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愛知万博会場建設問題

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1999.04.07

愛知教育大学地球環境科学領域・森山教授による意見書(地形地質・水門調査に関して)

愛知万博の環境アセス準備書が公告・縦覧され、これに対して多数の意見が寄せられました。その中には、重要な指摘も多数見られます。そこでその主だったものについて、各提出者の承諾を得て、全文を掲載します。それぞれ文章は長いですが、じっくりご覧いただき、何が問題になっているかをぜひご理解ください。

愛知教育大学地球環境科学領域・森山教授による意見書
(森山教授の許可をいただき、全文を掲載します。なお、ぜひご注目いただきたい点を、NACS-J編集広報部の森本が着色し、レイアウトを変更させていただいています。)


 

1999年4月2日

愛知県知事 神田真秋 様
(財)2005年日本国際博覧会協会会長 豊田章一郎 様

愛知教育大学地球環境科学領域
教授  森山 昭雄

 

万博・新住・道路事業の環境影響評価準備書に対する
意見書の提出について

去る2月24日から縦覧されている表記の環境影響評価準備書に関して、環境影響評価法第18条の規定により意見書を提出します。意見書は長文にわたるため、別紙として添付します。

~万博・新住・道路事業の
環境影響評価準備書に対する意見書~
――地形地質・水文調査に関して―― 森山 昭雄

1)はじめに

海上の森に関わる万博・新住・道路の3事業(以下、本件事業という)の環境影響評価準備書が、2月24日に公表された。全部積み上げると40cmにもなる膨大な文書であり、内容も多岐にわたるので、読むのにも骨が折れる。3月6日の説明会にも参加し、わずかな時間を借りて質問したが、まともな返事が返って来なかった。意見書を書くには準備書の内容が不明な点を明らかにしていただかないと正確には意見を述べにくいが、とにかく期日に間に合わせなければならないので、今の段階で疑問点を筆者なりに解釈して、本準備書の問題点を述べる。

海上の森の自然の最も大きな特徴は、貧栄養湿地に依存する生態系と生物の多様性である。本件事業、ことに先行して行なわれる新住・道路事業のための改変による自然生態系への影響を考える上で、地形地質とそれに依存する地下水など水文現象の解明が決定的に重要である。正直に言って、準備書を一読して、その調査内容のレベルの高さに驚きを感じたこの評価は、地形地質や地下水など水文現象に関する調査内容であって、他の分野については専門外であるので評価を控える)。これまでの環境アセス準備書というと、地下水は対象外、調査の対象にもされてこなかった。先ず、海上の森の自然環境の解明にとって、貴重な財産ができたと高く評価したい。

今回のアセス調査では、屋戸川・寺山川流域(砂礫層地域)の河川流出特性がかなり正確に明らかになり、地下水位変動の観測、地下水流動の実態もかなり明らかになった。筆者は、現在、生態学研究者との共同研究として、地形地質の立場から湿地生態系の成立に関わる問題を研究しているが、準備書の内容はそれと深く関連しており、筆者の研究結果と合わせて意見を述べることにする。

なお、とくに断らない限り、「新住宅市街地開発事業環境影響評価準備書」の「2分冊のうち2」を用い、そのページを引用する。使用した図・表は、本文の最後に一括して示す。筆者が作成した図は図1~図13、準備書本文中にある図表の引用はそのまま番号を用いた。印刷の関係で、順序が不揃いであることをお断りしておく。。国際博覧会の24時間営業の実施計画に対する環境影響評価の調査を実施してください。

2)本地域の地形・地質の構造

先ず、本地域の地形地質と地質構造について説明しておく。本地域は、全体として東高西低に地形を持つ丘陵地であり、地質は基盤の花崗岩類の上に砂礫層が重なり、緩やかに西に向かって傾く地質構造を持っている。図1に本地域の地質図を、図2に東西方向の地質断面図を、図3に南北方向の地質断面図を示す(断面位置は図1参照)。砂礫層が厚く堆積しているのは、本地域西部の屋戸川・寺山川流域などであり、東部や北部は丘陵の頂部に薄く堆積しているに過ぎない。

本地域の北東から南西に向かって、猿投北断層の分岐断層が走り、南東側が相対的に隆起して砂礫層地帯と接している。砂礫層は、分岐断層の北側に広く分布する。その分岐断層が見られる露頭は、吉田川の海上の森への入口付近に露出している(写真1)が、そこでは断層面はほぼ垂直で、風化花崗岩と砂礫層が、数cmの厚さの断層粘土を挟んで接している様子が観察できる。

砂礫層は一般に透水性が良く、そこに染み込んでいる地下水によってシデコブシなどが生育する貧栄養湿地を形成していることはよく知られている。一方、砂礫層の基盤は花崗岩類であり、それは深層風化の影響を受けてぼろぼろに風化していて、シャベルで簡単に切り崩せるような「マサ」となっている。少しフレッシュな岩盤の部分では、たくさんの割れ目(節理)が発達しており、花崗岩類の特徴となっている。花崗岩類は、地下深く(数km~10km)でゆっくりと冷え固まってできた深成岩であり、冷え固まるときにできた割れ目とその後の地殻変動でできた割れ目が無数に存在する。また、地下からの熱水で変質を受けた部分もあり、そこでは著しく粘土化している。

東西方向の断面図(図2)に見られるように、砂礫層と花崗岩類との不整合面(砂礫層基底面)は概して平坦であり、西に向かってゆるやかに傾く。このような地質構造が、本地域の地下水の流動を大きく規定しているのである。

3)準備書における水文調査の問題点

1. 難透水層の把握は正しいか?
上に述べたように、花崗岩類が、地下深所での冷却の過程やその後の地殻変動によって形成された無数の節理が発達していることは、地質学の常識となっている。海上の森を歩いても、道路の切割などに露出する花崗岩類は、著しい方状節理(サイコロのような割れ目)やシーティング節理(ほぼ水平に剥がれるような割れ目)が見られる。山地内部の地下水は、その割れ目に貯留されている(裂罅水と呼ばれる)。379ページの湿地の成因を示す花崗岩地域の模式図で(図 6-17-55)は花崗岩類の地下部分を「不透水層」としているが、割れ目を流動する地下水が存在しないことはあり得ないのであり、「難透水層」であることはあっても「不透水」であることは考えられない。

準備書64ページでは、次のように述べられている。 本地区及びその周辺における基盤岩は花崗岩であるが、花崗岩の場合、風化の程度によって難透水層を明確に区別することは難しい。このため、難透水層の把握に当たり、多くの地質ボーリング資料における孔内水位と花崗岩の風化の程度及び地下水の流動性に着目し、透水係数が小さく水の流動性が低い強風化花崗岩(地質柱状図に記載されている花崗岩岩級区分でCLの部分「軟岩以上」)を難透水層としてその形状を把握した。

