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1999.12.15

群馬県・新治村三国山系の猛禽類生息状況調査資料を発表

本資料の取り扱いについての要請

(日本自然保護協会報告書 第86号ダイジェスト版付録説明)

横山隆一(日本自然保護協会)
新治村の自然を守る会

1. 猛禽類にかかわる「調査データの一般公開」は、猛禽類へのさまざまな悪影響を誘引されることが予測されるため本来望ましいものではない。その理由は、以下のようにまとめられる。

猛禽類、特に希少な大型猛禽類は常に密猟の危険にさらされている。生データから巣の位置等を直接示す情報を除いても、密猟者にはおよその巣の位置は容易に把握できるため、密猟の危険が増大する。

生データそのものは公開しても複雑で解読が難しく一般には役立ちにくいのが普通である。しかし、社会的関心は高いので、生データそのものが安易に第三者に渡りやすい。この情報に基づいた第三者の生息地への接近は、猛禽類の個体の生息及び繁殖のための静寂な環境の保持など猛禽類にとって必要な状態を乱すものになりやすい。

悪意のない写真撮影等の接近でも、特に繁殖期の繁殖地への不注意な接近は繁殖放棄を容易に引き起こす。また、この様な写真撮影等のための接近は毎年反復されることが多く、特定の繁殖地に対するきわめて長期的な(鳥から見た場合には何世代にも渡る)悪影響の及ぶことが予見される。繁殖成功率の低下が最も大きな問題となっている状況の中では、このような繁殖地が増加することは防がなくてはならない。この地域のイヌワシ、クマタカは既知のものではあるが、情報の取り扱いに際しては細心の注意が必要である。

開発案件など社会的関心が高いものであればあるほど報道機関等も映像を希望するため、対象となる猛禽類が複数の探索者にさらされることになる。

2.今回、三国高原猿ヶ京スキー場(仮称)開発計画および川古ダム建設計画のような大型の開発計画地域に猛禽類の重要な生息地がある事が明らかになった。しかし、開発関係者により行われた調査では十分な猛禽類の生息現状の把握と検討、それに基づく保全対策が行われていないと判断され、また三国高原猿ヶ京スキー場(仮称)開発計画においては制度上の理由から環境アセスメントも行われていない。このような状況の中では、自主的に第三者が猛禽類に関する事実を公表し、社会的な検討を促す必要があると考えられる。本来は、計画の段階で開発事業者により適切な調査が行われ、その調査結果と保全対策は、点検や審査に当たる(専門の)第三者機関や行政機関が介在し、公正・適切に状況把握が行われた上で計画そのものに反映されなければならない。今回の事実の公表は、これにわずかに代わるものになることを期待して私たちは行った。

3.今回とりまとめた「報告書」には、上述のように1.の悪影響を誘引しかねない情報が含まれている。そのため、広く一般的に配布し議論を要請するものとしてこのダイジェスト版を作成した。しかし肝心な事実自体は、報告書本体を見なければ検証できず作成者を信用していただく以外方法がない。このジレンマに私たちは悩んでいるがいまだ解決の方法は手探りである。
 

このダイジェスト版を手にされる方々には、この点と1.の悪影響を理解頂き、以下のことにご協力いただけるようお願いしたい。

(1)この資料に基づき図面の概要を作成する場合は、必要最小限の表現に限っていただきたい。

(2)生息地に大勢の人々が出向くことにつながるような紹介は、控えていただきたい。

以上

<日本自然保護協会報告書 第86号ダイジェスト版>


はじめに
  (新治村の自然を守る会会長・岡村 興太郎)

新治村は、東京から約 160km北、群馬県の北西部に位置し、北は新潟県に境を接しています。この県境部分は、上信越高原国立公園の一角をなし、三国山脈のほぼ中央にあたります。現在、この三国山系の法師山西斜面に、リゾート法に基づくスキ-場を中心とするリゾ-ト開発計画がたてられています。
 
ところがこの計画地一帯は、村の給水人口の約23%以上を賄う上水道の水源地にあたり、地域全体は国有林で水源涵養保安林の指定地でもあります。私たちは、このような地域に開発計画が立てられたことに、大きな疑問を持っています。国有林の下部はカラマツの人工林ですが、上部はブナやミズナラの自然林が広がり、この森が豊かな水と温泉、動植物のくらしを育んでいるのです。代替のきかない貴重な水源と自然環境を守ることを目的に、地元の有志によって新治村の自然を守る会が結成されました。
 
