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奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島世界自然遺産推薦地の視察に関する要望書

2019.09.30
要望・声明

2019年2月1日に、日本政府は奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島世界自然遺産(以下、「奄美・琉球世界自然遺産」)について推薦書を提出しました。

しかし、推薦書の内容には、自然保護の立場からみると大きな問題があるため、日本自然保護協会(NACS-J)は4つの団体と一緒に、今年に予定されている視察の際にご配慮いただきたい点についてIUCNに要望書を提出しました。

Letter of request concerning the IUCN mission for the proposed World Heritage Site “Amami-Ōshima Island, Tokunoshima Island, northern part of Okinawa Island and Iriomote Island”(原文・PDF/494KB)

 

※ 本ページに掲載してある日本語は仮訳です(2019/10/02 17:30現在)。ご了承ください。


2019年9月30日Dear Mr Peter Shadie
Director, World Heritage Programme
International Union for Conservation of Nature
(IUCN, 世界遺産プログラム・ディレクター)

奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島世界自然遺産推薦地の視察に関する要望書(日本語仮訳)

公益財団法人 日本自然保護協会 理事長 亀山 章
ジュゴン保護キャンペーンセンター 代 表 海勢頭豊
公益財団法人 日本野鳥の会 理事長 遠藤孝一
認定特定非営利活動法人野生生物保全論研究会 会 長 安藤元一
ラムサール・ネットワーク日本
共同代表 上野山雅子・金井裕・陣内隆之・高橋久・永井光弘

2019年2月1日に、日本政府は奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島世界自然遺産(以下、「奄美・琉球世界自然遺産」とする)にかかる推薦書をユネスコに提出しました。

日本自然保護協会をはじめとするIUCN加盟団体は 1990 年よりこれらの南西諸島を世界自然遺産に登録するよう要望している立場から、今回の推薦を通じて保全が進むことを期待しています。

前回の推薦と比べて多くの改善がなされたものの、今回の推薦書にて提示された保全対策に問題があると考えます。特に推薦地と緩衝地帯の外に位置する周辺管理地域について以下の問題があります。

  1. 推薦地の近くに大規模な開発計画が存在すること
  2. 侵略的外来種対策が不十分であること
  3. 島の固有種などが島外に持ち出されていること
  4. 環境に影響が及ぶ軍事訓練等の実施

周辺管理地域の在り方に保全上に問題があると考えます。これらの要望を考慮いただき、世界自然遺産として適切な、最良な保全体制を、視察の際にはご検討いただきたくお願いいたします。

1) 周辺管理地域のあり方について

前回の推薦書からの変更点の一つとして、周辺管理地域が緩衝地帯を取り巻くように設定されたことは大きな進展です。しかし、周辺管理地域とされている場所の保全体制に問題があります。周辺管理地域において緩衝地帯に隣接して大規模な開発が行われている事例として、奄美大島の節子の自衛隊駐屯地、沖縄島や奄美大島における採石場、沖縄島のリゾートホテル開発や新たなクルーズ船計画などがあります。観光と軍事の活発化により、飛行機、軍用機、船舶などによる大量の人と物の移動も拡大傾向にあります。周辺管理地域が世界遺産区域の保全に果たす役割の目標と現状には大きな隔たりがあり、計画の具体化が必要と考えます。

緩衝地帯はもちろんのこと、周辺管理地域を保全しながら持続可能な方法で利用を進めることがこの世界自然遺産の価値を左右するとても重要なことであると考えます。2011年に登録された小笠原世界自然遺産における周辺管理地域では船の航路まで厳しく管理されていますが、このように厳しく管理することが必要であると考えます。

また、推薦書にはすでに島に侵入している外来種への対応は詳細に書かれていますが、新たな侵入に対する対策が不十分です。このことは第6回IUCN世界自然保護会議にて採択された勧告「島嶼生態系への外来種の侵入経路管理の強化」でも指摘されています。