ここでは「難透水層」としているが、それの方が正しい。しかし、この記述で基本的に問題と思われる点は、花崗岩岩級区分 CLを難透水層としていることである。ボーリングコアの観察による花崗岩の岩盤区分は柱状図の下に添付されており、コアの硬軟区分(A~D)、コアの形状区分(?~?)、コアの割れ目状態(a~d)、コアの風化区分(α~ε)、コア変質(1~4)をそれぞれについて判定し、それらを総合して、ほとんど風化していないAから著しく風化した状態Dにまで区分している(表1、資料編73~75ページの読みにくい表を筆者が見えるようにした)。岩盤区分CLは、風化の程度が最も進んだDの1クラス下のランクである。

岩級区分のA~Dは、注に記載されているように岩石の堅さの指標であって、透水性とは直接の関係はない。重要なのは割れ目の程度である。コアの形状区分が調査されているが、砂状(?)・れき状(?)・岩片状(?)は透水性が良いと判断されるのは当然であるが、短柱状(?)・長柱状(?)・棒状(?)であっても、5~50cm間隔に割れ目が入るのであり、その割れ目を通路として地下水が流動していると考えられる。注記には、CLでは透水係数は10―5 cm/sオーダーであり、Dランクは10―4 cm/sオーダーとしているが、その根拠も示されていない。どの地点でどの程度のサンプルに基づいて透水係数のオーダーを決めているかを明らかにすべきである。表1に示された各種の岩級区分にしたがって多数の現場透水試験による透水係数の計測を行って、その根拠に基づいた「難透水層」の定義がなされなさらに、もっと基本的なことであるが、66ページに示された難透水層の形状を示す平面図(図6-7-4)は、どの程度の密度のボーリングデータに基づいて図が書かれているかが不明である。これほど詳細に描けるほどたくさんのボーリング調査が行なわれたものなのであろうか。少なくとも、72ページの地下水位観測の13地点だけでは到底この図を描くことはできないし、1995年度~1996年度に行なわれた地質調査におけるボーリング調査の地点を加えたとしても、さらに住民の反対を押しきって98年夏から秋に行なわれたボーリング調査を加えても、この図は描くことができないと思われる。さらに、もっと基本的なことであるが、66ページに示された難透水層の形状を示す平面図(図6-7-4)は、どの程度の密度のボーリングデータに基づいて図が書かれているかが不明である。

結局、難透水層の把握は、科学的には意味がない。

2. 地下水流動はこれで良いか?  
「地下水涵養域の把握」では、次のように述べる。

過去の調査結果及び地下水現地調査結果をもとに、図6-7-5に示した難透水層の上に分布する地下水位の分布状況を把握し、図6-7-5に示す。また、同図中のa-a’線における地下水分布の想定断面図を図6-6-6に示す。 これらの結果から、地下水の流動形態として次のことが考えられる。

●地下水は、概ね難透水層の形状を反映する形で流下している。

● 猿投山北断層を挟んで、北西側と南東側で地下水が別の方向に流れる地下水の表面形状を示している。また、断層に向かう流れが存在するとしても尾根近傍であり、透水性の低い断層粘土に遮られることから、断層を越えて流入する量は少ないと考えられる。

以上のように、図6-7-5の地下水形状と流動方向の図は、先に述べた「難透水層」の図に基づいており、筆者は1において難透水層の図が正しいかどうか分からないことを指摘したので、地下水形状と流動方向の図も、基本的に信頼性がないと考えざるを得ない。

?は、難透水層を水を通しにくい岩盤として定義しているので、「反映」して流動しているというのは当然であり、循環論である。?は、断層粘土に遮られるから断層を越えて流入する地下水量は少ないと結論している(資料編63ページにも断層粘土に関する記載がある)が、問題がある。断層面に沿うすべての地点で断層粘土があると考えることが、そもそもおかしい。筆者は三河地方花崗岩地帯の各地の断層を調べて歩いているが、破砕されていても断層粘土がはっきりとしない露頭をいくつも発見している。断層には断層粘土が常に存在するとする仮定自体が間違いである。もう一つは、「断層を越えて流入する地下水量は少ない」と量的な評価が記載されているが、断層粘土による遮断がどの程度のものか、実測したデータが示されていないので、なんとも言えない。次に述べるデータからも、断層を越えて流入してくる多量の地下水があることは確かである。

3. 屋戸川・寺山川源頭部における流量調査について    
準備書360~368ページおよび433~436ページには、地表流量空間分布調査と屋戸川・寺山川流域源頭部における流量観測、水質分析の結果が記載されている。屋戸川・寺山川流域源頭部における流量観測は、砂礫層と花崗岩とが接する地域での水文観測資料として、大変興味深い調査結果である。

365ページの図6-17-44には、地質図をベースに調査した4流域の流域範囲が示されているが、それぞれ源頭部で隣接する小流域(屋戸川と吉田川流域の流域面積が狭すぎることが問題である)において、地表流の流量観測と基底流の水質調査が行なわれた。流量調査は、土嚢で固めたパーシャルフリュームおよびVノッチを設置し、その水位を水位計にて計測し、時々の流量計測によって水位-流量曲線を作成して流量に換算したものである。降水量の観測点は、海上の森の北西部地点であり、調査流域とは約1kmほどしか離れていない。地表流量調査の資料と合わせて、その結果の生資料が資料編313~334ページに記載されている。

先ず、399ページの降水時における比流量の変化とクイックフローの流出率の図(図6-17-45)を示す。縦軸の比流量というのは、流量をその流域面積で割って流域面積の影響を除去する表現である。流域範囲は大分違うので集められて流れる流量も異なるが、比流量に直せば流域面積の異なる流域の流量を相対量として比較することが可能になる。この図には、昨年秋の降水が多かった9月20日から10月初めまでの降水量と比流量の変化が示されている。

四つの流域のうち、吉田川流域の目盛りが違うことに注意していただきたい。吉田川流域の比流量は他の流域に比べて著しく少なく、また他の流域では降雨に伴って比流量が増加する傾向がはっきりと読み取れるが、吉田川流域は降雨に対し比流量のピークがほとんど現れない。このことは、吉田川流域に降った雨のほとんどが地中に浸透してしまったと考えて良い。この流域は、断層の近傍であり、断層活動に伴う破砕作用の結果、岩石がぼろぼろになり空隙率が大きく透水性が良い岩盤となっている可能性がある。

