日本自然保護協会

ANNUAL REPORT 事業報告書

自然のちからで、明日をひらく。

日本自然保護協会(NACS-J)は、
人と自然が共に生き、
赤ちゃんからお年寄りまでが
美しく豊かな自然に囲まれ、
笑顔で生活できる社会の構築に貢献します。

報告書PDF版ダウンロード

理事長あいさつ

亀山 章

亀山 章

日本自然保護協会は、2016年に、2020年度までの中期5か年計画を策定しました。これは今後の大きな飛躍を目指す挑戦的なものでしたが、年次が進むにつれて資金や人手の不足などにより実現が不可能なことが予測されたことから、計画年度中の2019年に計画の見直しをはかり、新たに中期事業計画2020―2024を策定しました。

新たな計画では、活動の柱を3つに絞り、目標をより明確にした事業展開をはかることとしました。しかし、年度当初からコロナ禍に見舞われ、2020年4月7日に緊急事態宣言が発出されてから、事務局は在宅勤務を主とした体制にし、対人関係の接触を減らすために出張は大幅に抑制したことから、イベントを主とした活動に大きな支障が生じました。特に、自然観察指導員養成事業は、コロナに対して三密を避ける方針から講習会の実施を大きく減らすこととなり、事業の進捗は著しく妨げられました。そのような中ですが、コロナ禍における自然観察会のガイドラインを公表するなど、パンデミック下でのイベントのあり方についての指針を示して、ウィズコロナ、アフターコロナの活動の方向性を示すことができました。

これまでに大きな進展が見られなかった海の保護活動では、海岸域のゴミ汚染に対する意識啓発と生物多様性の保全に取り組むイベントを行うことができ、砂浜ノートを全国の5万人の小中学生に届けて、海に目を向けるきっかけをつくることができました。新たな事業展開の芽出しができたと思われます。

赤谷プロジェクトでは、イヌワシが5年間に3度の繁殖を成功させるなど目ざましい成果をあげ、南三陸など他地域への活動の広がりに展望が見られるようになりました。

再生可能エネルギーの普及にともなう風力発電、地熱発電、太陽光発電等の事業の開発に関しては、国立公園等の自然保護についての意見書や声明を発出し、防災・減災への対応については、球磨川水系川辺川の流域治水への意見書の提出も行ってまいりました。近年、企業と連携した保護活動が躍進していますが、法人という人格を持った新たな活動主体と連携することが、今後の展開に大いに期待されるところです。

私たちのスローガン「自然のちからで、明日をひらく。」は、IUCN(国際自然保護連合)の主唱するNbS(自然を基盤とした解決策)と共通するものであり、これからも活動の指針としてまいります。

公益財団法人日本自然保護協会
理事長  亀山 章

2020年までに掲げた
6つの目標

日本自然保護協会は、会員と支援者に支えられた、持続的かつ社会的価値のある自然保護団体となることを目指し、2016年に「経営戦略マスタープラン2020」を作成し、6つの中期目標を掲げました。
目標到達年となる2020年、目標1~3で取り組んだ個々の事業では少しずつ成果も出始めました。一方、目標4や5に上げた支援拡大や活動の連携強化の分野は、未だ道半ばです。また、会員の減少傾向が続き、厳しい財政状況が続いています。
新しい中期事業計画2020-2024を進めるにあたり、これまでの成果を6つの目標に沿ってふり返り、ご報告します。

GOAL 1

自然を守り生物多様性の損失を食い止めた
現場実績を増やし、自然保護のしくみや
制度づくりの実績を増加させる。

生物多様性の損失を食い止めるため、2016~2020年度もさまざまな現場で活動に取り組みました。海の保護では、2014年には米軍基地移設が完了する計画だった辺野古・大浦湾における埋立事業を食い止め続けました。2017年度の沖縄県とのシンポジウム共催、2018年度のホープスポット登録など、これまでの活動成果を活かして連携を広げ、社会的影響を広げました。

絶滅危惧種とその生息地を保全する活動では、各地に地域NGOや専門家と連携体制をつくることができ、保全成果とともに、自治体や企業の参画、国際的な協力関係を得るなど、社会的影響も拡大しています。法制度への働きかけでは、参議院「国際経済・外交に関する調査会」への参考人招致で日本の海洋保全政策への意見を述べたほか、種の保存法や温暖化対策法などの改定についてロビーイングを行い、付帯決議などの成果を得ました。

再生可能エネルギーの開発に関しては、国立公園内での規制緩和への意見、太陽光や風力発電のアセスメントの規模要件などの整備を提案しました。また海洋プラスチックごみ問題解決に向けて他のNGOと共同で基本法案を関係省庁に提出しました。このほか、環境省の自然再生委員会や林野庁の林政審議会などの委員を務め、生物多様性保全の見地から意見を発信しています。

2016~2020年度に取り組んだ活動地

大船渡市吉浜地区における大規模太陽光発電事業について要望書

詳しく見る

屋久島の低地照葉樹林の環境保全を求める要望書

詳しく見る

砂浜しどういんサミットin表浜

詳しく見る

山口県上関の原子力発電所建設とボーリング中止を申し入れ

詳しく見る

中池見湿地で国内初の環境管理計画づくりが実現

詳しく見る

泡瀬干潟のラムサール条約湿地登録に向けた取り組みを提案

詳しく見る

奄美・嘉徳海岸の陸と海の連続性保全を要望

詳しく見る

リニア中央新幹線計画に自然環境問題への対応を求める

詳しく見る

辺野古・大浦湾ホープスポット”希望の海”

