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2020.09.15(2020.09.17 更新)

愛知目標の最終評価文書、地球規模生物多様性概況第5版(GBO5)の発表

解説

専門度:専門度3

テーマ:生物多様性地域戦略生物多様性条約国際

2010年、生物多様性条約第10回締約国会議が愛知県名古屋市で開催され、2020年までの20の目標をもつ愛知目標が採択されました。それから10年が経過し、9月15日愛知目標の最終評価を記した「地球規模生物多様性概況第5版(GBO5:Global Biodiversity Outlook5)」が発表されました。

GBO5の内容のポイントと、日本における今後の生物多様性政策について、日本自然保護協会の国際担当である道家哲平が解説します。

 

愛知目標評価の発表「目標達成度は1割」

GBO5のポイントを列記すると下記となります。

  • 内包する要素をすべて達成まで満たした目標は20個中ゼロ
  • 達成の要素を含む目標は6目標(外来種侵入ルート把握、保護地域の拡充、遺伝資源利用の利益配分の仕組み構築、国家戦略の策定、科学技術の推進、資源の倍増)である。
  • 愛知目標20目標を分解すると60要素。要素が達成された判断できるのは7要素(外来侵入種経路優先度、陸の保護地域面積、海の保護地域面積、名古屋議定書発効、国家戦略策定、科学技術増大、国際資源フローの倍増)となり全体の12%、約1割にあたる。
  • その他の評価では、進展があるが不十分(38要素、63%)、進展なしまたは後退(13要素、21%)、達成度不明(2要素、3%)となった。
  • この10年の成果を活かすとともに、SDGsの達成と人と自然の共生する社会を目指すには、土地利用、農業、淡水、漁業、食料システム、都市とインフラ、気候アクション、ワンヘルスアプローチのテーマでの改革が必要である。

▲20の愛知目標を分解した60の要素における達成状況

愛知目標の最終評価として達成度は1割という厳しい状況ではありましたが、未達成項目からも、達成項目からも今後に向けて学ぶべきことがあることも明らかになりました。

自然保護は機能する

例えば、未達成となった「絶滅危惧種」についてですが、この10年何も行われていなかったわけではありません。これまで20年間の保全活動がなければ、哺乳類や鳥類では、絶滅危惧リスクは2から4倍の高さになっていました(保全の成功事例として、日本のトキの再導入事業の成功が紹介されています)。

陸上および海域保護地域の拡大なども見られており、自然保護の成果は着実にあったといえます。

成功とされた国家戦略から見える課題

“達成”とされた「生物多様性国家戦略」については、愛知目標を受けて、生物多様性国家戦略を改定した国は、確かに条約加盟国の86%を占める168か国に及ぶものの、改定した国が100を超えたのは2016年中頃。愛知目標達成の実施に向けたスタートラインに立った国が、2016年の中盤でやっと半分になったということもわかりました。また、多くの国で設定された目標が、世界目標よりも意欲度の低い目標設定だったこともわかり、生物多様性国家戦略の意欲度を高める仕組みも教訓とされています。

アフターコロナ社会における生物多様性の重要性

新型コロナウィルスと生物多様性の関係にも注目されています。

新型コロナウィルスや、西ナイル熱、エボラ出血熱、SARSやMARSなどこの20年の間に名前を聞いたこれらの感染症は、全て、動物由来感染症です。その関係は単純ではないものの、自然の損失や劣化がもたらす人と自然の関係変化が、野生動物が保有していたウィルスが感染症として人への感染の発生と感染拡大につながったこと、その頻度や影響の拡大が年々増加していることが指摘されています。野生動物から人だけでなく、野生動物から家畜そして人への感染というルートもあることから、自然・人・家畜がともに健康(健全)であることが重要である「One Health(ワンヘルス)」という考え方の重要性が、人と自然の共生する社会を目指す上で指摘されています。
 

GBO5を受けて、日本は何をなすべきか

こうしたGBO5の内容を踏まえて、日本は何を考えていくべきでしょうか。

1.日本における達成度の評価と課題整理が必要

日本は、2018年に第6次国別報告書という生物多様性条約のプロセスにのっとった評価を生物多様性条約に提出しています。そこでは、目標達成が2割、進展はあるが未達の目標は5割強としています。生物多様性国家戦略2012-2020の評価と共にこれから最終評価が行われることになると思いますが、GBO5が行ったように、各目標の10年の評価を行い、愛知目標に代わるポスト2020枠組みや新たな生物多様性国家戦略の策定プロセスに活かしていくことが重要でしょう。
 