他の流域では、図に見るように降雨に対応して流量が増加し、降雨のピークから30分~1時間程度で流量のピークとなる。その後は徐々に減少して基底流となる。基底流は、山地内部に浸透した地下水が少しづつ流出しているものと考えられている。流域に降った降水量に対して河川に流出した量の割合を、流出率と呼んででいる(基底流量を除く)。その流出率をここの降水イベント毎に計測したものが、図中の数字で示される。これがクイックフロー流出率である。それによれば、吉田川では著しく小さな値を取り、各イベントとも流出率は 0.5%以下である。それに対して、寺山川流域では、最大74%にも達する。屋戸川流域と海上川流域は、その中間を示し、最大でもそれぞれ24%、38%である。寺山川流域のこの高い流出率は、他流域からの地下水の流入によると考えられる。それぞれの流出率は、降雨強度や先行降雨の量によって違いがあるのは当然であるが、図で見る限り、降雨強度・先行降雨量が大きいほど流出率が大きいことが読み取れる。これらの点についても資料を提出すべきであろう。

364ページの表6-17-32には、9/15~12/1の期間全体の流出率が求められているが、それによれば、最低の吉田川流域で25.3%と小さいのに対して、寺山川流域で98.5%にも達し、隣接する他の流域から地形的分水界を越えて流入していることを示している。寺山川流域へ流入してくる地下水が、どの流域からのものが最も寄与しているのかは、このデータからでは明らかではない。しかし、断層以北の地質構造は、砂礫層の基底面は西に向かった傾き、砂礫層中の難透水層も西に向かって傾いていると考えられるので、断層以北では海上川流域および寺山川の東隣りの流域(その流域を筆者は東広久手川と仮称している)が考えられる。断層以南では、吉田川流域の比流量の著しく小さいことから、流入源を吉田川流域とそれに隣接する尾根や吉田川谷底に向かう斜面と考えるのが妥当であろう。

4. 源流部における水質分析結果について      
もう一つ、興味深いデータがある。それは、435ページおよび資料編324ページの各流域における降雨時の電気伝導度(ECと略す)の連続観測結果の図(資料6。17-16)である。電気伝導度とは、水に溶存している電解物質の量を計る指標である。一般に降雨流出時には希釈されるためにECは低下する。寺山川のそれは、流出のピークと鋭く対応するわけではないが、なだらかにECは減少しており、一般的な傾向を示すと考えて良い。しかし、海上川流域では、降雨流出時にECが増加するイベントがあり、一般とは逆の傾向を示す(10/5日前後の急激なECの増大は降雨流出とは関係なく起こっているが、その原因は分からない)。このことは、海上川流域においては、降雨時には比較的地下深くの溶存イオン濃度の高い地下水が、押し出されるように流出していることを示す。その原因は今のところ明らかでないが、本流域はその中央部の谷底に猿投北断層の分岐断層が走っており、この異常はこの断層に原因があるのではないかと推定される。

屋戸川におけるECの変動も、降雨流出に伴うECの急減が認められるが、それとは関係のない時期に一時的なEC の急増がしばしば起こっている。溶存濃度の高い地下水が脈拍を打つように押し出されたのだろうか。吉田川流域の変動も、降雨流出に伴うECの低下が見られるが、9/25~9/29の期間におけるECの大きなピークを形成している。なぜこのような現象が生じるのか不明であるが、きわめて興この流域の異常を示すもう一つの資料がある。368ページの流域界付近の水質の変化図(図6-17-48)である(採取日時が明記されていないのは問題であるが)。これは、洪水流出の後の基底流を採取して水質分析をしたもので、ヘキサダイアクラムとして表現している。ヘキサダイアグラムというのは、溶存物質のうち陽イオン(Na++K+、Ca+、Mg+イオン)と陰イオン(Cl-、HCO3-、SO42-)の6項目に分けてその濃度(meq/l)を図形としてあらわしたものである。

この流域の異常を示すもう一つの資料がある。368ページの流域界付近の水質の変化図(図 6-17-48)である(採取日時が明記されていないのは問題であるが)。これは、洪水流出の後の基底流を採取して水質分析をしたもので、ヘキサダイアクラムとして表現している。ヘキサダイアグラムというのは、溶存物質のうち陽イオン(Na++K+、Ca+、Mg+イオン)と陰イオン(Cl-、HCO3-、SO42-)の6項目に分けてその濃度(meq/l)を図形としてあらわしたものである。 味深い現象である。

吉田川流域はすべて花崗岩からなる流域であり、その水質組成は花崗岩流域を代表していると見て良いであろう。Na++K+イオンが多く、HCO3-イオンも多い。一方、屋戸川流域では、源流部で3地点、やや離れて1地点の分析結果が示されている。下流では、左上すみに示した雨水の分析結果(+イオンがほとんどない)と似た結果を示すほど溶存成分は少ない。それは、この地点の基底流は砂礫層から染み出した地下水と考えられ、地下水が砂礫層中を通過する滞留時間が短いためか、あるいは砂礫層がほとんどチャート礫からなり砂礫層自身に溶存する物質が少ないためであることを示している。ところが、源流部では両イオンとも大きな値を示し、源流部に行くほど花崗岩流域の水質組成に近づく。このことは、断層以南の花崗岩からの溶出成分が屋戸川流域に流入していることを意味する。寺山川流域でも、地点による相違はあるものの、源流部に近づくほど花崗岩流域の水質組成に近づく。したがって、寺山川流域においても、断層以南の花崗岩地域からの地下水流入は明らかである。

海上川流域では、3地点の分析が行われている。上流からの 2地点は花崗岩流域の吉田川の分析結果と似ているが、最下流の地点ではHCO3-イオンが特に大きく、Na++K+イオンも多くなっている。HCO3-イオンは地下水の滞留時間が長いほど高い値と取るといわれており、陽イオンは岩石からの溶出によると考えられている。したがって、Na++K+イオンが多いことも、滞留時間が長い地下深くの地下水が湧出していることを示している。この地点は、まさに断層の真上であり、断層破砕帯から直接湧出してきたものと推定される。断層はしばしば「みずみち」となって、地下水流動の経路となることが知られており、これらのデータはそれを裏付けるものである。

5. 流域源流部における地下水位連続観測結果について    
367ページには、流域源流部で実施された地下水位連続観測の結果が、時間雨量とともに図示されている(図6-17-46)。準備書にはその地点が明記されていないが、当局に問い合わせてところ、ボーリングNo.Aは、海上川流域の南の尾根上に位置し、砂礫層谷底部No.Bというのは、寺山川流域の源流部である。No。Aは花崗岩地域の尾根上の地下水位変動を代表し、No。Bは砂礫層地帯の変動を代表していると考えて良いであろう。一方、砂礫層尾根部 No。6というのは、三角点の60mほど南東の尾根に位置する。それぞれの地点は、図1に示してある。

準備書にはないが、住宅企画課から提供していただいた地下水位観測のボーリング柱状図を図4に示す。柱状図では、97年9月初めの頃にボーリングされているが、花崗岩尾根上のNoA地点では、9月4日に計測された孔内水位は176.5mであるのに、9月9日の掘削終了後には155mにまで低下している。その差は、約22mにも達する。それ以降の地下水位観測結果と大分違うのはなぜであろうか。

