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活動レポート

「節水型乾田直播」と「圃場整備倍増計画」の問題

2026年3月1日

フィールド

里山

圃場整備の事例。平坦で画一的な環境へ改変するため、水路や畔などの生物の生息地が破壊され、水路や法面のコンクリート化でカエルや魚などの移動阻害や生息地の分断が起きる(写真:NPO法人オリザネット)

2025年9月、農林水産省による2026年度の概算要求が公表され、「節水型乾田直播」という新しい稲作技術の普及が盛り込まれました。また同月、5カ年にわたって水田の圃場整備事業を倍増させる「土地改良長期計画」が閣議決定されました。いずれも農業の効率化や省力化に貢献する一方で、田んぼに生息する多様な生きものへの影響が懸念されています。この2つの政策に対し、NACS-Jは生物多様性保全をより強化すべきとの意見書を提出しました。

節水型乾田直播の普及にトンボやカエルなどへの配慮を

節水型乾田直播とは、水を張らない乾いた田んぼに直接種をまき(写真1)、栽培期間中ほぼ水を湛水しない栽培方法です。労力削減や節水につながる一方で、水中で繁殖・生息するトンボやカエルなどが生息しにくいため、生物多様性の低下が懸念されています。NACS-Jはこの技術を導入する際には、生きもののすみかを確保する対策とセットで進めることを要望しました。具体的には、田んぼの一部に水域を残す「江」を設置する(写真2)、乾田直播の周辺に通常の水田やビオトープを配置して逃げ場を作るなどの対策が必要です。

重機による播種の様子

写真1:乾田直播(水を張らない田んぼに直接タネをまく栽培方法)による播種の様子。節水型乾田直播はさらに栽培期間のほとんどを湛水しない点が特徴(写真:PIXTA)

水田と江の写真

写真2:水田における生物多様性保全対策の事例(「江」の設置)

加速する圃場整備と形骸化した環境配慮

用水路のコンクリート化や水田の大区画化を伴う圃場整備によって、水田の生物多様性が低下することが多数の研究で指摘されています。今回発表された計画では、5年間で9万ha(島嶼部を除いた東京都の面積の半分に匹敵)の水田を圃場整備し、そのうち6万haは1ha以上の大区画化という目標が掲げられています。この目標達成のためには、圃場整備は従来の約2倍のペースで、そのうち大区画化は約4倍のペースで工事を進める必要があり、5年間で総額2.5兆円の大規模事業が予定されています。

環境への悪影響を回避するため、市町村ごとに生物多様性の現状に応じたゾーニングを行い、環境配慮の方法を定める「田園環境整備マスタープラン」の作成が、圃場整備の要件とされています。しかし、実際には形骸化し、保全対策として十分に機能していません。そこでNACS-Jは計画段階における生物多様性の現状把握に基づくゾーニングと管理方針の策定を徹底し、生物多様性を向上させる手法を積極的に取り入れることを提案しました。

意見書はこちら

担当者からひと言

藤田さんの顔写真

藤田 卓 (ふじた たく)日本自然保護協会(NACS-J)ネイチャーポジティブ担当

水田は食料生産だけでなく、洪水防止や水源涵養・生物多様性保全など、多面的な機能を持つ国民の財産。これを未来につなげる活動を続けます。

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