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屋久島の自然林の保全

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2020.04.15

生物多様性保全上重要な屋久島の低地照葉樹林の環境保全を求める要望書を提出しました

世界自然遺産やユネスコエコパークにも登録されている屋久島は、山岳域については厳正に保護されていますが、低地照葉樹林は古からの人の利用により、小さく断片化し面積が小さくなっています。
近年 屋久島の低地照葉樹林の林床において種の保存法の指定種となっている絶滅が危惧される菌従属栄養植物のが発見されており、生物多様性保全上重要な地域となっていることが示されました。特に 屋久島の北東部の一湊、椨川、小瀬田(女川)、 平野(花揚川、鳴子川)周辺は、タブカワヤツシロランなど指定種を含み、重要な地域となっています。

しかし、伐期を迎えたスギの人工林の皆伐や治山ダムの建設に伴う作業道の開設等により影響を受けていることがわかりました。そこで、環境省には、保護地域(国立公園への編入や生息地等保護区)の設定、林野庁には、 森林施業への配慮とともに保護林設定や希少種委員会の設置を要望しました。

今回、地元の市民団体である屋久島照葉樹林ネットワークが呼びかけ、日本生態学会、日本植物分類学会、NACS-Jが、同時に屋久島の低地照葉樹林の保全を求めて環境省、林野庁、鹿児島県、屋久島町に要望書を提出することになりました。
新型コロナウィルスの影響で、日本生態学会及び日本分類学会は郵送にて提出し、NACS-Jは、 屋久島照葉樹林ネットワークに要望書を送付し、屋久島の環境省自然保護官事務所、屋久島森林管理署、 鹿児島県屋久島事務所 、屋久島町役場 に提出することにしました。


送付先:林野庁長官、林野庁九州森林管理局長、環境省自然環境局長、環境省九州地方環境事務所長、鹿児島県知事、屋久島町長

以下、屋久島町長宛の要望書を抜粋して表示します。


2020年4月10日

屋久島町長 荒木耕治 殿

屋久島の低地照葉樹林の保全を求める要望書

公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀山 章

平素より地域の自然環境の保全にご尽力いただいていることに謝意を表します。
日本自然保護協会は、屋久島の学術的に貴重な天然性のスギや海から山に至る連続的な自然を守るために長期に亘り尽力してまいりました。拡大造林政策により国有林の伐採が進む中で屋久杉保存に関する陳情書等を提出し、保存を求めるとともに保護地域の拡大を提案してきました。世界自然遺産の登録前には屋久島から琉球列島を含めた南西諸島全体の自然遺産登録も環境庁(現、環境省)に提案しています。屋久島の原生自然環境保全地域では、日本自然保護協会が関わり、1984年、1994年、(2004年)、2014年と10年に一度継続して学術調査を行ってきました。近年では、2016年に屋久島ユネスコエコパークが拡張登録された際に編入された移行地域における人と自然の共生に向けた取り組みを、屋久島を含め各地で進めています。特に九州南部や南西諸島は低地照葉樹林が残存する貴重なエリアとして重要視しています。

屋久島の植物相は、低地の暖温帯から山頂部の冷温帯までの幅広い環境勾配に沿って、多様な植生の垂直分布が見られることによって特徴づけられます。事実、世界自然遺産登録の際にも、海岸から山頂部に及ぶ植物の垂直分布が特別視され、「堂々たる景観を呈するスギ林の存在」と合わせて「他地域でほとんど失われてきた暖温帯地域の原生林(低地照葉樹林)が特異的に残存されていること」が重要視されました(参考資料1)。近年島内全域にわたって精力的に行われている主要河川沿いの林齢150年以上の原生的な低地照葉樹林の調査では、種の保存法の指定種を含む多くの絶滅危惧植物、ならびにヤクシマソウ、ヤクノヒナホシ、タブガワムヨウラン、ヤクシマヤツシロラン、タブガワヤツシロランなど、生育地を低地照葉樹林のみに依存する多数の新種記載植物や日本新産記録となる植物が見いだされています(参考資料2)。

