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2019.05.15(2019.07.08 更新)

【沖縄・辺野古】ジュゴンを守る緊急院内集会&政府交渉を実施しました。

イベント報告

専門度:専門度2

テーマ:生息環境保全絶滅危惧種海の保全

フィールド:辺野古・大浦湾

保護部の安部です。

2019年4月16日に、衆議院第2議員会館において、北限のジュゴン調査チーム・ザン、ジュゴンネットワーク沖縄、日本自然保護協会の共催でジュゴンを守る緊急院内集会と政府交渉(環境省、防衛省)を開きました。

NACS-J辻村の司会進行のもと、ジュゴンネットワーク沖縄から細川太郎さん、北限のジュゴン調査チーム・ザンから鈴木雅子さん、浦島悦子さん、辺野古・高江を守ろう! NGOネットワークから関本幸さん、NACS-J安部が参加しました。

最初に院内集会を開き、この20年間にわたり沖縄の海でジュゴンの食痕調査を行ってきた細川太郎さん(ジュゴンネットワーク沖縄事務局長)から「沖縄のジュゴン存亡の危機」と題したプレゼンが行われました。

プレゼンは今年3月18日に死亡した個体Bの衝撃的な写真から始まりました。

続いて、かつては日本の南西諸島の多くの場所でジュゴンが見られてきたものの、近年では沖縄島周辺海域がもっとも頻繁に利用されてきたこと、沖縄防衛局が辺野古の埋め立て事業に伴う環境アセスメントで確認したジュゴン3頭(個体A、B、C)であることが説明されました。

工事や工事に伴う事前作業などが進むにつれて、行方不明になった個体AとCのことやジュゴン個体Bの死亡はこれまでの保護対策が不十分であったことを、如実に示すものです。

★詳細は細川さんのブログをご覧ください>>名護・自然観察日記「沖縄のジュゴン存亡の危機」

また以下から院内集会の様子を動画でご覧いただけます。

★20190416 UPLAN ジュゴンを守る緊急院内集会

 

続いて環境省との政府交渉を行いました。

環境省へ提出した質問と回答一覧(PDF/344KB)

環境省が、辺野古の埋め立てと絡む部分については沖縄防衛局にお任せという体制であろうということは予測ができましたが、やはり「特定の事業に関連する」ことは行えないとの回答でした。

当該事業が環境影響評価法の改正前の事案であるため、法律上権限がないことは法律上仕方がないとしても、改正後は環境省の関与が認められていることから、法的権限がなくとも公式・非公式の様々な機会をとらえ、環境省の所管である絶滅危惧種保全のための意見を述べ事業者に述べることが、環境影響評価法の理念に沿うことではないでしょうか。

ジュゴンを絶滅危惧種であると認識しながらも、嘉陽の藻場を使っていたジュゴンAが昨年10月より行方不明であることに対し、「まだいなくなったということが確定したわけではない。」という危機感のない姿勢にも驚きました。

また「予算がないから」ということを多くのことができない理由にあげていました。

私たち市民団体からすると、予算がなくても沖縄防衛局の資料を読んでジュゴンの動向を把握することはできますし、意見表明や注意などは他省庁にもできると思います。
予算の無い中で最善の策をとることが行政の務めではないでしょうか。

また今回の質問リストは交渉の1週間以上前に提出していたのですが、その質問の1つに含めていた海砂採取の件については、「海砂の実態や影響については把握していない。教えて欲しい」という回答をいただきました。市民への対応として不誠実ではないかと思います。

今回の交渉を受け、仮に今後ジュゴンの地域絶滅がおきてしまったとしたら、環境省の責任は逃れなれないということを指摘しておきます。この日に公表された資料【ジュゴンと地域社会との共生推進の取組(平成30年度結果概要)】により、昨年8月に八重山諸島にある波照間島沖にも新たなジュゴン親子2頭の目撃の事例という喜ばしい事実があることがわかりました。

しかしながら、八重山諸島には米軍基地問題はないものの自衛隊基地造成の計画があり、多くの場所でリゾートホテル開発が進み、大型のクルーズ船や航空機が来るなど資源の過剰を招きかねない現状であり、また気候変動によるサンゴの白化が広範囲に起こるなど自然自体が弱っています。

このような厳しい条件のなか、どのような制度やしくみを使ってジュゴンを保護していく所存かを聞いたのですが、「目撃情報を収集する」以外のことは予定されていないようです。

環境省は2004年の時点でジュゴンが種の保存法の国内希少野生動植物種選定要件に該当すると認めているのですが、ジュゴンの生息地を守るための手立てを行われないまま時が過ぎています。