25,925

辺野古・大浦湾ホープスポット“希望の海”の
サポーター署名人数

ホープスポット・・・米国NGOミッションブルーが認定する“世界で最も重要な海域”。世界で約110ヵ所以上が認定されており、辺野古・大浦湾は日本初の認定。ホープスポットに認定された辺野古・大浦湾一帯の貴重な自然の保全を求める署名(追加1,798名分)を日本政府と沖縄県に提出しました。

→関連ページへ

2016
2017
2018
2019
2020

42

2020年度に出した意見書・要望書の数

自然保護の課題を解決するためには、世の中のしくみの見直しや政策の改善が不可欠です。日本自然保護協会は意見書や要望書などを通じて、国や自治体にさまざまな政策提言を行っています。

2016
2017
2018
2019
2020

226万件

モニタリングサイト1000里地調査で集まったデータ数
(2016~2020年度累計)

モニタリングサイト1000里地調査(モニ1000)は市民の手による里山のモニタリング調査です。約200ヵ所の里山を同じ方法で調べ続けることで、全国レベルの自然環境の変化を早期に発見・把握することを目指しています。

→モニ1000詳細ページへ

四国のツキノワグマ澤井俊彦氏 撮影
四国のツキノワグマ
四国のツキノワグマ

FOCUS

絶滅を回避し
人との共存を目指す

2017年度より、四国自然史科学研究センター、日本クマネットワークと連携して四国のツキノワグマ個体群を絶滅させないための活動に取り組んでいます。四国はツキノワグマが生息する世界で最も小さい島であることから「ISLAND BEAR」を愛称とした普及啓発活動にも力を入れてきました。

2017~19年度の3年間は、それまで十分に把握できていなかった生息分布を明らかにするための大規模調査を実施しました。その結果、残念ながら、生息範囲はこれまでに把握されていた範囲のみであり、四国に生息するクマは二十数頭であることが明らかになりました。同時に、地元の方々にクマに対する意識調査を実施したところ、四国にクマが生息することを知らない人が4割いました。また、クマを怖いと思う人も8割を超えていました。一方で、ツキノワグマは肉食で体重が150~200kg近くになると思っている人が多く、ツキノワグマを正しく理解していないことも明らかになりました。

二十数頭になってしまった四国の地域個体群を確実に守るためには、根本的な対策を一刻も早く実施する必要があります。しかし、現状ではそのための予算確保も、地元住民や行政の理解を得ることも難しい状況があります。そこで、2020年度からは四国自然史科学研究センターの拠点を、クマの生息地の中心域である徳島県那賀町木頭に設置し、地域住民とともにクマの保全を進める体制づくりを進めています。

2020年度は、クマの被害が発生している養蜂箱の被害防止や、登山等で多くの方が訪れる拠点施設に大きな普及啓発パネルを設置するなど、地域での普及啓発活動を進めました。特に、木頭地区の(株)woodheadさんは、木頭スギを材料とした、ISLAND BEARロゴの入った箸(五陵箸)を製造したり、運営する那賀町立木頭図書館を四国のツキノワグマの情報発信拠点とする準備を進めています。2021年3月には地元の徳島新聞が、ツキノワグマの危機的な現状と私たちの活動について3日間の連載企画記事で詳細に掲載しました。少しずつではありますが、地元での認知と理解が進んでいる手応えを感じています。

今後は、那賀町木頭地区を拠点として以下の取り組みを進めていきます。

①生息状況のモニタリング調査
②普及啓発と地域の方々との連携の推進
③生息地の保護地域化とヤマザクラやミズナラ等の植林による生息地保全
④2030年を目指した(仮)四国ツキノワグマ保全計画(案)の策定

四国のツキノワグマ特設ページ→四国のツキノワグマ特設ページへ

TOPICS

草原のチョウ

草原のチョウ

—地域のちからで絶滅を回避し分布を広げる—

多くの日本のチョウが絶滅に瀕しています。絶滅危惧種の保全に取り組む「生物多様性保全室」を2016年に開設以来、その中でも特に減少率が高いとされる「草原のチョウ」に注目して保全活動を開始しました。

オオルリシジミ(絶滅危惧IA類)を保全する取り組みでは、長野県安曇野市の国営アルプスあづみの公園内の保護区を中心に、分布を拡大して市内各所で安定した自然発生が行われるよう、食草であるマメ科の在来種・クララを植栽するイベントを過去3回実施しています。2019年、2020年には新たな植栽場所でオオルリシジミの幼虫や卵が見つかるなど、成果が現れ始めています。

2020年6月には、安曇野市内に広く参加と協力を呼びかけ、植栽に協力してくださる住民の方々を対象に約2000鉢もの苗の配布が行われたことで、新たに市内約300カ所にクララの植栽範囲が広がりました。

今後も、植栽に協力くださる市民の輪が広がるよう取り組み、国営公園の隣接地区や安曇野市内への分布域拡大を目指して、地域の皆さんと協力しながら、植栽密度が低い地点などに計画的にクララを植栽していきます。

→オオルリシジミ保全活動2020年の成果報告とご支援のお願い

渡りをするタカ・サシバ

渡りをするタカ・サシバ

-中継地、越冬地、繁殖地をつないで保全する—

2016年にフィリピン北部で密猟されるサシバの保護活動を開始し、2019年にはサシバの繁殖地・中継地・越冬地の自治体が連携して保全活動を進めるための交流イベントとして「国際サシバサミット」を開催しました。

