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「保安林解除・土砂採取が回復不可能な影響を与えることは明らか」

2000.10.23
要望・声明

愛知県幡豆町の保安林解除に異議意見書を提出


中部国際空港関連埋立事業のために、愛知県幡豆町の里山150haを切り崩して、5000万立方メートルの土砂を採取する計画に伴う保安林解除に対して、10月25日の締め切り日までに、約1600通の異議意見書が提出された。

日本自然保護協会、世界自然保護基金日本委員会も、幡豆町の里山と三河湾・伊勢湾の保全の立場から、農林水産大臣あてに異議意見書を提出した。日本自然保護協会が、中部国際空港問題に対して意見を表明したのは、今年6月の環境庁長官、運輸大臣、建設大臣などへの、伊勢湾の公有水面埋め立てに対する意見書の提出、9月の幡豆町における土砂採取が自然環境に与える影響に関する見解書の提出に続いて3回目である。

公有水面埋め立ての許可は、6月23日に出された。その際、環境庁長官は、「中部国際空港建設等の埋立が予定されている常滑沖は、富栄養化など水質汚濁が進んでいる閉鎖性海域であり、・・・伊勢湾の中でも、良好な水質・底質環境が維持され、生物多様性に優れ、最良の漁場になっている。」と評価した上で、「本海域には、伊勢湾における最も良好な藻場があり、伊勢湾の生物生息環境の保全の上で、十分に藻場の保全を図る必要がある。このような状況を鑑みれば、中部国際空港建設等の埋立計画に関しては、最近の埋立事例としては最大規模のものであることから、特に慎重な対応を図るべきである」という意見をつけている。

また埋立土砂を採取する幡豆町の里山の保全に関しても、「埋立用材については、環境保全上の問題を生じることのないよう・・・浚渫土や公共残土を積極的に活用し、山土使用量の低減を図ること。・・・土砂採取場の自然環境保全上の問題等を生じることがないよう十分配慮する必要があり、採取及び運搬に係る事業計画、環境保全対策を十分確認すること」という注文をつけている。

このような環境庁長官意見にもかかわらず、愛知県は幡豆町の土砂採取量を減少させる努力もせずに、農林水産大臣に対して土砂流出防備保安林解除の申請を行い、9月22日には予定告示が出された。

001023幡豆町里山.jpg

←中部空港土砂採取で保安林解除が予定される幡豆町の里山

この背景には、中部国際空港が、愛知万博が開かれる2005年の開港をめざして計画されていること。愛知県企業庁が、空港とセットで、常滑市沿岸の前島埋め立てを計画していることがあげられる。じっくり時間をかければ、浚渫土や公共残土の活用が可能であり、前島の必要性の見直しも可能であるにもかかわらず、急ピッチで進められているため、全く計画が見直されず、ひたすら漁協との補償交渉だけが行われてきた。

これに対して、締め切り日の10月23日に提出された異議意見書は、約1600通。幡豆町の流域住民だけでも約230通にのぼった。これは愛知県内においてこれまで保安林解除申請に対して出された異議意見書の最高数である。流域住民は、地権者や漁業者のような補償もなく、土砂の流出、洪水の危険、この地域に埋蔵されているマンガン流出の危険などのリスクを背負い込むことになり、その怒りがこの意見書の数に現れた。愛知県農林水産部では、「(事務処理に)どれだけ時間がかかるか分からない」と言っている。

今後、農林水産大臣が、意見書提出者の中に「利害関係を有する者」がいるかどうかを判定し、その上で、公聴会を開くかどうかを判断することになる。日本自然保護協会は、現在の森林法では、利害関係者とみなされる可能性は少ないが、これまで干潟の埋立や里山の保全に意見を述べてきた団体として、自然環境保全の観点から異議意見書を提出した。今後も、浅海域と里山の保全の主張を続けて行くため、ご支援をお願いしたい。

 


 

平成12年10月23日

農林水産大臣 谷 洋一 殿

(財)日本自然保護協会
理事長 田畑 貞寿
「幡豆地区内陸造成事業」にともなう
保安林解除に対する異議意見書

次の森林に係る森林法第30条(第33条の3において準用する同法第30条、第44条において準用する同法第30条)の告示の内容について異議があるので、意見書を提出します。

異議意見の内容及びその理由:

「幡豆地区内陸造成計画」は、豊かな里山の自然が残る幡豆地区の山林約150haを切り崩し、中部国際空港ならびに関連埋立事業に使用する5000万立方メートルの土砂を採取し、跡地を工業団地等として造成する計画である。

しかしながら、保安林解除が予定されている山林には、クロヤツシロラン(日本自然保護協会・世界自然保護基金日本委員会のレッドデータブックでは危急種、環境庁のレッドリストでは絶滅危惧 IB類)をはじめとする絶滅のおそれのある植物種が数多く生育しており、保安林解除とそれに続く土砂採取は、これらの植物の生育地である里山環境に対して、回復不可能な影響を与えることは明らかである。

また、保安林解除が予定されている山林は、三河湾に注ぐ河川流域にあって、もっとも海に近い場所に位置する。そのため当該山林は、高い土砂流出防備能力をもって、三河湾の漁業資源の維持に貢献しており、もし保安林を解除して土砂採取を実施すれば、シルト以下の微細粒子の海域への流入、当該山林に埋蔵されていると思われるマンガンの海域への流入などによって、三河湾の生物に甚大な影響を与えることが予想される。

そもそも中部国際空港ならびに関連埋立事業の環境影響評価においては、環境庁長官意見によって、できる限り浚渫土砂を使用するなどして、環境影響を最小化することが求められており、幡豆地区の山林約150haを切り崩し、中部国際空港ならびに関連埋立事業に使用する5000万立方メートルの土砂を採取し、跡地を工業団地等として造成するという計画は、この環境庁長官意見を反映したものにはなっていない。

2005年に愛知県で開かれる国際博覧会に間に合わせるために、浚渫土砂ではなく貴重な里山を切り崩して土砂を供給するという計画は、「自然の叡知」をテーマとした環境万博にふさわしい計画とは言えない。

よって、当該山林の保安林解除には異議を申し立てるものである。

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