2.人と自然の共生社会を主張した日本としての政治の力が必要

日本における生物多様性国家戦略の評価は今後発表されると思いますが、今の時点でも分かっているのは、現行の生物多様性国家戦略では、有害な補助金の改革(愛知目標3)や資源動員(愛知目標20)の国内目標が設定されていないため「評価できない」ということです。生物多様性を保全するための公的資金の流れや国も含めて投資していくという意思決定を避けたまま、この10年を過ごしたともいえます。
日本はGBO5でも共有されているビジョン「2050年に人と自然の共生する社会」をCOP10において提案した国です。2050年に向けて、人口減少社会という大きな課題に直面する日本だからこそ描ける「人と自然の共生する社会」への投資が必要でしょう。これは行政の中だけで決められるものではありません。7年8カ月を担った安倍政権ではできなかったことを、次の政権による政治の力と決断で実現することを期待します。
 

3.生物多様性・世界における日本の正負の影響を検証するべき

GBO5の中では、「大事な実施の要素」の検証と評価が漏れていると考えています。それは、生物多様性日本基金の果たした役割です。2011-2020の10年間に総額50億円を生物多様性条約の活動支援、特に、途上国の能力養成に充てるという日本からの追加供出金(通常の供出金に加えて、任意に支出される資金。なお、米国未加盟のため、日本は最大の供出国で条約運営費の12%を支出)でした。50億円という金額は、生物多様性条約の運営費用のおよそ5年分に相当し、今回成功とされ生物多様性国家戦略の改定をはじめとする10年間の様々な事業に活用されてきました。
一方で、生物多様性日本基金がもたらすプラスの影響とは逆に、日本人の食産業・アパレル業などのライフスタイルを始め、日本企業のサプライチェーンは海外の自然資源に大きな影響を及ぼしています。IUCNレッドリストのデータを基にした分析でも、日本の消費と生産が、海外の生物多様性の劣化に悪影響を与えているという論文も出されました(Lenzen et al., 2012)。

生物多様性条約あるいは世界の生物多様性に関する日本の正負の影響を検証することが必要でしょう。
特に、生物多様性日本基金の継続の有無は、ポスト2020枠組みにも大きな影響を及ぼすものと考えられます。このテーマも政治のリーダーシップが求められるテーマです。
 

4.生物多様性は「二の次」ではなく、同時解決のテーマにするべき

生物多様性の保全と持続可能な利用に関して、新規の追加的な資金が必要ですが、生物多様性以外の政策や公共事業を、生物多様性の保全・持続可能な利用を同時に満たすように誘導するといった資源増の在り方も考えられます。
これまで、縦割りの弊害からか、生物多様性“も含めた”公益拡大を目指すという統合的なアプローチの組み込みが、前進は見られましたが、不十分で遅いと感じます。気候変動対策における再生可能エネルギーの推進を見ても、国立公園の地熱発電利用が推進されたり、風力・洋上風力・太陽光発電立地などではCO2排出抑制の成果ばかりが追求されて、防災・減災や生物多様性への配慮を誘導する施策が不十分で、多くの分野で生物多様性のトレードオフが生じてきました。

新型コロナウィルス対策も、東日本大震災の復興も、短期的な暮らしや経済の視点で意志決定をし、長期的に社会や経済がよって立つ自然の豊かさを二の次にした決断がなされてきました。GBO5が掲げる「土地利用、農業、淡水、漁業、食料システム、都市とインフラ、気候アクション、ワンヘルスアプローチ」の分野で、生物多様性をトレードオフにしない政策形成は日本でも必要となるでしょう。
 

5.NACS-Jは、新政権のビジョンや生物多様性政策を注視していきます。

「新型コロナは国難」という言い方があります。しかし、新型コロナウィルスは、日本も含めた、これまでの経済社会の在り方が、人と自然の関係を大きく変えたために発生したものと言われています。前の日本に戻るならば、世界各地の自然資源を求め、自然破壊を後押しするような消費と生産が続き、第2・第3のコロナのリスクを抱えることになります。GBO5の成果を踏まえたアフターコロナ・ポスト2020の社会ビジョンを打ち出せるのかどうか重要でしょう。
NACS-Jは、生物多様性の日(5月22日)にアフターコロナ社会への7つの提案を発表しました。これらの提案も踏まえながら、新政権の環境政策の動きを注視し、必要な政策提言や、現場での実践モデルづくりをしていきたいと思います。

参考資料:

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