守る会は、スキ-場計画が水源に与える影響を正しく解明する必要を感じ、会員自らの手による調査団を結成することにしました。この地域を調べるにつれ、ここには絶滅の危機に瀕するといわれているイヌワシ・クマタカが生息していることが明らかとなりました。
 
そのため、水源調査と並行してこれら大型猛禽類に特に的をしぼり生息実態調査を実施することにしました。この大型猛禽類調査の計画と長期にわたる観察にあたっては、(財)日本自然保護協会(NACS-J)の全面的な協力をあおぐことができました。
 
本調査の目的は、新治村に生息するイヌワシ、クマタカのくらしを明らかにし、この開発計画が水源地の自然に対し、またこれら大型猛禽類に対してどのような影響を及ぼすかを自ら予測して開発計画自体を評価することです。
 
この調査活動の特徴は、私たち村民が科学的な方法に忠実にしたがいながら、自らの手で自分たちが住む環境を調査・理解しようとした点にあります。そのため、とりためた観察記録にも記述が十分でなかったためにまとめの際に使えないものがあったり、不慣れな記録の集計や図示化に大変な時間と労力を必要とするなど、忍耐の連続でした。しかし、良質な水と温泉源、多様な生物相、これらを育む豊かな自然を保全し後世に伝えてゆくことは、この地域に住む私たちが果たすべき大切な役目だと考え、努力してきました。
 
本調査の計画と実行、そしてその結果のまとめを共同でとりくむ形をお作り頂き、多大なご援助を下さった(財)日本自然保護協会(NACS-J)に心から御礼を申し上げます。また、日々の調査活動をご支援いただいた(財)自然保護助成基金をはじめとする村内外の多くの皆様に、深く感謝を申し上げます。
 
猛禽類の観察・調査は今日現在も継続しており、今回まとめたのは1991年から1995年までの 5年間の記録が中心です。この地域に計画されている大規模開発計画を考え見直す資料の一つとして、また豊かな郷土の自然とイヌワシ・クマタカ等希少な大型猛禽類の生息環境の理解と保護のために、この報告書が役立てば幸いです。


はじめに  (日本自然保護協会理事長・奥富 清)

日本自然保護協会(NACS-J)は、1989年から、それまで続けてきた自然林保護のキャンペーンに加え、新しく制定されたリゾート法に基づく開発計画が各地の自然林の保護区や自然公園の指定地域に及ぼす影響を予測し、警告を発することを保護活動の一つとしてきた。そのような中、今では典型事例としてよく知られるところとなった秋田県田沢湖町の大規模リゾート開発計画に注目した。注目した理由は、この開発予定地域には全国で繁殖成功率が急低下して絶滅の危機に瀕するイヌワシのペアが生息し、そのイヌワシペアは観察開始から10年間の繁殖成功率が100%と、当時の岩手・秋田県境地域において最も繁殖成績のよいペアであることが知られていたにもかかわらず、大規模リゾート計画の立案に際して必要な考慮が払われず、またその繁殖を支える中核地域と見られた範囲は国立公園の指定地域の外側にあるという状況(その地域を特徴づける野生生物にとって重要な自然地域が区域外)の中で大規模な開発計画が進められていたためである。
 
NACS-Jはこれらの問題点を整理し、地域の土地利用計画の検討においては生態系の食物連鎖の頂点に立つ生物種の生息状態に留意することを促し、その健全な生息環境を保証することを地域の生物多様性を守る指標にすることを、事業主体やそれを監督する立場の関係機関に対し呼びかける活動を行った。また 1991年からは、これらの活動を山地性の大型猛禽類生息地を対象とする「猛禽類の繁殖環境保護のキャンペーン」として展開し、日本におけるイヌワシ・クマタカの生息地の現状と保護のあり方について、各地の調査結果にもとづいて主張を続けている。
 
これら一連の活動の中では、全国のNACS-J会員からこの2種のいずれかが繁殖に結びつく活動をしている地域ですすむ開発計画の情報が寄せられ、 1999年現在その数は32箇所にものぼっている。また1992年に種の保存法が制定されこれら猛禽類が政令指定種となったことの効果もあり、この32個所のうち田沢湖地域をはじめとする8個所の開発計画が、中止ないしは大幅な見直しとなっている。

本報告書としてまとめた群馬県新治村の三国山系も、リゾート法に関係する新規のスキー場開発と建設省関東地方建設局による新たなダム開発があることからクローズアップされた、上記32箇所のうちの一つである。
 
