日本初の低密度での管理の実現に向けて
2018年9月1日
2003年よりNACS-Jが行っている赤谷プロジェクトの一環として、赤谷の森(群馬県みなかみ町)で日本初となるシカの低密度管理が進められています。その現状と課題、そして実現に向けての方策を紹介します。
松井 宏宇 (まつい ひろたか)日本自然保護協会 赤谷プロジェクト担当
引き続き捕獲試験に取り組みます。皆様のご支援・ご協力よろしくお願い致します
捕獲方法と資金・体制づくり 直面する大きな2つの課題
シカによる環境への影響は被害が大きくなってからでは元の状態に回復させることは難しく、被害が少ない低密度の段階での対策が重要です。一方、これまで低密度下でのシカの管理が進んでいる事例はありません。低密度下のままシカを管理することには大きく2つ「捕獲方法」と「資金・体制づくり」の課題があります。現行の「捕獲方法」は、比較的シカが多い条件下で効率よくシカを捕獲する方法です。個体数が少ない低密度下では従来の手法では捕獲効率が落ちるため、捕獲効率を上げ、作業上の負荷を減らすとともに、錯誤捕獲(誤って別の種を捕獲してしまうこと)を減らすための工夫が必要です。一口に捕獲方法といっても様々な種類があり、場所や状況に応じて一長一短があります。状況に応じて効果的な捕獲が採用できるような手法と配慮事項の整理も必要となってきます。
「資金・体制づくり」では、まだ被害が顕著でない低密度の条件下の中で、誰が対策資金を出し、捕獲を進めるのかが課題となります。農作物被害などが出ている場合と異なり、まだ被害が出ていない、「これから増え、被害が出る可能性が高い」というだけでは、行政としても予算をあて、対策に乗り出すことがなかなか難しく、予算がないから「捕獲方法」の検討が進まないのが現状です。さらに、地元猟友会も高齢化が進む中、実際にこの先、誰が捕獲するのか、という点の検討も非常に難しい問題です。赤谷プロジェクトではこうした2つの問題について合わせて検討を進めていくことで、低密度下での管理の実現を目指しています。
これまで赤谷プロジェクトでは、シカが植生に与える影響やセンサーカメラを使った個体数の動向などモニタリングの方法・体制づくりや、地域の猟友会・関係行政機関との意見交換会などを通し、体制づくりを模索してきました。また、効率よく捕獲を行うため、鉱塩(塩のかたまり)を用いたシカの誘引方法の検討も行っています。これまでのモニタリングにより、赤谷プロジェクトエリアにおいてシカが撮影された地点数(51地点中)は2008年度と比較し、現在約10倍近く、かなりのスピードで増加しています。一方、植生の調査結果からはまだ大きな影響が出ていないことも分かっており、増加はしているものの、まだまだ低密度という状況です。しかし、このペースで増加を続けると近い将来大きな影響が出る可能性があり、低密度下での管理の実現に向けて早急に取り組む必要があります。

赤谷の森のニホンジカの出現地点変遷(2008年~2016年8~9月 51地点)
※カメラの故障などにより撮影地点数が51地点より下回る年もある。
2017年度からは、実際に「捕獲方法」の検討を行うべく、捕獲試験を開始しており、本年度も次年度に引き続き実施予定です。
赤谷のシカは警戒心が高く、日没後、日の出前の時間帯などに多く出現するため、夜間でも捕獲が可能な罠を用いた捕獲を実施する予定で、林内設置型囲い罠および箱罠を用いた試験を予定しています。実施はこれまでの実験から赤谷においてシカが鉱塩に集まりやすい時期を狙い、今年11月と翌年5月の2回を予定しており、実施に向けて準備を進めています。

設置を予定している林内設置型囲い罠(群馬県林業試験場の協力のもと実施を予定)
提供:群馬県林業試験場



