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2023.09.14(2023.09.22 更新)

2023年恩納村サンゴ礁保全研修レポート

イベント報告

専門度:専門度2

テーマ:生息環境保全人材育成海の保全

フィールド:

2023年恩納村サンゴ礁保全研修報告書

東京大学大学院 農学生命科学研究科
博士課程2年 髙田健司

こんにちは、NACS-Jでアルバイトをしている髙田健司(東京大学大学院 農学生命科研究科博士課程2年)です。

2023年4月19~21日に行われたNACS-Jとパタゴニア日本支社の主催する「恩納村サンゴ礁保全研修」に参加しました。この研修の目的は、多角的に地域に根ざしたサンゴの保全活動に成功している恩納村をモデルとして、奄美諸島瀬戸内町を拠点に保全活動を実施する方々を対象に、ノウハウを継承することです。

サンゴの生態学的な研究をしている私は、地元の人々の行う保全活動がどのような効果を発揮し、生物や生態系の保全へつながっていくのかを知る、そして若者が地域の保全活動に関わっていくためにはどうすればよいか参加者の意見を聞く、という目的を持って研修に臨みました。

オーシャンビューの会議室研修初日はオーシャンビューの会議室からスタートです

サンゴの苗づくり体験とサンゴ養殖場の視察

沖縄サンゴ保全協会※1会長の山城正巳さんが実際にサンゴの苗づくりを行う施設やサンゴの放流を行う養殖場へ視察に向かいました。まずはサンゴの苗づくりの施設です。すべての苗が元気に育ち自然下へ放流されるわけではありません。苗サンゴを基盤へ固定させる際に、基盤とサンゴの合わさる表面積がなるべく大きくなるようにすると、そこから活着し自身の体を拡大していきますが、活着できずにそのまま死んでしまうサンゴも少なくないとのことです。

サンゴの苗づくり体験後は、成長した苗を放流している養殖場を海に潜って見学しました。所々、白化している群体や骨格だけのサンゴもいますが、体全体からポリプを出し、元気のあるサンゴの方が圧倒的に多いように感じられました。その一方で成長速度が速く養殖に適しているミドリイシ属以外にも、絶滅が心配されている種類や水温変化に弱い種類の養殖にも取り組んでいく必要性を感じました。

屋内水槽の写真サンゴの苗を一時的に保管する大きな水槽。ここで苗づくりを行います

中間育成棚の写真サンゴの水中養殖場。ある程度成長すると・・・

美しいサンゴの写真養殖したサンゴとは思えない姿に成長し、魚も集まってきています

地域住民への普及啓発・赤土流出防止対策

USDラボの當山真由美さんより地域住民への普及啓発の中でも特にアニメや絵本、カルタを使った普及啓発について紹介いただきました。子供や子供に読み聞かせをする大人をターゲットにして、サンゴ礁の美しさだけでなく、脆さやすでに起こっている現状についてシンプルかつ分かりやすく作られており、多少現状を知っている私でさえ引き込まれてしまいました。

また、恩納村農業環境コーディネーターの桐野龍さんより、恩納村の赤土流出防止対策として、グリーンベルトについて紹介いただきました。グリーンベルトとは、畑の周りに赤土流出を抑制する植物を植えることで、赤土の流出抑制を計る方法です。恩納村では、ベチパーという敷き草やクラフト商品に加工も可能な植物を活用することで、二次利用することを始めています。また、遊休農地や農閑期の畑にヒマワリなど花の咲く緑肥植物を植え、農地からの赤土流出を防ぎ、農家に養蜂を普及してハチミツでも地域経済に貢献するハニープロジェクト※2も推進しています。このプロジェクトはサンゴと農業の双方にメリットのある仕組みづくりだと思います。

生き物の形や色の特徴も細かく捉えられています

全体を通して感じたこと

沖縄のサンゴに悪影響を及ぼす大きな要因は、水温上昇や赤土流入、海洋酸性化など様々ですが、この驚異からサンゴを守るためには、人間1人、団体1つが働きかけても効果は得がたいです。今回の研修でこのことを改めて実感し、様々なセクターと何より地元の人の関わりが大切であることも学ぶことができました。

恩納村の事例※3は、保護活動を行う団体だけではなく、農家や観光客も巻き込んでサンゴにより良い環境を作っていく素晴らしいモデルであると感じます。それと同時に研究者・専門家の役割についても同時に考えさせられました。研究成果から得られる科学的なデータであるとともに、そのエビデンスに対して危機感を持ち、行動できる地元の方々がいることで初めて、保全活動が成り立つからです。

また、今回の研修では、30代以上の参加者の方がほとんどで、20代以下の世代はみられませんでした。地元の活動を行っていく中で次世代を担い、今起こっている環境問題の影響を受けてしまうのは、まさしく将来世代の若者たちです。環境を保護していくために、若い世代をどのように地元に残していくのかは、恩納村、瀬戸内町含め、これから地元主体の保護活動を行っていくための喫緊の課題になるのではないでしょうか。
 

ご参考

※1 沖縄サンゴ保全協会
https://sea-growth-okinawa.com/

※2 ミツバチの手を借りて沖縄のサンゴ礁を保全「ハニーコーラルプロジェクト」
https://www.oist.jp/ja/sdg/project/honeybees-help-save-okinawan-coral-honey-coral-project

※3 サンゴの村宣言 ~世界一サンゴと人にやさしい村~
https://www.vill.onna.okinawa.jp/politics/1508724757/

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