日本自然保護協会は、生物多様性を守る自然保護NGOです。

秋田・駒ヶ岳イヌワシ生息地の保全

秋田・駒ヶ岳イヌワシ生息地の保全 ニュース&トピックス 一覧に戻る

1993.12.20

イヌワシ繁殖・生息地の保全に関する意見書を提出

「森林生態系の頂点に立つイヌワシの保護対策を」

イヌワシ繁殖・生息地の保全に関する意見書を提出

=月刊『自然保護』No.382(1994年7.8月号)より転載=


 

NACS-Jは、昨年(1993年)12月20日、塚本隆久・林野庁長官と、速見統一・前橋営林局長に「群馬県、福島県におけるイヌワシ繁殖・生息地の保全に関する意見書」を提出した。

 

要旨は、

1.群馬県三国高原と福島県博士山地域の森林内にあるイヌワシの営巣地の保護措置を講じ、イヌワシとその生息域にある開発計画の関係を把握する調査の要請。

2.国有林内のイヌワシの生息域を保全する、具体的な方策を講じる要請。

3.その際、イヌワシという種の保護だけでなく、イヌワシを指標にして自然環境を総合的に保全する措置を講じる要請、

の三点(意見書全文参照)。

これらを、国有林を管理する林野庁と、今回事例にあげた二地域を管理する前橋営林局に提出した。

 

NACS-Jでは、イヌワシを森林生態系を保護する際の指標の一つとして注目している。イヌワシはノウサギや大型のヘビなどを餌とする森林生態系の食物連鎖の頂点に位置する猛禽類である。この頂点に立つ生物が生息し続けていることは、それを支える生物相が豊かであること、つまり生物の多用さとその安定を示しているからである。

 

だが、イヌワシは個体数が減少し、それに伴って全国で繁殖率が低下しつつあり、現在絶滅の危機にある。イヌワシのような大型猛禽類が安定して生息し繁殖し続けるためには、十分な生息場所の保全が不可欠である。保全策を立てるためには行動圏やその中のどこをどう利用しているかを、生息地ごとに明らかにすることが重要だ。これまではそれがなされず、人間の都合だけで開発が進められてきたために、イヌワシが生息できる条件を備えた自然環境が次々に失われてきた。

 

今回の意見書では2ヶ所の事例をあげた。

 

一つは群馬県の三国高原地域である。ここは、群馬県がリゾートエリアに指定し、それにあわせて林野庁が森林空間利用林にしている国有林で、(株)コクドによるスキーリゾート開発が計画されている。これまで、新治村の自然を守る会会長岡村興太郎さんらが自然保護のための活動を続けてきた。

 

NACS-Jはこれに協力し、1991年1月に保護部長・横山隆一が守る会と合同の現地視察を行ない、開発予定地のムタコ沢で二羽のイヌワシが飛翔しているのを確認した。この谷の中での初めての観察記録である。これがきっかけで守る会会員によるクマタカやイヌワシなどの猛禽類生息調査活動が始まった。昨年はこのイヌワシのものと考えられる営巣地が新治村内で発見され、つがいでこの地域を利用していることも確認できた。

 

しかし、このつがいの行動圏や内部の利用状況など詳しいことはまだわかっていない。綿密な調査を実施し、その結果に基づいて事業を評価し保全対策が講じなければ、このイヌワシの生息は危うくなる。

 

もう一つの事例は、福島県博士山である。イヌワシの生息地には県が広域基幹林道大滝線の開削工事等を計画している。隣接地には昭和村によるリゾート開発も計画されている。

 

博士山の場合は、これらの計画地がイヌワシの行動圏と重なっていることは、博士山のブナ林を守る会の菅家博昭さんらによって以前から調べてられており、1993年には初めて繁殖も確認されている。当初生息を否認していた県も営巣地を確認してこれを認め、1993年1月から3年計画でイヌワシ調査を行なっているが、「伐採はイヌワシには大きく影響しない」として1993年7月から林道工事を再開している。本来は調査の結果が出るまで工事を中断し、その結果の分析に基づいて計画を見直すべき事業である。

 

ただし、このイヌワシの巣そのものは民有地にあり、生息域には複数の開発計画がある。解決策を見出すのは難しいが、これらを十分考慮した保全策が講じられなければならない。

 

イヌワシの保護を制度的に完成させることは、他の大型動物の保護策や、野生動物を含めた森林生態系の保護策の進展に良い事例になるはずである。意見書として情報を提供したことで、行政側の現状把握作業も始まった。NACS-Jでは、今後もこの課題の解決に努力していきたいと考えている。

(渡邊いづみ・保護部)

群馬県、福島県における

イヌワシ繁殖・生息地の保全に関する意見書

平成5年12月20日

 

林野庁長官 塚本隆久様
前橋営林局長 速見統一様

(財)日本自然保護協会長
沼田 眞

 

イヌワシは1965年に国の天然記念物に指定され、1972年に特殊鳥類に指定された、わが国の森林生態系において食物連鎖の頂点に立つ大型猛禽類です。

 

日本イヌワシ研究会(滋賀県、阿部明士会長)の調査によれば、現在日本に生息する総数は約300羽でおよそ120つがい、1990年に全国で巣立った若鳥は20羽にも達せず、ここ10年間の繁殖率の低下が著しく、種の存続にとって危機的状況にあります。

 

そのため、1989年のレッドデータブックでは絶滅危惧種とされ、種の保存法(「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律)では政令指定種となっています。

 

しかし現在も、大規模リゾートの造成や営巣地近くへの林道開削等の開発によってその生息環境は悪化の一途をたどり、本種の存続のための生息地確保は緊急課題です。

 

当協会ではこの度、新治村の自然を守る会(群馬県、岡村鋼太郎会長)による新治村内の猛禽類生息調査活動に協力し、未発見であった村内のイヌワシ営巣地を発見、つがいによる利用を確認しました。

 

また福島県の博士山周辺においては、博士山の自然を守る会(福島県、菅家博昭会長)によって、イヌワシの繁殖地とその生息環境の保全要請が林野庁及び福島県知事等になされているのはご承知の通りです。

 

つきましては、次の各項目の実現に向けて是非ともご尽力頂きたく、貴職に対し強く要請するものです。

 

1.上記2カ所のイヌワシ営巣地とそこを利用するイヌワシの生息状況を把握し、その営巣地を早急に講じて頂きたい。

2.種として絶滅の危惧にあり、繁殖率の低下によってさらに状況が悪化しているイヌワシの、国有林における生息域(特に繁殖期の狩場、ウサギ・ヤマドリ等の餌動物の生息地等)の保全に対して、今後発見される可能性のある営巣地域も含めて、総合的かつ十分な制度的対応をご検討頂きたい。

3.その際には、イヌワシという種の保護の観点のみならず、「生物多様性条約」にうたわれているように、森林生態系の食物連鎖の頂点に立つ猛禽類が安定して繁殖し続けることが、自然環境を総合的に保全する際の指標として重要であるという観点に立って、保全のための措置が講じられるよう、その内容をご検討頂きた
い。

 

なお、新治村の自然を守る会も、同日付けで環境全体を保護する要望書を提出。博士山の自然を守る会も、翌日記者会見を行なった。

秋田・駒ヶ岳イヌワシ生息地の保全 ニュース&トピックス 一覧に戻る