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活動レポート

2025年度モニ1000里地調査シンポジウムを開催しました(前編)

2026年1月30日

フィールド

里山

長文のため前後編に分けてお送りします。後編はこちら

こんにちは、日本自然保護協会(通称、NACS-J)でインターン活動を行なっております、北海道大学大学院修士2年の今川春佳です。

本日は2025年11月22日に開催されたモニタリングサイト1000里地調査シンポジウム「里地調査を通した次世代の自然の守り手育成〜学校や学生との連携を事例に〜」の内容をお届けします。

NACS-Jでは、市民が主体となった全国里山調査「モニタリングサイト1000里地調査 」(以降、モニ1000里地調査)の事務局を担っており、年に一度、全国の調査員や関心のある一般の方々に向けた情報交換の場を設けています。

国の生物多様性戦略を進めるうえで、自然の変化を定量的に示すデータが欠かせません。その役割を担うモニタリングサイト1000調査の重要性はこれまで以上に高まっています。しかし、調査を持続的に進めるためには、次世代の担い手育成が大きな課題となっています。

こうした現状を背景として、今回のシンポジウムでは、これまでの調査結果を共有するとともに、基調講演や全国からの先行事例を通じて、次世代の担い手育成、ひいては地域の多様な主体とどのように連携していくか、具体的な取り組みをご紹介いただきました。

事前のお申し込みは222名、当日は126名もの方にご参加いただき、質疑応答も活発に行われました。ご参加いただいた皆様に、この場をお借りして心より御礼申し上げます。

「モニタリングサイト1000とは?モニタリングサイト1000調査を通して分かってきたこと」

環境省生物多様性センター 平松新一氏

はじめに、環境省生物多様性センターの平松氏より、モニタリングサイト1000(以下、モニ1000)の活動概要についてご説明いただきました。

モニ1000とは、日本全国にある様々な生態系の調査地を、長期間統一された手法で観測を続け、日本の生態系の変化をいち早く捉える取り組みです。調査結果はとりまとめ報告書として5年に一回作成され、Webサイトにて一般公開されています。

これまでの調査を通して明らかになった、身近にみられる生き物の個体数の増減や地球温暖化が生物種にもたらす影響、外来種対策の効果などを解説いただきました。

2022年の生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で採択された昆明・モントリオール生物多様性枠組では、世界の陸域と海洋域の30%を守る世界目標が掲げられています。日本では陸域の20%と海洋域の13%が保護地域として指定されていますが、それ以外にも民間の取り組みで保全されている地域を「自然共生サイト」として認定する仕組みが広がっています。自然共生サイトの認定申請に各里地調査サイトのデータが活用できることから、自然共生サイトへの積極的な認定が呼びかけられ、2025年11月現在、自然共生サイトを含む里地調査サイトは19箇所となっているそうです。

私は生態系の変化を捉える基盤として、モニ1000の長期データが大きな役割を果たしていることを改めて実感しました。そのうえで、自然共生サイトという新たな保全の枠組みにも活用されることから、政策面での重要性は今後さらに高まっていると感じました。

環境省の平松氏のスライド

▲平松氏(環境省生物多様性センター)より、モニタリングサイト1000の概要スライド

「モニタリングサイト1000里地調査の成果と課題」

日本自然保護協会 藤田卓

続いてNACS-J藤田より、里地調査の調査結果の概要や現在の里地調査サイトの課題についての発表がありました。

里地調査は2022年度までの18年間で325箇所、5000人の調査員のご協力で実施されました。これまでの調査から、外来種の個体数増加や、シカ・イノシシなど大型哺乳類の分布域拡大が進む一方で、農地など開けた環境に依存する身近なチョウ類や鳥類の減少が顕著であることが明らかになりました。

また、アンケート調査により、多くの里地調査サイトでは管理されていない里地里山が含まれていることが明らかになりました。その中でも約4割の調査サイトにおいて管理活動が行われ、ボランティアによる活動に支えられていることが示されました。

里地調査の結果から、草原性の植物・チョウ類・鳥類の種数の増減に対して外部資金を獲得した保全活動はプラスの効果があることがわかりましたが、現状では、外部資金を獲得して保全活動をされているサイトは全体の1割未満という結果でした。

藤田はこうした状況を踏まえ、外部資金の獲得や獲得可能な体制づくりの重要性を訴えました。また、モニ1000調査の継続には、次世代の担い手育成が最も重要な課題の一つであると指摘しました。

多くの方々の協力によって保全の成功事例が生まれている一方、里地の現場からは、管理不足やそれに伴う生物多様性の低下といった切迫した実情が明らかになり、私は対策の強化が急務であることを実感しました。そのためにも、外部資金の確保と担い手育成は不可欠であり、地域の自然を未来に残していくための体制づくりが求められることを改めて認識しました。

NACS-J藤田のスライド

▲藤田(NACS-J)より、農地・草地など開けた環境の普通種減少についてのスライド

「自然を知る・地域を知る〜学校や学生と進める自然環境調査の意義〜」

美幌博物館館長 鬼丸和幸氏

基調講演では、美幌博物館の館長である鬼丸和幸氏にご登壇いただき、博物館がこれまで地域と協働して進めてきた自然環境調査の取り組みと、その連携のあり方についてお話しいただきました。

美幌博物館は、北海道美幌町の自然・歴史・美術に関する資料を収集・展示する施設でありながら、教育普及活動にも非常に力を入れています。鬼丸氏が特に強調したのは、多様な主体との連携を進めるうえで、博物館・学校・地域住民が互いのモチベーションを尊重し、無理なく継続できる形を一緒に探っていくことが、次世代の担い手育成の鍵になるという点です。

その具体例として、博物館が地元団体と協力して取り組むモニ1000のヘイケボタル調査が紹介されました。調査には地元団体や近隣大学、高校の生物部など多様な参加者が加わり、農家の方と協力した保全活動も同時に進められています。調査の参加者が、調べた内容をもとに工作物やイラストを制作して展示に携わったり、自身の得意分野を生かして講座の指導役を務めたりするなど、“参加者が主催側に回る”循環が生まれている点が大きな特徴です。

次世代育成の取り組みとしては、小中学校の自然観察体験や高校での調査体験が継続的に行われています。鬼丸氏は、教員と出会う場面を大切にし、博物館が提供できる活動内容を丁寧に紹介することで連携の種を育てていると話しました。例えば、小学校の授業で児童が町内未確認のショウジョウトンボを採集し、それが展示されたことをきっかけに、学校での自然観察が毎年の活動として定着した事例もあります。また、他館と協力して調査体験を年間授業計画に組み込んだ例も紹介され、学芸員と教員が役割分担を行い、負担を軽減しながら進める工夫が示されました。一方で、教員の異動により長期的な連携が途切れやすいという課題も共有されました。

最後に鬼丸氏は、博物館と連携することで、学生や民間団体には専門家と研究を深める機会が生まれ、学校にとっては現場の解説を専門家に任せることで学習内容を広げられるという利点を挙げました。美幌博物館の取り組みでは、調査から展示、講座まで、参加者が主体的に活動に関わり、その力が次の担い手につながる循環が実現している点が私にとって印象的でした。また、教員や住民に向けて活動内容や協力可能な分野を積極的に発信し、連携の入り口を広く開いている美幌博物館の姿勢に、私は今後の連携づくりのヒントがあると感じました。

鬼丸氏のスライド

▲鬼丸和幸氏(美幌博物館)より、多様な主体との連携を進めるためのポイントについてのスライド

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