このように屋久島の低地照葉樹林、とくに渓流沿いの照葉樹林に絶滅危惧植物や希少植物が多産することは、植物学者の間ではよく知られた事実ですが、これまで環境省や林野庁の行政においては、その保全上の重要性が十分に認識されてこなかったものと考えられます。自然公園法においても、これらの地域の多くは国立公園地域に指定されておらず、保全の対象とされていない現状があります。特に近年、椨川流域や一湊川流域、花揚川・鳴子川流域といった保全上重要な照葉樹林地や、隣接するスギ植林地の伐採に伴う林道、作業道の開設や治山ダム建設が相次いでおり、樹木の伐採や造成自体による生育地破壊、ならびに、その後の表土流出や乾燥化などにより、タブガワムヨウラン、ヤクシマヤツシロラン、タブガワヤツシロランなどの多くの絶滅危惧植物や希少植物が消失の危機に瀕しています(参考資料3)。

一方でこれらの地域の大部分は屋久島の全面積の80%を占める国有林内であることから、国立公園外であっても森林・林業基本法の理念にのっとり保全計画を立案する必要があると考えられます。森林・林業基本法では、森林林業政策の基本理念として、「森林の有する多面的機能の発揮」を第一に規定し、多面的機能の中に「自然環境の保全」を位置づけています。新たな森林・林業基本計画においては、「生物多様性を保全する場としての森林の役割などを含めた多面的な機能の発揮が一層期待される」という現状認識の下で、生物多様性保全上重要な森林については「森林と人との共生林」に区分して、適切な保全をはかるという方針が設定されました(参考資料4、5)。

生物多様性国家戦略2012-2020では、森林施業現場における生物多様性配慮の具体的施策について、「森林の有する多面的機能を発揮していくため、森林施業に際しての生物多様性の保全への配慮を推進」し、「国有林野においては、保護林や緑の回廊に設定されていない森林についても、その連続性を確保し、天然林は維持」する方針が示されています(参考資料6)。屋久島の低地照葉樹林での施業においても、これらの方針に沿って、生物多様性への影響を評価し、適切な保全措置をとる必要があると考えられます。

こうした状況に鑑み、屋久島の低地照葉樹林における取り返しのつかない生息地環境の悪化、および生物多様性の消失を防ぎ、この貴重な森林生態系を後世に引き継ぐことを願ってこの要望書を提出いたします。

要 望

屋久島の低地照葉樹林は、世界遺産登録時のIUCN評価書にも特筆される、日本国内外においても貴重な森林であることを認識し、生物多様性国家戦略2012-2020をふまえ、 林野庁、環境省、鹿児島県、屋久島町の関係諸機関の皆様に以下の点を要望します。

1.屋久島町におかれては屋久島の低地照葉樹林の価値を等しく認識の上、生物多様性鹿児島県戦略や屋久島ユネスコエコパークの管理運営計画等に準拠し、地域の自然資源の財産として恒久的な保全の策を講じること。国の施策に協力し、とくに森林生態系の保全を重視し、林業事業との整合性に格段の配慮を払うこと。

2.屋久島の低地照葉樹林は学術的な分野での重要性が高いにも関わらず、現状では自生地の消失が危惧されることから、低地照葉樹林やそれに隣接する人工林の伐採や林道・治山ダム建設などの計画が持ち上がった際は、当該地域のかけがえのない森林生態系との持続可能な共生を目的として、計画地域周辺の絶滅危惧植物や希少植物の分布状況を環境NGOや専門家との合同調査により十分に把握すること。また必要に応じて林野庁、環境省等関係する機関と鹿児島県、屋久島町などの行政、地域関係者、市民、専門家が十分に議論する場と期間を設けること。

以上

(参考資料1)
IUCN評価書(屋久島)(PDF/1.1MB)
(参考資料2)
屋久島低地照葉樹林における植生調査
(参考資料3)
河川流域の現状
(参考資料4)
<抜粋>「森林・林業基本法」(PDF/427KB)
(参考資料5)
<抜粋>「森林・林業基本計画」(PDF/1.8MB)
(参考資料6)
<抜粋>「愛知目標の達成に向けた我が国の国別目標」及び「生物多様性国家戦略2012-2020」(PDF/4.2MB)

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