陸域にすむ大型猛禽類の生息状態は、森林の島々であるこの日本の生物多様性の健全度を測る指標の一つである。また、地域の生物多様性が高く、その結果として形成される「豊かな恵みを生み出す生態系」は、猛禽類や他の生物種同様、私たち人間にとっても生存基盤であると共に、心豊かな人生をすごすために不可欠な環境である。これらの恵みを日本列島に暮らす他の生物と分かち合うことの大切さを訴え、その方法を見つけ、現実に反映させていくことはNACS-Jの責務であると考えている。
 
この三国山系のプロジェクトは、地域NGOである新治村の自然を守る会とNACS-Jの共同作業の形をとった。新治村の自然を守る会は、これまではもちろんのこと今後の地域作りにも主導的な役割を担って直接参画される立場にある。このような地域NGOとの協力関係は、これからの自然保護活動のモデルになりうると思われる。地域で始まる今後の自然環境のあり方に関する論議に、本資料が役立つことを期待したい。


新治村の自然を守る会による
スキー場新設計画に対するこれまでの対応

スキー場計画地周辺の自然破壊と飲料水の汚染を危惧した村民有志は、ムタゴ沢における開発計画を見直し、一帯の豊かな自然環境を健全な姿のまま将来に伝え残していくことを目的に、1990年 6月20日「新治村の自然を守る会」(会長・岡村 興太郎,以下守る会)を結成した。守る会は、この開発計画に対する新治村民の関心を高めるため、水源地を中心とした豊かな自然の保護を訴える会報「にいはる三国通信」(1990年11月22日初刊)を発刊し、開発計画の現状や守る会の活動を適宜村民に報告してきた。この会報は、村内全戸約 2,500戸に対し1999年2月現在までに14号を配布している。
 
1990年11月18日、守る会は新治村長及び新治村議会議長に対し、「三国高原猿ケ京森林空間総合利用整備事業計画に含まれる三国高原猿ケ京スキー場(仮称)の白紙撤回を求める要望書」を提出した。さらに同年12月12日には、事業主体である(株)コクドに対し「三国高原猿ケ京スキー場(仮称)の白紙撤回を求める要望書」を東京本社で提示したが、これは内容説明もできないまま本社企画課長によって受取りを拒否された。
 
事業者に門前払いをうけた翌日の1990年12月13日、守る会は東京に事務所をおく(財)日本自然保護協会(会長・沼田 眞)を訪ね、守る会の今後の方策を指導して欲しい旨を訴えた。その結果、1991年 1月24日に(財)日本自然保護協会によるスキー場計画地一帯の現地視察が企画され、実施された。
 
この視察には、現地案内人として守る会役員2名も同行した。その際、法師山尾根上空から三国山にかけての一帯で、2羽のイヌワシ成鳥が共同での狩りのための並列飛行をしているところが観察された。イヌワシは、特殊鳥類(当時)及び天然記念物に指定されている国の保護鳥である。これを機に、守る会ではこのイヌワシの生息状況を調査するための調査団(以下、守る会調査団)を結成した。守る会調査団員は、日常はそれぞれが別々の仕事に就く村民であり、生物調査には素人である。そのため、(財)日本自然保護協会の技術指導のもと観察会や研修会を繰り返し、イヌワシなど大型猛禽類の識別を始めとする調査能力の獲得と向上に努めた。
 
その後の1993年 3月21日、上記2団体が共同で開催した自然観察会では、法師山尾根にてイヌワシの若鳥とクマタカ成鳥、及びクマタカに追尾されるイヌワシ成鳥各1羽が観察された。このことから、この地域には日本において絶滅の危機に瀕している2種の大型猛禽類が生息することが明らかとなった。


調査の計画と目的

守る会調査団は、イヌワシとクマタカの観察記録の集積を行なう一方、村内における大型猛禽類2種の過去のにおける目撃情報の収集や、観察に適した見晴らしの利く地点(観察定点)の選定を行なった。
 
これら観察記録や聞き取り結果の分析をもとに、1993年10月23日に2団体共同で実施した赤谷川上流での営巣地探索において、同年中に繁殖活動が行われたと推定されるイヌワシの巣を発見した。ところが、その谷には建設省による川古ダム建設計画が予定されていた。
 
これらのことから、守る会は(財)日本自然保護協会に対して、あらためてこれら大型猛禽類の生態把握と、その生息環境の保護を目的とする調査活動への協力を依頼した。その結果、1994月4月からはそれまで続けられていた村民調査を発展させる形で、新治村北部一帯を含む広域を調査範囲とする調査活動を2団体共同で実施することになった。
 