国際サシバサミットの開催を記念して、2020年10月、サシバの保全につながる琉球泡盛「寒露の渡り」が販売開始され、無事に完売しました。栃木県市貝町のサシバ生息地の休耕田をサシバの保全を目的に復田してつくられたお米を原材料として、日本最大のサシバの中継地である宮古島市伊良部島の泡盛工場「宮の華」で琉球泡盛がつくられました。泡盛が完売したことで、サシバが子育てする田んぼが今年も維持されています。

2021年10月には、国際サシバサミット2021宮古島を開催します。繁殖地、中継地、越冬地のサシバの生息環境保全として、神奈川県横須賀市でサシバの繁殖地復活を目指した復田作業や、奄美大島での越冬サシバ調査なども進めていきます。

 →サシバ保全活動最前線!
 →『寒露の渡り2020』が完売いたしました!

海洋保全政策への提言

海洋保全政策への提言

日本自然保護協会では、陸に比べて遅れている海の自然環境を保全するため、海にも保護区の設置を求めるなど活動を続けています。沖縄県の辺野古のサンゴ礁は、沖縄島で最大規模の海草藻場のある保護すべき重要な場所のひとつです。日本自然保護協会では20年にわたって辺野古・大浦湾の自然環境を保全する活動に力を注いできました。

この数年は米軍基地移設計画が具体的に動き出したこともあり、調査や提言などを積極的に行ってきました。2016年度には、ハワイで開催された世界自然保護会議で島嶼生態系に関する勧告を提案して採択されました。2018年度には、調査と遺伝子解析の結果を踏まえ、辺野古のアオサンゴと長島の洞窟を天然記念物に指定する取り組みも開始しました。2019年度には、日本自然保護協会の働きかけによって辺野古の一帯がホープスポット(希望の海)に認定される成果にもつながりました。
ほかにも、鹿児島県の奄美大島や山口県の上関などで活動を続けています。上関では、日本初の海のユネスコエコパーク登録を目指す取り組みを地元のNGOや漁師さんたちと進めています。琉球列島とともに世界自然遺産に登録された奄美大島では、海底にミステリーサークルをつくるアマミホシゾラフグを町の天然記念物にする要望とともに、周辺海域の貴重なサンゴ類も積極的に保護することを求めました。

海の保護区は、目標設定や管理の方法などに多くの課題が残っており、日本ではまだまだ途上段階です。国際的には2030年までに地球上の30%を保護区にする考え方が提唱されている中で、日本自然保護協会では、陸の保護区設定の経験を活かしながら、日本における海の保護区の質と量の拡大を目指していきます。

GOAL 2

生物多様性・自然のちからを活かした
モデルとなる地域づくりの実例を増加させる。

群馬県みなかみ町で取り組む赤谷プロジェクトは、自然環境の豊かさを地域の活力とするモデル性のある活動への深化を続けています。2017年には、みなかみユネスコエコパーク(BR)登録が実現。赤谷プロジェクトとみなかみBRによるみなかみ町との連携を強化し、BR地域を活用した企業連携への展開事例が多数できました。赤谷プロジェクトの柱事業としてイヌワシ保全を確立しつつあり、それらを南三陸地域へ展開したり、ニホンジカ低密度管理に着手するなど、多角的な展開につながっています。

群馬県みなかみ町
多様な主体による意思決定←→科学的根拠に基づく管理

利根川最上流部の1万haの広大な国有林「赤谷の森」を舞台に進めてきた赤谷プロジェクトは、2020年で開始から17年間が経過しました。5年に1度策定する「赤谷の森基本構想」は2010年から3回策定し、基盤となる10年間の協定書は2021年4月に3回目の締結を行いました。長期間続けることで把握できるモニタリングの成果が得られています。

長年にわたって積み上げたモニタリングの成果を、赤谷の森だけでなく、みなかみユネスコエコパーク、全国の森林の管理に活用していく段階にあります。特に、人工林の自然林への誘導、イヌワシの生息環境改善、ニホンジカの低密度管理、渓流環境の保全と治山の両立等、赤谷プロジェクトが注力してきた取り組みは、日本の森林に共通する課題の解決に向けたモデルとなっています。

イヌワシ
イヌワシ
イヌワシ

FOCUS

官民の垣根を超えた森林管理で
生息環境を再生する

赤谷プロジェクトでは、イヌワシの生息環境を改善するため、手入れがされていない成熟したスギ人工林を伐採して、イヌワシが狩りをできる環境づくりを2014年から進めています。2015年度に約2haのスギ林の伐採を開始し、2017年度に約1ha、2019年度1ha、2020年度0.6haの伐採を進めてきました。

これらの伐採地を1km四方の範囲内につくることで、イヌワシが効率的に獲物を探せるようにしました。実際に、伐採地の上空でイヌワシが獲物を探す行動の確認回数は年々増加し、2020年には計20回確認されています。伐採地内の獲物に向かっていく行動も2017年9月以降計3回確認されています。赤谷の森に生息する1つがいのイヌワシは、2010年以降6年連続で子育てに失敗していましたが、2015年以降は、2016年、2017年、2020年と3回子育てに成功しています。これらのことから、伐採地の創出が繁殖成功に貢献していると考えています。巣立った幼鳥は一緒に観察した地元小学生によって、キボウ、キズナ、ミライと名付けられました。

