学術的調査に裏づけられた政策提言をするNGOは、今日ではめずらしくないが、当時の日本では数少ない存在だったろう。それは、日本自然保護協会が生物学者など知識人主体にスタートしたこと、世界の潮流をキャッチし、情報があったことが大きい。とくに欧米では自然保護区の設定・拡大に、高度な学術的調査研究の裏づけがなされていることを知っていた。こうして景観重視から自然科学に裏づけられた自然保護論へと脱皮していった。
国際的な潮流はどうだったのか。IUPN(国際自然保護連合)は1956(昭31)年にIUCN(自然及び自然資源保存国際連合)と改称し、自然保護の
対象を森林資源、水源涵養、野生動植物、レクリエーション、観光など広範な分野に広げることを打ち出した。同時に、その根拠を生態学に置くことを確認した。
この時をもって世界の自然保護は、プロテクションからコンサベーションへと大きく変化する。
いち早く「生態学」に取り組んだ協会は、1955(昭30)年に初めて内部に設けた専門部会を「生態部会」とした。メンバーは武田久吉、沼田真、本田正次、山階芳麿など生物・生態学者15人。国際的な動きに一歩もひけを取らなかった。
世界的規模で行われた初めての生物学者の共同研究「国際生物学事業計画(IBP)」が1964(昭39)年から1972(昭47)年に行われたときも、 前述のメンバーらも含めた約600名の研究者が日本からも参加した。この事業で、レッドデータ・ブック(RDB)の前身である「植物種あるいは群落の保護 に関する調査」が行われた。その後、IUCN・WWF・UNEP(国連環境計画)は、世界の生物に関する情報を収集・交換する「世界自然保護監視セン ター(WCMC)」を設立、集った情報を元に、IUCNが数年ごとに世界規模のレッドデータ・ブック(RDB)を出版するようになり、やがて世界各国で国 内版RDBがつくられるようになる。
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