青森ヒバの自然林で計画される風力発電事業に事業中止を求め意見提出
2026年7月1日
事業計画地内のヒノキアスナロ(青森ヒバ)の大木
(写真)青森ヒバは、長い年月をかけて大きく成長し、日本の森林の中でも特に優れた美観を有するため、日本三大美林の一つに数えられている
- 日本自然保護協会(NACS-J)は、青森県むつ市・佐井村で計画される「(仮称)下北西部風力発電事業」の環境影響評価準備書に対し、事業中止を求め意見書を提出した。
- 計画地ほぼ全域が国有林の保安林であり、青森県が指定する「原則、再生可能エネルギー源を電気に変換する施設の設置を認めない地域」に定められている。
- 計画地には生物多様性上極めて重要な自然林が広がるが、風車を設置するには広範囲に及ぶ土地改変工事は避けられず、取り返しのつかない重大な悪影響を及ぼしうる。
公益財団法人日本自然保護協会(理事長:土屋 俊幸、以下「NACS-J」)は、青森県むつ市および佐井村において計画されている「(仮称)下北西部風力発電事業(事業者:森ビル株式会社・株式会社ケン・コーポレーション、最大出力:45,000kW、設置基数:10基)」の環境影響評価準備書(作成委託事業者:一般財団法人日本気象協会)に対し、本事業は自然環境および生物多様性への影響が極めて重大であるため、事業中止を求めて意見書を提出しました。
意見書のポイント
1. 本事業は自然環境への影響が極めて大きい事業である
本事業の風力発電機設置予定地は、ヒノキアスナロ(青森ヒバ)やブナの自然林が広がる、生物多様性上極めて重要な地域である。計画されている10基のうち、資材搬入が可能な既存の林道に近接するのは3基のみで、残りの7基周辺には搬入可能な道路が存在しないため、自然林の広範な伐採と大規模な改変工事が不可避である。
2. 準備書の記述と現地調査との不整合
本環境影響評価準備書(準備書)では、「既存の林道及び作業道を最大限活用」することで土地改変を「可能な限り低減」する旨が記述されている。しかし、NACS-J職員が現地調査をしたところ、作業道とされるルートは森林化が進行し、道幅が狭く路肩も不安定なため、資材搬入等を行う車両の通行は到底不可能な状態であった。これを「既存の作業道」と計上し、改変区域を低減できるとする本準備書の前提は極めて不適切である。


写真:事業計画地内の古い作業道。林床がすでに下層植生で覆われ、道がわからない状況
図:計画予定地(事業実施想定区域)内および周辺における、100齢以上のヒノキアスナロ(青森ヒバ)とブナの分布(データ出典:林野庁 国有林GISデータ(2024年度版)、背景:林野庁 国有林の空中写真) 地図内にあるラベルは樹種名および林齢
3. ヒノキアスナロ林等の植生調査および群落区分に重大な瑕疵がある
本事業の計画地内の森林群落は、環境省の現存植生図において、自然度の高い「ヒノキアスナロ群落」および「チシマザサ-ブナ群団」等に区分され、準備書の前段階の方法書に対する知事意見でも、これらのエリアを計画地から除外することが求められていた。
これに対して、本準備書では、現地調査に基づき独自の群落区分により「群落組成表を作成した」としている。しかし、その内容は先行研究を十分に踏まえたものとは言い難い。具体的には、植物群集のオーダーおよび群団レベルでの組成整理が行われておらず、群落組成表として十分な体裁を備えていない。
また、区分された群落にも植物組成上の明瞭な境界が認められず、植生調査の精度そのものに重大な問題があると言わざるをえない。
以上を踏まえると、本準備書の群落組成表は、当該地点に出現した植物種の被度・群度を記録したにとどまるものであり、相観(外観から見た様相)などに基づいて恣意的に群落区分を行っている本準備書における植生調査の結果は、科学的かつ客観的な視点を欠いていると判断せざるをえない。
さらに、この植生の群落区分は、準備書におけるクマタカの営巣環境分析などにも用いられている。そのため、準備書全体における自然環境影響評価の妥当性そのものが損われている。
4. 渡り鳥の重要な移動経路上にある
計画地は、ハクチョウ類及びガン類をはじめとする渡り鳥の移動経路となっており、風車の稼働に伴う重大な影響が懸念されている。特に、国の天然記念物であり、準絶滅危惧種でもあるオオヒシクイの風車への予測衝突数は、環境省モデルで0.2103個体/年、由井モデルで0.5793個体/年と算定されており、看過できない水準である。風力発電機への衝突による死亡が生じた場合、その影響は計画地周辺にとどまらず、広域の生態系に深刻な影響を及ぼしうる。
5. 生物多様性に積極的に取り組む森ビル株式会社は、地域の生物多様性を大きく毀損しうる本事業を根本的に見直すべきである
事業者の一社である森ビル株式会社は、「TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)提言に基づく情報開示レポート」を公表し、「都市と自然の共生」およびネイチャーポジティブの実現を目指す姿勢を、国際社会や投資家に示している。TNFDの枠組みは、企業がバリューチェーン全体を通じて自然への負の影響を最小化し、ネイチャーポジティブへの転換を図ることが求めるものである。
都市部の自然環境や生物多様性に十分に配慮して事業を行うことはもちろん重要だが、その一方で、地域の重要な自然環境を軽視するような事業の推進するのであれば、典型的なグリーンウォッシュであるとの批判を免れない。
当会は、事業者に対し、「ネイチャーポジティブ」及び「TNFD提言に基づく情報開示」の趣旨に今一度立ち返り、本事業の計画を根本から見直したうえで、中止することを強く求める。
本リリースに関するお問合せ
日本自然保護協会 担当:若松
Tel: 03-3553-4101(受付時間:10時~17時) Email: press@nacsj.or.jp
〒104-0033 東京都中央区新川1-16-10 ミトヨビル2F
NACS-J事務局ではテレワークを推奨しています。そのため、お問合わせはお手数ですが上記メールアドレスへご連絡ください。ご理解のほどよろしくお願いします。