ボーリング柱状図と照合すると、地下水位変動に示される地下水面の高度は、尾根から26~30m下である。花崗岩の尾根上の地下水位変動は、降雨後 1~1.5ヶ月を経過して初めて上昇しはじめ、ゆっくりと上昇し、8月から後は安定した水位を保って渇水期の12月まで持続している。それに対して、寺山川源流砂礫層地域の地下水位変動は、降水のピークに対してすぐに反応するが、その変動量は少なく、すぐに低下していまう。砂礫層の尾根上の観測(図11の地点6)でも、水位変動の幅はやや大きいものの、降水の変動に対して小刻みな変動を繰り返してい このような違いは、本文にも指摘されているように、砂礫層と花崗岩類の透水性の違いに原因が求められる。すなわち、花崗岩地域に浸透した地下水は砂礫層に比べて浸透しにくいのでゆっくりと浸透し、降雨に敏感な変動を示さないのに対して、砂礫層地域では降雨で浸透した地下水はすぐに地下水面に達し、敏感に降水量変動を反映するが、降雨の終了とともに地下水位は減少すると考えられる。このように降水のピークにすぐに反応するのは、パイプ流のような地下水の「みずみち」ができている可能性や、降雨浸透に伴う圧力による下層地下水の押し出し効果の可能性がある。

以上のように、断層以南の花崗岩地域の豊水期の地下水位は高く、砂礫層地域の地下水位は低いので、それによる動水勾配により、風化花崗岩地域から砂礫層地域へと地下水流動が生じていることは明らかである。そのことは、水質分析の結果とも調和的であり、また66ページ下の地下水分布想定断面図(図6-6-6)にも示されている。

6. 筆者による水文地形学的調査について
筆者は、先に触れたように海上の森の湿地生態系を存立せしめている地形地質と水文現象の研究を行っており、未完であるが現段階の調査結果について述べ、上記の問題に関する一資料としたい。紙数の関係で、方法など詳しい記載を省略する。

1)河床縦断形・河床物質と比流量    
先ず、河床縦断形と河床物質の調査およびそれと同時に流量調査を実施した。河床縦断形を調査するのは、次のような理由である。一般的には、流水の侵食・運搬・堆積作用により流下方向にスムーズに河床高度を減少させるが、源流域の渓流では、河床物質の物理的特性(侵食に対する抵抗性)や河床物質の透水性に起因する局所的な地形変化が生じる。それらは、洪水時に生起する現象であるが、低水時には、河床変化は起こらず、周辺山地からの地下水の湧出や浸透が繰り返されている場でもある。それを調査することにより、海上の森の湿地生態系の存立を明らかにしようとするものである。

調査河川および流量測定地点を図5に示す。東広久手川・南海上川は名称が付けられていないが、記載の便宜のために筆者が仮称したものである。ちなみに、準備書の水文調査で示された「海上川流域」は、筆者の南海上川の枝流域に当たる。各河川の河床縦断形と流量・水質調査結果を図6~9に示す。屋戸川・寺山川・東広久手川河床縦断形には、図1の地質図に記載された砂礫層基底面の高度を読み取って、花崗岩類と砂礫層との接触面の高度を推定して記入してある。

屋戸川の河床縦断形は、屋戸小橋からの入口付近で階段状に急傾斜の区間があり、大きな方状節理の発達した花崗岩が露出する。かつて水田のあった広い谷底に出ると、急に勾配が緩くなる。しかし、花崗岩は寺山川合流点まで露出しており、それよりも上流では河床物質は砂礫層である。寺山川合流点付近には、古い石組みの堰堤とコンクリート堰堤が築造されており、そこで堆積物がトラップされ、河床勾配が緩くなっている。これは人工構築物による河床縦断形の変形であり、本来は図の赤の実線のような勾配をしていたと考えられる。その上流では、小刻みな小滝がいくつかあり、そこには多くの場合、砂礫層に挟まれるシルト層やマトリックスに粘土質の物質を含む層が露出しており、不(難)透水層を形成していると考えられる。そして、その周辺に湿地群落が成立している。 下流に行くほど流域面積が増大するために、流量は流下方向に増大するのが通常である。しかし、流量を流域面積で除して比流量に直せば、流域面積の影響を除去できる。したがって、比流量の大きい地点は地下水が涵養されていることを示し、逆に比流量が小さい地点は地下水として浸透(あるいは伏流)していることを示す。興味深いことは、屋戸川では比流量の大きな区間に湿地が存在していることである。

屋戸川で最大の比流量を示すのは地点5であり、そこは花崗岩が露出する最も下流地点である。このことは、花崗岩類の透水性が砂礫層に比べて低いために、全体に西に向かって緩く傾斜している地質構造に沿う形で、花崗岩類の上に乗る砂礫層中の地下水がこの地点付近で最終的に湧出しているためと解される。地点4よりも下流側では比流量が減少するが、それは花崗岩の節理に表流水が浸透しているためと考えられる。

寺山川流域においては、屋戸川ほど顕著な河床縦断形の変動は少ないが、やはり砂礫層中の粘土質層が露出する部分で小滝を形成しており、その付近に湿地群落が成立している。比流量では屋戸川ほどの変化は乏しいが、おおむね比流量の高い地点周辺に湿地群落が成立している。先に示した地下水位観測地点No.Bのボーリング柱状図(図4)の砂礫層は厚さ約12mで、その下位は風化花崗岩となっているので、流量観測点付近の湿地はこのような地質構造に起因する砂礫層中の地下水の湧出によることは明らかである。

寺山川流域の東の流域、東広久手川の河床縦断形も、下流部では人工的な堰堤や石組堰堤によって変形されている。この流域では、砂礫層は尾根の頂部だけに分布しており、河川沿いは花崗岩の岩盤が露出する。その源流部に湿地群落が存在するが、図に示した地点からは明らかに砂礫層が露出しており、地質図の砂礫層基底の高度をスムーズにつなげると、湿地群落は、砂礫層と花崗岩との接点付近の下流に広がっており、砂礫層からの湧出地下水によって形成されたものであることが分かる。また、比流量が最も大きいのは地点3であり、おそらくこの地点では花崗岩類の節理から多量の地下水が湧出していると判断される。このことは、後述する電気伝導度や水温の変化とも調和的である。

さらに東の南海上川を調査したのは、猿投北断層と分岐断層の両者を横切るように流れるので、比流量の変化を見ることによって断層破砕帯による地表流に浸透状況が明らかになると考えたからである。図に見るように、砂礫層地域と違って全体に比流量は大きく、分岐断層の直上の地点7において比流量が減少しており、また猿投北断層のすぐ下流の16地点から比流量が減少することから、断層破砕帯が地下水を浸透させている「みずみち」となっていることが推定される。