1995年10月からの1年間は、(財)日本自然保護協会と(財)自然保護助成基金による第6期プロ・ナトゥーラ・ファンドの研究助成を受けて、継続的かつ計画的な調査活動とそのまとめを作製する事業が成立した。
 
本報告書は、1991年から1995年までを一区切りとする調査結果及び1996年から1999年までの観察結果の概要をとりまとめたものである。本調査活動の目的は、群馬県利根郡新治村北部に生息する大型猛禽類(種の保存法に基づく政令指定種・イヌワシ及びクマタカ)の生息状況を明らかにした上で、現在計画されているスキー場・ダム(及び付帯する道路・林道工事)の各種開発事業との関係を考察し、これら開発計画の妥当性を自然保護の観点から判断する基礎資料を作成することにある。


「新治村のイヌワシ、クマタカ繁殖地と
各種開発計画との関係」

1.「三国高原猿ヶ京(仮称)スキー場計画」と
イヌワシ赤谷ペア及びクマタカ法師山ペアとの関係

1)イヌワシ赤谷ペアとの関係      
このスキー場新設計画は、イヌワシペアが主として 1月~ 4月の繁殖期前期に使用し、「繁殖活動に関わる狩り場」となっている急斜面の正面に造成されるという位置関係にあることが明らかとなった。また、造成されるものがスキー場であることから、利用期間が完全に重なるものでもある。また、狩り場の範囲とゲレンデの距離は、最も近いところで約200mであり直近の位置にある。
 
この2つのことがらのため、このスキー場が計画通りに作られたとすると、この地を利用するイヌワシは繁殖前期の狩り場を全く別の場所に求めざるをえなくなると考えられるが、他にそのような狩り場が存在するかどうかは不明である。繁殖活動への影響が現れるとするならば、積雪のある繁殖期前期の餌の確保を難しくさせるという点からの間接的な悪影響が考えられる。このスキー場計画は、イヌワシにとってマイナスはあっても、プラスに働く面はと考えられる。

2)クマタカ法師山ペアとの関係      
スキー場の計画範囲は、この地で繁殖するクマタカ法師山ペアの「繁殖期の行動圏(コアエリア)」の内部に全てが入り込み、繁殖活動の維持に不可欠なコアエリア内の中核地域(繁殖テリトリー)の中央部の環境を、面積で約30%改変する位置関係にあることが明らかとなった。また、ゲレンデの造成等により改変予定の範囲の東側の斜面は、クマタカの幼鳥が巣立ち後6カ月をすごす幼鳥の養育範囲ともなっている。
 
さらに、営巣場所の直近を工事用車両及び施設建設後の施設利用車輛の全てが通過することが予測されると共に、スキー場という冬季に営業される施設であることから、施設からの騒音等の物理的インパクトがクマタカの繁殖期間中に継続して発生することは確実といえる。
 
これら総合的な影響が毎冬に及ぼされるとするならば、法師山一帯を生息地及び繁殖地として利用するクマタカペアにおいては、繁殖活動が阻害されることのみならず、ペアの生息そのものを不可能とする開発になることが予測される。
 
このような影響が予測される開発計画は根本的に見直し、現在かろうじて残されている自然環境の悪化、劣化を回避すべきと考える。

3)既設の「村営赤沢スキー場」とクマタカ法師山ペアとの関係      
村営の赤沢スキー場は、多種の猛禽類、複数の大型哺乳類を含む野生動物が生息する豊かな自然環境の一角で、18年間にわたり営業され続けてきた。
 
本報告第2章の調査期間及び1996年以降の継続調査の中では、スキー場の営業期間中は、クマタカペアがその飛行コースを変化させるということはあっても、このスキー場が本報告書が注目する各種野生動物の生息に関わる決定的な悪影響を与えているという事実はつかめなかった。
 
人為に対して最もデリケートで、営巣地との距離も極めて近いために常に注意を払ってきたクマタカペアの営巣活動も、1998年は抱卵途中で繁殖に失敗したもののこのスキー場が営業されている中で行われていた。この理由として、このスキー場の諸施設及び経営規模が極めて小規模であることが考えられる。
 
このスキー場に関わる人間の諸活動が、このような状態・水準で維持されるのであれば、野生動物保護の生息環境との折り合いをつけられる可能性はあると思われる。ただし、今後大幅な再開発等の造成や土地改変が実施されるとするならば、自然保護問題を発生させる恐れが強い。
 
