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2002.12.12

アユ大量死の原因は 「降雨による出水時の濁りによるもの」とはいえない

ダム事業者の調査結果に対し独自の見解を発表、自然環境の回復を要請

赤石川は白神山地を源とする清流で、そこで釣れるアユは味や香りが良いため「金アユ」と呼ばれています。
2002年7月、この赤石川で1万匹以上のアユが大量死するという出来事がありました。上流にある赤石ダムは、老朽化による改修工事を6月から行ってい たため、その工事によって流出したダムの堆積物とアユの死因に関係があるとの疑いが持たれています。
ダム事業者の東北電力(株)は、アユの死因を解明するために水質・底質調査を行い、「鮎の死因は降雨による出水時の濁りによるもの」と結論づけました。 しかしNACS-Jがその調査手法や結果を分析したところ、数々の不備や不明点が見られたため、以下のような見解を提出しました。
また、2003年3月には赤石ダムが水利許可の更新期限を迎えることもあり、許可権限を持つ青森県に対して、赤石川の自然環境を回復させるための十分な議論を重ねた上で許可を出すよう要請をしました。
赤石ダムでせき止められた赤石川の水の95%以上は、発電用に取水され、導水管を通して他の水系に流されるという全国でも特異な利水形態をとっていま す。つまり、ダムより上流の世界遺産のブナ林と下流の海は完全に分断されているのです。熊本県では県営の荒瀬ダムが撤去されることに決まりました。 NACS-Jは森から海までのつながりを回復するため、将来的にダムや堰堤を撤去することを目指して赤石川の再生を提案しました。

平成14年12月12日

青森県知事 木村守男 殿
東北電力株式会社 社長 幕田圭一 殿

(財)日本自然保護協会 常務理事 吉田正人

 

赤石川のアユ大量死被害の原因にかかわる東北電力の調査結果に対する見解と

赤石川の自然環境の回復に関する要請

白神山地を源として流れる赤石川は、赤石ダムや数多くの砂防堰堤によって魚類の自然な遡上降下が妨げられ、河川の自然環境の悪化が問題となっている。今年 度は「大池系発電所の水利権使用に係る検討協議会」がひらかれ、水利権の更新期限やダムからの放水量について議論がなされてきた。その一方で、今年7月に は赤石ダムからの濁水の放流後にアユが大量死するという出来事が起こった。このアユの大量死に関して東北電力(株)がまとめた「大池第一(発)赤石ダム貯 水池他 水質・底質調査結果」(以下、調査結果)を、当協会が独自に分析したところ、この調査結果は科学的信頼性に欠けるものであり、赤石ダムが赤石川流 域に与える影響を正しく説明しているとは言い難いと判断された。そのため、青森県知事ならびに東北電力社長に対し、今後の赤石川の自然環境の回復に関し て、以下の通り要請する。

1. 青森県は、平成14年7月に赤石川で発生したアユ大量死と赤石ダムとの因果関係が解明するまで、東北電力(株)に対する長期間の水利権更新を許可すべきでは ない。また、今回のアユの大量死のような事件を二度と起こさないためにも、河川管理者として東北電力(株)を指導し、必要なデータを常時入手すべきである。
2. 東北電力(株)は、以下の理由書で述べる調査結果の不備をふまえ、アユの大量死と赤石ダムとの因果関係を解明するため、さらに調査を継続すべきである。また、今回の調査結果についても、詳細な調査手法や未公開のデータを公表すべきである。

財団法人 日本自然保護協会 保護・研究部 吉田正人/相馬麗佳


理由書

調査結果は科学的信頼性に欠けるものである。

調査は、平成14年7月29~30日に、水質と底質(粒度、重金属量、有機物量等)について行われた。水質調査は「湛水池中央地点」「ダム直流地点」 「7号砂防ダム地点」「熊の湯地点」「養魚場地点」の5地点、底質調査は「湛水池上流地点」「湛水池中流地点」「ダム直流上地点」「ダム直下流地点」「7 号砂防ダム地点」「養魚場地点」の6地点で実施された(資料1参照)。

 

 

 

 

当協会は、この調査結果は、1)調査手法に問題がある、2)データが十分とられていない、3)データと結論が一致していないなど、科学的信頼性に欠けるものであると判断する。

