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2020.06.13

普天間飛行場代替施設建設事業の工事一時停止と環境調査の実施に関する要望書

辺野古(沖縄県)の工事は2か月近く停止されていましたが、6月12日より再開されました。この間にジュゴンの鳴声が記録されたことも明らかになりました。その中で行われた国地方係争処理委員会という第三者機関による審査で農林水産省のサンゴ類の移殖技術が十分でないという考え方も示されました。ジュゴンやサンゴ礁の生物多様性の保全上問題があるため、日本政府に工事の一時停止と環境影響評価の再度の実施を求めました。

普天間飛行場代替施設建設事業の工事一時停止と環境調査の実施に関する要望書


                              2020年6月13日

内閣総理大臣    安倍  晋三 様
内閣官房長官    菅 義偉 様
防衛大臣      河野  太郎 様
環境大臣      小泉 進次郎 様
農林水産大臣    江藤   拓 様
沖縄・北方担当大臣 衛藤  晟一 様
沖縄防衛局長    田中  利則 様

公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀山 章

普天間飛行場代替施設建設事業の工事一時停止と

環境調査の実施に関する要望書

 

新型コロナウィルス流行に伴い2か月近く停止されていた普天間飛行場代替施設建設事業の工事が6月12日に再開されたと報じられている。
4月21日に普天間飛行場代替施設建設事業に関する設計概要変更承認申請が提出されたが、その後も訴訟の進行や沖縄県の審査の進行等に伴い、生物多様性保全に関わる新たな問題点が浮上している。日本自然保護協会は、沖縄の生物多様性豊かな自然環境の保全に取り組んでいる立場から、以下の理由にもとづいて工事停止と環境調査の実施を要望する。

1) ジュゴンについて
辺野古・大浦湾海域の(以下、「同海域」とする)施工区域内のK4地点で鳴声が2月と3月に確認され、ジュゴンが施工区域付近を継続して利用していることが示唆されている。ジュゴンは昨年12月に公表された IUCNのレッドリストにおいて、日本の南西諸島に生息するジュゴンの地域個体群が、Critically Endangered (CR) 「深刻な危機」(絶滅危惧IA類)に引き上げられ、危機的な状況であると評価されている。IUCN 海牛類専門家グループ(Sierenia Specialist Group)からは調査計画書という形で日本政府に対し提言がなされており、ジュゴンの生存の可能性が示された場合、ドローンや環境DNA、地域住民への聞き取りなど多角的な調査を行い棲息状況を把握すべきであるとされている。今回の記録はジュゴンの生息状況の一端を示す貴重な情報であることから、正確に把握するまで工事は停止すべきである。把握しないままに工事を継続した場合は、ジュゴンの地域個体群の絶滅を加速することになる可能性がある。

 

2)造礁サンゴ類の移植について
同事業に伴う環境保全措置の一環として、4万群体のサンゴ類を移植する申請が農林水産省から沖縄県に対してなされており、これを沖縄県知事が不許可としたため国地方係争処理委員会に提訴されている。
日本自然保護協会が以前から指摘してきたように、この移植計画はそれ自体が環境保全措置として欠点があるものである(日本自然保護協会、2013)。事業者ある防衛省(以下、事業者)が申請している4万群体のサンゴ類は、いずれも事業者側のサイズ規定に合わせて水深20メートル以浅に生息するものである。事業者は同事業実施に伴い影響を受けるであろう全てのサンゴ類を移植対象とするのではなく、一部のみしか移植をしない。例えば水深20メートルより深い場所に棲息するユニークな生活史を持つコモチハナガササンゴ群集(Kitano et al.2014)や一定のサイズに満たないサンゴ類は移植の対象にはならないということである。これではこの海域の生物多様性を保全することはできない。
加えて、国地方係争処理委員会陳述書(2020年5月21日付)によると農林水産省は、「サンゴ類の移植技術はいまだ十分に確立されていない」と技術が至らないことを認め、「実際の移植を通じて移植技術の向上を図る試験研究を実施することは長期的にも水産資源保護に資する意義があり、埋め立て工事により失われるサンゴ類を対象に移植試験を実施することは極めて合理的である」と辺野古のサンゴ礁を実験場として扱っていることが伺える。
環境監視等委員会が提案している移植成功状況についても「3年後の生残率が40%以上」と環境保全措置としては問題があるほど低く、また那覇空港滑走路増設事業などにおいては40%すら下回る生残率である。事業者が同海域で移植したオキナワハマサンゴ群体についても生息状況に問題がある状態である。これらのことからサンゴ類について、移殖という技術自体が環境保全措置として有効でないことが示唆される。

事業者に欠けているのは同海域の生態系を一体として捉えることである。公有水面埋立承認を受けた内容での大浦湾側での工事ができないことを認めながら、他方でサンゴ類の移植のみを進めたいという申請は、総合的視野に欠いている。
同海域の大浦湾はマングローブ、サンゴ、海草藻場が一体となって成り立っている。一部分について工法の変更が必要ならば、工事を一時停止し、事業実施区域全体について環境影響評価を再度実施すべきであり、そのことを実現するよう要望する。

前回(日本自然保護協会、2020)の要望書で指摘したように、同海域では環境影響評価後に多くの生物多様性保全上重要な発見やサンゴの白化等の環境変化が生じている。また同海域の生物多様性の高さは、環境省が生物多様性の観点から重要度の高い海域として指定し、日本の19学会から認められ(日本生態学会ら、2014)、米国のNGOミッションブルーから世界で最も重要な海域「ホープスポット」の1つに認定されている。
日本の財産であるジュゴンや同海域のサンゴ礁を守ることは日本政府にとっても重要なことであると考える。農林水産省、環境省、防衛省が連携し、貴重な海の自然を守り、日本政府にとっても重要なことであると考える。ぜひ実現されるよう要望する。

 

参考文献:
日本自然保護協会(2013)「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価書(補正後)」への意見

「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価書(補正後)」への意見


日本自然保護協会(2019)ジュゴンの南西諸島地域個体群が、IUCNレッドリスト「絶滅危惧ⅠA類」に評価されたことに対し、日本政府が緊急に具体的な保護の手立てを進めることを求める声明

ジュゴンの南西諸島地域個体群が、IUCNレッドリスト「絶滅危惧ⅠA類」に評価されたことに対し、日本政府が緊急に具体的な保護の手立てを進めることを求める声明


日本自然保護協会(2020)普天間飛行場代替施設建設事業に関する設計概要変更承認申請に対する要望書https://www.nacsj.or.jp/archive/2020/04/10826/
日本生態学会ら(2014)著しく高い生物多様性を擁する沖縄県大浦湾の環境保全を求める19学会合同要望書。https://www.esj.ne.jp/esj/Activity/2014Ohura.pdf
IUCN海牛類専門家グループ(2019)調査計画書(日本語版)

Overview Statement (English)

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