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2020.01.24(2020.01.31 更新)

テクノロジー世代の自然保護(TECHNOLOGY NATURE CONSERVATION)

読み物

専門度:専門度2

テーマ:環境教育

フィールド:テクノロジー

コンピューターやインターネットなどは、人の暮らしや産業界の構造を大きく変えてきました。

私は長くメディアに関わる仕事をしていますが、この世界はインターネットの普及で大きく様変わりしました。かつて、朝の通勤電車の中では多くの人が紙の新聞や雑誌を読んでいました。ところが今では多くの人がスマートフォンを覗き込んでいます。

また、情報発信も新聞やテレビといったメディアが行う以外に、ブログやSNSなどで発信できるようになり、大きな影響力を持つ個人も現れました。これらのイノベーション(変革)は出版社や新聞社を経営的な苦境に至らせただけでなく、既存メディアに対する評価や信頼の度合いまでも大きく変えました。この変化の大波はわずか20数年あまりの間に起こったことです。

さらにこの大波はショッピングや金融の分野に及び、今後は交通や医療、教育などの分野にも及ぶことでしょう。すでに百貨店は閉店が相次ぎ、銀行も実店舗を減らしネットでのサービスに移行しつつあります。海外では自動運転やライドシェアなど自動車産業の周辺で大きな変化が始まっています。

こうしたイノベーションは、いくつかの技術分野で急速な技術革新が起こったことが原因です。

小型化・高性能化・AIの進化

まず、コンピューターやセンサーが小型化、高性能化しながらも安価になりました。これらのツールを使えば画像や音声、テキストなどアナログだったものをどんどんデジタル化できます。デジタル化したデータは容易に蓄積、管理、分析、比較ができるのです。

さらに、ここ数年AI(人工知能)が目覚ましい進化を遂げています。人があらかじめ教えたことに基づいて判断ができるだけではなく、そうしたデータから類推して、コンピューターが自ら判断ができるような性能を持つようになりました。高性能化したコンピューター上での人工知能の処理速度はますます速くなり、疲れ知らずです。

対象となるデータやチェックすべき映像が膨大なため、これまで人間が分類、解析できなかったものも、あっという間に処理することができます。そして、これまでそこにあっても理解、発見することができなかったことを瞬時に見出すことができるようにもなりました。

自然科学の分野でも、生態系や遺伝子、さらには宇宙の仕組みなど、目前にありながらもその仕組みの解明には至らなかったものの秘密が、次々と明らかになってきたのです。

急速に進む知識やツールの共有化

イノベーションは、ツールを変化させただけでなく、知識や研究、開発のプロセスの〝オープン化〟をもたらしました。基礎となる考えや手法を広く世間に公開して衆知を結集し、迅速により良いものをつくるためです。こうした行動は、同時に知識やツールを共有したりシェアしたりする風潮も生み出しました。

これらのイノベーションや思考、行動様式の変化により、これまで政府や大企業でなければできなかったことが、個人や小規模のグループにも可能となりました。それが今号で紹介したDIYバイオや、そこで行われている細胞培養やDNA解析なのです。

自然保護にもたらす影響

生物や環境と深く関わりをもちながら活動するNACS-Jも、こうしたイノベーションや世の動きと無関係でいることはできません。今号の特集は、NACS-Jの周辺で起きているイノベーションがもたらす変化のさまざまな面を理解することを目的として企画されたものです。

今回紹介した、人工知能を利用した図鑑アプリやセンサーカメラなどは、ツール類の進化と活用についてのレポートです。さらに、DNA解析による植物同定などは近い将来、NACS-Jの観察会や調査・研究にも直接関係するかもしれないイノベーションの例です。

さらに注目したのは、こうしたイノベーションの果実を生まれながらに享受している世代と自然保護活動との関係です。若い人たち、特に「Gen Z(Generation Z 2000年代に生まれた世代)」と言われる世代は現状に対する危機意識が強く、自分たちの将来のためにも地球環境を守りたいという意識を持つ人が少なくありません。

しかし、その意識が向かう先は、例えば環境負荷を軽減し、生物を守るために培養肉を開発するといったようなことであり、これが自然保護の活動だと考えている人もいるのです。

若い世代は、自然に興味を抱くアプローチも異なります。「森のDNA図鑑」で紹介したDNAシーケンサーは、近い将来スマートフォンの付属品ほどの大きさになるかもしれません。指紋センサーのようにスマホのセンサーに葉っぱをくっ付けると画面にDNAバーコードと同定結果が表示されることも夢物語ではないでしょう。ツールが普及すれば、この道具を使いたいという思いがきっかけで、生物や環境に興味を広げる人もいることでしょう。

異なる入口からやってきて、自然環境や生物を保護する必要性を感じる人たちが今後は増えることでしょう。しかし、そういった人たち、特に若い世代が注目する領域や課題は、現状のNACS-Jとは、近接してはいるものの少し異なるものになるのかもしれません。「脱化石燃料」、「代替タンパク源」……。

もちろん干潟を埋め立てから守り、里山の環境を保全することにも共感をしてくれるでしょう。しかし、優先度の付け方が異なるかもしれません。活動の方法も異なることでしょう。デジタルツールの活用、ネット上でのコミュニティ、アニメ、同人誌など自分たちが親しんでいるカルチャーとの融合……。

世代が異なれば、考え方や行動様式が違うのは当たり前です。特にその間に大きなイノベーションがあれば、前後の世代間には溝が生まれやすく、その先行例はメディアなどが示すとおりです。溝を埋めるには、考え方や捉え方の違いが何から来ているのかを理解することが必要です。

これからも世代間を越えて、大切な自然を守り、引き継ぐことが求められるNACS-Jにおいては、特にその努力が必要とされることと思います。

筆者写真

北元 均
新聞、雑誌、情報誌など多くのメディアサイトの立ち上げ、運営に関わる。2011年よりNACS-J評議員

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