様性の保全上重要であることを示していると言えます。国は「生物多様性に配慮した緑の基本計画策定の手引き」を通じて各自治体に生物多様性の保全も配慮した公園管理計画の策定を求めていますが、各地域の都市公園のOECM登録についても強く推奨していく制度づくりが求められます。なお、現在の自然共生サイトの登録には土地の面積要件(面積の下限)は設けられておらず、どんな小さな場所でも価値があれば登録できることは、この登録制度のとても優れた点だと言えます。

結果2:「自然共生サイト」登録における障壁

次に、報告頂いた各OECM候補地を環境省「自然共生サイト」に登録する際、どういったことが特に課題になるかを分析しました。現在環境省で検討が進められている自然共生サイトへの登録要件・申請方法の内容(詳細はこちら)を踏まえ、特に登録要件に深くかかわるであろう6つの項目についてアンケートで尋ねました。206候補地のうち97カ所からご回答いただけました。

表:自然共生サイトの登録要件に関わる事項

分析の結果、自然共生サイト登録の最も大きな障壁となりそうな事項は「利用・管理に関する計画や文章の有無」でした。計画や文章が無いと回答したサイトは全体の38%を占めました。自然共生サイトへの登録申請にはサイトの管理方法の現状を文章として提出する必要があり、これをいかに簡便に用意できるかの支援の仕組みをつくることが、登録数を増加させていく上で重要となると言えます。

また「関係者間の意思疎通の機会があるか」という質問には、28%のサイトが「いいえ」と回答しました。ただしこれについては、現状での意思疎通の場がなくとも、自然共生サイトへの登録申請をきっかけにそのような機会が持たれるという、よい効果が期待できます。

また「地権者からの合意・理解があるか」の質問について、「いいえ」との回答は少なかったものの「その他」「不明」の回答があわせて67%にのぼり、大きな懸念点であることがわかります。「その他」の回答の内容は、「地権者全員からの合意を得るのは簡単ではない」「行政も仲介役となると思うので大丈夫」「地権者と話し合いをしており了解を得られそう」「市有地については協力が得られそう」「ほとんどの地権者がだれかわからない」など、さまざまでした。

なお、サイトの土地所有が公有地か私有地かで、地権者からの合意の程度には大きな差は認められませんでした。土地管理に自治体やボランティア団体が関わっているかどうかでも、明瞭な差は認められませんでしたが、回答結果(自由記述欄)からはボランティア団体が地権者との意思疎通を行っているサイトが多いことや、自治体からの登録合意や自治体職員から地権者への説明が期待されていることなどが読み取れました。

表:土地管理者と、地権者と合意理解の関係

表:土地所有タイプと、地権者と合意理解の関係

なお、自然共生サイトの登録推進の課題の一つとなっているのが「モニタリング調査」ですが、自然観察やモニタリング調査が普段行われているかについては61%のサイトが「はい」と回答していました。ただし回答のあった全サイトの約25%にNACS-J自然観察指導員が関わっていることから、一般的なOECM候補地よりもこのような活動が活発な可能性もあります。

また、サイト内で行われている生物多様性保全や環境教育活動について尋ねたところ、約7割のサイトで何らかの生物多様性保全活動や環境教育活動が行われていました。これらのサイトが各地域の生物多様性保全・環境教育活動の拠点として機能しうる、重要なOECM候補地であると言えます。一方で、保全活動を行う主体はいないものの結果的に重要な自然環境が残されているような場所の情報は得にくく、その実態把握が課題であるとも言えます。

表:実施されている生物多様性保全活動

表:実施されている環境教育活動

NACS-Jのこれからの取り組み

今回ご報告頂いたような「身近にある小さく多様な」OECM候補地は、日本の生物多様性の保全に極めて重要な役割を果たしています。日本では2023年度から本格的にOECMの制度が始まるところですが、まだまだ課題が多いのが実情です。NACS-Jでは環境省のOECM検討会に委員として参画するとともに、独自のプロジェクトを2023年度から本格始動できるよう準備を進めています。

多様で小さなOECM候補地が保全され自然共生サイトへと登録できるよう、各自治体の様々な部局から協力を得られる仕組み作りと、地元企業やNACS-J自然観察指導員が関わりながら保全上重要なサイトへの様々な支援が実現する枠組み作り、市民や企業社員でも簡便にモニタリング調査や計画文章作りができる技術開発、を並行して進めています。今後の取り組みにご期待ください。