2)水質調査結果と溶出実験    
電気伝導度等の水質調査では、寺山川流域は、豊水期(10月)には猿投北断層の分岐断層に近い地点でECが高い値を示しており、それから離れるにしたがって次第に減少する。屋戸川流域でも、最も断層に近い源流の地点で飛び離れた高いECの値を示す。これらの事実は、先に準備書が明らかにしたように、断層以南の他流域からの地下水の流入を裏付けている。

電気伝導度は豊水期には希釈されて低い値を示し、渇水期には高い値を示すのが普通である。そこで、同じ渇水期の調査結果を流域別に比べると、屋戸川では、最下流と源流の地点を除いてほとんどの地点で20μS/cm前後であり、寺山川でも源流部を除いて 22~25μS/cmと低い値であるのに対して、東広久手川では22~30μS/cmとやや高くなり、南海上川流域では60~100μS/cmときわめて高い値を取る。南海上川は、流域面積の大半が花崗岩であるのに対して、屋戸川流域・寺山川流域は砂礫層からなる流域であり、その違いを反映していることは明らかである。東広久手川は、流域の約半分くらいが砂礫層であり、両者の中間的なECの値を示す結果となったと解される。

それは、花崗岩の造岩鉱物のうち長石類と雲母類および角閃石から特に溶けやすいNa+、K+、Ca+、Mg+イオンの溶出が起こりやすいのに対して、砂礫層の大半を構成するチャート礫が溶出成分をほとんど持たないという、地下水による溶出条件の地質による違いがこの原因となっていると考えられる。砂礫層地域の湿地の「貧栄養」は、それが原因であると考えて良かろう そこで、そのことを論証するために、花崗岩と砂礫層の簡単な溶出実験を行った。それが図10 である。同じ花崗岩類でもサンプルによってかなり異なる。四つ沢の風化花崗岩(granite2)は、斜面表層の著しく風化して粘土化した部分(岩級区分 Dに相当、他はCM~CLに相当)であり、すでに溶出してしまったので、このように低い電気伝導度となったのであろう。しかし、他の風化花崗岩のサンプルは、砂礫層と比べて高濃度のECを示す。詳細な水質分析は、現在進行中である。以上の結果は、上記の岩石による溶出のしやすさの違いを示し、各流域の基底流の水質はその違いを反映していることは明らかである。

そこで、そのことを論証するために、花崗岩と砂礫層の簡単な溶出実験を行った。それが図10である。同じ花崗岩類でもサンプルによってかなり異なる。四つ沢の風化花崗岩(granite2)は、斜面表層の著しく風化して粘土化した部分(岩級区分Dに相当、他はCM~CLに相当)であり、すでに溶出してしまったので、このように低い電気伝導度となったのであろう。しかし、他の風化花崗岩のサンプルは、砂礫層と比べて高濃度のECを示す。詳細な水質分析は、現在進行中である。以上の結果は、上記の岩石による溶出のしやすさの違いを示し、各流域の基底流の水質はその違いを反映していることは明らかである。

3)砂礫層・花崗岩中の粘土・シルト層と地下水流動      
現地で確かめられたように、砂礫層や風化花崗岩中にはしばしばシルト層・粘土層が挟まれ、それらの不透水層・難透水層上に地下水が溜まり、宙水を形成していると考えられる。それは、砂礫層地域の斜面の何個所かに、馬蹄形の滑落崖とその下部に湿地が存在するのは、この宙水の湧水に伴う表層崩壊と考えられる。このことを確認するために、すでに愛知県によって行われているボーリングすべての柱状図を入手して検討した。柱状図には一般的な記載しかされていないため、保存されているボーリング・コアを肉眼で確かめる作業を行った。砂礫層中では、柱状図には記載されていない数多くのシルト層・粘土層が挟まれていることが明らかとなった。

図11は本地域の代表的な柱状図で、主として尾根上の地点を選んでおり(地点27だけ吉野町の沖積低地である)、それに肉眼で確認できるシルト層・粘土層を記入してある。それらは2~3cmの薄い層から1m程度の厚い層まである。しかし、それは広い広がりを持った層とは考えられず、局所的であって相互に対比することはできない。花崗岩類にも、粘土化した部分が多く存在していることが分かるが、いずれも局所的なものである.

また、花崗岩類については表1のコアの形状区分によって色分けしてあるが、一般的に表層から深部に向かって風化の程度が少なくなっていることが分かる。砂礫層の下の風化花崗岩も、大部分が砂状ないし礫状の風化程度である。16地点だけ、砂礫層の下に直接棒状の花崗岩類が接する。さらに、柱状図の右側にボーリングの掘削時の地下水位を日付を付けて記入した。調査はいずれも渇水期に行われているが、地下水位はかなり高いところにある。斜面の滑落崖形成の原因となる湧水は、この高位置にある地下水面との深い関わりがあると推定される。

一方、砂礫層基底面は緩やかに西に向かって傾いているので、砂礫層に挟まれるシルト層も西に傾いていると推定される。とすれば、基本的に地下水は砂礫層基底面に沿って西に向かって流れ、あるいは基底面に沿わなくてもシルト層の面に沿って西向きに流れていると考えられる。このように考えるならば、東広久手川の左岸の砂礫層からなる斜面に降った雨は、砂礫層中に浸透して寺山川の方向に流動するはずである。準備書で寺山川の流出率が高く他の流域からの流入が考えられたが、その一部は東広久手川流域および南海上川支流域(準備書の海上川流域)の砂礫層によって構成される斜面に降った降水と考えなければならない。また、寺山川の谷底の砂礫は薄くすぐに花崗岩類に接するので、寺山川の谷底を流れる表流水も、屋戸川流域の方向へ流動していると考えられる。

そこで、流量調査を行った5流域の最下流地点で、同じ日に流量測定を行い、比流量を求めて各流域の比較を試みた。図12にそれを示す。渇水期だけの未完の調査である。最も比流量が大きいのは南海上川である。それは、ほとんどが花崗岩からなる流域であり、砂礫層に比べて浸透しにくい性質を示すものと考えられる。東広久手川のそれが南海上川の比流量よりも小さいのは、流域の約半分が砂礫層地域であり、そこに降った雨が浸透して寺山川流域に流れ込んでいるためと考えられる。問題の寺山川の比流量は、屋戸川の約半分程度と小さい。それは、寺山川流域に降った水が、西に傾く砂礫層基底面付近を浸透して屋戸川に流入していることを示している。さらに西には吉田池の谷がある。仮に吉田池川と呼んでおくが、吉田池川流域は、地質断面図(図2)に示されるように、厚い砂礫層の上を流れるため、屋戸川からの地下水は吉田池川の下を流れてしまって、吉田池川の比流量には現れないと解釈される。