1.アユの大量死は少なくとも7月23日から「養魚場付近」や「熊の湯温泉」付近で見られた。しかし調査が行われたのは、川の濁りが消え、アユの死骸が上流から 流れてこなくなった7月29~30日であり、アユの大量死が起こった状態とは異なる条件で水質調査が行われた(資料2参照)。

2.アユの死骸は、「熊の湯地点」付近でも確認されている。しかし「熊の湯地点」においては、水質調査は行われているにもかかわらず底質調査が行われていない。十分な調査とは言えない。

3.「底質の調査分布」の説明文では、「顕微鏡およびレーザー回析法による粒度分布は、湛水池内の堆積物でレーザー回析法で150μm程度、顕微鏡観察では 50μm程度の粒子が多く、・・・」としている。その一方で、その根拠として示している「表-3 底質の粒度調査結果」では、「湛水池上流地点」「湛水池 中流地点」「ダム直上流地点」における50%粒径D50の値は、それぞれ0.098mm、0.044mm、0.015mmとなっており、説明文と根拠とし て示している表とに矛盾が見られる。

4.「湛水池中流地点」「ダム直上流地点」及び「養魚場地点」において、底質中の有機物量が高い値を示したことについて、「ダム湛水池内では木の葉、落ち葉など堆 積物の腐食によるもの、養魚場直上流地点は生活排水の流入、藻類の増殖、流速が遅く有機物が堆積しやすい等の要因に起因したものと考えられる。」と結論付 けている。しかし、その根拠となる「養魚場地点」についての顕微鏡観察及びレーザー回析で得られた詳細なデータは示されていない。しかも「養魚場地点」の 水質調査結果は、他の地点とほとんど変わらない値を示していることから、底質調査の結果のみで「養魚場地点」の堆積物の由来を「生活排水の流入」によると 結論づけるには無理がある。

このように東北電力が行った調査結果にはさまざまな不備があり、「今回の鮎の死因は、降雨による出水時の濁りによるもの」とは結論づけることはできない。 そもそも、粒度や含有重金属、有機物量の測定だけでは、アユの死因を解明することはできない。赤石ダムとアユの大量死との関係を明らかにするためには、当 協会が球磨川などで実施している微量元素の測定などの調査を行う必要がある。

赤石川の自然環境を回復させる方策を十分に議論すべきである。

以上で述べたように、アユの大量死の原因と赤石ダムの因果関係がはっきりと解明されていない現状のまま、水利権の更新期限を決定するのは許されることで はない。12月16日の「第5回大池系発電所の水利使用に関わる検討協議会」で水利権に関する最終結論を出すのは時期尚早であり、赤石川の自然環境を回復 させるための議論をさらに重ねるべきである。

5.青森県は、今年度中に水利権の許可を出すことに固執せず、赤石ダムの改修工事が実施される来年度もさらに検討協議会を続け、赤石川の自然環境を回復させるための水利権のあり方について検討を続けるべきである。

6.東北電力㈱は、二度と同様のことが起こらないためにも、必要なデータを県や地元自治体に公表すべきである。今回の調査結果に見られるような不誠実な対応は、 企業としての信頼を損なうものと言わざるを得ない。また、来年度の工事でもダムの堆積物の流出はさまざまな被害をもたらすことが考えられるため、堆積物を 流出させる際には、事前に内水面漁業者、沿岸漁業者、及び地域住民の了解を得るべきである。

7.世界遺産地域である白神山地周辺の問題は、青森県内のみならず全国レベルの問題として広く注目を集めている。特に世界遺産地域を源として流れる赤石川は、赤 石ダムで堰き止められた水の95%以上が発電のために別水系に流されているという全国でも特異な利水形態である。河川流量の減少は、海域における海水と淡 水の鉛直循環を減少させ海域の富栄養化を促し、沿岸の生産力にも影響を与えるという事例もある。河川環境の保全のみならず、上流の森林から下流の海までを つなぐことが重要な課題であると考えられる。熊本県は先月末、球磨川にある発電用の県営荒瀬ダムを10年後をめどに撤去すると発表した。ダムが河川環境に 与える影響がクローズアップされ、脱ダムの流れが強まる中、将来的には赤石ダムや堆砂によって機能が低下した砂防堰堤も撤去し、河川の自然環境を回復させ る方向で検討していただきたい。

以上

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