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2020.05.27

四国のツキノワグマの絶滅を回避するための提言書を提出しました。

公益財団法人日本自然保護協会、日本クマネットワーク、認定特定非営利活動法人四国自然史科学研究センターは、2017年から3年間、「四国ツキノワグマを守れ!-50年後に100頭プロジェクト-(地球環境基金事業)」として、50km四方の広域に延べ144台の自動撮影カメラを設置した現地調査等に取り組んできました。この度、その結果に基づいた『ツキノワグマ四国地域個体群保護のための提言』(別紙)をまとめ、環境大臣他、行政機関に提出しました。

四国のツキノワグマ地域個体群の絶滅を回避するために、この提言に基づき、国をはじめとする行政機関が連携して保護策を実施することを求めます。

ツキノワグマ四国地域個体群保護のための提言

 

「SAVE THE ISLAND BEAR 四国のツキノワグマを救え!」プロジェクトページはこちら


2020年5月27日

環境大臣 小泉 進次郎 殿
林野庁長官 本郷 浩二 殿
徳島県知事 飯泉 嘉門 殿
高知県知事 濵田 省司 殿

日本クマネットワーク
代表 佐藤 喜和
認定特定非営利活動法人 四国自然史科学研究センター
理事長 濱田 哲暁
公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀山 章

 拝啓 時下ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。
日頃より、自然環境保全並びに生物多様性保全にご尽力を賜り、感謝申し上げます。

さて、ツキノワグマは我が国の豊かな自然環境を象徴する大型野生動物でありますが、その四国地域個体群は、最も絶滅のおそれの高い地域個体群であり、その保護に向けて関係機関の連携による取り組みが喫緊の課題となっております。
2017年1月に環境省中国四国地方環境事務所、林野庁四国森林管理局、四国4県、および生息情報のある市町を構成団体とする「ツキノワグマ四国個体群の保全に係る広域協議会」(以下、広域協議会)が設置され、2020年1月には「ツキノワグマ四国地域個体群広域保護指針」が策定されたところでありますが、その後の具体的な保護計画策定に向けた動きはまだ聞いておりません。
日本クマネットワークは、四国自然史科学研究センター 及び日本自然保護協会の協力を得ながら、「四国のツキノワグマを守れ! ―50年後に100頭プロジェクト―」(2017~2019年度:地球環境基金事業)を実施し、この度、その結果をもとにした提言をまとめました。
つきましては、提言内容をご検討いただき、ご高配賜りますようお願いいたします。

敬具

【添付資料】
「四国のツキノワグマを守れ! ―50年後に100頭プロジェクト―」報告書


ツキノワグマ四国地域個体群保護のための提言

四国山地のツキノワグマは、環境省レッドリストにおいて「絶滅のおそれのある地域個体群(LP)」に選定されています。四国は、ツキノワグマが暮らす世界で一番小さな島であり、また本州の東日本や西日本のツキノワグマとは異なり、紀伊半島のツキノワグマと近縁な独自の遺伝的特徴を持っています(Ohnishi et al. 2009; Yasukochi et al. 2009)。捕獲禁止措置により、1986年から現在までの34年間で狩猟も駆除も行われていないにも関わらず、現在でも分布域は剣山山系の分布中心部とその周辺に限定され(日本クマネットワーク 2020)、推定生息数も16~24頭(鵜野ほか 2019)、2018年に複数の情報から確実に個体識別できた頭数は17頭(幼獣4頭を含む、中国四国地方環境事務所・四国自然史科学研究センター 2019)と危機的状況のままで、生息数が回復する傾向がみえていません。Ishibashi et al.(2017)や鵜野ほか(2019)による遺伝的多様性が低下しているという分析結果、太田 (2014)による個体群存続可能性分析(PVA)による近交弱勢など遺伝的劣化を考慮した場合の2036年までの絶滅確率62%という分析結果と合わせても、ツキノワグマ四国地域個体群が絶滅する可能性は極めて高いと判断せざるをえません。生息数を回復させるため、野生動物行政を主管する環境省の主導のもと、関係する機関や団体が連携した具体的な保護の取り組みを、ただちに開始する必要があると考えます。また一方で、四国にお住まいの方々にとってツキノワグマはすでに疎遠な存在であり、保護で個体数が回復することに対しては林業被害や出没など不安や負担が増す要因となることから否定的な印象がもたれています(日本クマネットワーク 2020)。ツキノワグマ四国地域個体群の保護を円滑に実施するためには、地域社会におけるツキノワグマの存在の許容度を増やすための取り組みも同時に進める必要があります。
日本クマネットワークは、四国自然史科学研究センター及び日本自然保護協会と協働で「四国のツキノワグマを守れ! ―50年後に100頭プロジェクト―」(2017~2019年度:地球環境基金助成事業)を実施し、その成果を報告書にまとめました。この活動により得られた結果などをもとに、ツキノワグマ四国地域個体群保護にむけ、以下の4点を提言いたします。

