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2020.04.07(2025.05.26 更新)

【自然しらべ2019】みえてきたこと

報告

自然しらべ2019 全国アリしらべ!

調べる対象:アリ

2018年と2019年の2年間にわたって行った自然しらべ。1年目はご自宅のお庭や近所の公園など、皆さんの身近な場所のアリをしらべました。2年目は生物多様性や人の暮らしを脅かす存在である特定外来種にも目を向ける機会として、外来のアリに注意しながらしらべました。のべ2,201名が参加して287地点からの情報を得ることができました。報告のあったアリは2年間で81種類にもなりました。
この調査で得られた情報や全国のアリの現状をお伝えします。

自然しらべの2年間の概況

2年間の調査で得られたアリの情報は、各年でランキングの上下はありますが、ほぼ上位10種類の構成は変わりませんでした。日常的に普通に見られるアリについては、急激な変化が見られないことがわかりました。

調査地点の分布図調査地点の分布図

種名 2018 2019 合計
クロヤマアリ 145 30 175
トビイロシワアリ 112 19 131
アミメアリ 101 26 127
ハリブトシリアゲアリ 85 11 96
クロオオアリ 73 22 95
トビイロケアリ 72 14 86
オオズアリ 71 9 80
アメイロアリ 60 19 79
オオハリアリ 55 15 70
サクラアリ 4 10 14

分布に変化 が見られた、外国由来のアリ

ランキングに上がらなかったアリの中で、戦前に外国から日本に来たとされ、今回の調査で特に注目すべき分布変化が見られたアリを紹介します。

ケブカアメイロアリ

本州に本来生息しておらず九州以南に分布の見られたアリでしたが、1994年に広島県で発見されました。この記録以降、太平洋岸を中心に次々と発見されるようになり、日本海側の石川県や近年は東京都や神奈川県などの関東地方でも報告されました。
自然しらべでは、2018年度に名古屋市内の公園などで3か所見つかるなど分布を確実に広げていることが分かりました。さらに2019年度は東京都江東区で1か所、兵庫県神戸市で2か所からの報告がありました。

クロヒメアリ

島部を除いた関東地方では、2015年に東京都大田区の公園で初めて発見され、その後2017年に神奈川県横浜市で、 2018年に東京都墨田区で記録されているアリです。今回の自然しらべでも各地から報告されており、2018年は東京都八王子市と埼玉県坂戸市から、2019年は神奈川県横浜市から報告されました。本州で急速に分布を広げている種のようです。

クロヒメアリの画像撮影:平尾陽向子さん(山口県)

ルリアリ

これまで中部地方の沿岸部以南では多く確認され、近年は関東地方でも頻繁に見られるようになったアリです。関東地方では1970年以前は神奈川県の海岸沿いに分布が限られていましたが、1990年以降は各地で次々と生息が確認されるようになりました。自然しらべでも埼玉県での3か所の報告も含めて2年間で17か所見つかり、各地で密度を増していることがうかがえました。

ルリアリの画像撮影:寺本匡寛さん(愛知県)

侵略的外来アリの報告がありました

アルゼンチンアリ

外来生物法で緊急対策外来種にも指定されているアルゼンチンアリが、2019年の自然しらべで広島県廿日市市と兵庫県神戸市で確認されました。
アルゼンチンアリは1993年に広島県廿日市市で日本への侵入が確認され、その後1999年には広島県広島市と兵庫県神戸市で生息が確認されました。現在、防除対策がおこなわれているものの次々に分布の拡大が報告され、西は山口県から東は東京都までの12都府県からも記録されています。
本種は著しい環境撹乱を引き起こすほか、農業害虫、家屋・衛生害虫としても私たちの生活に大きな影響を与えます。難防除害虫で、侵入地域で分布を大きく拡げてしまうと、このアリの持つ高い増殖力により根絶は不可能です。ただし、集団が小さい段階では根絶可能で、現在東京都、神奈川県、静岡県の集団で根絶に成功しています。侵略性の高い外来アリは初期発見による徹底根絶が重要です。

アルゼンチンアリの画像撮影:坂井章さん(広島県)

そのほか影響が心配な外来アリの報告

クロコツブアリ

体長1-3mmほどの小型で黒いアリで、触角が9節からなる特徴を持ちます。本種の原産地は南米ですが、アメリカ合衆国に侵入し分布を広げています。アメリカでは頻繁に家屋に侵入し、衛生害虫、不快害虫とされ“rover ant(うろつきアリ)”と呼ばれています。日本では2002年に兵庫県神戸市の六甲アイランドから報告されました。
自然しらべでも、六甲アイランドで確認され、今回の発見で本種の分布が広がっていることも判明しました。

気になる「ヒアリ(アカヒアリ)」の2020年1月の状況

世界的規模で被害を及ぼしているアカヒアリは、国内では2017年5月に兵庫県尼崎市で発見され、以降船舶が運ぶコンテナ貨物から次々と発見されるようになりました。現在15都道府県から48事例(2020年1月段階)もの侵入記録があります。本種は、ピぺリデン・アルカロイドと呼ばれる猛毒を持ち、人や家畜への刺咬被害が著しい南米原産の侵略的外来種です。本種の被害は衛生害虫、畜産害虫に留まらず、農業害虫、生態系撹乱者、そして機械故障を引き起こす有害動物としてさまざまな被害を世界で与えており、最大の被害国のアメリカ合衆国では年間6000-7000億円の被害が生じているとされています。
アカヒアリが、世界規模で被害を与え、かつ防除が著しく困難である要因は、一つに侵入先での繁殖力が並外れて大きく、極めて高密度になることと、働きアリの行動が極めて活発で攻撃的である点です。通常の防除法で個体数を減少させても、その並外れた繁殖力により、速やかに元の状態に戻ってしまいます。薬剤を散布すればもちろん一時的に減りはしますが、どこかに女王が生き残れば、すぐに元の個体群密度に回復させてしまうのです。さらにもう一つの点として、定着に成功したアカヒアリは、私たちの社会の交通網に便乗してものすごい速度で分布を拡大して行きます。新女王が巣から飛び立ってしまった場合、交通網に付帯して国内のどこに運ばれて定着するか、見当がつかないのです。

寺山守先生の顔写真

●寺山守先生より(学術協力者)

特定外来生物のアリの侵入・定着は、我々の日常生活を著しく不便にさせ、これらのアリに対応した生活様式をとらざるを得なくなります。例えば、アカヒアリは毒針を持ち、巣があれば刺される危険がありますので、公園や広場が使えなくなります。春の花見も夏の花火大会も見学場所が限定されてしまいます。我々の社会のさまざまな部分に入り込んで広範に被害を与える生活破壊者、社会破壊者です。
このような侵略者に対して、私たちが自身の生活している環境を守るために、日常的に周囲に目を光らせ、アカヒアリの侵入を監視することが最も有効かつ重要だと思います。今回の緊急事態に対して、数少ない専門家に任せるのではなく、みんなで日本の自然と私たちの生活を守っていく姿勢こそ最大の力になると思います。

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