グラフ

赤谷の森でスギ林の伐採を開始して5年目となる2020年度は、これまでの成果のとりまとめを進めるとともに、次の5~10年の取り組みについて赤谷プロジェクトで検討を進めてきました。 イヌワシの絶滅を回避するためには、観察だけでは把握できない、遺伝的な劣化や、鉛中毒の影響の把握、万が一のために動物園等で個体を飼育することなど、様々な取り組みが必要です。それらの現状をイヌワシ保全にかかわる多くの関係者が共有するために、英文で発表された「ニホンイヌワシの保全学:現状と将来展望」の翻訳を行いました。引き続き、生息地保全を軸足にしつつ、多様な主体と連携を進めていきます。

日本のイヌワシは絶滅の危機にあるにも関わらず、生息地保全と調査研究が不足しています。赤谷プロジェクトでは、引き続きイヌワシの生息環境改善を進め、この取り組みを日本全国に広げていきます。現在、宮城県南三陸地域、長野県で取り組みを進めています。また、様々な主体と連携しながら、イヌワシを保全するための研究も積極的に進めていきます。

→赤谷の森のイヌワシが3年ぶりに繁殖成功!
→総説「ニホンイヌワシの保全学:現状と将来展望」翻訳版
→会報『自然保護』 特集:未来へつなぐイヌワシ保全

TOPICS

みなかみユネスコエコパーク

みなかみユネスコエコパーク

ユネスコエコパークは人と自然がうまく共生している地域を登録するしくみで、地域づくりに生物多様性保全を埋め込む上で有効な枠組みです。みなかみ町は2017年にユネスコエコパーク(以下BR)に登録されました。

日本自然保護協会とみなかみ町、群馬県自然史博物館は3者で「みなかみBR生物多様性保全推進協議会」をつくり、みなかみBRの中で基礎情報が不足しているイヌワシ、二ホンジカの全域調査および里山調査を実施しました。里山調査では、田んぼ、水路、草地、畦畔、森林、溜池、湿地などの景観要素ごとに生き物調査を行いました。調査した里山は約40カ所になりました。その結果、この地域に希少種が集中して存在する生物多様性保全上、重要な里山や特定の景観要素があることが初めて分かりました。

今後は、みなかみ町と協力して、みなかみBRの活動基本方針に重要な里山の保全を盛り込み、関係機関の協力体制を構築するとともに、重要な里山の保全対策(昆虫条例指定地の拡大)や野生鳥獣害対策(二ホンジカ低密管理)、遊休農地対策(地元産業である桐の植栽)など具体的な対策を進めていきます。また、生産の場だけでなく教育や観光の場づくりなど多様な利活用を提案・実践し、みなかみBR発の地域モデルを創出します。

日本自然保護協会とユネスコエコパーク

日本自然保護協会は自然を活かした地域づくりを促進するため、綾の照葉樹林プロジェクトでの取り組みを通じて2012年に登録された綾BRの活動支援を継続するとともに、日本に10カ所あるBRに情報提供や管理運営計画策定などの支援をしてきました。

2020年度から「ユネスコ未来共創プラットフォーム事業」を文部科学省から受託し、「日本のユネスコエコパークの制度強化に向けたグッドプラクティスの共有と実践活動」と題して、BRの事務局を担う自治体の担当者向け研修や海外情報収集を行い能力向上や連携強化を促進することで、みなかみBRや綾BRで培った自然を活かした地域づくりのノウハウをより広く普及していくことを目指します。

ニホンジカ

ニホンジカ—増加を食い止め低密度で管理する—

赤谷プロジェクトではニホンジカの低密度管理を進めています。これまで、増えすぎて森林生態系に悪影響が出てから実施されてきたニホンジカの管理を、低密度で被害がない段階から行うことで、森林生態系を健全に維持し、管理費用も長期的に低コストにすることを目指しています。

赤谷の森の全域51地点に設置したセンサーカメラの調査結果では、2008年から2019年までの11年間で、ニホンジカの出現地点は14倍に拡大、出現頻度は21.5倍に増加したことが分かりました。しかし、分布はまだ低密度で、森林生態系への悪影響は出ていません。2017年度からは誘引による捕獲試験も実施し、低密度下での効率的な捕獲方法の開発を進めています。

赤谷の森のニホンジカはまだ低密度な状況ですが、三国山にあるニッコウキスゲ群落に摂食がみられたため、2020年7月に防鹿柵の設置を行いました。また、ニホンジカはみなかみ町全域で増加が懸念されていることから、2019、2020年の2年間、町全域について赤谷プロジェクトと同様の手法で生息状況調査を行いました。その結果、みなかみ町東部に比較的生息数が多い状況が分かってきました。

低密度管理で重要なのは効率的な捕獲方法の開発です。そのため、ニホンジカの越冬行動の把握を目的とした行動追跡(GPS装着)の準備を進めています。また、みなかみBRと連携して、ニホンジカの捕獲体制づくりも進めていきます。

ライフスタイルと
自然保護 in みなかみ

赤谷の森の自然の恵みが、私たちの暮らしも豊かにする。2016年度からの5年間で、守ることのできた赤谷の森を舞台に、自然の恵みを持続的に活かした取り組みや商品がたくさん生まれました。無垢の木肌が美しいカスタネットや、森の木や水を原材料に使った化粧品などはその一部です。赤谷の森の豊かさを象徴するイヌワシをモチーフにした腕時計が完成して、多くの皆さまに手にとっていただけたことも嬉しい成果のひとつでした。