今回の環境省の発表はとてもうれしいニュースでしたが、現在の姿勢では、日本の哺乳類の中で最も絶滅の恐れがある動物であるジュゴンを守ることはできません。まさに今、本腰を入れて保護対策を進めなければ、近い将来に日本の海でその姿を見ることは不可能となるととが予測できます。

一方で、予測の通り、防衛省は一切の判断を環境監視等委員会の判断に任せており、「工事の影響があるとは認識していない」との回答でした。

防衛省へ提出した質問と回答一覧(PDF/291KB)

 

以下、環境監視等委員会の問題点に関し4月13日付けの沖縄タイムスに、私(安部)が執筆した記事の一部を掲載します。裁判の裁決書に対する意見として書いたものです。

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裁決書において全般にわたり、事業者は各分野からの専門家からなる環境監視等委員会を科学的・専門的な助言を行うことを目的として設置しているので公有水面埋め立て承認の際に付された環境保全を行うのに問題がない、としている。しかしながら同委員会の運営要綱には「普天間飛行場代替施設建設事業を円滑にかつ適正に行うため、」という前書きがついている。つまりこれは事業実施を前提にした委員会であり、環境保全を目的とし中立に判断できる組織ではない。

加えて「議論の内容をその都度処分庁(沖縄県)に説明するなど」ができていると審査請求人は主張するが、これは実態と異なる。同委員会設置当初は議事録は作成されず、議事要旨のみの公開であり、その議事要旨ですら沖縄県の度重なる要請に応えず(会議実施後)速やかには公表されなかった。

さらに、同委員会の議事録における発言者の氏名を公表せずとも問題なしと(審査請求人は)主張するが専門家には専門分野というものがある。環境監視等委員の専門性はサンゴ礁、干潟、外来種などと多岐にわたる。果たして外来種の専門家がサンゴの移植に関して適切な助言ができるかどうか、考えるまでもない。特定の発言が意味を持つのは、その特定の分野の専門性を持つ人の発する言葉であることが前提であり、それが担保されない発言には意味がない。一般に匿名で論文を書く者はいないことからも明らかだろう。

同委員会の発言が科学的根拠を欠いていることはたびたび環境団体や研究者により指摘されている。撤回の時点(2018年8月)には明確でなかったものの、ジュゴンの保護措置が万全ではなかったからこそ、ジュゴン2頭が行方不明となり、1頭の死を間接的に招く結果となった。例えば(事業者は)ジュゴン保全に際し「主要な藻場」のみを調査し適切に保全していると主張するが、生息数が少ない絶滅危惧種を扱う際に「主要な餌場」のみ残すという措置は適切でなく、可能性のある全ての餌場を保護の対象とすべきであると考える。

生物の移植については、(事業者は)工事後に移植を行うことで対処できるとしているが、工事実施前に生物の移植を行うことは、相手がサンゴであれ海草であれ当然のことである。工事により環境が劣化し始めれば移植対象にストレスがかかる。ストレスがかかっている生物に対しストレスがかかる移植という行為を行えば、移植成功率は当然ながら低くなる。可能な限り環境を保全する、という姿勢ではない。サンゴに関しては複数のサンゴ礁研究者が属する日本サンゴ礁学会保全委員会からも指摘があった通りである。

「工事によるジュゴンの影響」を測るのならば、辺野古海域で行われている直接環境に改変を及ぼす工事だけではなく、監視・警戒船、海上保安庁の船、民間警備会社の船などの影響、土砂運搬船の影響、嘉陽や安部での調査による影響など、「本事業にともなう一連の作業」が環境に与える影響を考慮すべきであろう。加えてジュゴンやサンゴへの影響などを考慮する際に蓄積する影響」に対する視点が欠けている。環境変化が起こってすぐに生物に影響するとは限らない。すぐに出る場合もあれば、長期にわたり蓄積した結果現われることもある。

環境を総合的に見て判断することができない同委員会に判断をゆだねていては環境保全はできない。国は公平な視点から日本の財産である自然環境を守れる判断をすべきである。また沖縄県は、この判決を不服とし、公有水面埋め立て承認の際にふした留意事項である環境監視等委員会に不備があることを理由に再度の撤回を行うべきである。
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この記事の執筆には辺野古・高江を守ろう! NGOネットワーク の関本幸さんに多大なるご協力をいただきました。

 


▲政府交渉にて話題提供を行う細川太郎氏・ジュゴンネットワーク沖縄(関本幸提供)

 


▲細川太郎氏の話題提供で示された、日本近海でジュゴンが確認された海域(関本幸提供)

 


▲衆議院議員の近藤昭一先生と記念に

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