4)筆者の調査結果の結論   
以上の筆者の調査結果から、

1)本地域の貧栄養湿地群落の形成は花崗岩と砂礫層との地質構造に規定された地下水流出の結果であり、

2)屋戸川・寺山川源流域においては断層以南の花崗岩地域からの地下水の流入が起こっており、

3)花崗岩類においてもその節理系を通路とする地下水の浸透・湧出が起こっていて河川に沿う比流量に変化が生じていること、

4)断層破砕帯が地下水の水みちとなっている可能性が高いこと、

5)西方へ傾く地質構造から全体に西に向かう地下水の流れが存在し、各流域の比流量の差となって現れていること、

などが明らかにされた。

7. その他の問題      
以上は屋戸川・寺山川流域の問題であるが、赤津川・篠田川流域の湿地生態系にとってのトンネル施工に伴う環境影響の問題がある。準備書では、この地域の地下水や表流水等の水文環境の実態については、比流量空間分布調査しかなされていない。191ページには、「調査対象地域北東部に計画しているトンネル工事は赤津川左岸支流の水量を減少させる可能性があり、乾燥化にともない貧栄養湿地植生の存続または種組成に影響を及ぼす可能性がある。」と述べているが、具体性に欠ける。その保全対策も触れられていない。湿地生態系を維持するには、渇水期の地下水湧出量が重要であり、その流量調査と地下水流動を把握する必要がある。

昨日、公開請求していた赤津地区と地質調査報告書が公開された(名古屋土木事務所発注の外部委託調査。大規模事業関連工事の内地質調査業務委託、名古屋瀬戸道路(その1)瀬戸市西山路町地内始め、報告書)。これは、赤津地区のトンネル施工のための地質調査であるが、周囲の湿地への影響を調べるための地下水調査も実施している。調査結果をまとめた図5-1地質想定断面図(湿地断面図)を示す。それによれば、直接トンネル施工に伴う湿地の破壊はもとより、トンネルにおける地下水の排水により間接的にも湿地への影響は避け難いことは明らかである。

また、ほぼ垂直で幅20m程度の顕著な断層破砕帯も発見され、そこに大量の地下水が貯留されていることが推定されている。破砕帯は、ほぼ東西方向のほぼリニアメントの線状にあり、リニアメントに沿う地下水の「みずみち」が想定される。

8. 地形改変による予測・評価をめぐって
以上、仮に準備書の難透水層の形状分析が正しく、それから導き出された地下水面の形状が正しいと仮定しても、準備書に示された源流部における流出特性の調査結果、基底流出の水質分析結果、さらに地下水位変動の連続観測結果を科学的に読み解くならば、断層以南の花崗岩地域からの砂礫層地域への地下水流入は明らかである。したがって、準備書の65ページの?の「断層以南の流域からの地下水流入量は少ない」との結論は、準備書のデータ自身から導き出される結論とは異なっており、誤った結論に導いていると言わなければならない。ちなみに、データ自身から導かれる地下水の流動方向を、図6-6-5に筆者が書き加えてある。

準備書の中では、随所に「隣接するから、流域を越えた流動の可能性が推定される」(363ページ16行目)と述べたり、「動水勾配により、風化花崗岩側から礫層側への地下水流動が生じる可能性も考えられる」(同ページ下から8~9行目)と述べ、また、「風化花崗岩地域における地下水が、礫層地域における表流水の水質に、何らかの影響を及ぼしている可能性が推定される」とも述べ、「可能性」や「推定」の文言が頻繁に使われている。しかし、既に述べたように、データを科学的に読み取る限り、「可能性」などではなく、「明らか」に推定されるのである。

事業による改変の予測・評価に関しては、404~405ページに書かれている。「造成等の地形改変による屋戸川・寺山川流域のシデコブシ生育地域への地下水涵養状況の変化」の項で、「調査結果によれば、寺山川流域の源頭部において、移動方向や量等は不明であるが、地形的な流域界を越えた表層もしくは浅層の地下水の移動の可能性も考えられることから、寺山川の源頭部の地形改変により、寺山川流域のシデコブシや貧栄養湿地の生育地の地下水涵養状況が変化し、シデコブシ及び貧栄養湿地の植物の生育に影響を及ぼすおそれもあると推定される。」この文章は、「おそれ」を除いて、この予測は正しい。

さらに、「ただし、地形改変によるこのような浅層地下水の流動変化の推定手法には、調査の方法を含めて、確立された手法がないこと等から、上記のような予測結果の考察には不確実性が伴っている。」と述べる。その言い方は、まるで、湿地に影響はないと考えられるが、影響があることを定量的に把握する方法がないから、「施工後数年間は事後調査を実施し、…」と、事後調査に下駄をあずける言い方である。正しくは、「造成による改変によって影響があることはほぼ明らかであるので、それを回避するように計画を変更する必要がある。しかし、影響がない可能性も残されているのでさらに調査を実施する」という言い方でなければならないはずである。

また、浅層地下水の流動に関して「調査方法を含めた確立した方法はない」というのは誤りである。浅層地下水の流動についてはこれまでのデータで十分であるが、地下水流動の定量的な把握がなされていないことが問題である。さらに必要というのであれば、これまでの流量観測・水質分析を継続的に実施するとともに、系統的に配置されたもう数地点の地下水位の連続測定を時間をかけて行えば、地下水の流動を定量的に明らかにすることは可能である。それほど多額な費用がかかるとは思えないので、動植物など自然環境に配慮しつつ、直ちにそれを実施すべきであると考える。

4)深層地下水に関する調査が欠落している
以上のように、細微においては問題を残してはいるものの、準備書における水文調査はきわめてハイレベルの調査であり、海上の森の自然の解明に大きな貢献をしたと考える。しかしながら、上に述べた分析は、不圧地下水、すなわち浅層の自由地下水の流動に関する調査とその分析であり、深層地下水に関する論述がどこにも触れられていないし調査もされていない。そのことが、本準備書の最大の問題点である。これは、筆者のオリジナルなアイデアではなく、地形地質と地下水について多少とも知識のある人ならば、誰でも考える事柄であることをお断りしておく。

1. 開発に伴う水文環境の変動について    
当然考慮すべきは、海上の森のほぼ中央部を主として新住事業で大きく地形改変すれば、工事中を含めてこれまでとは全く異なる水文環境が出現するのであり、その環境影響評価こそ行なわれなければならないはずであった。地形改変と開発に伴って浅層地下水の大変動が起これば、深層地下水への影響が起こると考えるのは当然である。