赤谷の森を舞台にスタートした「ライフスタイルと自然保護」をキーワードにした取り組みは、全国へ拡がりを見せつつあります。2020年度は、里山の指標種でもあるサシバとその生息地を守る活動の一環で、サシバの繁殖地(栃木県市貝町)の田んぼでつくられたお米を使い、渡りの中継地(沖縄県宮古島市)で泡盛を製造する取り組みが実現しました。また、その泡盛を原材料に使った化粧品も完成しました。全国の里山で自然を守ることに取り組んでいる農家の皆さんが大切に育てたお米の稲わらを使った紙もできました。手触りや色も味わい深く、日本自然保護協会特製の『砂浜ノート』や一部職員の名刺は、その紙を使ってつくられています。

赤谷の森では、イヌワシの試験地で伐採したスギの葉から抽出したオイルでルームスプレーが誕生するなど、引き続き取り組みは活発です。同じスギ材を建材としても活かすことができないかなど、地域の人たちと積極的な試行錯誤が続いています。日本自然保護協会では、これからも自然保護につながるライフスタイルの提案に積極的に取り組んでいきます。ご注目ください。

化粧品 腕時計

GOAL 3

市民の自然とのふれあいの機会や
「自然のちから」の理解の場を増加させる。

自然観察指導員養成事業では、2020年度までに講習会年間20回・年間育成数1000人を目標に掲げトライアルを続けてきましたが、継続率上昇や若い世代の増加などの顕著な成果には至っていません。一方で、自主の講習会開催や連絡会への共催呼びかけを強化したことで、講習会を通じた連絡会立ち上げや指導員間のネットワーク強化につながっています。モニタリングサイト1000里地調査では、スタートの10年前と比較して調査サイト数が1.2倍(238カ所)に増加し、集まったデータ数は226万件、参加者は累計11万4000人を超えました。

企業と連携した観察会やイベントへの参加者数は年々増加しています。2020年度は新型コロナの影響でイベントの中止や延期が相次ぎました。今後はオンラインなどもうまく活用しながら、一方で実体験としての自然とのふれあいの機会創出にも、引き続き力強く取り組んでいきます。

自然観察指導員

自然観察指導員(以下、指導員)制度は2019年で40周年を迎え、累計登録者は3万人を超えました。2016年度に実施した指導員活動実態調査では、全国の指導員の皆さんが開く観察会に年間のべ130万人もの多くの方々が参加していたことが明らかになりました。

日本自然保護協会では、指導員の仲間を増やすこと、指導員活動のフォローアップに力をいれて取り組んでいます。指導員講習会は参加希望者のニーズに合わせて、平日開催や託児付き開催、保護問題を抱える地域やエコパーク・世界自然遺産候補地での開催、複数の指導員連絡会との広域連携開催など、様々な新しい開催形態を実施しました。
2020年度は講義のオンライン化など、新型コロナウイルスにも対応した取り組みを始めました。開催回数を増やすことは叶わなかったものの、多様な動機・業種からの受講者の増加や共催先の増加など、新たな可能性が見え始めています。

指導員のフォローアップとして、若手指導員の活動支援や、気軽に観察会を始められる「木の観察会キット&英語観察会キット」の作成、指導員ネームホルダー新設や登録証の刷新を行いました。また、既存指導員と新指導員をつなげる新たな研修会のほか、ネイチュア・フィーリング研修会、自然しらべ・砂浜ムーブメントと連動した研修会などを開催、さらに介護の現場との新たな連携も開始しています。指導員40周年を記念して開催したキックオフイベントと指導員全国大会は、指導員の皆様の揺るがぬ志と温かさ、社会に変化をもたらす大きな力を改めて強く実感する機会となりました。
2020年度は、次の10年間の「自然観察指導員養成計画2030」を公表し、境遇に関わらず全ての子どもに自然観察会を届けることを目指した「すべてのこどもに自然を!プロジェクト」をスタートしました。指導員の皆様と新たな歴史を作る10年を楽しみにしています。

→自然観察指導員詳細ページへ

自然観察指導員 自然観察指導員
グラフ

自然観察指導員登録者数累計

30,736

TOPICS

ネイチュア・フィーリング実践テキスト

ネイチュア・フィーリング実践テキスト

ネイチュア・フィーリングでは、日本自然保護協会が進める自然観察会のコンセプトである「観察第一・解説は二の次」「五感で感じる」「いつでも・どこでも・誰とでも」を特に大切にしています。

様々な年齢や経験、からだの不自由さなどを個性として歓迎する観察会、視覚だけに頼らず五感を総動員して自然と向き合う自然観察会を目指して1988年から、全国の指導員の皆さんと30年以上続けてきた活動です。もっと多くの人にこの魅力と方法をお伝えしたく、長年の経験を凝縮した実践テキストを発刊しました。

内容は指導員向け研修会のテキストを骨格にしつつ、ネイチュア・フィーリングの事例紹介や指導員による実践報告、参加者目線での体験記も多く掲載しています。全国の指導員はもちろんのこと博物館関係者や園芸療法など様々な分野の方々からもお申し込みをいただき、初版はほぼ完売しました。

多様な個性の参加が社会で求められ、一方で実体験や対面交流の減少が懸念される時代にこそ、ネイチュア・フィーリングは感動をもたらし、人と人、人と自然をつなぐ架け橋になると信じています。自然保護教育に欠かせない内容が詰まった本テキストは今後増版し、活用していく予定です。

