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2020.10.26(2020.10.26 更新)

【解説】自然保護三団体の「日本学術会議会員の任命拒否への抗議声明」について

解説

専門度:専門度4

▲2020年10月に表明した「日本学術会議会員の任命拒否に抗議する声明」と、1965年日本学術会議より政府に対し提出された勧告文「自然保護について」を紹介したNACS-J会報誌(会報「自然保護」50号,1966年)

2020年10月13日、日本自然保護協会は日本野鳥の会、WWFジャパンとともに「自然保護の観点から日本学術会議会員の任命拒否に抗議する声明」を発表しました。

この共同声明は多くのメディアにも取り上げられ、NACS-J会員や関係者からも様々なご意見や質問が寄せられました。この声明の意義について解説します。


Q. 今回、日本の自然保護三団体と呼ばれる日本自然保護協会と日本野鳥の会、WWFジャパンが、共同で声明を出しました。
なぜこの問題に三団体が声明を出すことになったのでしょうか。
A. 日本を代表する自然保護三団体は、それぞれ独自の視点、考え方で自然保護運動・活動を行っており、いつも共同で行動をしているわけではありません。日本の自然あるいは自然保護運動・活動にとって、見過ごすことのできない重要な問題が生じた場合は、共同で声明を出すことによって、国民に対して、その問題の重要さを訴え、さらに問題解決に向けてのNGOとしての方向性を提案することにしています。今回の問題は、まさにその状況に該当する重要なことと考えています。
Q. 今回の日本学術会議の新規会員候補者の一部について、日本政府が任命しなかったことが、自然保護団体あるいは自然保護運動にとって、どのように重要、重大な問題なのでしょうか。
A. 三つの視点から、一連の問題に、重大な危機感を覚えました。一点目は「科学に立脚する自然保護団体の立場から」、二点目は「日本学術会議による自然保護の貢献から」、三点目が最も大きな懸念ですが「日本におけるNGO活動の在り方の視点から」です。
Q. 「科学に立脚する自然保護団体の立場」で見たときに、どんなことが危機なのでしょうか。
A.まず端的に言うと、科学の不偏性・独立性の危機と捉えるべきと考えます。日本自然保護協会の運動・活動は、常に最新の科学的、客観的な事実の認識の上に行うことを重視しています。そして、それらの事実認識は、自然科学、社会科学、人文科学にわたる、あらゆる分野の研究の膨大な蓄積からもたらされています。私たちの運動・活動は、日常的に研究者の支援・助言・協力を得て行われています。その範囲は、例えば、自然観察指導員の養成事業、里地里山の市民調査から、赤谷プロジェクトのような生態系復元事業、辺野古・大浦湾の自然環境調査、政府や自治体等に向けた意見書の提出まで、日本自然保護協会のあらゆる運動・活動に及びます。
社会に様々な意見や立場がある中で、私たちは未知の領域も含む自然に関して、民主的に対話し、合意形成や政策決定を導き出さなければなりません。自然の価値や保全の重要性、改変することのリスクについて、未知や不確かな点も含め、認識を共有した上で、対話することが大事と考えます。
したがって、日本自然保護協会が求める科学は、ひとえに、個々の研究者の自由な発想と事実を明らかにするという純粋な探究心に基づき、時の政権や特定の企業・団体・グループ等の利害を反映することのない不偏、公正な立場で行われたものである必要があります。
このような研究や研究者の不偏性と公正性を保障することは、国の適切な政策決定にも欠かせないことで、実際、過去の政府自体が認めてきたものでした。
日本学術会議は、科学が文化国家の基礎であるという確信に立って、行政、産業及び国民生活に科学を反映浸透させることを目的として、政府から独立して職務を行う特別の機関として設立されています。この機関に与えられた独立性は、上記のような研究に求められる不偏性、公正性の現れです。したがって、その独立性を崩そうとする今回の政府の意思決定および説明責任のプロセスは、社会の公共的な規範の守り手であるべき政府の任務をないがしろにした問題のある判断と言えます。
Q. 二点目の「日本学術会議による自然保護の貢献」の視点からは、どのような危機感があるのでしょうか。
A. 知られていないかもしれませんが、日本学術会議は、国際的な自然保護活動や、国内における自然保護活動にも貢献してきた組織です。
日本自然保護協会は、これまで、関係学会や日本学術会議とともに、自然保護に関する提言を行ってきました。遡ると1960年に日本自然保護協会の生態部会は、原生林保護のため自然保護区の設置を提言しました。この提言をきっかけとして、日本生態学会、日本学術会議が動き、1965年には日本学術会議会長から内閣総理大臣あてに「自然保護について」という勧告が出され、この勧告がのちに、環境庁(省)の自然環境保全地域、文部省の生物圏保存地域(ユネスコエコパーク)、林野庁の森林生態系保護地域の設置につながりました。また、日本学術会議の自然保護研究連絡会議は、1990年代後半に財政および会員制度上の理由で退会するまで、国際自然保護連合(IUCN)の会員として、自然保護三団体と共に、活動してきた経緯を持ちます。近年においても、「人口縮小社会における野生動物管理のあり方」など、自然保護上重要な野生動物管理問題に関する提言をまとめています。
引き続き、学術会議には、不偏性と独立性をもった立場からの自然保護への提言に期待していますし、それが脅かされるのは、将来の自然保護にとっても大きな損失と言えるでしょう。
Q. 三点目の最も重要な懸念という「日本におけるNGO活動の在り方の視点」ではどんなことが問題なのでしょうか。
A. 一連の問題は、NGOとしての日本自然保護協会の根幹に関わる重要問題ともみています。NGOとは、non-government、つまり、政府から自立して、自らの考え方・方針で、公共の利益のために運動・活動することを使命としています。
公益活動の中では、時に政府の政策・施策とは対立する方針、異なった方向性で運動・活動する場合が生じます。そのような場合は、意見書をまとめ、政府や立法府等の然るべき機関に、抗議、反対意見あるいは提言として提出し、またその意見を広く社会に伝え、議論することを積み重ねてきました。そうすることで、いくつかの地域で起きた開発計画を止め、その地域の自然の価値を社会に示し、今や世界自然遺産や国立公園として大事にされる地域を増やし、数多くの自然を守り続けることができました。
しかし、今回のように、政府がそれまでの法律や制度、手続きをないがしろにし、時の政権の方針に異論を唱える者を恣意的に排除することが、今後、社会的に容認されるようになるとどうなるでしょうか。それはやがて、政府に逆らう者は社会から排除されても仕方がないという風潮を招くことになり、同時に政府は、意に沿わない者を社会から葬るぞと恫喝することが可能になります。そのような社会では、協会の大きな任務である「全国規模の自然保護問題の解決と支援」や「自然保護を通じた社会課題の解決」のための活動や発言が大きな制約を受けることになるのは、火を見るよりも明らかです。
この問題は、自分たちとは関係ない偉い学者の集まりの話ではないのです。NGOとしての日本自然保護協会にとっては、日本という社会の在り方や、自らの存在の基盤を揺るがす大きな問題だと思います。

※ 本記事は、NACS-Jの土屋俊幸執行理事(東京農工大学名誉教授)が、一部吉田正人専務理事(筑波大学大学院教授)の情報をもとに執筆しました(2020年10月26日)。


自然保護の観点から日本学術会議会員の任命拒否に抗議する声明(オフィシャルProに移動します。)

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