新住事業と道路事業に伴う地形改変の程度は、「2分冊のうち1」の19~21ページにその概要が示されている(図2-5-1、図2-5-2)。表2-5-1には、新住事業による全体としての改変土量が求められている。それによれば、切土量約290万m3、盛土量約130万m3となっており、差し引きの残土量160万 m3となる。盛土量と切土量を等しくして、地域内で土砂収支を完結させるのが一般的であるが、この計画では160万 m3にも達する残土を残すのはどうしてか。計画では、「地区外に搬出して公共活用を図る」としているが、その具体的計画は明らかにされていない。残土の捨て場所では、それによって当該地域にどの程度の環境影響が起こるかを評価しなければならない。この準備書は「環境影響評価」の準備書であって、残土の捨て場すら決められていない計画では、環境への影響を評価することもできない。

改変による地形変化については、2本の断面図しか示されておらず詳細は分からないが、東西断面で最大切土高は約40mにも達し、南地区でも最大20mくらいに達しているようである。切土面積が計算されていないので、土地利用平面図から概略の計算をしてみた。表2-3-4から、公園緑地を除いた部分が何らかの地形改変面積と推定し、造成計画図から、切土面積が改変面積の約6割と見なして、切土面積を求めると約29.3haとなる。切土量290万m3を切土面積で割ると、ha当たり約9万9千m3の切土量が求められる。それを平均の切土高に直すと、約10mである。これが地形改変による平均改変量であって、物理的に削り取られる量である。

水文学的には、その分だけ地下水位が低下することになる。それに加えて、建物や道路によって降った雨水は雨樋や側溝に排水されて、土地に浸透する雨水は激減すると予想される。準備書の中では、漏水性のある側溝・漏水堰などの対策を講じることになっているが、目詰まりの可能性もありどれほどの効果があるかは疑問である。降雨強度の強い降雨の場合にはほとんどの雨水が排水されて、洪水調整池に貯留することになる。調整池は、まさにそのための施設である。公園緑地は、市街地ほどではないにしても、森林とは違って流出係数は大きい。つまり、調整池に流入する分だけ、土地に浸透する地下水量は減少し、地下水位も低下すると考えなければならない。


2. 山地内部や地下深部の地下水の流動について
     
ところで、山地内部や深層の地下水については、分からないことが多い。しかし、滞水層の下は空白になっているのではない。岩石には割れ目がつきものであり、花崗岩類もその例外ではない。たくさんの割れ目があって、地下水は裂罅水としてその割れ目に貯留され、地下水の圧力の方向に極めてゆっくりとしたスピードで流動しているのである。準備書あるいは筆者の調査で、花崗岩地域でも比流量の増減があり、花崗岩の節理を利用した表流水の浸透や湧出が起こっていることは明らかであり、水質分析結果でも地下深くからの湧水が推定された。

昨年8月末、民家の裏山で道路事業のためのボーリング調査の最中に、地下水が噴出するという事件が発生した。約 10m掘削したが、その7mの深度で地下水が小便小僧のように地表に噴出したことは、被圧された地下水あるいは動水勾配が上向きに働いたためと思われる。9月から約1月間、噴出した地下水の流量と水温、電気伝導度の測定と水質分析が行われた。その結果を表3、表4に示す。

それによれば、湧水量は、ほとんどコンスタントに毎分14リットル(毎秒に直すと、233ml/sec)、水温もコンスタントに14~15℃、ECもコンスタントに約190μS/cmであった。湧水、井戸水および付近の沢水を採取した水質分析では、沢水に比べて湧水は、陽イオンも高く(とくにCa+濃度が高い)、重炭酸イオン(HCO3-)がきわめて高い値を示す。これは、この湧水が、水温の変動のほとんどない山地内部の地下深くを長期間滞留して、岩石の成分を高濃度に溶かし込んだ水と考えて良い。湧出量をその沢の面積で割って比流量を求めると、4,410,208ml/sec/km3となって、既に示した河川の比流量とはオーダーが4桁も大きな比流量となる。これは、地下水が湧出した沢の流域をはるかに越えた広い範囲から地下水が集まっていることを示している。

そのボーリングコアを肉眼で観察する機会を得たが、20~30cm程度の棒状のコアの中の割れ目(粘土を伴わない)から噴出したという。花崗岩の岩級区分で言えば、AまたはBのあまり風化が進行していないフレッシュな岩盤である。他の多くのボーリングコアを肉眼観察しても、花崗岩の岩盤には無数の節理が発達しており、そのな中に地下水が充満していることが分かる。これは山地内部の地下水の状態を示す一例に過ぎないが、これらの事実は重要である。不透水と思われてきた山地内部あるいは深層には、このような地下水が充満し流動している、そして地下深層では地下水は、流域範囲をはるかに越えてつながっていることを示す。

花崗岩類の節理は、地下水の侵入経路であり、それに沿って風化が進行するといわれる。したがって、大きな節理部分は浸食を受けやすく、差別侵食の結果としての線状構造地形(photogeologic lineament、単にリニアメントという)となって現れることが多い。それは、空中写真の判読によって抽出できる。戦後すぐに撮影された海上の森の空中写真を判読すると、多くのリニアメントが抽出できる。特に顕著なものは、図1に示したが、四つ沢付近をNE-SW方向に延びるリニアメントである。これは、延長距離が長いので、かつては断層ではないかと考えられた(県の1995年の地質調査報告書)。しかし、断層変位を示す証拠が得られないために、リニアメントとして記載された(筆者もその証拠を発見できなかった)。これらの花崗岩の節理によるリニアメントが、深層地下水の「みずみち」としての役割を果たしていることが推定される。

愛知県が既に行った1995年度の地質調査報告書(39~40ページ)では、2地点のボーリング孔で現場透水試験が行われている。それによれば、地点3の CM級の花崗岩(深度3.0~5.0m)で、静水(加圧0~0.5kgf./cm2)の場合には注水できずに測定不能であったが、1.0kgf/cm2以上に加圧すると、透水係数は10ー-3cm/sのオーダーになったことが報告されて、岩盤の亀裂に沿って表層部に「みずみち」ができているためと推定している。地点25の砂礫層のボーリング孔での透水試験(深度21.0~21.8m)では、透水係数はおおむね10―4cm/sのオーダーであることが示されている。

昨日入手したもう一つの情報公開資料は、四つ沢付近に築造される洪水調整池堰堤の基礎地盤を調べるための調査報告書であり、8本のボーリングと各種の試験を行っている。花崗岩岩盤の透水性に関しては、一種の注入法による透水試験であるルジオンテストおよび現場透水試験を行っている。その結果を表2-3、表2-4に示す。岩盤区分DHでも、透水係数は10-3~10-6cm/sと著しいばらつきを示す。先に示した赤津地区でも湧水圧試験を行って、岩盤の透水係数を出している(表4-2)。それによれば、およそ10-4cm/sのオーダーを示しているが、花崗岩中の断層破砕帯ではDH~CLの岩盤であり、その透水係数は10-4cm/sオーダーであり、透水性が良いことを示している。