→関連ページへ

砂浜
砂浜のゴミ
砂浜ムーブメント

FOCUS

砂浜を見る目を増やす

日本自然保護協会では、自然海岸の減少や海ごみの問題など、海や砂浜が直面している課題の解決を目指した活動にも力を注いでいます。サンゴ礁の調査、海の生き物を守る会(代表:向井宏)と共催した砂浜の生きもの調査にはじまり、毎年実施している「自然しらべ」という取り組みでも砂浜や海辺の自然環境を重点的に調べてきました。調査結果は政策提言などに活かしています。

2019年度には“豊かな日本の砂浜を守り続けるために、砂浜を見る目を増やしたい。”をスローガンに、10万人のムーブメントを目指して「全国砂浜ムーブメント」をスタートさせました。その一環で制作した『砂浜ノート』は、海や砂浜の魅力や課題を子どもでも楽しく学べる特製のノートで、制作した部数の約10倍、4万部を超えるリクエストをいただく嬉しい反響となりました。その他にも、会報誌で砂浜を特集したり、自然観察指導員の研修会を砂浜をテーマに実施するなど、砂浜を見る目を増やす活動を続けています。

2020年度の全国砂浜ムーブメントでは、3つのアクションを呼びかけました。

・砂浜ノートを子どもたちに届けよう!
・砂浜のいきものを調べよう!自然しらべ2020
・砂浜や街中でごみを拾おう!

たくさんのリクエストをいただいた『砂浜ノート』は、増刷するためのクラウドファンディングにも挑戦しました。多くの皆さまからご支援をいただき、5万部の増刷を実現することができました。
自然しらべ2020では、1,249人の皆さまから3,215件の砂浜のいきものデータをいただきました。ごみ拾いでは、4,574人の皆さまが1,769,136個のごみを拾ってくださり、目標にしていた50万個を大きく上回る結果になりました。全国砂浜ムーブメントの盛り上がりとともに、社会的には、6月のG20大阪サミットで2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにする世界ビジョンが共有され、日本でもレジ袋が有料化されました。また、日本自然保護協会をはじめとするNGOのネットワークでは、日本政府に対して脱プラスチック基本法案の提案も行いました。

全国砂浜ムーブメントは2021年度も継続します。増刷することができた砂浜ノートの配布をはじめ、砂浜のいきもの調べやごみ拾いのアクションも今まで以上に強化していきます。新型コロナの状況を見ながら、対面での活動も少しずつ増やし、子どもたち向けの授業やワークショップ、自然観察会などを通じて、砂浜を見る目をさらに増やしていきたいと考えています。

全国砂浜ムーブメント→砂浜ムーブメント特設ページへ

企業との連携による
自然保護、
生物多様性保全の推進

日本自然保護協会では、2016年度からの5年間、企業の皆さまと連携して自然保護、生物多様性保全を推進する専門のチームを立ち上げ、活動に力を注いできました。会費やご寄付だけの関係にとどまらず、社員やお客様、地域の方々などを対象に自然観察会やワークショップを開催したり、ボランティア活動をご一緒したり、自然保護につながる商品開発を協働したりとその連携は多岐にわたっています。

当初からSDGsや愛知ターゲットを意識した連携を行っていることも特徴のひとつです。なかでも、自然とのふれあいやその大切さを五感で学ぶ教育普及活動では、毎年70回を超える活動を行ない、2016年度からの5年間で48,000名を超える皆さまにご参加いただきました。2020年度は新型コロナの影響で企業の皆さまとの連携にも制約がかかることの多かった1年でしたが、積極的にオンラインを活用した取り組みにも挑戦するなど、新たな可能性が広がった1年でもありました。

秋には、感染に注意を払いつつ、赤谷の森を舞台にしたボランティア活動を株式会社ニコン(以下、ニコン)や株式会社タムラ製作所の皆さまと実施するなど、実地での活動もすることができました。5年間続いているニコンの皆さまとの取り組みでは、続けてきた活動に一定の成果が見えてきたことから、赤谷の森のイヌワシの試験地にミズナラの稚樹を植栽するなど発展的な活動につなげることもできました。全体の活動の回数そのものは20回と減ってしまったものの、オンラインの効果もあり、2020年度も11,105名の皆さまにご参加いただくことができました。

SDGsやESGというキーワードが当たり前になりつつある今、日本自然保護協会では企業の皆さまと連携した自然保護、生物多様性の保全を力強く推し進めていきます。「ライフスタイルと自然保護」をテーマに、商品やサービスなどに自然と社会をより良くするしくみの導入を提案し、私たちの何気ない普段の暮らしが自然を守ることにもつながる社会の構築を目指します。また、自然とのふれあいの機会の創出では、ひとり親家庭の皆さまを対象にした自然観察会やワークショップなども今まで以上に力を注ぎ、自然保護を通じた社会課題の解決に積極的に挑戦していきます。

→企業連携詳細ページへ

自然保護 自然保護

TOPICS

わぉ!わぉ!生物多様性プロジェクト

わぉ!わぉ!生物多様性プロジェクト

日本自然保護協会がソニーグループ株式会社と協働している「わぉ!わぉ!生物多様性プロジェクト」は、スタートしてから6年が経ちました。生物多様性を守るために、一人でも多くの人に自然を好きになってもらいたいという想いから立ち上げたプロジェクトで、「わぉ!」な感動を多くの人に伝え、みんなで共有することで、「わぉ!わぉ!」という大きなムーブメントに育て、生物多様性の保全につなげることを目指しています。

