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河川生態系の保全・ダム問題

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2010.08.16

国交省の「今後の治水対策のあり方について」中間報告案に意見を提出しました。

「できるだけダムにたよらない治水」への政策転換を進めるという考えに基づき、国交省が設置した有識者会議が、2010年7月16日、中間とりまとめ(案)を発表し、パブリックコメントを募集しました。これに対し、NACS-Jは部長名で以下の意見を提出しました。
「今後の治水対策のあり方について  中間とりまとめ(案)」に
関する意見 

NACS-J保護プロジェクト部
部長 大野正人
* ( )は、中間報告案の該当箇所

1) 河川管理の根本を見直し生物多様性の損失を止めることへつなげる (全般)
ダム・堰は、川の連続性を断絶し本来もつ川の機能を損ない、流域から海域の生物多様性の損失、地域生活に関わる生態系サービスを低下させてきたことを、NACS-Jは長良川、川辺川など河川問題の都度訴えてきた。この反省に立ち、治水のあり方はじめ河川管理の根本を見直さなければ日本の生物多様性の損失は止まらない。「中間まとめ」はこの認識が欠如しており、生物多様性条約締約国会議議長国として政府の姿勢を疑う。

2) 総合的治水策を具体化せず既存ダム事業を温存してきた原因をまず検証する(P4、P5)
「従来行ってきた治水政策を構造的に幅広く再検討し、今後の国土の持続的発展に適合する治水のあり方が問われなければならない」と高らかに理想をあげたにも関わらず、「できるだけダムによらない治水」策は、2000年の河川審議会中間答申「流域での対応を含む効果的な治水のあり方」の枠を出ていない。有識者会議は、なぜこの総合的治水策を積極的に地域の施策に具体化せずに、既存ダム事業を温存してきたかをまず追求すべきだ。

3) 基本高水、河川整備計画の目標設定にメスを入れなければダム追認が続く(P5、P13)
これまでダム事業の位置づけは、河川整備基本方針の基本高水流量の設定のもと確定されてきた。基本高水自体、算定に曖昧さや恣意性から説得性に欠けると指摘され不信感が強くある。有識者会議は、問題の根源となる基本高水、河川整備計画の目標に何らメスをいれた議論をしていないため、河川管理者が示す「ダムによらない治水」策やコスト算出にこれまで同様に説得力を持たない。個別ダム検証はダム事業追認の機会にしかならない。

4) 既存の事業評価委員会に判定を委ねても第三者性は担保されない(P16)
個別ダムの検証は「事業の再評価の枠組み」(事業評価監視委員会)を適用するとしているが、「公共事業の効率性」と「実施過程の透明性」の向上を図ることが目的であり、代用できるものではなく対応方針(案)の判定は難しい。また、この再評価システムが機能していれば、これだけ多くのダム問題はもう少し改善しているはずだ。また、検討主体が河川管理者であるために、再評価委員会を活用したとしても、第三者性は何も担保されない。

5) 相変わらず住民、市民の意見は聞き置かれるのか(P18)
個別ダムの検証に当たっては、パブリックコメントの募集、関係住民の意見を聴くこととしてあるが、どのように意見反映するのか、また、同意形成、意志決定をしていくのを明確にすべきである。でなければ、「関係地応公共団体からなる検討の場」でダム事業に批判的な学識経験者、関係住民、NGOの意見は、ただ聞き置かれるだけで、何も問題は解決せず、地域社会から受け入れられるものには到底なりえない。

6)本気で遊水池を考えるなら、縦割り行政の枠を越える姿勢が必要(P21、29)
治水対策案の立案において、「遊水池(調整池)等」と「水田等の保全」があげられているが、「雨水の一時貯留」にとどまり、氾濫源湿地だった低地の水田・畑地の遊水池利用については何も触れられていない。災害時の作物の補償などを含めれば、地域で現実的な治水策として考えやすいが、農業関係者との調整を努力するまでにも至っていない。総合的な治水策は縦割りの行政の枠を越えるものを示さなければ、ダムに回帰するだけである。

7) ダイナミズムを考慮した河川環境、生物多様性を評価軸にすえる(P40、41、55)
評価軸に「生物多様性の確保」として生態系や重要種への影響を明らかにすることがあげられている。その際、河川が本来もつダイナミズムを十分に考慮し、影響評価すべきである。大水によって変化する環境に依存する動植物種が河川生態系を形成し、それこそ確保しなければならない「河川の生物多様性」である。ダムによる治水が河原を固定化し、治水により失われた後背湿地や塩性湿地などは、生物多様性のホットスポットである。

8) 期限も基準も不明確で時の大臣が判断つけるのは難しい(P61)
国土交通大臣が有識者会議の意見を聞いて最終的な判断をするとしている。この検証手順であっても、十分に熟議を重ねるならば、短期間に地域で検討結果を出せるものでは到底ない。「概算要求等の時期までに判断する」と具体的な年次期限を明記していないうえに大臣の判断基準も明確ではない。法定の審議会でもない非公開の「有識者会議」が時の大臣によって機能するのかも定かではなく、システム自体が機能不全を起こすに違いない。

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