新たな外来種への対応のためには周辺管理地域内の開発についても規制が必要と考えています。新たな外来種を入れない計画も含めた島全体の外来種の管理体制、とくに周辺管理区域のあり方に関して、検討をお願いいたします。

2)クルーズ船計画について

国土交通省は、「明日の日本を支える観光ビジョン」(2016年3月30日、明日の日本を支える観光ビジョン構想会議決定)で設定した「2020年に訪日クルーズ旅客数500万人」の実現を目指し、全国に大型クルーズ船の寄港地を開発する計画を進めています。特に南西諸島で大規模に展開することがすでに実施あるいは計画されており、今回の推薦地である奄美大島、徳之島、沖縄島のほか、推薦地の西表島に隣接する石垣島や宮古島においても進められています。

そのうちの1つであった奄美大島の西古見で自然度の高い海岸に予定されていたクルーズ船寄港計画は、今年8月に受け入れ予定先であった瀬戸内町により撤回され、自然保護上大きな進展となりました。しかし、西古見以外のクルーズ船計画は進んでいるにもかかわらず、推薦書の包括管理計画には、クルーズ船計画で生じる自然保護上の問題に対する対策が十分に想定されていません。

西古見のように寄港する港を作る場合には、建設に伴う直接の自然破壊のほか、一度に運ばれてくる何千人もの観光客を受け入れる観光施設の開発の問題も生じます。加えて人と物の移動が活発化することにより、非意図的に侵入する外来種のリスクが高まると考えられます。沖縄島の本部も寄港予定地の1つとして開発が進められており、ここを拠点にやんばるの森に行くツアーを実施するのであれば、人数管理や外来種対策等を含め、厳重な保全体制が必要であると考えます。

さらに、最近では南西諸島の希少な生物が島外に持ち出されることが多発しており(若尾、2018)、手荷物検査体制の甘いクルーズ船で行われる可能性が高いと考えられています。日本では現在の法律では防ぐ手立てはないため、希少な生物の捕獲と取引規制の整備と施行を確実におこなう体制ができないのであれば、クルーズ船計画を世界自然遺産登録と同時並行で進めることは困難であり、再検討すべきです。まず、自然遺産の資産である世界的にも貴重な固有種を守る努力を優先することが、世界自然遺産登録を目指すものの義務であると考えます。

3)環境収容力について

新たな推薦書においても環境収容力の問題は解決していません。沖縄県や鹿児島県は観光客の環境収容力について検討し直すべきです。推薦書のとおり、沖縄島を訪れる観光客数は、2016年は860万人、2017年は年間約 940万人と急増しており、沖縄県はさらにそれを超える年間 1,000 万人を目標に掲げています。この目標を達成するため、新石垣空港の新設、那覇空港第二滑走路の増設、多人数の観光客を運べるクルーズ船の接岸バースの建設など、港の整備、リゾートホテルやレンタカーの急増などが起こっています。

日本には、EUで実施されているような累積環境影響評価制度がありません。これは複数の前後して進む改変の影響を回避しきれないことを意味します。推薦地の 4 つの島々は面積が小さいことから、環境収容力の限界を具体的に想定した管理の基本方針が必要と考えます。

また、持続可能な形でのエコツーリズムの取り組みは、各地で始まったり、増えつつあるものの、ごく小規模で観光客の急増にまったく比例していません。推薦地や緩衝地帯でのエコツーリズムの定着、充実と、周辺管理地域でのマスツーリズムを持続可能なものに転換するための、より具体的な計画が必要と考えます。

4)北部訓練場返還地における環境調査の実施について

2016年12月に米政府により日本政府に返還された北部訓練場跡地では、返還後も市民の手によりポリ塩化ビフェニール(PCB)などの有害物質を含むドラム缶や、薬きょう等が発見されています。土壌や水の汚染も考えられることから、世界自然遺産に登録する前に、徹底的な環境調査と対策が必要と考えます。