自然観察会や保全活動などの自然に触れる「体験」では、毎年、多くの皆さまが参加してくださっています。プロジェクトの一環で実施しているフォトコンテストでは、1000点を超える応募があり、まさに大きなムーブメントになりつつあります。このプロジェクトではFacebookを活用した発見や感動の共有も特長のひとつで、“わぉ!博士”が生きもののおもしろい生態を紹介してくれるなど、自然のおもしろさや大切さを伝える工夫が満載のプロジェクトです。

2021年3月には、ソニーグループの「感動体験プログラム」との共催で、「わぉ!な自然観察会~自然の音を集めよう!~」を開催しました。「感動体験プログラム」は、ソニーグループと放課後NPOアフタースクールが連携し、放課後の子どもたちの体験をより豊かなものにするために、ソニーの技術やコンテンツを活用したワークショップをお届けする取り組みです。「感動体験プログラム」と「わぉ!わぉ!生物多様性プロジェクト」がコラボレーションして、ソニーのICレコーダーを使って、自然の音に耳を傾け、音を通して自然を感じてもらいました。

→わぉ!わぉ!生物多様性プロジェクト特設ページ(外部サイト)

GOAL 4

会員・支援者に支えられる
自然保護NGOとして、
多角的な支援を得る。

寄付金

88,024,294

会員・サポーター数

55,958
人/団体/法人

モニタリング1000参加者数

114,000

(累計)

連携する企業・団体数

250

GOAL 5

自然保護活動の連携を強化し、
日本自然保護協会の認知度を
飛躍的に伸ばす。

2016
2017
2018
2019
111万件

ウェブサイトアクセス件数

2016
2017
2018
2019
1962件

メディア掲載件数

2016
2017
2018
2019
1962件
1962件

SNSフォロワー数

TOPICS

とりまとめ報告書

とりまとめ報告書が英語の教科書に掲載

「モニタリングサイト1000とりまとめ報告書」の内容が紹介された読売新聞記事の英語版)が、大学向けの英語教科書に掲載されました!

→関連ページへ

日本自然保護大賞2021(第7回)

日本自然保護大賞2021(第7回)

すべての個人と団体・企業・自治体・学校等を対象に、日本の生物多様性保全に大きく貢献した取り組みへ毎年賞をお贈りしています。第7回となる今回は、全国から129件のご応募をいただき、大賞3部門に対して各1件のほか、特別賞として沼田眞賞1件、選考委員特別賞2件を選出しました。

新型コロナウィルス感染拡大防止のため、授賞式・記念シンポジウムはオンラインで開催し、9月16日に第6回の受賞者、3月13日に第7回の受賞者の活動発表と講評をライブ配信しました。受賞活動が各地の取り組みのモデルとなり、自然を活かした地域づくりの好事例として注目され、各地の報道で取りあげられたり、さらなる活動の発展につながっています。

→受賞活動の詳細ページへ

大賞/保護実践部門

吉崎和美(熊本県) 天草における長期的かつ総合的な自然環境保全活動

大賞/教育普及部門

生物多様性びわ湖ネットワーク(滋賀県)
トンボ100大作戦~滋賀のトンボを救え!

大賞/子ども・学生部門

あいおいカニカニブラザーズ(兵庫県)
兵庫県相生湾のカニたち~僕らの住むまちのカニを知りたくて

特別賞/沼田眞賞

畠島海岸生物群集一世紀間調査グループ(和歌山県)
畠島における海岸生物群集一世紀間調査活動~半世紀を終えて

特別賞/選考委員特別賞

豊橋市教育委員会、豊橋湿原保護の会、豊橋自然歩道推進協議会(愛知県)土壌シードバンクの埋土種子を活用し森林化した湿地を再生・保護する

特別賞/選考委員特別賞

長崎県立諫早農業高等学校食品科学部(長崎県)
森林環境の保護を目指した放置竹林削減へ向けた取り組み

GOAL 6

他分野の支援を得て、
段階的能力開発、
働きやすい職場環境を構築する。

新型コロナウイルスの影響も踏まえ、在宅勤務やリモートワークなど新たな働き方への対応を積極的に進めています。またバックオフィスシステムの導入など、一層の業務効率化にも取り組んでいます。
若松  伸彦
若松 伸彦 保護部

「提言や提案にとどまらず行動による改善が行える点で、やりがいのある職場です」

2020年4月からスタッフになりました。東北地方や中部山岳などのやや標高の高い場所で、植物や地形との関係についての調査研究、生態学や自然地理学の大学講義を行ってきました。上高地自然史研究会の研究代表者、ユネスコエコパークの学術支援組織である日本MAB計画支援委員会の事務局も担っています。
保護部では主に、会員などから寄せられる自然保護問題、無理な再エネ推進による影響評価と対応、自然公園対応、ユネスコエコパーク支援推進などの業務を担当しています。今後は山岳地域に関する自然保護問題を担当していければと考えています。
日本自然保護協会は、ダイレクトな自然保護活動ができ、提言や提案にとどまらず行動による改善が行える点では、やりがいのある職場です。これまでの経験や知識を活用して、日本の自然環境の保護に取り組んでいきたいと思います。

小林  彩
小林 彩 市民活動推進部

「仕事と育児が両立しやすい環境で働いています」

島根県に在住中の2020年6月末から日本自然保護協会での勤務を開始しました。その後8月末に千葉県に転居し9月に事務所へ初出勤するまで、完全リモートで勤務させていただきました。2か月間、画面越しでしか会ったことのなかった方々と「はじめまして」とご挨拶するのはこのご時世ならではですね。コロナ禍が続く現在も、月2-3度事務所に出勤する以外は基本的に在宅で勤務しています。また、子どもも未就学児ですので、始業・終業時刻を転居前後ともそれぞれの保育園の送迎に間に合う時間にずらさせてもらうなど、仕事と育児が両立しやすい環境にさせていただいています。