1. 「希少鳥獣保護計画」の策定と実施
2. 生息環境保全の推進
3. 錯誤捕獲への対応
4. SDGs(持続可能な開発目標)の取り組みの中でのツキノワグマと地域の位置づけ

 

1. 「希少鳥獣保護計画」の策定と実施
他地域と異なる遺伝的特徴をもつツキノワグマ四国地域個体群の保護を確実に進めるため、まず生息数を環境省が定める危機的水準を脱するための100頭に増やすことを長期目標とした積極的な取り組みが不可欠です。「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」および「鳥獣の保護を図るための事業を実施するための基本指針」に基づき、ツキノワグマ四国地域個体群を希少鳥獣の対象として扱い、その保護のため、環境省が主体となって「希少鳥獣保護計画」を策定し保護策を実施することを求めます。
計画には、個体群と生息環境のモニタリング、生息数増加のための施策、生息地保全のための施策、地域の多様な利害関係者を含めた合意形成、普及啓発などが含まれる必要があります。また、多様な利害関係者と協力体制を構築するための協議会及び専門家による科学委員会を設置し、年度毎の実施計画の作成、実施、評価、見直しというPDCAサイクルに基づく順応的管理を動かす仕組みを作ること、その成果を普及啓発に活かすことが求められます。またその実現のための拠点として、地域に自然保護官事務所を設置し、配置された自然保護官やアクティブレンジャーが積極的に計画を推進していくことが必要になります。
高知県では、「高知県希少野生動植物保護条例」に基づき、ツキノワグマを指定希少野生動植物に位置づけています。徳島県においても同様に、「徳島県希少野生生物保護指針」に基づきツキノワグマを希少野生動植物に指定することを求めます。これらは環境省による「希少鳥獣保護計画」策定へ向けた地域からの後押しになります。

 

2. 生息環境保全の推進
ツキノワグマ四国地域個体群保護を進める上で、生息適地のネットワーク化と拡大、そのための針葉樹人工林の広葉樹林化が不可欠です。そのためには、環境省による「国指定剣山山系鳥獣保護区」を、新たに確認された生息地域(日本クマネットワーク 2020)を含む地域まで拡大する必要があります。また、林野庁による「四国山地緑の回廊」や「保護林制度」を活用して指定面積を拡大し、それらの連続性を高めてネットワーク化を図ると共に、針葉樹人工林の間伐後の積極的な広葉樹林化への誘導のための管理を求めます。そのためには、民有林も含めた緑の回廊の指定を今後さらに積極的に進めると共に、広葉樹林化への支援を行うこと、民有分収林の施業集約化と広葉樹林化なども具体的に進める必要があります。また、残存するツキノワグマへの給餌、生息域外保全、補強なども具体的な保護対策の選択肢として検討すべき段階にあります。「希少鳥獣保護計画」のもとでの議論を求めます。

 