以上は現場透水試験の数少ない事例であるが、加圧された条件下では、花崗岩類はそれに含まれる節理の状態によっては、砂礫層よりも透水性が良い場合があることを示している。このように、深層地下水においては、断層破砕帯や節理の発達の程度によってはきわめて透水性が良くなる場合がある。現場透水試験は比較的簡単に測定できるのであるから、既存のボーリング孔を利用して各地で試験を実施し、花崗岩の「難透水性」の実態を把握すべきである。

3. 開発に伴う深層地下水の流動モデル      
地形改変および開発に伴う深層地下水の変動について、筆者の考えを模式的に示したのが図13である。海上の森は、猿投山塊の西端にあり、全体として東から西に向かって傾く(図2参照)。したがって、地下水面も猿投山方面から次第に低くなる。地表付近では自由地下水として、地下水は本地域を刻む谷に流出しているが、地下深くにある深層地下水は、西に向かって極めてゆっくりとしたスピードで流動していると考えられる。そこに事業による地形改変が大規模になされ、市街地が開発されれば、開発地域の地下水位の低下は明らかである。どの程度の地下水位の低下が起こるか、その予測は困難であるが、少なくとも物理的地形改変による平均切土高に加えて、市街地開発によって相当程度の低下を見込まなければならないであろう。

とすれば、深層地下水の動きは、これまでとは逆に、周辺から開発地域にゆっくりと流動すると考えなければならない。図の断面を東西方向の断面と考えれば、新住事業の北部地区の開発により、地下水位の低下によって、湿地生態系が存在する。Bゾーンから「北地区」への深層地下水の流動が起こるであろう。この断面をNW-SE方向の断面と考えれば、新住事業の南地区(吉田川流域)の地下水位の低下によって、Bゾーンから「南地区」への深層地下水の流動が起こると考えられる(もちろん、猿投山方面からの流動も考えられる)。そうすれば、いずれにしてもBゾーンにおける地下水位が低下して、湿地の存立が困難になることが予想される。

浅層と深層との間に完全に水を通さない不透水層が存在しなければ、浅層地下水と深層地下水とは連続しているのである。本地域の場合は、その間に不透水層はないのであるから、花崗岩中の節理や断層破砕帯を通じて浅層から深層地下水へと連続していると考えなければならない。砂礫層から花崗岩の岩盤へ、あるいは花崗岩中の表層から深層への地下水供給量がどの程度になるかは明らかでない。

深層地下水の流動とは言っても、花崗岩の節理中を流れる地下水は、後述する事例でも明らかにされているように、10―6~10―7cm/sのオーダーであり、深層地下水はきわめてゆっくりとしか流動しない。したがって、深層地下水が流動してBゾーンの地下水が低下するには、開発してからおそらく数年~10年を要すると思われる。だからといって、その影響を軽視することはB ゾーンの湿地生態系の破壊に直結する可能性がある。

深層地下水の流動に関しては、これまでほとんど研究されてこなかったのは事実である。しかし、最近、深層地下水の流動に関する本が出版された。島崎英彦・新藤静夫・吉田鎮男編(1995):『放射性廃棄物と物質化学、地層処分の現状と課題』(東大出版会)の論文集である。これらの研究は、日本における深層地下水流動に関するはじめての研究と言って良いであろう。その中で、東濃地方に計画されている核燃料物質の地層処分場に関わる、表層および深層地下水流動の研究は興味深い。とくに、柳澤孝一氏の?の第4章「深層を含む広域地下水流動」なる論文は、各種の地質学的・水文学的手法と物理的・化学的手法とを駆使して、深層地下水の流動モデルを導き、深部における北から南に向かう地下水流動が推定している。その調査手法は、地質構造が単純な本地域においては、それほど大規模な予算を投じなくても調査可能と思われる。是非とも実施すべきである。

仮にそれが不可能であるとしても、いくつかの仮定を置いて、計画区域に降る降水量と開発地域の土地利用計画を考慮した蒸発散量・流出率・降水の地下浸透量をシミュレーションをすることによって、地下水位低下量を求めることが可能と思われる。さらにそれによって、地下深部における圧力水頭を求め、岩盤の透水性を考慮して地下水流動を推定することは可能と思われる。資料編 22~24ページには、水循環モデルが示され、多数の項目のパラメーターが計測されており、21ページには地下水流モデルが示されている。しかし、これらが準備書の中でどのように位置づけられるかが示されていない。それはどういう意図があるのだろうか。筆者は、それらを利用して、開発による水文環境の変化を定量化するためではないかと推定する。それを実施すべきである。

5)今後行うべき環境影響評価調査への提言

準備書に対する筆者の意見は以上に述べた通りであるが、万博・新住・道路事業にかかる環境影響評価のために今後行うべき調査について、筆者の提言を下記にまとめておくことにする。準備書では、「事後調査」を行うことになっているが、それは、海上の森にブルドーザーが入り開発されてから後のモニタリング調査であり、開発されてからでは取り返しのつかない環境破壊が行なわれることになってしまうからである。ここで提言するのは、事後調査ではなく、あくまでも事前に開発による環境影響を調べるための調査であることをお断りしておく。その調査の結論を待たずして工事着工の手続きを進めることは、環境影響評価法の趣旨を踏みにじることであり、将来に大きな禍根を残すことになることを申し添える。

1) Bゾーンの源流部における地下水流動に関する定量的な調査を実施すること。北部のトンネル施工地域における地下水流動の定量的な調査を実施すること。そして、開発に伴う地下水位、地下水量、地表流への影響を予測すること。

2) 水循環モデル・地下水流動モデルを適用して、開発に伴う開発地域およびその周辺の地下水水位の変化を予測すること。

3) 海上の森全域の深層地下水の流動を定量的に把握し、開発に伴うBゾーンの浅層地下水への影響を把握すること。

6)おわりに

万博誘致の閣議決定においては、植物種・動物種の貴重種が分布しと生物多様性のあるBゾーンの植物群落への影響を避けるために、万博・道路・住宅施設を縮小してAゾーンに集中した経緯であったことは周知のことである。本準備書は、浅層地下水の流動に関しては詳しい調査を実施し大きな成果を得ているが、その評価においてデータの読み取りが不十分であるばかりか、その結論は逆転されなければならない。さらに、道路・新住事業による開発の影響として当然考慮しなければならないはずの、またBゾーンの地下水への間接的影響をもたらすと考えられる深層地下水の流動に関しては、ひとことの言及もなく、調査すらされていない。本準備書は、その意味で決定的に欠陥があると言わざるを得ない。

筆者の本意見書が、万博協会および愛知県当局において、また県環境影響評価審査会議および都市計画審議会等において慎重に審議されることを願ってやまない。

以上

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