特に、スキー場南側及び東側は、斜面下部から尾根部にかけてクマタカペアの止まり場所が点在し、また隣接する林内に広い空間の存在する落葉広葉樹林や小規模な急傾斜地の林縁部は、繁殖前期の狩り場となっている。さらに、ブナが混在するスキー場周辺の落葉広葉樹林の広がりは巣立った幼鳥の養育エリアであり、幼鳥の独り立ちにとって重要な場所となっていると考えられる。
 
この地域は人工林も多いが、クマタカの繁殖活動を安定的に行わせようとするならば、本来のブナを中心とした自然林に復元していくことが望ましい。
 
現在、この既存のスキー場を今後どのようにしていくかについて村内で議論が行われているところであるが、今後の土地利用の検討にあたっては、このような周辺の自然特性に注意を払う必要性が高いことを強調したい。

2.「三国高原猿ヶ京(仮称)スキー場計画」及び「村営赤沢スキー場(既設)」と計画地周辺で観察された主要な野生動物との関係

 図22は、イヌワシ・クマタカを除く他のタカ科の猛禽類、ツキノワグマ等の哺乳類が1991~1995年までの猛禽類調査期間中にどこで観察されたかを示している。
 
北側の三国山から南側の赤沢まで、クマタカ法師山ペアの繁殖期の行動圏とほぼ重なるこの範囲の中に、イヌワシ、クマタカ以外にオオタカ(種の保存法政令指定種)を含む4種の猛禽類が生息していることが確認された。
 
また哺乳類は、ツキノワグマ、ニホンザル、そしてニホンカモシカの生息が確認されている。この地域は、イヌワシ、クマタカがほぼ同じ場所を空間的に棲分ける形で共存しているが、他の主要な野生動物ともまた、棲分けたり餌を食い分けることなどによって共存している。このような共存ができ、多数の生物種が同じ地域に生息しているのは、この地域の自然の収容力が大きいことをあらわしているといえる。
 
特に、法師沢の中程からムタゴ沢の奥部にかけて広がるブナを中心とした林齢の高い夏緑(落葉)広葉樹林の存在は、ツキノワグマなどの大型哺乳動物の生息も可能としている点で、地域の自然の豊かさを形作る元本と見るべき自然と考えられる。
 
このスキー場を造成するならば、法師山の西斜面の森林を広く伐採して、ゲレンデ、リフト等が造成・設置されると予想されるが、この森林はこれら哺乳動物の生息環境そのものでもある。
 
この開発計画は、このような地域の自然を特徴づける野生動物に生息の場を提供し、地域の生物多様性の高さを形作っている森林を大きく改変する計画であることを指摘したい。

3.「川古ダム建設計画」とイヌワシ赤谷ペア、
クマタカ吾妻耶山ペアとの関係

1)イヌワシ赤谷ペアとの関係      
現在の計画通りに川古ダムが建設されるとすると、ダム湖の発生により、このイヌワシペアの高頻度利用域の約10%が水没によって失われ、現在は渓流環境となっている営巣地の真下まで水没することが明らかとなった。
 
また、飛翔能力の特に小さな時期である巣立ちから約 6ケ月を過ごす幼鳥の養育エリアの南側の約15%の面積が失われる。さらに、繁殖期、非繁殖期をとわず通年使われる重要な狩り場の1つを全域にわたり消失することになる。
 
これらのことにより、この地域はイヌワシの繁殖には不適な環境となり、イヌワシはさらに赤谷川上流域側に新たな営巣地を求めざるをえなくなると考えられるが、現在の営巣地以奥はすぐに森林限界となる程標高が高い場所であるため、そのような条件を備えた場所は存在しない。このため、この地域の繁殖地としての利用は不可能となり、単に成鳥が生息するだけの場所になることが予測される。このダム計画は、新治村唯一のイヌワシ繁殖地を消失させる効果を持つものと考えらえる。

2)クマタカ吾妻耶山ペアとの関係      
このペアの生息が確認された範囲から、最短で約 250mの位置にダムサイトが建設される予定となっている。また、ダムサイト建設用の車輛はこのペアの繁殖期の行動圏の中を100%通過する位置関係にある。さらに、調査工事及びダム本体建設中の物理的な悪影響も、このペアの生息域に及ぶことは確実といえる。
 
また、1999年に幼鳥が確認され川古温泉周辺にクマタカの繁殖テリトリーが存在することは確実であるが、この範囲の環境に影響を及ぼす可能性もある。しかし、これらペアの生息や繁殖状況にどのように、何がどの程度影響するかについては、行動圏内部構造などのデータが十分でないため現時点では予測できなかった。
今後、これらの詳細を把握し、得られた資料に基づいて正しく検討される必要がある。

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