5)北部訓練場の位置づけを明確にすることについて

推薦地に隣接する北部訓練場は、世界自然遺産の緩衝地帯の役割を担う必要があると考えますが、推薦書では位置付けが不明確です。推薦書には、自然環境保全における米軍との協力体制があり、北部訓練場内の自然が「自然及び文化資源の統合管理計画」により適切に管理されているとあるものの、管理状況の報告など情報が公開されていないため、適切であるかどうか判断ができない状況です。

MV22オスプレイなど、生物に影響を与える音を発する軍事訓練は控えるべきであり、日米両政府の合意文書「北部訓練場の自然環境保全に関する米軍との協力」をふまえて米軍が特段の配慮をすることを確認することが必要であり、 また4)に指摘したように有害物質が今でも使われているならば使用を禁ずる協定が必要です。

6)市民・コミュニティの参画を重視し、地域に則した管理体制の構築

IUCNの評価書では、計画立案や管理、モニタリング、絶滅危惧種保全等において、高いレベルでの市民・NGOの自発的な活動があることが高く評価されています。一方で市民やNGOからの不十分な協議プロセスについて懸念する声の存在も報告されています。

登録延期という評価を受けての再申請となっても、市民やNGOとの情報共有の体制はあまり大きくは改善されておらず、合意形成や十分な管理体制構築にとって欠かせない適切な情報公開が行われるべきであると考えます。

また上記のことは市民・コミュニティの参画を重視し、地域に則した管理体制を構築することにもつながります。世界遺産条約では遺産の管理における市民・コミュニティの役割を重視しています。市民・コミュニティの十分な参画が得られる努力を国および自治体が進めることが、とりわけ、評価書で勧告されている持続可能な観光管理計画と、総合的モニタリング体制の確保において重要です。

沖縄県と鹿児島県はそれぞれ持続的観光マスタープランを策定していますが、これらのことに実効力を持たせるには、市民・コミュニティの理解と協力が必要不可欠であります。5月に公表されたIUCN評価書の指摘にあるよう、計画立案から遂行、管理までを含めて、市民・コミュニティの参画こそが長期的な保全にとって重要であると考えます。

私たちは1990年代から主張してきたように、琉球諸島は海も山も含む形で世界自然遺産の登録を望んできました。今回の推薦においては島全体ではなく島の一部が推薦されるという形になりましたが、一部が先に登録されても、将来的に拡大されることを視野に入れて応援してきました。 推薦地から漏れた価値のある地域が、世界遺産の外として開発の危機にさらされることや、保全体制に不備があるため世界遺産の価値ある場所が劣化しその価値が永久に失われてしまうことは避けなければなりません。これらの懸念は、 今年5月に公表されたIUCN評価書における勧告からも読み取れます。

IUCNには奄美・琉球世界自然遺産の周辺管理区域等の推薦地の周辺の保全の在り方について、自然の価値が十分守られ、かつ将来的にも損なわれない体制となっているのか、視察の際にご検討いただきたくお願いいたします。

 


図1.世界遺産推薦主要地:奄美大島


図2.世界遺産推薦主要地:徳之島


図3.世界遺産推薦地域:沖縄島北部(本部町の地図表記なし)


図4.世界遺産推薦地:西表島


図5.北部訓練場返還地

出典:環境省提供(図1~図5)

 

<ご参考>

(1)島嶼部における大型クルーズ船の寄港地開発に関する調査の結果(概要)
[Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism, Japanese]
https://www.mlit.go.jp/kowan/kowan_fr4_000025.html

(2)明日の日本を支える観光ビジョン構想
https://japan.kantei.go.jp/content/jpnplnde_en.pdf

(3)若尾慶子(2018)
南西諸島固有両生類・爬虫類のペット取引.TRAFFIC BRIEFING
https://www.wwf.or.jp/activities/data/20190508_wildlife02.pdf (Japanese)

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