地域が支えてきた生物多様性を守っていきたい
自然のちから推進部 ネイチャーポジティブ担当 高川 晋一
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「環境問題とネットワーキング」を仕事にしたい
小学校のときに、授業そっちのけで環境問題や社会問題について熱心に教えてくれた先生がいました。その影響で、6年生になる頃には「環境問題を仕事にする」と決めていました。気候変動枠組条約の国際会議が開催された京都が地元だったということもあり、土地柄か環境問題のために働くNGOが身近で、NGOという仕事の存在も知っていました。大学では環境科学を専攻するとともに、国際支援のNGOに関わるインカレサークルにも所属しました。サークルでは、途上国のNGOにインターンとして日本の学生を派遣する取り組みに関わっていました。
もともと、小さい頃から友だち同士をつなげることが好きでしたが、さらに学生時代までに出会った人や事柄で、自分は人と人をつなぐことで、課題解決をしたり、相乗的な力を生み出すことに貢献する「ネットワーキング」の仕事にやりがいを感じることを自覚し、自分の仕事観が定まっていったのだと思います。
人生を変えた旅と本
転機になったのは、大学2年生のときに2週間ほど一人で旅したネパールでの経験です。ネパールは教育水準が高く、豊かな国でもありますが、収奪的な土地利用によって標高の高い地域では土地が痩せ、雨が降るたびに自然災害が起こっていました。その光景を見て、「生物多様性を無視して資源を使いすぎると、貧困に直結する」ことを痛感しました。地域の持続可能性と生物多様性の深いつながりを実感し、日本国内でも取り組めることが多くあるはずだと考えるようになりました。
そして、人生を変える一冊になった鷲谷いづみ先生の「保全生態学入門」を読み、まさに自分が学びたいことだと感じて、これを勉強しようと決めました。
就職したい先はここしかない!
日本自然保護協会(NACS-J)を初めて知ったのは、進学した大学院に置いてあった、NACS-Jが作成した今後の自然保護に関する提言書でした。あまりの完成度の高さに衝撃を受けました。さらに知っていくうちに、NACS-Jは、地域のボランティアリーダー・自然観察指導員の養成を長年やっていて、そうした地域の方々と地域に根差した自然保護を展開していることを知りました。ここは、自分が興味をもつ、「ネットワーキング」と「環境保全」の2つをかけ合わせた取り組みをしている、国内で唯一、私がやりたいことをやっているNGOだ、と思い、ここに就職したい!と強く思うようになりました。
大学院時代、NACS-J主催のシンポジウムが所属していた大学を会場に開催された際に、実際に職員にお会いして、手伝わせてほしいと頼みこんでボランティアとして通わせてもらうようになりました。同時に、自分はNACS-Jにとって科学的側面から役立つ人材になりたいと思い、博士課程に進んで専門性を高めていきました。
NACS-Jでの初めての仕事
NACS-Jに就き最初の仕事は、全国で里山の保全活動や調査活動をされている方々が調査員となり、それらのデータをつなぐことで、全国規模で里山の生物多様性をモニタリングする「モニタリングサイト1000里地調査(環境省事業)」というプロジェクトの立ち上げでした。全国で調査サイトを作り、調査を開始するのと並行して、それらのデータを地域の保全にも結びつけることにも取り組んでいました。始めたての活動をどう全国に広げていくか、どうしたら長期的に続く活動になるかなど試行錯誤しながら進めていましたね。これぞまさに、生物多様性保全のために全国規模のネットワークを築き上げる仕事だと感じ、とてもやりがいを感じました。

2008年7月モニタリングサイト1000里地調査 調査講習会の様子
これからの新しい自然保護のカタチをつくる
現在は、日本版ネイチャーポジティブアプローチ(以下、NPアプローチ)というプロジェクトを担っています。日本の生物多様性が減少している今、これまで生物多様性を形作っていた地域の生業や文化、伝統の重要性を再認識し、市町村という単位でみた自治体ごとにネイチャーポジティブを実現していくプロジェクトです。
しかし、多くの自治体では、お金や人が不足していて自然を守るどころではないのが現状です。さらに、これまで各地で環境保全を担ってきたボランティア人口も減少していて、従来の自然保護の形が今後どんどん通用しなくなっていきます。
一方、企業は、これまで当たり前に享受していた自然資源が、これからは当たり前ではなくなるということを世界レベルの危機として認識しはじめており、そうしたなかでネイチャーポジティブに向けた取り組みに積極的になっています。
そこで、企業と自治体をパートナーシップという形でマッチングして、地域の自然を活かした生物多様性保全を通じて、地域の復興や課題解決につなげていこうという取り組みを双方にとってよりよい形で進めています。
詳しくはこちらのプロジェクトページをご覧ください。
日々の業務で意識していること
NACS-Jでの仕事は、関わる仕事によって、さまざまな法律や省庁の仕組みなど新しい知識を備える必要が出てきます。そのたびに実践しながらOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)で身につけています。
話をしている相手はどういう行動原理で動いているのか、組織内の仕組みがどうなっているのかなど、相手のことをよく知ることも、自治体や企業などとの連携をうまく進めることにつながると思います。また、自然の上に人間社会が成り立っているという本質はぶれずにしっかり伝えることも大切にしています。
何よりも大事にしていることは、どんな相手とも「対等」であろうとすることです。パートナーシップを結んだ相手とは、お客様として向き合うのではなく、お互いに言うべきことは遠慮せず伝える、新しい取り組みを一緒に作っていく対等なパートナーであるという関係を作ることを大切にしています。
これからの時代にあわせた新しい自然保護のカタチを、これからも全国の市民や専門家、企業、自治体の皆さんとパートナーとなり、形づくっていきたいと思います。