HIGHLIGHT2020年度ハイライト

新型コロナウイルスへの
対応

2020年度は新型コロナウイルスの影響により、人々が集って自然とふれ合う観察会や講習会、イベントが相次いで中止や延期に追い込まれました。そのような中、職員も初めてのテレワークに四苦八苦しながら連絡を取り合い、今、日本自然保護協会にできることを模索し、発信を積み重ねていきました。

引き続き、コロナ禍を乗り越え、自然観察指導員や会員、パートナー団体とともに、各地の身近な自然における調査・保全・教育活動の推進に取り組んでいきます。

HIGHLIGHT2020年度ハイライト

防災減災再エネワーキンググループの検討

エネルギーの転換、自然災害への防災・減災にどう向き合うか

風力発電

気候変動に伴い激しくなる自然災害への防災・減災対策、また二酸化炭素の削減に向けて化石燃料から再生可能エネルギー(以下、再エネ)への転換が世界的な課題となっています。人工構造物による防災対策や大規模化する再エネ開発が、生物多様性保全に対して深刻な問題を引き起こす現状も踏まえ、こうした地球規模の課題に日本自然保護協会がどのように向き合い、対応していくのか、ワーキンググループを設置して検討しました。

治水目的のダム・河口堰などの河川事業、東日本大震災後の復旧・復興の防災事業、また再エネの推進政策や規制緩和が引き起こす諸問題に対するこれまでの日本自然保護協会の取り組みをふりかえり、エネルギー転換と防災・減災対策の実施にあたっては、 ①自然環境を保全していくことの重要性を今まで以上に主張すること ②地域住民の協働による持続的な地域づくりの中で行われること が重要であることを確認しました。そして、開発への対応だけにとどまらず、地域に根ざした再エネ事業の望ましいあり方や里山林の熱エネルギー利用(薪の活用)、流域治水やグリーンインフラについても、地域で提言・助言、連携活動を進めるべく、研究・実践を続けていく方向性を示しました。

国際的に推進されているNbS (Nature-basd Solution、自然を基盤とした社会課題の解決策)の考え方が、日本自然保護協会の基本理念「自然のちからで、明日をひらく。」と一致することを改めて社会に明示し、国内で率先して普及し、NbSに基づく地域づくりの先進事例を日本自然保護協会の活動地から展開することに取り組んでいきます。

気候変動にかかわる防災対策と再生可能エネルギー開発についての検討ワーキンググループ

メンバー:
土屋俊幸 NACS-J理事・東京農工大学名誉教授
北元均 NACS-J評議員・株式会社デジタルガレージ
茅野恒秀 NACS-J参与・信州大学准教授

※西廣淳氏(NACS-J理事、国立環境研究所)、中村太士氏(北海道大学教授)を講師として近年の防災減災やグリーンインフラなどの概念や実例などのディスカッションも行いました。

2021年度に向けて

日本自然保護協会では、2016年に2020年までの中期5カ年計画を策定しました。2020年は生物多様性条約の愛知目標の達成年でもあったことから、私たちも活動の拡大を目指して野心的な計画を立てました。しかし、資金不足や人手不足などもあり、一部の活動を計画どおりに進めることができず、2020年の最終年を待たずに中期計画の見直しに着手しました。

新たに策定した中期計画「中期事業計画2020-2024」では、2030年までの10年間に日本の自然に大きな変化をもたらす要因を、広く社会全体の課題から捉え直しました。活動の柱を3つに絞り、活動を推し進めていくのが特徴です。

陸に比べて遅れている海や砂浜の自然保護活動をはじめ、赤谷プロジェクトをモデルにした自然を活かした地域づくりなど、これまでも力を注いできた活動をさらに強化していく一方、気候変動にかかわる防災や減災、再生可能エネルギーと自然保護の問題などにも挑戦していきます。また、ライフスタイルをキーワードにした新たな視点での自然保護活動にも取り組んでいきます。

社会課題と自然保護が密接に関わり複雑化する時代のなかで、社会にも自然にも良い変化をもたらすことができるよう、日本自然保護協会はこれからも自然保護活動に邁進していきます。

中期事業計画
2020–2024
PLAN FOR 2020–2024

わたしたちの活動の
3つの柱

1.

全国規模の自然保護問題の
解決と支援

グローバルな課題の解決に向けた活動

地域の団体だけでは解決できない全国規模の自然破壊、各地に共通する自然保護課題にナショナルNGOとして取り組みます。

2.

自然保護を通じた
社会課題の解決

ローカルで自然を活かした
地域づくりに貢献する活動

地域を取り巻く脅威や変化に対し、Nature-based Solutions(NbS:自然を基盤とした解決策)を打ち出し、課題を統合的に改善する事例をつくります。

3.

ふれあいの場と機会、
導き手を増やす

SDGsを担う人材育成

自然観察指導員をはじめとする自然の守り手・導き手を増やします。企業、地元団体、自治体と連携し、自然とふれあい、自然の大切さを実感できる場・機会を増やします。

報告書

本報告書の冊子フォーマットのPDFデータを
ダウンロードしていただけます。

報告書PDF版ダウンロード