3. 錯誤捕獲への対応
現在分布の拡大と個体数増加に伴い森林生態系や農林業に影響を与えているニホンジカやイノシシの生息密度を低下させるため、2013 年12 月に環境省と農林水産省による「抜本的な鳥獣捕獲強化対策」の取り組みが、ツキノワグマ四国地域個体群の分布域内でも進められており、くくりわなや箱わなによるツキノワグマの錯誤捕獲の可能性が増大しています。錯誤捕獲が発生すると、個体群への影響が大きいことはもちろん、捕獲従事者への人身事故のリスクも高まります。また絶滅危惧個体群における錯誤捕獲の発生は、社会的な批判の対象となる可能性が高いと認識しておくべきです。錯誤捕獲を避けるため、わなの規制範囲をツキノワグマの生息確認地域全域に拡大すること、規制が行われるまでの間は、わなの見回りを毎日必ず行うこと、監視カメラ等によりモニタリングし、ツキノワグマ誘引の可能性が生じた場合には、わなの設置を中止すること、錯誤捕獲発生時に備え盤石な対応体制を構築し、発生時には速やかに放獣を実施すること、放獣が困難な場合には傷病鳥獣として速やかに動物園等に搬入することが必要です。こうした保護個体は、域外保全の資源としても活用できます。特に、いつ錯誤捕獲が発生してもおかしくない現状を強く認識し、発生時に遅滞なく対応するためのマニュアル、人員体制と予算を整備しておくことを求めます。

 

4. SDGsの幅広い取り組みの中でのツキノワグマと地域の位置づけ
ツキノワグマ四国地域個体群の保護は、「絶滅の危機にある大型野生動物の保全」というグローバルな環境目標と、「保護による人身事故や林業被害のリスク増加に対する管理」という安心安全な暮らしを守るためのローカルでかつ根本的な行政目標という両極端な側面を持ち、両者をバランス良く実施しなければ目標は達成されません。また、「将来世代にわたって豊かな自然の恵みを享受できる暮らしを守る」という未来志向の目標と、「現在世代の安心安全を守るという目標」という時間スケールの異なる問題とも捉えられます。このような2項対立では解決できない問題に関しては、持続可能な開発目標(SDGs)の取り組みとの親和性が高いと考えます。単に絶滅の危機に瀕したツキノワグマ個体群を守る、という面だけに縛られず、地域の多様な主体と共に、SDGsの推進のキーワードとして「地域もクマも持続的に守られるような関係」を目指した多様な取り組みを推進していく必要があります。そのためのコーディネートを環境省に期待し、冒頭に提言した「希少鳥獣保護計画」の策定を目指すことからまず始めていただくことを求めます。

おわりに
日本クマネットワーク、四国自然史科学研究センター、日本自然保護協会は、今後も協働してここに提言した行政の取り組みを支援すると共に、民間団体の利点を活かして多様な対象に向けた普及啓発や地域活動を展開することにより、地域のツキノワグマの文化的許容度を向上させ、最終的にはツキノワグマの保護につながるような活動を実践していきます。環境省、林野庁、徳島県、高知県、生息情報のある市町、そして私たちを含む多様な関係団体が共通の目標のもとに役割分担をしながら連携して具体的な活動を推進していくことを強く求めます。

以上

引用文献
中国四国地方環境事務所・四国自然史科学研究センター. 2019. 国立公園等民間活用特定自然環境保全活動(グリーンワーカー)事業 国指定剣山山系鳥獣保護区ツキノワグマ等保護監視調査報告書. 中国四国地方環境事務所・四国自然史科学研究センター,66pp.
Ishibashi Y, Oi T, Arimoto I, Fujii T, Mamiya K, Nishi N, Sawada S, Tado H, Yamada T. 2017. Loss of allelic diversity in the MHC class II DQB gene in western populations of the Japanese black bear Ursus thibetanus japonicus. Conservation Genetics 18: 247-260.
日本クマネットワーク(編). 2020. 「四国のツキノワグマを守れ! 50年後に100頭プロジェクト」報告書. 日本クマネットワーク,札幌,126+28pp.
Ohnishi N, Uno R, Ishibashi Y, Tamate HB, Oi T. 2009. The influence of climatic oscillations during the Quaternary Era on the genetic structure of Asian black bears in Japan. Heredity 102: 579-589.
太田海香. 2014. クマ類の生態・経済リスク管理のための個体群生態学的研究. 横浜国立大学大学院博士論文. 3+138pp.
鵜野-小野寺レイナ・山田孝樹・大井 徹・玉手英利. 2019. 四国で捕獲されたツキノワグマの血縁関係と繁殖履歴. 保全生態学研究 24: 61-69.
Yasukochi Y, Nishida S, Han SH, Kurosaki T, Yoneda M, Koike H . 2009. Genetic structure of the Asiatic black bear in Japan using mitochondrial DNA analysis. Journal of Heredity 100: 297-308.

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