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河川生態系の保全・ダム問題

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2000.07.01

特集 川とつきあう 1(洪水って何だろう)

会報『自然保護』No.448(2000年7・8月号)より転載


あなたは洪水を知っているだろうか?
増水して濁流が走る川を見たことは誰もがあるはず。
それが洪水だ。
では、あなたは水害に遭ったことがあるだろうか?
しょっちゅうあるかもしれない、生まれてこの方ないかもしれない。
川に寄り添って暮らしてきた日本列島の住人である私たち。
かつて、その美しさ、恵み、恐ろしさ、それら川のすべてを知恵にかえ美と文化を育んできた。
私たちはその知恵を失ってはいないか?
いま一度先人にも学び、川とのつきあい方を考えてみたい。

目次
1 洪水って何だろう
2 洪水がもたらす恵み
3 昔の洪水、いまの水害
4 “洪水を防ぐ” から ”洪水を減らす” へ

 

日本の川の特徴
洪水って何だろう
 

身近な風景にはコンクリート護岸された無機質な川が目立つようになった。日本は、世界に名だたる「水害大国」なのだ。雨が多く、逃げ場のない島国に多くの人が住んでいる。その生命・財産を守るため、「国を治めることは、水を治めること」と言われたほどに治水事業は重要課題なのだ。ところが、こんなにやっても、大河川の整備率はまだ6割。大量のコンクリートと税金はまだまだ投入しなければいけないらしい。「川とつきあう」のは、なんとたいへんなことなのだろう。とはいえ、こんな状況が当面続くというのなら、ここらで一度、なぜこんなことになっているのかを知りたくなった。

まずは、そもそも川とは何なのか、洪水というものがなぜ起きるのか、河川工学者で新潟大学工学部教授の大熊孝さんに解説していただこう。

 

川は物質循環の担い手

「川」と聞いて日本人の多くがまず思い出すのは、お伽話の「桃太郎」ではないだろうか。川に洗濯に行ったところ、川上から桃が流れてきたというこのストーリーには、川は汚れを清めるところ、逆にいえば、汚れ物を捨てるところだという認識があり、これが現在の川の水質汚濁の元凶かもしれない。しかし一方で、上流から新しい生命が流れてくることも示唆している。

川が生命を育んでいるという観点は、山から水や土砂・落ち葉などの無機質や有機物が流され、それらが川の途中や海でさまざまな生物の生息を助け、それらの食物連鎖によって生命が育まれることを象徴している。もっと普遍化すると、流下した物質は、サケやアユなどに姿を変えて再び川を遡り、それを熊が食べ、糞をすることなどによってブナ林の栄養となり、山に還元される。

川は、山と海の生態系をむすぶ回廊であるとともに、地球における物質循環の一端を担っているわけだ。では人にとって川とは何かといえば、「地域での物質循環の重要な担い手であるとともに、人間にとって身近な自然であり、恵みと災害という矛盾のなかに、ゆっくりと時間をかけた地域の文化を育んできた存在」といえるのである。

 

●私たちの住む平野は川の領分

川は山間部では流れが速く、川底や岸を侵食し、その土砂を下流に運搬する。川底の勾配がゆるくなると流速が落ちて、運んできた土砂を徐々に堆積させ平野を形成する。こうして1万年から2万年という長い時間をかけてできたのが、沖積平野だ。

この沖積平野に人間が住みつく前の川は、堤防も護岸もないので、洪水のたびに流れを変え、自由奔放に氾濫をくり返し、平野を広げていったことだろう。こうして川がつくった平野に住みつき、川を固定してきたのが人間である。川がときどきあふれるのは、川からすれば、悠久の自然の営みのひとこまというわけだ。

沖積平野は水が得やすい、耕作しやすい、水運が利用しやすいことから、とくに稲作中心の日本人の生活・生産の主要な舞台となってきた。しかし、それゆえ、水害を被りやすいのである。

 

●洪水と水害は同じではない

「洪水」と「水害」は、同じものと受けとられるが、イコールではない。洪水は、河川にふだんの何十倍から何百倍もの「水が流れる」現象を指す。雨水や雪どけ水が地表面や地下を流れ、それが川に出てきた、自然的要因の強い現象である。

ただし、人為的な要因がないかといえば、そうではなく、地表面をコンクリートなどで覆うと地下への浸透が減り、地表面を流れて直接に河川に達するため、洪水量が大きくなる。また、各支流を改修して水の流れをよくすると、雨水が短時間のうちに本流に集中し、洪水のピーク流量が大きくなることがある。こういう面からすると洪水は、火山噴火や地震と同じ純粋な自然現象とみなすわけにはいかないのだ。

一方、洪水が発生し、それが川から氾濫したとしてもそこに人の営みがない限り「水害」は起きない。人が住んでいても、あふれた水をどのように受け止めるかによって、被害は異なってくる。水害も自然現象に左右されるが、人との関わりを抜きにしては語れない。その意味で、「水害」は自然現象というよりも社会的要因の強い現象なのだ。

(構成・島口まさの)

モンスーン地帯に位置する日本列島は、四季それぞれに性格の異なる豪雨や豪雪があり、それが多様な洪水を発生させる。梅雨末期、台風通過時、融雪期。アジア大陸の東縁に南北に長く列島状に位置する日本列島ならではといえる。

特集川とつきあう-1.jpg

また日本は、海洋プレートが沈み込む大陸プレートの縁にあるため、大地が激しく隆起し、隆起を続ける山からは大雨や雪どけのたびに大量の土砂が流れ出す。そういうときの川は、河原まですっかり水に浸かっている。河原は、言ってみれば増水時の河床なのだ。増水時の流量を渇水期の流量で割った値を河況係数とよぶのだが、大陸を流れる長く大きな河川では、この数値が数十から百程度なのだが、日本では数百から数千にも達する。日本の川でよく見る広い河原は、じつは大陸ではむしろ珍しいものなのだ。

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