全国の潜在的OECM候補地の例

今回のアンケート結果で、公開が可能な潜在的OECM候補地の一覧を以下に記します。

都道府県 市町村 OECM候補地の名称 自然観察指導員・
NACS-J会員の関与
北海道 帯広市 緑ヶ丘公園
北海道 帯広市 帯広の森
北海道 白老町 白老町ウヨロ環境トラスト
北海道 別海町 第2清丸別川湿原
北海道 札幌市・江別市・北広島市 野幌森林公園
岩手県 大船渡市 大小迫つむぎの家
岩手県 陸前高田市 大野海岸
宮城県 仙台市 坪沼地区
宮城県 仙台市 八木山ベニーランド
秋田県 男鹿市 男鹿半島・寒風山
福島県 福島市 福島市小鳥の森
福島県 福島市 清水観音
茨城県 守谷市 梅作公園
茨城県 かすみがうら市 牛渡の森
茨城県 つくばみらい市 愛宕神社
栃木県 那須烏山市 シモツケコウホネ自生地
群馬県 前橋市 サンデンフォレスト
群馬県 高崎市 高崎インプリの森
群馬県 太田市 上州太田ビオトープの里
群馬県 沼田市 玉原高原
埼玉県 入間市 谷田の泉
埼玉県 和光市 白子湧水群
埼玉県 白岡市 岡泉鷲神社
埼玉県 毛呂山町 簑和田湖周辺
埼玉県 宮代町 東武動物公園
千葉県 千葉市 堂谷津の里
千葉県 松戸市 紙敷石みやの森、紙敷みなみの森、紙敷野うさぎの森
千葉県 松戸市 21世紀の森と広場
千葉県 松戸市 八柱霊園
千葉県 松戸市 江戸川河川敷
千葉県 松戸市 根木内歴史公園
千葉県 野田市 尾崎谷津
千葉県 茂原市 橘樹神社
千葉県 茂原市 鶴枝ヒメハルゼミ発生地
千葉県 茂原市 茂原公園
千葉県 成田市 坂田が池総合公園
千葉県 成田市 成田山公園
千葉県 佐倉市 佐倉城址公園
千葉県 佐倉市 佐倉市民の森
千葉県 佐倉市 佐倉市西御門環境保全ゾーン
千葉県 佐倉市 野鳥の森
千葉県 佐倉市 馬渡姫宮神社境内林
千葉県 佐倉市 大宮神社境内林
千葉県 佐倉市 飯野湿地と周辺の斜面林
千葉県 佐倉市 宿内公園
千葉県 佐倉市 臼井城址公園
千葉県 佐倉市 諏訪尾余緑地及び鏑木緑地保全地区
千葉県 佐倉市 (仮称)佐倉西部自然公園
千葉県 東金市 東金ダム周辺
千葉県 柏市 手賀の丘公園
千葉県 柏市 利根運河エリア
千葉県 柏市 手賀の復田プロジェクト
千葉県 柏市 利根川周囲堤周辺(大室地域~花野井地域)
千葉県 柏市 十余二の森
千葉県 柏市 高田みどりの広場
千葉県 柏市 正連寺公園予定地
千葉県 柏市 下田の杜
千葉県 柏市 こんぶくろ池自然博物公園
千葉県 柏市 増尾城址総合公園
千葉県 柏市・野田市・流山市 利根運河土手・理窓会記念公園
千葉県 流山市 上新宿から新川
千葉県 流山市 大畔の森
千葉県 市原市 風呂の前カタクリ自生地
千葉県 八千代市 島田谷津
千葉県 八千代市 伊勢谷津野草保存園
千葉県 君津市 千葉県立清和県民の森
千葉県 君津市 豊英島
千葉県 君津市 御霊神社
千葉県 君津市 三舟山
千葉県 四街道市 たろやまの郷
千葉県 四街道市 四街道総合公園
千葉県 袖ケ浦市 袖ケ浦市しいのもり
千葉県 印西市 草深の森と弁天池谷津
千葉県 印西市 別所谷津公園の水辺
千葉県 匝瑳市 宮本地区
千葉県 山武市 成東城跡公園
千葉県 山武市 さんぶの森公園
千葉県 山武市・東金市 成東・東金食虫植物群落
千葉県 一宮町 松子の里
東京都 台東区 上野恩賜公園およびその近隣
東京都 葛飾区 水元公園
広島県 府中市 東谷
東京都 調布市 神代植物公園水生植物園
東京都 町田市 図師小野路歴史環境保全地域と周辺の林地
東京都 町田市 町田市北部丘陵
東京都 町田市 三ツ目山公園
東京都 清瀬市 金山調節池
神奈川県 川崎市 柿生の里特別緑地保全地区
神奈川県 川崎市 生田緑地中央地区北側の谷戸
神奈川県 逗子市 逗子沼間の雑木林
神奈川県 二宮町 二宮町中里の里山
長野県 栄村 栄村自然植物園
静岡県 藤枝市 憩いの杜(住友ベークライト株式会社静岡工場ビオトープ)
静岡県 御前崎市 久々生海岸
静岡県 牧之原市 千頭ヶ谷ビオトープ
静岡県 牧之原市 赤坂池ビオトープ
愛知県 豊橋市 豊川河畔林
愛知県 春日井市 高森山公園
愛知県 犬山市 五条川
滋賀県 大津市 大津市立瀬田公園
京都府 南丹市 南丹市美山町田歌集落
京都府 南丹市 江和地区
大阪府 大阪市 大阪城公園
大阪府 羽曳野市・富田林市 石川河川公園自然ゾーン
兵庫県 姫路市 栃原集落
兵庫県 淡路市 淡路景観園芸学校エコ池
兵庫県 淡路市 兵庫県立あわじ石の寝屋緑地
奈良県 五條市 御山町の里山
奈良県 生駒市 Aファーム
奈良県 生駒市 同志社大学経済学部里山きゃんぱす
奈良県 王寺町 火幡神社
岡山県 真庭市 津黒湿原
広島県 安芸太田町 三段峡
山口県 山口市 東鳳翩山
山口県 山口市 十種ヶ峰
福岡県 福岡市 和白干潟と周辺地域
佐賀県 小城市 天山
熊本県 熊本市 柿原の迫谷
熊本県 水俣市 鬼岳
熊本県 水俣市 坂口地区
熊本県 水俣市 水俣の尾根の山々(大関山、亀嶺峠、矢筈山)
熊本県 水俣市 西ノ浦半島及び袋湾
熊本県 水俣市 無田湿原
大分県 大分市 梅ノ木天満社吉野梅園

※下にスクロールできます。

本件に関する問い合わせ先

公益財団法人日本自然保護協会 OECM担当
高川 晋一(TAKAGAWA Shinichi)
03-3553-4101(代表) satoyama@nacsj.or.jp

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