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2020.07.22(2020.08.02 更新)

マツタケは遠きにありて思うもの?(IUCNレッドリスト2020解説-2)

解説

専門度:専門度2

テーマ:絶滅危惧種環境教育

フィールド:里山

日本自然保護協会は、国際自然保護連合日本委員会(IUCN日本委員会)の事務局を1988年から担っています。

2004年より、15年以上事務局担当をしているベテランスタッフの道家によるIUCNレッドリスト2020の解説をご紹介します。


マツタケは(Tricholoma matsutake)は、日本では非常によく知られたキノコですが、生物学的に説明するとキシメジ属に属する菌類の仲間です。実は世界に広く分布しており、アメリカ・カナダ・ヨーロッパ諸国・アジア(ブータン、モンゴル、日本、中国、韓国)で見られます。

今回のIUCNレッドリストで、初めて評価され、結果、「危急(VU)」という絶滅危惧のカテゴリーと判断されました。この評価理由については、「過去および今後の、50年間の間で、30%以上の減少がみられ、かつ、引き続きその減少傾向が見込まれる」こととしています。

レッドリストに掲載されたマツタケのページIUCN 2020. The IUCN Red List of Threatened Species. Version 2020-2.(https://www.iucnredlist.org)

マツタケの本体は地面の中

減少理由を詳しくみていく前に、マツタケを“キノコという生き物”として少しだけご説明します。一般的にキノコといわれると、写真にあるような地上からにょきっと生えたものをイメージするかもしれません。

しかし、実はこの地上に出ている部分は、キノコの胞子を出す部分で、植物でいうところの花・果実のような器官なのです。キノコの本体は地下に張り巡らされた菌糸で、近接して生えるマツなどの樹木の根と結びつき共生して生活をしています。

減少理由

マツタケの減少理由は、地域ごとに異なり、日本を含め東アジアでは松枯れ病、中国南部では森林伐採、欧州では富栄養化、欧州北部では集中的な林業による生息地の質低下などが指摘されています。さらに、日本や採取を行う地域では、若いマツタケを取る際に、落ち葉や土壌なども削り取ってしまい、菌本体に悪影響を与える問題が、レッドリストデータベースで記述されています。

この減少理由をみると、捕獲や取引で減少しているわけではないことから、「マツタケの採取が禁止されるのか」という質問には、危機要因に合わせた対策としては、生息地の管理や保全のほうが効果的である、という回答になるでしょう。

マツタケの寿命(世代)の考え方

レッドリストでは、個体数や生息範囲の「減少速度」を評価基準の一つに持っています。減少を調べる際の「いつから、いつまでの減少で判断すべきか」という評価期間は、「10年または3世代の長いほう」と定義されています。

「50年間の間に30%以上減少」と説明しました。つまり、マツタケは3世代が適用されており、その長さが50年ということです。菌類の“世代”って何だろうという疑問が出てきます。

この50年という数字は、 Fungal Ecologyという学会誌で、菌類に対してどのようにIUCNレッドリストの判断基準を適用させるかという論文(Dahlberg, A. and Mueller, G. 2011. Applying IUCN red-listing criteria for assessing and reporting on the conservation status of fungal species. Fungal Ecology 4: 1-16)を根拠としています。

論文の該当する箇所を簡単に説明すれば、マツタケが木の根っこと共生する菌根菌であることから、共生する樹種に合わせて、世代を設定しようと提案されています。松の仲間に共生する菌類は50年(マツタケが該当)、その他、ブナ属と共生する菌類は30年、ハンノキ属と共生する菌類は20年と、その論文では提案されています。

これらの情報は、英語ですがIUCNレッドリストで公開され、根拠の学術論文一覧も見られます。ぜひご覧ください。

マツタケ評価のページ:
https://www.iucnredlist.org/species/76267712/76268018

マツタケ絶滅危惧の意味 ~里山環境の危機~

「マツタケ遠くへ」というニュースの見出しに触発されて、「マツタケは遠きにありて思ふもの、そして悲しくうたふもの、よしや、さかえて異土の富貴となるとても、食すものにあるまじや」などと、室生犀星の小景異情の一説の替え歌が思いつきます。

キノコとしてのマツタケは貧栄養のアカマツ林が一定程度育つと発生し、松林が成熟しすぎると発生しなくなるそうです。里山のように、森の世代交代も含めて人が手を加える場所で生育する生きものが、絶滅危惧種となるということは、人と自然の関係性に変化が生じたからにほかなりません。里山環境の現状把握と、これからの里山保全の推進を考えないと、マツタケの絶滅危惧の問題は解消しないでしょう。

日本自然保護協会では、日本国内における里山の現状把握を環境省と共同で行う、モニ1000里地調査を2004年から実施しています。昨年2019年には、それらの調査結果から「2005-2017年度とりまとめ報告書」を発行しました。とりまとめ報告書では、里山の多くのチョウ類やホタル類などの急減がみられ、里山環境の危機的な状況がみえてきました。
また、NACS-Jではその結果を活用し里山保全の政策提言や、里山的環境に生息する生き物たちの保全活動を展開しています。

※今後も、地域の里山の豊かな自然と、その自然とともにある人々の暮らしを守っていくためにも、ぜひこうした活動への支援をお願いいたします。支援の方法はこちらから

IUCNレッドリスト2020解説

1.レッドリストとグリーンリスト、ウナギの未来
2.マツタケは遠きにありて思うもの?
3.メディアも報じなかったある「数字」

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